きぶな
解説
[編集]宇都宮市には「昔天然痘が流行った時に、黄色いフナが市中心部の田川で釣れ、病人がその身を食べたところ治癒した」という伝説がある[1][2][3]。きぶなを食べた人は病気にならなかったが、きぶなを釣るのは難しかったため、フナを模した縁起物の張り子を作って正月に軒下に吊るしたり、神棚に供えたりする習慣が生まれた[1]。きぶなは長さ約30センチメートルの細い竹竿に吊り下げられた張り子で、頭部は赤色、ひれは黒色、胴体が黄色、尻尾が緑色[4][5]と色鮮やかである。
昔は宇都宮市南新町の農家の副業として多くの人が制作していた[1]が、その後西原町の[6]浅川仁太郎(1906年1月30日生)と次男の浅川俊夫(1945年12月25日生)の2人だけが技術を継承した。仁太郎の死後はかんぴょうやふくべ(ユウガオの実)の細工を手掛ける小川昌信が、きぶなの消失を危惧する人々の勧めで技術を継承し、従来の張り子にとどまらない商品展開を行った[6]。小川の店は「ふくべ洞」といい[3]、宇都宮市大通り2-4-8にある。
制作の手順をおおまかに記すと、きぶなの木型に和紙を張りつけて1日半ほど乾燥させる。きぶなの腹部を切って木型を取り出して切り口に紙を張る。ニカワできぶなのひれを付け半日ほど乾燥させてからひれを整型する。胡粉をぬり半日ほど乾燥させる。赤・黄色などの絵の具で着色する。
毎年1月11日の初市に上河原の初市会場[1]と宇都宮二荒山神社の参道で販売されてきた。宇都宮市内の物産店でも販売するようになった。通常は張り子や土鈴であるが、ストラップ、キーホルダー[1]、ハンチング帽、こいのぼり[7]などの派生品もある。黄鮒を模した最中[5]やご当地キティや日本酒の銘柄としても使用される。 きぶなにちなんだキャラクターの「郷土玩具怪獣 キブナドン」(郷土を守る優しい怪獣)が2014年頃から登場した[8]。
新型コロナウイルスときぶな
[編集]2020年(令和2年)の新型コロナウイルス感染症の日本での流行を受け、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)では妖怪のアマビエに関心が集まる一方、宇都宮市ではきぶなへの関心が高まっている[2][3]。伝統的に行われてきたように、玄関先にきぶなを吊るして無病息災を祈願する人や[2][3]、きぶなグッズを買い求める人[3]、SNSで「黄ぶな運動」を展開する人[2][3]、きぶなのお守りを作り医療従事者に届ける人[9]、「黄ぶな体操」[10]を広める人、新たにきぶなを描いたTシャツを販売する店が現れた[5]。
黄ぶな運動とはSNSでハッシュタグ「#黄ぶな運動」を付けて、黄ぶな関連情報、健康管理のための情報、お店のテイクアウト情報、新型コロナウイルス関連助成金制度の情報や中止・延期となったイベントに関する情報など共有できる有益な情報発信するという運動である[2]。イラストをSNSに投稿することも黄ぶな運動に含まれる[3]。この運動をきっかけにきぶな周知に大きく貢献した。また、宇都宮市出身の漫画家・湯沢としひとは、黄ぶな運動の影響を受けSNSできぶなを主人公とする「黄ぶな係長」という漫画の連載を開始した[11]。2021年のこいのぼりシーズンには、静岡県沼津市のオフィスグルーが運営するオリジナルこいのぼり製作チーム「ミセスミシン」が、きぶな型のこいのぼり「きぶなのぼり」を製作している。
宇都宮市立南図書館では、図書館での長期滞在による感染拡大を防止する観点から、職員が選んだおすすめの本をセットにした「きぶなぶっく!」を準備した[12]。しかし図書館は臨時休館を余儀なくされた[13]。一方、きぶなへの関心の高まりから、図書館が所蔵する立松和平著の絵本『黄ぶな物語』への注目も高まった[13]。貸し出しが不可能なため、『黄ぶな物語』を朗読する動画を映画監督の安孫子亘が撮影し、南図書館が配信することになった[13][14]。
宇都宮市の宗教界では、光琳寺が2020年(令和2年)9月よりきぶなを描いたお守りの配布を開始し[15]、宇都宮二荒山神社では9月12日からきぶなをあしらった御朱印の頒布を開始した[16]。その後12月には黄ぶなデザインのお守りも授与している。光琳寺はお守りから得られた収益を医療従事者への寄付や前年の台風19号の復旧義援金に充てるとしている[15]。このほか、宮の市実行委員会は同会が主催する宮の市が中止になった代わりの事業としてうつのみや表参道スクエアに「黄ぶな大明神」と称する神社を期間限定で設置した[17][18][19]。2023年現在黄ぶな大明神はうつのみや表参道スクエア2階宇都宮観光コンベンション協会に設置されている。
記念日
[編集]2021年(令和3年)9月27日。語呂合わせで9(き)27(ぶ)(な)。医療従事者の方への日頃の感謝を含め,宇都宮民話伝承,歴史伝承周知の日として『黄ぶなの日』を設け街の活性化に繋げる商業イベントを開催している。
賛同する商店街が大きな黄ぶなのフラッグを掲げる他、各賛同するお店が新生活様式を用いてコロナ感染対策を徹底した上、黄ぶなの日に合わせて、オリジナルイベントを開催。今泉八坂神社でも活動に賛同し「黄ぶなの日」限定御朱印を授与した[20]。
2022年(令和4年)には、「#黄ぶな運動」や「『黄ぶなの日』記念日制定」発案者でもある関口慶介氏を中心に宇都宮市内の商店や神社仏閣,商店街や団体で構成された『黄ぶな推進協議会』が設立された。[21]
翌年2023年(令和5年)4月14日。黄ぶな推進協議会は一般社団法人日本記念日協会の中で初の郷土玩具記念日として認定を受けている。[22] [23] [24]
参考文献
[編集]- 『宇都宮の手仕事』 1980年 宇都宮市教育委員会・半田昭
- 『宇都宮の民話』 1983年 宇都宮市教育委員会・半田昭
- 『栃木民俗探訪』 2003年 下野新聞社 ISBN 4882862042
- 『下野の手仕事』 2005年 柏村祐司 随想舎 ISBN 4887481063
- 柏村祐司『なるほど宇都宮 歴史・民俗・人物百科』随想舎、2020年4月25日、188頁。ISBN 978-4-88748-382-8。
関連書籍
[編集]- 『黄ぶな物語』 - 絵本(作:立松和平、絵:横松桃子、文字:佐藤信明 1999年 アートセンターサカモト ISBN 9784901165013)
脚注
[編集]- ^ a b c d e 柏村 2020, p. 166.
