「万能細胞」の版間の差分
出典と文があっていないのを修正; 一貫性のない記述を修正 |
「多能性細胞」は一般向けに「幹」を省いただけの語ではなく、「多能性幹細胞」と区別されて説明されてます。冒頭部なので誤解を招かないように補足説明し整理。 |
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'''万能細胞'''(ばんのうさいぼう)とは、おもに[[幹細胞|多能性]] <ref name="seibutugaku">『生物学辞典 第五版』([[岩波書店]]、2013年)</ref><ref>『生物学辞典 第五版』で「(発生の)多能性」の訳語が「pluripotency」となっている</ref>(英:pluripotency)を有する細胞を指して、一般呼称的に使用されている用語である<ref name="hosoku-rika2">{{Cite web |url=http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140130_1/#note2|title=「補足説明2」体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見―細胞外刺激による細胞ストレスが高効率に万能細胞を誘導―(2014年1月29日)|publisher=独立行政法人理化学研究所|accessdate=2014-02-28}}</ref>。細胞の多能性とは、多細胞生物の身体を構成するすべての種類の[[細胞]]に[[細胞分化|分化]]する能力([[分化能]])を指して、概説されることが多い<ref name="hosoku-rika2"/><ref name=hiroshima>{{Cite web |url= http://www.hiroshima-u.ac.jp/gsbs/kenkyu_syokai/horiuchi/|title= ニワトリの万能細胞の基礎と応用を目指して 「ニワトリで何ができるのか?」|publisher=広島大学大学院生物圏科学研究科|accessdate=2014-02-19}}{{ja icon}}</ref>。万能細胞と呼称される代表的なものには[[ES細胞]]と[[人工多能性幹細胞]](iPS細胞)がある<ref name=asahi-topic>{{Cite web |url=http://www.asahi.com/topics/word/%E4%B8%87%E8%83%BD%E7%B4%B0%E8%83%9E.html|title=朝日新聞デジタル:万能細胞に関するトピックス|publisher=朝日新聞社|accessdate=2014-02-27}}{{ja icon}}</ref><ref name=ricoh>{{Cite web |url= http://www.alphagrafixx.com/ScienceCaravan/science/gst005.html|title= 米・サイエンス誌が「今年の画期的な研究成果」の第1位に選んだ、山中伸弥教授の「細胞の初期化」とは?|date= 2009-1|publisher=Ricoh|accessdate=2014-02-19|ref={{SfnRef|RICOH|2009}} }}{{ja icon}}</ref>。「万能細胞」という呼称は、主に一般向けの解説やマスメディア向けに用いられている用語で生物学用語ではなく<ref>{{Cite web |date= |url=http://www.icems.kyoto-u.ac.jp/common/doc/rsch/scg/1008_classroom2_sb_j.pdf | page=12 |title=幹細胞研究 やってみよう! |format=PDF |publisher=[[京都大学]] |accessdate=2014-2}}</ref>、専門的には、'''多能性細胞'''(たのうせいさいぼう、{{lang-en-short|pluripotent cell}})と呼ばれている<ref name="hosoku-rika2"/>。 |
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なお、分化多能性の「pluripotency」 |
