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2018年10月7日 (日) 04:34時点における版

積乱雲
積乱雲
略記号 Cb
雲形記号 CL3またはCL9
積乱雲
高度 地上付近〜約16,000 m
階級 対流雲
特徴 非常に大きい、上に向かって成長する
降水の有無 あり(激しいを伴うことが多い)
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積乱雲(せきらんうん)とは、何らかの原因で発生した強い上昇気流によって積雲から成長して塔あるいは山のように立ち上り、雲頂が時には成層圏下部にも達することがあるような、巨大なのことである[1][2]。積乱雲の鉛直方向の大きさは雲の種類の中でも最大であり、雲底から雲頂までの高さは1万メートルを超えることもある。また、他に雷雲(らいうん)、入道雲(にゅうどうぐも)などの言い方がある。国際雲図帳における10種類の基本雲形の1つに数えられる。積乱雲は、積雲と共に対流雲に分類され、ラテン語学術名は「cumulus(積雲)」と「nimbus(乱雲)」を組み合わせた「Cumulonimbus(キュムロニンバス)」で、略号はCbである。

概要

発達し、下部が真っ黒になった積乱雲。

積乱雲は、雲の輪郭がハッキリとしている。雲頂部は、水滴よりも光の反射率が高い氷の粒(氷晶)でできていることが多いために、雲の上部は太陽光をよく反射して明るく見えることが多い。反面、背の高い雲であるために雲底は非常に暗い。雲の下部や雲底よりも下では、激しい雨、場合によっては、霰や雹が降ることもある。積乱雲による降水量は、乱層雲による雨と比べて格段に多く、短時間で大量の雨を降らせる。さらに、積乱雲は帯状に連なって発生する場合もあり、集中豪雨の原因ともなることがある。また積乱雲は対流雲であるために気流も激しく、雲の近くにはダウンバーストと呼ばれる冷たい突風がもたらされる場合もある。さらに、雲の中では激しい気流によって雲を構成する粒子が衝突して静電気が発生し、導体ではない空気を以ってしても絶縁不能なほどの高電圧にまで帯電し、結果、雲の内外において空中放電が発生する。これがである。この他、まれに積乱雲は漏斗雲を伴って竜巻を引き起こす場合もある。以上のように、しばしば激しい気象現象を引き起こすことがあるため、防災の観点からは警戒が必要な雲である。

発生原因

積乱雲の発生原因は様々であるが、多くの場合は地表付近の高温の空気と、上空の低温の空気との温度差が大きくなったことによってもたらされる大気の不安定さによって生ずる。つまり、高温で密度の低い地表付近の空気が上昇して、大気の不安定さが解消される過程で、積乱雲が生ずるのである。このような対流性の上昇気流が原因で発生する積乱雲が最も多い。したがって、赤道付近のような単位面積辺りに受ける太陽からのエネルギーが多い地域では1年中、中緯度付近では太陽から受けるエネルギー量が1年の中でも多い夏場に、地表付近と上空の温度差が大きくなりやすく、結果として積乱雲が発生しやすい。ただし、例えば北陸地方のような日本列島の日本海側の比較的南の地域においては、冬にシベリア気団からの冷たい季節風が吹き込んでくる一方で、対馬海流のような暖流が熱を輸送してくるために海面付近の温度が高く、これによって海面付近と上空とで温度差が大きくなった結果、積乱雲が発生する場合もある。

他に、地形の影響を受けて発生する場合もある。つまり、平地から山岳地帯に向けて風が吹いた場合、山岳地帯に衝突した風は上空へと導かれ、結果として上昇気流が発生する。この上昇気流によって、積乱雲が発生することもある。