- ^ a b c d e “「アマビエ」だけじゃない 無病息災に宇都宮の「黄ぶな」 コロナに負けず、SNS発信”. 下野新聞 (2020年4月5日). 2020年4月27日閲覧。
- ^ a b c d e f g h 渡辺佳奈子 (2020年4月24日). “無病息災の飾り「黄ぶな」脚光 “アマビエ”だけじゃない…宇都宮の伝説”. 毎日新聞. 2020年4月27日閲覧。
- ^ 柏村 2020, pp. 166–167.
- ^ a b c “コロナに負けるな 無病息災「黄ぶな」グッズ 最中やTシャツ、思い込め 宇都宮”. 下野新聞 (2020年4月19日). 2020年4月27日閲覧。
- ^ a b 柏村 2020, p. 167.
- ^ “きぶなのぼり(栃木県なかがわ水遊園) | ミセスミシン:オリジナルこいのぼり製作”. 2021年5月8日閲覧。
- ^ 読売新聞 栃木版 2023年11月28日 27面
- ^ “手作りの「黄ぶな」お守り贈呈 栃木県看護協会が県内の医療機関へ”. 下野新聞 (2020年4月26日). 2020年4月27日閲覧。
- ^ “ユーチューブに「黄ぶなチャンネル」 宇都宮の保険業会社が立ち上げ 故立松さんの絵本読み聞かせなど|下野新聞 SOON”. 下野新聞 SOON. 2023年4月9日閲覧。
- ^ “笑いの力でコロナ退散!? 4コマ「黄ぶな係長」描く宇都宮出身の漫画家”. 毎日新聞 (2020年8月25日). 2020年12月11日閲覧。
- ^ “今日の「みなみちゃん!!」”. 宇都宮市立南図書館 (2020年3月31日). 2020年4月27日閲覧。
- ^ a b c “「黄ぶな物語」朗読を配信へ コロナ終息の願いも乗せて 宇都宮南図書館”. 下野新聞 (2020年4月19日). 2020年4月27日閲覧。
- ^ 原田拓哉 (2020年4月27日). “<コロナ緊急事態>「黄ぶな物語」親子で見て 流行病治した伝説の魚の絵本 市立南図書館が動画作成”. 東京新聞. 2020年4月27日閲覧。
- ^ a b “黄ぶなお守り誕生 代金は義援金などに活用 宇都宮の光琳寺”. 下野新聞 (2020年9月1日). 2020年12月11日閲覧。
- ^ “「黄ぶな」特別御朱印で疫病退散 宇都宮二荒山神社、12日から頒布”. 下野新聞 (2020年9月11日). 2020年12月11日閲覧。
- ^ “黄ぶな大明神にお願い! 宇都宮、街なかにパワースポット設置”. 下野新聞 (2020年12月2日). 2020年12月11日閲覧。
- ^ “宇都宮の商店街など「黄ぶな」で疫病退散・商売繁盛”. 日本経済新聞 (2020年11月30日). 2020年12月11日閲覧。
- ^ “無病息災の縁起物「黄ぶな」目印にセール 宇都宮の商店街を元気に 大明神も設置”. 毎日新聞 (2020年12月4日). 2020年12月11日閲覧。
- ^ 9月27日は「黄(9)ぶ(2)な(7)の日」12店が団結、協賛セール 下野新聞
- ^ “9月27日「黄ぶなの日」定着へ 推進協設立、タペストリー製作中|地域の話題|下野新聞「SOON」ニュース|下野新聞 SOON(スーン)”. 下野新聞 SOON. 2022年3月1日閲覧。
- ^ “9月27日は「黄ぶなの日」 日本記念日協会が認定 推進協、全国区の起爆剤に 宇都宮|下野新聞 SOON”. 下野新聞 SOON. 2023年4月18日閲覧。
- ^ 日本放送協会. “9月27日は「黄ぶなの日」 周知へ|NHK 栃木県のニュース”. NHK NEWS WEB. 2023年8月29日閲覧。
- ^ “9月27日は「黄ぶなの日」 無病息災の縁起物、アマビエと共に注目”. 毎日新聞. 2023年8月29日閲覧。