ネット右翼
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ネット右翼(ネットうよく)はインターネット上で右翼的な発言をする人物をさす用語ないしはインターネットスラング。ネットウヨク、ネットウヨ、ネトウヨとも呼ばれる。
概要
ネット上の掲示板やブログにおいて右翼的な発言および各種メディアへの批判をおこなうことで知られている。大半は1970年代~1980年代生まれの主に男性と見られている。小泉政権発足後、急速に台頭し、注目されるようになった。これはブロードバンドの発達ともリンクしているとみられる。
また、ネット上の発言のみならず、政治団体、市民団体、報道機関に対し組織的集中的に抗議電話を掛ける・電子メールを送るなどして圧力を掛ける(電凸)といったオフラインでの抗議行為や、ネット上でコンタクトをとった後の現場における行動も含まれる。ただ、確固たる組織を形成しているわけではなく、個々がネットで連帯をとりながら行動している。
自然発生的に生まれた言葉であり使用する各人によりネット右翼の定義は様々であるが、2000年代の日本における若年層の右傾化の象徴とみなす識者が多い。また、ネット右翼に対してネット左翼という言葉が新聞・テレビ等のメディア上で存在しないことも注目される。
具体例
- 2005年のマンガ嫌韓流の出版およびヒットはそれまでのネット右翼の活動の集大成と見られている。
- 2005年、杉並区での教科書採択において一部が現場からレポートし、その様子を取材された。
- 2005年の総選挙での自民党の歴史的勝利において、投票率が7%以上上がったことも含めその投票行動が注目された。当日の開票速報では専門家が2ちゃんねるの反応について触れた。
- 2006年の小泉首相靖国参拝において、ネット上の発言のみならず実際に参拝に訪れた様子が報道された。
- 近年メディアでも使われるようになった特定アジアを発案した。
- 「左翼的」、「反日的」だと思われる人間に対して、当該人物が運営するブログに批判的なコメントを殺到させ、炎上させる。
- 2009年9月1日 J-CASTニュースでは、自民党が選挙に負けた際に、2ちゃんねるにおける自民党支持者を「ネット右翼」としてとらえる記事を書いている[1]。
- 2009年9月2日 在日本大韓民国民団機関紙・民団新聞は、「参政権獲得運動を誹謗中傷する"ネット・ウヨク"と闘っている」という在日韓国人の女性の発言を掲載している[2]。
- SPA!2009年10月13日号に「民主党政権誕生でネット右翼はどこへ行く」という記事が掲載。担当編集者がコメントした[3]。
メディアの扱い
近年、メディアによるネット右翼の特集が目立って増えてきている。朝日新聞、毎日新聞が左派の立場からの論考に対し、産経新聞は右派の立場から、どちらかというと好意的である。毎日新聞はこの問題について、2ちゃんねる管理人の西村博之らを交えた座談会を断続的に行っている。TBSは『NEWS23』で特集を放送した。
2006年の8月15日に小泉総理が靖国参拝をした際、テレビ、新聞の各メディアの大半が否定的な報道を行ったが、その後の世論調査で支持が過半数を超え、メディア各社は戸惑いを隠さなかった。NHKは当日の生番組で携帯電話でアンケートをとった結果、賛成が63%反対が37%となった。これについて、後日朝日新聞が携帯電話では若い世代の意見に偏ると批判した。これは、事実上ネット右翼に対する批判と考えられる。
2006年9月11日の朝日新聞のファッション欄に掲載されたワンポイントマーク復活の記事において、「メンズウエアの胸元に、ワンポイントマークが復活している。かつては中年男性のゴルフ用ポロシャツに、必ずついていた傘や熊などのマーク。それが今、おしゃれな装飾としてさまざまな形に進化している。」という書き出しから「そういえば、自らの国家や民族に固執する右翼系の若者が世界的に増えているという事実も、多少気になるところだが。」との結論に至った。これもネット右翼を日常的に意識している結果と見られている。
識者の見解