いずれにしても、激しい上昇気流が発生した場合、上空に行くにつれて気圧が下がるために断熱膨張によって空気は温度が低下し [注釈 1] 、ある高度で水蒸気が飽和して凝結する。この凝結が起こる高さが雲底となる。仮に、上昇しても水蒸気が飽和せずに凝結が起こらない場合は、対流雲、すなわち、積乱雲は発生しない。しかし、積乱雲を発生させるような激しい上昇気流の場合は、凝結が起こってもなお上昇が止まらず、さらに上昇すると、水滴は過冷却状態となり、そしてさらに上昇して氷晶になる。そうして上空の温度と上昇してきた空気の温度が同じとなった時に上昇が止まり、これが積乱雲の雲頂となる。なお、積乱雲の場合は、雲頂が対流圏界面にまで達することがあり、この時は、この界面に沿って広がり、積乱雲はかなとこ雲を伴うようになる。また、鉛直方向に長い雲であるために、例えば上空のジェット気流の影響を受けて、雲の上部が独特の形状に変形する場合もある。

特徴

積雲は積乱雲と共に対流雲に分類される同系統の雲である。そして積乱雲は、大きく発達した積雲、すなわち、雄大雲がさらに発達したものである。

雄大雲がさらに発達すると、雲内に氷晶が多く形成される。氷晶が形成されている場所には、過冷却状態の水が存在しており、氷晶は急速に大きくなる。大きくなった氷晶は霰や雹として [注釈 2] 、大きくなった水滴は雨として落下を開始することや、水の凝結や凝固は吸熱反応であるために周囲を冷却することによって、下降気流も発生する。なお、雲底付近の下降気流によって、積乱雲は乳房雲を伴うようになることもある。一方で、積乱雲自体を形成している激しい上昇気流も、依然として雲の中には分布している。このように対流活動が活発となり、激しい降水や雷を伴いやすくなったものを積乱雲と呼ぶ。ただ、雄大雲と、雲頂が対流圏界面に達っしていない積乱雲とを、外観上で区別することは困難である。 なお、雄大雲からニワカ雨(驟雨)が降ることもあるものの、雷は伴わない[3]

積乱雲の雲頂高度は高緯度地域で4〜10km、日本を含む中緯度地域で5〜16km、低緯度地域で6〜19km付近に達し、たびたび航空機の航路上の障害物となる。 さらに、赤道付近など上昇気流の激しい場所では局所的に20〜22km程度の高さにまで成長することがある(これは一般的なジェット旅客機の巡航高度のおよそ2倍の高さ)。 雲頂高度が20km前後の巨大な積乱雲が観測されやすい場所として、オーストラリアダーウィン沖が挙げられる。

 積乱雲は対流圏界面の高さまで達するほど鉛直方向のスケールが大きい。しかし、通常の場合は積乱雲の雲頂が成層圏に突入しそこからさらに発達し続けることはない。したがって、対流圏界面が天井のような形になり、そこから雲はどんどん水平に広がっていく。全体的に見るとかなとこのような形をしていることから、この雲をかなとこ雲(anvil cloud、かなとこ巻雲と呼ばれる場合もある)という。

夕日を受けオレンジ色に染まるかなとこ雲。兵庫県川西市にて2007年8月10日に撮影。

かなとこ雲は、その付近の低温によって氷晶で構成されている。雲が圏界面付近で成層圏に突入せず、水平に広がる理由は対流圏上部と成層圏下部の温度の違いによる。すなわち、対流圏上部では気温が-70℃前後であるのに対して成層圏下部はオゾン層の影響で相対的に気温が高い。この気温差によって雲頂は成層圏に突入することができず、圏界面を境に水平に広がる。かなとこ雲が発生しているということは、その積乱雲の活動が非常に活発であり、地上では激しい雷雨を伴う場合が多い。すなわち、かなとこ雲が発生している積乱雲は後に述べる積乱雲の成熟期の姿である。

また、積乱雲の多くはその雲頂あたりに、強いジェット気流の影響を受けて氷晶でできた巻雲などを伴う場合がある。この巻雲は「積乱雲の毛羽立ち」と表現され、毛羽立ちがあるものを多毛雲、ないものを無毛雲と呼ぶ。

