Engrish
Engrish (イングリッシュ) とは、アジア系言語(参考:アジア#言語)話者の使用する、語表現やスペリングの誤用を伴った英語(English)を揶揄するための俗語である。"Engrish" という造語は "English" の綴り字を変化させたものであり、元々は日本語話者に特徴的な英語の流音 "R" と "L" の混同を揶揄して作られた[1]。
概要
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Engrish とは、英語(English)を母語としない話者が使用する、発音、表現等に問題のある言語使用を揶揄する造語・俗語である。元々が嘲笑表現であるため、「Engrish」は英語の非母語話者へのカジュアルな人種差別表現と見做される場合もある[2]。具体的には、以下を含む言語表現が Engrish の一例となりうる。
English と Engrish の綴りの違いに見られるように、Engrish という造語は、元来 L / R (流音)の区別がない言語(典型的に、アジア系言語)の母語話者が、当該二音を区別できないことを揶揄するために用いられる。このことから、例として"rice(米)"と"lice(シラミ)"の混同などが Engrish の典型例であるが、(アジア系言語話者による)不自然な文そのものも Engrish と呼ばれる。なお、Engrish が日本語母語話者の言語使用を指す場合、代替表現として Japlish、Janglish、Japanglish などが用いられる場合もある。
一般的に、Engrish は和製英語とは別物である。和製英語とは借用語の一種であり、「日本語話者が日本語として使う外国語」である一方、Engrish は「日本語話者(など)が英語として使う英語」である。なお、和製「英語」とはいうものの、借用元の言語は英語でない場合も多い。これに加え、和製英語は直訳すると Japanese English となるため、用語上はこちらも Japanglish などと呼ばれることもあるが、これは「日本語で用いられる英語のような横文字」の意であり混同には注意が必要である。
発音が関連するEngrish
[編集]- ライト
- right(/ráɪt/、「正しい、右」)と light(/láɪt/、「軽い、光」)で区別がつかない。例えば、「ザッツ・ライト」は「その通りだ」ではなく「それは光だ」となる。
- アース
- earth(/ɜ́ːrθ/、「地球」)の意で用いられることが殆どだが、英語話者には ass(/ǽs/、「ケツ(俗語)」)としか受け取れない場合が多い。例えば、「センター・オブ・ジ・アース」は「地球の中心」ではなく「ケツの中心」となる。
- シット
- sit(/sɪ́t/、「座る」)の意で用いられても、英語話者にはshit(/ʃɪ́t/、「クソ(卑語)」)に聞こえる。例えば、「シットダウン」は「(突っ立ってないで)座りなさい」ではなく「クソをたれなさい」となる。(なお、「座ってください」は "Have a seat" が適切であるため、"Sit down" 自体が文脈上不適当なEngrishとみなされる場合も多い。)
表現が関連するEngrish
[編集]- Please take advantage of the maid.
- 日本のホテルなどで見られた掲示。「メイドをご利用下さい」という意味を表そうとしているが、take advantage of という表現の誤用である。事実や好機に対して使った場合は、「利用する・活かす」と言う意味になるが、人に対して使った場合、「つけ込む」「かどわかす」「誘惑する」と言う意味合いになるので「メイドの隙につけこんでください」となる。珍妙な英語を集めた Anguished English という本[要文献特定詳細情報]にも、同様の例が収録されている。
- WEAK COOL
- 1990年代の一時期に阪急電鉄の電車の窓に貼られていた「弱冷車」のステッカー上の文句。漢字をそのまま英単語に置き換えたもので、「弱い涼しい」となり意味をなさない。現在の同社ではmildly air-conditionedと、正確な表現に改められている。
- Please turn the card inside out[3]
- 日本のあるホテルのレストランで「食事が終わったらカードを裏返してください」という意図で使われたもの。turn ... inside out は、たとえば手袋やセーターの内側を外に出すような場合に使う。カードには inside(内部)がないため、turn ... inside out することはできず、物理法則を無視した指示内容となっている。正しくはPlease turn over the card.など。
- 「犬の鳴き声は近隣の方への迷惑となりますのでご注意ください」と言う掲示に添えられていた英文。和訳すると「隣人たちへの迷惑を避けるため、吠えるのは控えてください」という意味になる。ヒトではなくイヌに対する掲示の意味合いとなる。
- Because you are dangerous, you must not enter.[6]
- 名古屋城にあった掲示。「危険ですので入らないでください」という意味を意図しているが、「あなたは危険人物なので、入ってはいけない」という意味になってしまう。正しくは DANGER! Do not enter. など。
- ゼロウィングというゲーム内に見られた有名な Engrish。完全に非文法的な文である。
- Sorry, this page is Japanese only.