なお、分化多能性の「pluripotency」は、「totipotency(全能性)」と「multipotency(多能性、複能性)」の中間の分化能にあたり、生物学者の間では「多能性」と日本語訳されるが、「万能性」「分化万能性」と表記し説明される場合もあり<ref>{{Cite web |url=http://www.kenq.net/dic/37.html|title=研究用語事典|publisher=研究.net|accessdate=2014-02-24}}</ref><ref>{{Cite web |url=http://kiea.w3.kanazawa-u.ac.jp/lara/lec109.html|title=iPS細胞が分化万能性を獲得する過程におけるクロマチン高次構造の変化(京都大学iPS細胞研究所主任研究員・堀田秋津)|publisher=北陸実験動物研究会|accessdate=2014-02-24}}</ref><ref name="rikenbanno">{{Cite web |url=http://www.riken.jp/outreach/ip/23410/|title=iPS細胞の万能性維持に関わるタンパク質(理研No. 23410)|publisher=理研科学研究所|accessdate=2014-02-24}}</ref>、一般向けの報道や講演などでは、「万能細胞」と呼称し多用されている。 |
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本稿では、この'''万能細胞'''と呼ばれる'''多能性細胞'''(pluripotent cell)<ref name="hosoku-rika2"/>について記述する。代表的な万能細胞である[[ES細胞]]と[[人工多能性幹細胞]](iPS細胞)は、試験管内で培養して無限に増殖する能力([[自己複製能]])を持つ多能性細胞で<ref name="hosoku-rika14">{{Cite web |url=http://www.riken.jp/pr/press/2014/20140130_1/#note14|title=「補足説明14」体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見―細胞外刺激による細胞ストレスが高効率に万能細胞を誘導―(2014年1月29日)|publisher=独立行政法人理化学研究所|accessdate=2014-02-28}}</ref>、'''多能性幹細胞'''({{lang-en-short|pluripotent stem cell}})と呼ばれている<ref name="hosoku-rika14"/><ref name="kinki">{{Cite web |url= http://www.med.kindai.ac.jp/stemcell/basicresearch.html |title= 基礎研究|author= 近畿大学医学部高度先端総合医療センター再生医療部|date=2012|accessdate=2014-02-28}}</ref>。これらは増殖して増やせる上、体のさまざまな細胞に分化誘導できるため、再生医療の材料としての利用が期待されている<ref name="hosoku-rika14"/><ref name="kinki"/>。 |
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== 概要 == |
== 概要 == |
2014年2月28日 (金) 03:04時点における版
万能細胞(ばんのうさいぼう)とは、おもに多能性 [1][2](英:pluripotency)を有する細胞を指して、一般呼称的に使用されている用語である[3]。細胞の多能性とは、多細胞生物の身体を構成するすべての種類の細胞に分化する能力(分化能)を指して、概説されることが多い[3][4]。万能細胞と呼称される代表的なものにはES細胞と人工多能性幹細胞(iPS細胞)がある[5][6]。「万能細胞」という呼称は、主に一般向けの解説やマスメディア向けに用いられている用語で生物学用語ではなく[7]、専門的には、多能性細胞(たのうせいさいぼう、英: pluripotent cell)と呼ばれている[3]。
なお、分化多能性の「pluripotency」は、「totipotency(全能性)」と「multipotency(多能性、複能性)」の中間の分化能にあたり、生物学者の間では「多能性」と日本語訳されるが、「万能性」「分化万能性」と表記し説明される場合もあり[8][9][10]、一般向けの報道や講演などでは、「万能細胞」と呼称し多用されている。
本稿では、この万能細胞と呼ばれる多能性細胞(pluripotent cell)[3]について記述する。代表的な万能細胞であるES細胞と人工多能性幹細胞(iPS細胞)は、試験管内で培養して無限に増殖する能力(自己複製能)を持つ多能性細胞で[11]、多能性幹細胞(英: pluripotent stem cell)と呼ばれている[11][12]。これらは増殖して増やせる上、体のさまざまな細胞に分化誘導できるため、再生医療の材料としての利用が期待されている[11][12]。
万能細胞は上記の他、2014年に新たな作成法の研究発表がなされた[13]。現在、研究開発されている刺激惹起性多能性獲得細胞(STAP細胞)[14]は、樹立された条件下には分裂能が低く、そのままでは幹細胞とは呼べないが、副腎刺激ホルモンを含む多能性細胞用の培養液で培養することで、自己複製能を獲得して、STAP幹細胞という状態に変わることができるとされている[15]。