積乱雲が広範囲を覆うと、その中は太陽光が遮られて暗くなり、時には日中でも夜のように暗くなることがある。また、雲の中では激しい対流が起こっており、その下降気流が地上まで達してダウンバーストなどの突風を発生させたり、漏斗雲をともなった竜巻を発生させたりすることがある。

積乱雲の一生

積乱雲(四国上空)

積乱雲の一生は、夕立ゲリラ豪雨などの約10 分程度のものから、台風を伴うような巨大なものでは数日間に及ぶことがある。したがって、積乱雲は気象学では通常メソスケールの気象擾乱として区分されていることが多い。

積乱雲は地上から見ると1つの大きな雲の塊のように見えるが、積乱雲がかかっている付近では雨が弱まったり強まったりしており、1つの大きな積乱雲の中にいくつもの小さな積乱雲が存在していることが知られている。この小さな積乱雲を細胞に例えて降水セル(precipitation cell)と呼ぶ。積乱雲の寿命が数時間なのに対して降水セルはスケールが相対的に小さいため寿命は約30分から60分である。降水セルの一生は(1)成長期、(2)成熟期、(3)減衰期の3つの過程に分類される。

成長期(積雲期)

成長期は名前のとおり、降水セルが上昇気流によって発達していく過程である。すなわち、雲頂が上昇気流によってどんどん上昇していく。この段階では降水セルは上昇気流だけを伴い、雨粒などが発生しても上昇気流によって上方に運ばれるので、地上付近での降水はない。

成熟期

雷を伴った積乱雲

時間が経過すると成長期にある降水セルの雲頂が対流圏上部に達し、氷晶や雨粒なども充分に成長する。よって、これらの雨粒などは上昇気流に逆らって落下運動を始めるのだが、その際に摩擦によって周辺の空気も一緒に引きずり落とし、下降気流を発生させる。この下降気流が発生したとき降水セルは成熟期になる。この段階では1つの降水セルの中で下降気流と上昇気流が共存する。したがって、上昇気流によって下方から運ばれてくる氷晶などと落下中の氷晶が衝突してしまうことになる。この衝突時の摩擦によって静電気が発生し、これが何度も起こることにより積乱雲が帯電する。積乱雲と地上との電荷の違いによって、電圧が高まると結果的に放電が起きる。これが積乱雲による雷の始まりである。地上で激しい雷雨が起きるのは、降水セルの成熟期である。下降気流は下降する雨粒などの摩擦によって生じるが、氷が乾燥した層を通過すると昇華熱で周りの空気を冷やすために下降気流を増加させる。これらが次々と起こることから下降気流はどんどん強まる。なお、落雷は雲の真下でなくとも発生する場合もある。上空(真上)は晴れていても近辺(20 km程度以内)にある積乱雲から落雷が起きる場合もあるので注意が必要である。

かなとこ状多毛積乱雲(Cumulonimbus capillatus incus)の全景

減衰期

アーチ雲を伴ったガストフロント、メキシコ ユカタン半島にて
2000年台風7号のもととなった積乱雲の列、マーシャル諸島近海

このような過程を経て強まった下降気流はもともと上空にあったため、また昇華によっても冷やされているので非常に低温である。結果的にこの低温の下降気流が雲の底に集まり、部分的に高圧状態となる。このような下降気流によって部分的に気圧が高まった場所をメソ・ハイ(メソスケールの高気圧という意味。雷雨性高気圧とも)と呼んでいる。この空気が雲底から地上に向けて一気に流れ出す(冷気外出流)。最終的には上昇気流よりも下降気流のほうが強くなり、上昇気流が弱まってくる。これが減衰期の始まりである。減衰期になると降水セルは収束に向かう。