- ジャーナリストの佐々木俊尚は「これまでマスコミで黙殺されてきた新保守論的な世論が、ネットという媒体を得て一気に表舞台へと噴出してきているというのが正体ではないか」としている。
- 北田暁大東京大学助教授は「中韓そのものへの嫌悪というよりは、中韓に優しいように見えるマスコミの正論に反発することで、連帯感を共有しているように見える」としている。
- 鈴木謙介(国際大学客員研究員)は「右翼というよりは『左翼嫌い』、より正確に言えば、『マスコミに流通する言葉が優等生的な言説ばかりであることにいらだっている』集団」としている。
- 漫画家の小林よしのりはもともとは批判的な立場であったが、2006年の小泉総理靖国参拝後、「わしのゴー宣は、描き始めてから発表に3週間かかる。あえて批判してきたネット保守に共闘をもちかけたい。今後、同調圧力をかけるマスコミがいたら、直ちに批判してくれ! わしの力の限界を超えてくれ!」とネット右翼に共闘を呼びかけた。これはさまざまな憶測を呼んでいる。
- 山口二郎北海道大学教授は「攻撃的引きこもりである小泉総理を見習って、蛸壺に閉じこもりつつ、気にくわない言説への攻撃に精を出している」と評している[4]。
- 加藤紘一自民党元幹事長は小泉総理が靖国参拝をした2006年8月15日実家を放火された。その後「マスメディアも、いわゆるインターネット右翼と呼ばれる人たちの動向などについてももっと報道して欲しい。従来の民族系右翼の人たちとは異なる側面を感じる。彼らとも活発に真剣な議論をかわしていきたい」と発言した[5]。
- 辻大介大阪大学大学院准教授は2008年に「インターネットにおける「右傾化」現象に関する実証研究」とする論文を発表した[6]。この論文において、ネット右翼の最新の研究結果が報告された。この研究には北田暁大と鈴木謙介も参加した。また、この論文は朝日新聞出版発行の専門誌『Journalism』2009年3月号にも掲載された[7]。
- 城内実(衆議院議員)は自身のブログにおいて、そのネットマナーへの批判対象として、「過去の私のブログの記事をろくに読みもしないで、上から目線で重箱のすみをつつくことに自己満足を感じている絶滅危惧種の左翼全体主義ブロガーや、一部のとんちんかんなネット右翼にはもはやつける薬はないかもしれない」と述べている[8]。
- 小田嶋隆(コラムニスト)は、2009年に第45回衆議院議員総選挙が行われた際、選挙前の世論調査ではニコニコ動画やインターネット掲示板における麻生内閣の支持率が高かったことについて、選挙の結果が判明する前に論評するなかで(『踊る阿呆の「祭り」のあとに』)、「ネット右翼が大量発生しているのか、少数のネット右翼が、大量書き込みをしているのか、本当のところはわからない。結局、ネットというのはそういう場所なのだ」「違うのだよ麻生さん。ネトウヨは数が多いのではない。クリックの頻度が高いだけだ。つまりただのパラノイアだ」と書いている[9]。
- 宮台真司(社会学者)は、『日本の難点』の第一章と第二章内において、ネット右翼を「自意識をこじらせた馬鹿保守」と定義しつつも、「コミュニケーションがフラット化した社会で発生した、自己への尊厳を失った人」「“モンスタークレーマー”などと同様のラウドマイノリティー」という見方を示している。
新聞紙上における『ネット右翼』の用例
- 『世相解剖 あまから談義 「おれちん」から見る日本(上)若者の全能感が招く 依存と破壊』(京都新聞、2007.03.29)
- 『世相解剖 あまから談義 「おれちん」から見る日本(下)「他者」とのかかわり どう築くか』(京都新聞、2007.03.30)…対談。ネット右翼は罵詈雑言を吐いても行動を伴わないと指摘している。
- 『(歴史と向き合う 第6部 愛国心再考:4)「公」とつながりたい「私」』(朝日新聞、2007.02.28)…ネット右翼と「愛国心」を絡めた朝日的論調。
- 『【ネットウオッチング】ネットイナゴ』(産経新聞、2007.02.22)
- 『週刊ノンフィクション劇場 ニッポンの「右翼」大研究(3)米国とネット右翼』(週刊朝日、2007.02.09)