概要
ヒトの体はおよそ60兆個の細胞で構成されているが、元をたどればこれらの細胞はすべて、たった一つの受精卵が増殖と分化を繰り返して生まれたものである。この受精卵だけが持つ完全な分化能を全能性 (totipotency) と呼び、ヒトを構成するすべての細胞、および胎盤などの胚体外組織を自発的に作り得る能力を指す。受精卵が胚盤胞まで成長すると、胚体外組織を形成する細胞と、個体を形成する細胞へと最初の分化が起こる。後者の細胞は内部細胞塊に存在し、胚体外組織を除くすべての細胞へ分化できることから、これらの細胞がもつ分化能を分化万能性 (pluripotency) と呼ぶ。この内部細胞塊から単離培養されたES細胞もまた分化万能性を持ち、個体を構成するすべての細胞に分化できる。なお、成人にも神経幹細胞や造血幹細胞など、種々の幹細胞が知られているが、これらの幹細胞のもつ分化能は、神経系や造血系など一部の細胞種に限られているため、多能性 (multipotency) と呼ばれている。
おもな万能細胞
万能細胞には様々なものがあるが、人類が最初に手にしたのはES細胞である[13]。1981年にイギリスでマウスのES細胞が作られ、1998年にはアメリカでヒトES細胞の作製が達成された[13]。しかし、受精卵を壊すプロセスが倫理面で問題とされ、2001年には、アメリカで公的研究費によって新たなヒトES細胞作製を作成することが禁止され、万能細胞の研究は行き詰まっていった[13]。2010年10月、アメリカのジェロン社が脊髄損傷の患者4人に対しES細胞を使用した臨床試験を開始したが、2011年11月に撤退を発表した[16]。
京都大学の山中伸弥教授は、2006年にマウスの実験でiPS細胞の作製を報告、翌2007年にヒトiPS細胞の作製にも成功した[13]。2013年にはiPS細胞を使った世界初の臨床研究として加齢黄斑変性を治療する研究が始まった[13]。
2014年、小保方晴子らがSTAP細胞を報告、今後の研究が期待されている[13]。
出典
- ^ 『生物学辞典 第五版』(岩波書店、2013年)
- ^ 『生物学辞典 第五版』で「(発生の)多能性」の訳語が「pluripotency」となっている
- ^ a b c d “「補足説明2」体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見―細胞外刺激による細胞ストレスが高効率に万能細胞を誘導―(2014年1月29日)”. 独立行政法人理化学研究所. 2014年2月28日閲覧。
- ^ “ニワトリの万能細胞の基礎と応用を目指して 「ニワトリで何ができるのか?」”. 広島大学大学院生物圏科学研究科. 2014年2月19日閲覧。
- ^ “朝日新聞デジタル:万能細胞に関するトピックス”. 朝日新聞社. 2014年2月27日閲覧。
- ^ “米・サイエンス誌が「今年の画期的な研究成果」の第1位に選んだ、山中伸弥教授の「細胞の初期化」とは?”. Ricoh (2009年1月). 2014年2月19日閲覧。
- ^ “幹細胞研究 やってみよう!” (PDF). 京都大学. p. 12. 2014年2月閲覧。
- ^ “研究用語事典”. 研究.net. 2014年2月24日閲覧。
- ^ “iPS細胞が分化万能性を獲得する過程におけるクロマチン高次構造の変化(京都大学iPS細胞研究所主任研究員・堀田秋津)”. 北陸実験動物研究会. 2014年2月24日閲覧。
- ^ “iPS細胞の万能性維持に関わるタンパク質(理研No. 23410)”. 理研科学研究所. 2014年2月24日閲覧。
- ^ a b c “「補足説明14」体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見―細胞外刺激による細胞ストレスが高効率に万能細胞を誘導―(2014年1月29日)”. 独立行政法人理化学研究所. 2014年2月28日閲覧。
- ^ a b 近畿大学医学部高度先端総合医療センター再生医療部 (2012年). “基礎研究”. 2014年2月28日閲覧。
- ^ a b c d e f g “iPS細胞に続く成果 日本のお家芸に”. MSN産経ニュース (2014年2月10日). 2014年2月12日閲覧。
- ^ “体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見―細胞外刺激による細胞ストレスが高効率に万能細胞を誘導―(2014年1月29日)”. 独立行政法人理化学研究所. 2014年2月28日閲覧。
- ^ “「補足説明16」体細胞の分化状態の記憶を消去し初期化する原理を発見―細胞外刺激による細胞ストレスが高効率に万能細胞を誘導―(2014年1月29日)”. 独立行政法人理化学研究所. 2014年2月28日閲覧。
- ^ “米ジェロン、ES細胞由来の治療薬の臨床試験を打ち切り”. フランス通信社. (2011年11月16日) 2014年2月20日閲覧。