また、メソ・ハイから空気が地上に向けて一気に流れ出すとき、周りの比較的暖かい空気と衝突して、冷たい空気が暖かい空気に入り込むような形をする。これは寒冷前線の発生のメカニズムに似ている。したがってこの部分では小型の寒冷前線のようなものができ、この線に沿って突風が吹くこともある。この線をガストフロントという[4]。この際地上では、下降気流が増すことによって、残っていた雨粒がしとしとと降るなどし、最後に雲が消えるのである。こうして降水セルは一生を終える。

激しい降水が数分続いてその後突風を伴い、降水が弱まるという気象現象は多く観測されている。しかし、降水セルの一生が今述べた3段階を経るかどうかは大気の状態に依存する。ただし、この3段階はかなり活発な積乱雲において起こるのであり、降水セルによっては成長期からすぐに消滅に向かうこともある。

また、先ほど述べた原因によって起こる下降気流が極端に強くなり、地上に被害をもたらすこともある。積乱雲に伴う下降気流が極端に強い場合、これをダウンバーストという。ガストフロント付近では、突風により局所的に気流の渦が多数生まれ、このうちごく少数が竜巻となって、稀に被害をもたらす場合がある。

降水セル及び積乱雲が消滅しても、先ほど述べたガストフロントは残ることがある。ガストフロントはメソ・ハイが原因で起きたものなので、周りより冷たい空気からなっている。ガストフロントにさらに湿った暖かい空気が流れ込んだ場合、再びその部分に上昇気流が発生し、新たな積乱雲が発生することもある。もとの積乱雲を原因として新たな積乱雲が発生するので、積乱雲の世代交代と呼ばれる。

積乱雲の世代交代には次の様な場合もある。2つの積乱雲が並行して存在するとき、両者の積乱雲のメソ・ハイによって下降気流が同時期に発生することがある。すると2つの下降気流がぶつかるため、空気は上にいくしかなくなり、上昇気流が発生し、この上昇気流によって積乱雲が発生するのである。このような世代交代は衛星画像で見ると分かりやすい。1つの積乱雲の塊を先頭にして、その後ろにいくつもの積乱雲が続くような場合である。このような積乱雲は今述べたメカニズムによって発生していることが多い。

派生する雲形

雲種
雲副変種

さまざまな積乱雲

航空機と積乱雲

航空機の操縦において、巡航高度よりも背の高い巨大な積乱雲が自機の針路に存在し、かつ、それが迂回すれば雲の中に入らずに済みそうな場合、パイロットは安全のために、自動操縦を解除してでも積乱雲を迂回することがある [5] 。 積乱雲が発生するような場所にしばしば見られる乱気流の問題の他にも、積乱雲によって発生する雷を受けることは、航空機に問題を引き起こす可能性もある [6]

積乱雲と俳句

日本のような季節のある地域において、積乱雲は比較的夏に発生しやすい。このため、俳句では夏の季語の1つに「積乱雲」がある [7]

注釈

  1. ^ ただし、断熱膨張とは言っても、厳密には全く雲の外部と熱の出入りが無いことはあり得ない。
  2. ^ なお、大きくなって落下を始めた氷晶は地表に達する前に融解して水、つまり、雨となることが多い。逆に、これが融解せずに地表まで達したものが、霰や雹である。

出典

  1. ^ 積乱雲って どんな雲?,気象庁
  2. ^ 【早回し】積雲/積乱雲/入道雲,YouTube
  3. ^ 雲の種類とその特徴 - 積乱雲 理科年表オフィシャルサイト - 積乱雲の特徴について解説。
  4. ^ 竜巻などの激しい突風とは,気象庁
  5. ^ 阿陁光南、月刊エアライン編集部 『イカロスムック 航空知識のABC』 p.172 イカロス出版 1996年7月1日発行 ISBN 4-87149-051-3
  6. ^ 阿陁光南、月刊エアライン編集部 『イカロスムック 航空知識のABC』 p.71 イカロス出版 1996年7月1日発行 ISBN 4-87149-051-3
  7. ^ 積乱雲 (Weblio辞書)

関連項目

外部リンク

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