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VLA-4

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Α4β1インテグリンから転送)
α、βサブユニットはSDF-1などのケモカインに応答してコンフォメーション変化を起こし、VCAM-1などのリガンドと相互作用する。
Integrin alpha-4
識別子
略号 ITGA4
Entrez英語版 3676
HUGO 6140
OMIM 192975
RefSeq NP_000876
UniProt P13612
他のデータ
遺伝子座 Chr. 2 q31.3
テンプレートを表示
Integrin beta-1
識別子
略号 ITGB1
他の略号 CD29
Entrez英語版 3688
HUGO 6153
OMIM 135630
RefSeq NP_002202
UniProt P05556
他のデータ
遺伝子座 Chr. 10 p11.22
テンプレートを表示

VLA-4(very late antigen 4)またはα4β1インテグリン(integrin α4β1)は、CD49d(α4インテグリン英語版)とCD29(β1インテグリン英語版)から構成されるインテグリン二量体である。α4サブユニットは155 kDa、β1サブユニットは150 kDaである[1]

機能

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VLA-4は、造血系において幹細胞前駆細胞T細胞B細胞単球NK細胞好酸球の表面に発現しているが、好中球では発現していない。VLA-4は炎症を必要とする組織への白血球の移動を補助することにより、免疫系による炎症応答を促進する機能を果たす[2]。特に、細胞接着において重要な因子である[3]

しかしながら、VLA-4は白血球が走化性因子や他の刺激(多くの場合、損傷部位の内皮やその他の細胞によって産生される因子)によって活性化されるまで、リガンドを結合することはない。VLA-4の主なリガンドはVCAM-1フィブロネクチンであり[4]、活性化を担うケモカインの1つがSDF-1である。SDF-1の結合後、インテグリンのα、βサブユニットにはコンフォメーション変化が生じ、リガンドへの高親和性結合が可能な状態となる。この変化は、VLA-4の細胞内領域と相互作用するタリン英語版やキンドリン(kindlin)といったタンパク質によって行われる[4]

VLA-4の細胞膜上での発現は、細胞種に依存して異なる成長因子やケモカインによって調節されている。T細胞では、IL-4によってVLA-4の発現はダウンレギュレーションされる。CD34陽性細胞では、IL-3英語版SCF英語版はアップレギュレーションを引き起こし、G-CSFはダウンレギュレーションを引き起こす(幹細胞はCD34陽性細胞である)[4]

造血における役割

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VLA-4は造血幹細胞や前駆細胞上に存在し、これらの細胞は主に骨髄に存在する。VLA-4、特にαサブユニットは前駆細胞の局在と循環に重要である。マウスでは、抗αサブユニット抗体の注入によって前駆細胞の全身循環と持続期間が増大することが示されている[1]。造血幹細胞を末梢血へ動員するためには、細胞表面のVLA-4のダウンレギュレーションが必要である[5]

臨床的意義

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幹細胞と前駆細胞

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VLA-4のコンフォメーション変化を標的とした低分子化合物は、造血幹細胞動員のための新たな薬剤候補となる可能性がある[4]。マウスではαサブユニットのノックアウトは胎生致死となる[4]

多発性硬化症

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多発性硬化症においては、VLA-4はT細胞が脳へのアクセスを獲得する過程に必須の役割を果たしている。VLA-4は、通常は免疫細胞のアクセスを制限している血液脳関門の通過を可能にしており、多発性硬化症の重症度はα4インテグリンの発現との正の相関がみられる[6]自己免疫反応を防ぐアプローチの1つとしてはVLA-4の作用の遮断があり、T細胞は脳へ移行できず、そのためミエリンタンパク質を攻撃することができなくなる[7][8]。抗α4インテグリン抗体であるナタリズマブは、こうした機序で作用する多発性硬化症治療薬である[9]

他の炎症性疾患の治療

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VLA-4の作用を遮断するVLA-4アンタゴニストはいくつかの炎症性疾患の治療への応用の可能性がおり、多発性硬化症以外にも気管支喘息への治療への利用が検討されている[2]。また、ナタリズマブはクローン病に対する初期の臨床試験では一部成功を収めており、40%以上の寛解率が報告されている[10]。一方で、ナタリズマブは進行性多巣性白質脳症などいくつかの副作用のため、その使用に関してはいまだ議論がある。