- 『地に在りて・番外編=強まる思想統制、言論の監視 「命の格付け」許さぬために(斎藤貴男)』(信濃毎日新聞、2007.01.18)…ネット右翼を格差社会で阻害された人々とし、より弱い立場の人や集団を見下すことで自我のバランスを取りたがるとしている。
- 『余録:ゲーム漬けで大脳の機能が低下するという…』(毎日新聞、2007.01.08)…ゲーム脳とネット右翼を絡めた小文。
- 『論壇リポート=安倍政権 御厨貴氏・強い総理へ解散提言 蒲島郁夫氏・安保で都市部が離反』(熊本日々新聞、2006.11.18)…「論座」の特集「言論テロと右翼」の対談を引いて、ネット右翼の特徴を指摘。
- 『中島岳志的アジア対談:右傾化する「自分探し」--雨宮処凛さん』(毎日新聞、2006.10.23)…フリーターでネット右翼の子からその様な気持ちを取り上げることの危険性を語る。
- 『あの人に迫る 鈴木邦男 新右翼団体顧問 宝にも凶器にも愛国心は化ける』(東京新聞、2006.09.29)…新保守派の学者はネット右翼の共犯。
- 『にっぽんに思う:/1 23歳男性・会社員 きっかけは漫画「戦争論」』(毎日新聞、2006.07.31)…「戦争論」がネット右翼に影響を与えた。
- 『【ネットウオッチング】「炎上」という現象』(産経新聞、2006.06.08)
- 『【ネットウオッチング】「ネット右翼」って?』(産経新聞、2006.05.25)
- 『(「みる・きく・はなす」はいま)萎縮の構図:6 炎上 他人のブログ、はけ口に』(朝日新聞、2006.05.05)
- 『特集ワールド・ちょっと待った!:怒りはどこへ…?』(毎日新聞、2006.05.01)
- 『再考・来た道行く道<4>自由 言論に「覚悟」はあるか-連載』(西日本新聞、2005.12.25)
- 『【断】「ネット右翼」は新保守世論(佐々木俊尚)』(産経新聞、2005.05.08)…新聞紙上で初めて「ネット右翼」が使用された記事とみられる。
- 『<プラネタリウム>インターネットと選挙』(北海道新聞、2003.03.13)
関連書籍
- 『ネット右翼ってどんなヤツ? 嫌韓、嫌中、反プロ市民、打倒バカサヨ』(宝島社別冊宝島、2008年) ISBN 978-4-7966-6226-0
- 近藤瑠漫、谷崎晃、桜井春彦 編著『ネット右翼とサブカル民主主義 マイデモクラシー症候群』(三一書房、2007年) ISBN 978-4-380-07218-5
関連項目
- 極左 - 左翼 - 中道左派 - 中道 - 中道右派 - 右翼 - 極右
- 青年民族派右翼
- 新右翼
- 新左翼
- 新保守主義
- 第三の道
- 特定アジア
- 2ちゃんねる - 2ちゃんねらー
- ゴーマニズム宣言
- インターネットスラング
脚注
- ^ 2009年9月1日J-CASTニュース政権交代で「ネット右翼」危機? 2ちゃんねるでも潮流変化かより。この記事では、「ネット右翼」とは左翼的な報道を繰り返すマスコミに対して「本当のことを報じていない」とする反発から生まれたものであるとしている。
- ^ 「参政権」どうなる 本紙記者座談会 2009-09-02 民団新聞
- ^ http://spa.fusosha.co.jp/weekly/weekly00008919.php
- ^ JiroYamaguchi Official Web Site
- ^ JanJan 脅かされる言論の自由
- ^ 「インターネットにおける「右傾化」現象に関する実証研究」調査結果概要報告書 (PDF) (財団法人日本証券奨学財団平成18年度(第33回)研究調査助成金による)
- ^ Journalism 2009.3 no.226「[研究室からのメディア・リポート]調査データから探る「ネット右翼」の実態」辻大介(大阪大学大学院人間科学研究科准教授)
- ^ ブログの更新一時休止「とことん信念」2009年10月26日
- ^ 日経ビジネスエッジ 小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」