- 個人サイトが流行った時代に日本のWebサイトで頻繁に書かれた一文で「申し訳ありませんが、このページは日本語だけで書かれています」という意図で書かれた掲示でサイトによっては若干表現が異なることがある。いずれにしても、「申し訳ありませんが、このページは日本人専用=日本人以外は訪問お断りです」ともとられかねない一文になってしまっている。そもそもこのように英語で書かれていないことをわざわざ謝罪することが日本文化の考えの表現で、記述不要という意見もあった。
Engrishの談話効果
[編集]Engrish は字義的には誤用を咎める言葉であるが、(i) 非文法的で根本的に意味解釈ができないもの、(ii) 文法的であるがコロケーションが意味不明なもの、(iii) 解釈は問題なくできるが謎の違和感があるもの、(iv) ある程度文法的でありある程度解釈できるものの、意図されたと思われる意味とは全く別の解釈となり笑いを誘うものなど、その談話効果は多岐に渡る。
一例として、Engrish はアメリカのコメディ・セントラルで放映されているアニメ『サウスパーク』でも何度か取り上げられている。シーズン8の第1話 "Good Times With Weapons" には、登場人物たちが突然日本アニメのような画風になり、"let's fighting love" という Engrish と日本語がごちゃまぜの荒唐無稽な日本語の歌が流れるシーンがある。(歌っているのは原作者のトレイ・パーカー本人である。彼はコロラド大学在籍当時に日本語を専攻しており、流暢な日本語を話す[7])。
上記のように、Engrish は時として、面白くする効果や異国の雰囲気を出すためにわざと使われる。漢字や、ギリシア文字や偽キリル文字のアルファベットが、西洋のラテン文字社会において(大抵は間違った使い方で)そういった目的で使われるのと類似している。これに似た用法で、"Mötley Crüe"(モトリー・クルー、音楽バンド) や "Hägar the Hørrible" (英語版) (ヘガー・ザ・ ホリブル、アメリカの漫画)、もしくは "Häagen-Dazs"(ハーゲンダッツ、アイスクリームのブランド) のように、普通の英語の句にウムラウト、アクセント符号、Ø や誤字を加えて、エキゾチックな外見にすることがある。
他言語関連の類似用語
[編集]- Nihonglish (語源:「日本語」+ "English")
- (i) 英語話者が用いる、発音・表現等に問題がある日本語(i.e. Engrish の反意語)、または (ii) 目標言語を日本語とする英語話者の中間言語。(i) の例としては音節拍言語である日本語の強勢拍発音が挙げられ、「こんにちは」を普通のアメリカ人が発音すると「こにーちわ」になってしまうことなどに見られる。このような発音をあえて真似る日本語話者がいることに見て取れるように、(i) の意味で用いられる Nihonglish は、 Engrish と同様揶揄の対象となりうる。一方 (ii) の意の Nihonglish は言語熟達度の問題から生じるコードミキシングである。(例)
- スペイン語と英語の融合言語。例として、外国語を話そうとして恥をかく英語圏の人を指して、embarazado と呼ぶことがある。これは、スペイン語で「妊娠した」[注釈 1]という意味だが、英語の embarrassed (「当惑した」「恥をかいた」の意)に似ているため、英語話者がスペイン語を話そうとしてよく間違う言葉である。「男が妊娠して当惑」「妊娠などという言い間違いをして恥ずかしい」というジョークも関連している。
- その他
- Chinglish (中国)
- Danglish (デンマーク)
- Denglisch / Germish (ドイツ)
- Dunglish (オランダ)
- Englog / Taglish (フィリピン: タガログ語)
- Finglish (フィンランド)
- Franglais / Frenglish (フランス、カナダ)
- Globish (世界共通言語)
- Hinglish (インド: ヒンディー語)
- Honglish (香港: 広東語をベースにしている)
- Kanglish (インド: カンナダ語)
- Konglish (韓国)
- Manglish (マレーシア)
- Pinglish (イラン: ペルシャ語)
- Runglish (ロシア)
- Singlish (シンガポール)
- Swenglish (スウェーデン)
- Tanglish (インド: タミル語)
- Tinglish / Thailish (タイ)
- Vinish (ベトナム)
- Wenglish (ウェールズ)
- Yinglish (イディッシュ語)
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ -zado は男性形のため、正確には女性形で embarazada
出典
[編集]- ^ Etymologygeek - Engrish etymology in English, accessed on Sep 20, 2021.
- ^ “CNN.co.jp : 日本語と英語が融合、「新言語」はいかにして誕生したのか”. CNN.co.jp (2020年5月6日). 2021年9月30日閲覧。
- ^ “まちがいさがし 2 ホテルの英語”. spotheoryの日記 (2015年9月22日). 2021年9月30日閲覧。
- ^ [1]
- ^ “本日のオモシロ英語”Please refrain from barking, …””. 英会話教材を買う前に (2016年2月1日). 2021年9月30日閲覧。
- ^ “ネイティブは見た!へんな英語”. 神戸 税理士法人FCパートナーズ|経済産業省に認定された経営革新等支援機関. 2021年9月30日閲覧。
- ^ Nast, Condé (2016年10月27日). “South Park Co-Creator Trey Parker’s Hilltop Retreat in Colorado”. Architectural Digest. 2021年9月30日閲覧。 [article originally appeared in the May 2010 issue of AD]