VLA-4のリガンド結合親和性を低下させる他のアロステリックアンタゴニストも発見されている[11]

化学療法への感受性

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造血組織の悪性腫瘍の患者では、VLA-4とリガンドとの相互作用が化学療法への感受性に影響を及ぼすことが示されている[4]

出典

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  1. ^ a b “VLA-4 antagonists: potent inhibitors of lymphocyte migration”. Medicinal Research Reviews 23 (3): 369–92. (May 2003). doi:10.1002/med.10044. PMID 12647315. 
  2. ^ a b “Very late antigen 4 (VLA4) antagonists as anti-inflammatory agents”. Current Opinion in Chemical Biology 2 (4): 453–7. (August 1998). doi:10.1016/S1367-5931(98)80120-8. PMID 9736917. 
  3. ^ Cox, Dermot; Brennan, Marian; Moran, Niamh (October 2010). “Integrins as therapeutic targets: lessons and opportunities”. Nature Reviews Drug Discovery 9 (10): 804–820. doi:10.1038/nrd3266. ISSN 1474-1784. PMID 20885411. https://figshare.com/articles/journal_contribution/10782461. 
  4. ^ a b c d e f “Essential roles of VLA-4 in the hematopoietic system”. International Journal of Hematology 91 (4): 569–75. (May 2010). doi:10.1007/s12185-010-0555-3. PMID 20352381. 
  5. ^ “Immunologic profiles of effector cells and peripheral blood stem cells mobilized with different hematopoietic growth factors”. Stem Cells 18 (6): 390–8. (November 2000). doi:10.1634/stemcells.18-6-390. PMID 11072026. 
  6. ^ “The role of alpha-4 integrin in the aetiology of multiple sclerosis: current knowledge and therapeutic implications”. CNS Drugs 19 (11): 909–22. (November 2005). doi:10.2165/00023210-200519110-00002. PMID 16268663. 
  7. ^ Paul, William E. (September 1993). “Infectious Diseases and the Immune System”. Scientific American 269 (3): 111–114. Bibcode1993SciAm.269c..90P. doi:10.1038/scientificamerican0993-90. ISBN 978-0-226-74264-9. PMID 8211095. https://archive.org/details/infectiousdiseas0000unse_f5y9/page/111. 
  8. ^ van der Laan, Luc J. W.; van der Goes, Annette; Wauben, Marca H. M.; Ruuls, Sigrid R.; Döpp, Ed A.; De Groot, Corline J. A.; Kuijpers, Taco W.; Elices, Mariano J. et al. (2002-01-15). “Beneficial effect of modified peptide inhibitor of alpha4 integrins on experimental allergic encephalomyelitis in Lewis rats”. Journal of Neuroscience Research 67 (2): 191–199. doi:10.1002/jnr.10095. ISSN 0360-4012. PMID 11782963. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11782963. 
  9. ^ Khoy, Kathy; Mariotte, Delphine; Defer, Gilles; Petit, Gautier; Toutirais, Olivier; Le Mauff, Brigitte (2020). “Natalizumab in Multiple Sclerosis Treatment: From Biological Effects to Immune Monitoring”. Frontiers in Immunology 11: 549842. doi:10.3389/fimmu.2020.549842. ISSN 1664-3224. PMC 7541830. PMID 33072089. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33072089. 
  10. ^ “Targeting leukocyte trafficking to inflamed skin: still an attractive therapeutic approach?”. Experimental Dermatology 16 (1): 1–12. (January 2007). doi:10.1111/j.1600-0625.2006.00503.x. PMID 17181631. 
  11. ^ “Discovery of very late antigen-4 (VLA-4, alpha4beta1 integrin) allosteric antagonists”. The Journal of Biological Chemistry 286 (7): 5455–63. (February 2011). doi:10.1074/jbc.M110.162636. PMC 3037658. PMID 21131351. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3037658/. 

外部リンク

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