コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

さらば青春の光 (オリジナル・サウンドトラック)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『さらば青春の光 (オリジナル・サウンドトラック)』
ザ・フーほかサウンドトラック
リリース
ジャンル ロック、ソウル・ミュージック、R&B
レーベル ポリドール・レコード
チャート最高順位
イギリスの旗26位
アメリカ合衆国の旗46位
テンプレートを表示

さらば青春の光 (オリジナル・サウンドトラック)』(Music From The Soundtrack Of The Who Film QUADROPHENIA)は、フランク・ロッダム英語版監督による1979年イギリス映画さらば青春の光』(Quadrophenia)のサウンドトラック盤である。1979年10月に2枚組アルバムとして発表された[1]

解説

[編集]

概要

[編集]

映画『さらば青春の光』は、イングランドロック・バンドのザ・フーが1973年に発表した2枚組アルバム『四重人格』(Quadrophenia)を原作とした[2]

『四重人格』は、1960年代の中期に実在したモッズという若者集団に属するジミーという名の架空の青年の人格が暴力的(A tough guy)、ロマンティック(A romantic)、絶望(A beggar, a hypocritic)、狂人(A bloody lunatic)という4つの人格から成り立っていることを取り上げた作品だった。ジミー以外の登場人物はゴッドファーザーとベルボーイだけで、17曲の収録曲のうちゴッドファーザーが「少年とゴッドファーザー」、ベルボーイが「ベル・ボーイ」で、それぞれジミーと短い会話をかわすかたちで登場した。残りの15曲のうち、インストゥルメンタルの2曲を除いた13曲は全てジミーの独白で成り立っていた[注釈 1]

『さらば青春の光』の原題は『四重人格』と同じくQuadropheniaであるが、『四重人格』と異なりジミーの人格が4つの人格から成り立っているという点には触れていない[注釈 2][注釈 3]。そして『四重人格』には登場しない人物が多数加えられて物語が加筆され、それがジミーの独白によってではなく登場人物の日常会話によって展開する形式を採った。その結果、映画に使用された『四重人格』の収録曲の多くは部分的に用いられるに留まった。

内容

[編集]

ザ・フーと関連バンドの楽曲

[編集]

サウンドトラックに収録されたザ・フーの楽曲は13曲。その内訳は10曲が『四重人格』の収録曲で、3曲が未発表曲である。

メンバーで音楽監督を務めたベーシストのジョン・エントウィッスルは、『四重人格』の収録曲だった10曲のうち、「ぼくは海」[注釈 4]と「ヘルプレス・ダンサー」[注釈 5]を除く8曲をリミックスして、より硬質なサウンドに仕立てた。彼はまた「リアル・ミー」、「少年とゴッドファーザー」、「ドクター・ジミー」のベース・ギターのパートをディスト―ションを駆使した歪みが効いた音で自ら再録音して、リミックスに彩りを添えた。

また、「少年とゴッドファーザー」にギター、「ぼくは一人」にピアノ、「愛の支配」にフルート、金管楽器、ストリングス、「ぼくはもうたくさん」にストリングス[注釈 6]が加えられた[3]。さらに、'The Real Me'と'Love Reign o'er Me'のエンディングは、『四重人格』の収録版とは異なるものになった。

未発表曲の3曲はいずれも、『四重人格』制作時に全曲の作者であるメンバーのピート・タウンゼントによって書かれたが使用されなかった楽曲である[4][注釈 7]。これらは映画化に際して新たに録音された[注釈 8]

以上の13曲にうち、映画に使用されたのは、ごく部分的な使用を含めて、『四重人格』の10曲に未発表曲の’Get Out and Stay Out’を加えた11曲である。

また、ザ・フーに関連した曲として、彼等がモッズのメンバーだったピーター・ミーデン英語版のマネージメントの下にあった1964年に、ザ・ハイ・ナンバーズの名義でシングル発表した「ズート・スーツ[5][注釈 9]が収録された。

その他の楽曲

[編集]

『四重人格』が主人公ジミーの複雑な人格や精神構造に焦点を当てたアルバムであったのに対して、『さらば青春の光』は1960年代中期のモッズをはじめとしたロンドンの若者文化を、ジミーの人格と同等かそれ以上に強く前面に映し出した映画に仕立てられた。その内容を受け入れられ易くする為に、『四重人格』の収録曲だけでなく、当時の若者に人気があったソウル・ミュージックやR&Bのヒット曲の幾つかか大々的に使用された[注釈 10]

以下、収録順に示す。

収録曲

[編集]

※特記なき限り、作詞・作曲はピート・タウンゼント、名義はザ・フー。

  • LP
Side One
#タイトル作詞・作曲名義時間
1.「ぼくは海 - I am the Sea」  
2.「リアル・ミー - The Real Me」  
3.「ぼくは一人 - I'm One」  
4.「5:15(5時15分) - 5.15」  
5.「愛の支配 - Love Reign o'er Me」  
合計時間:
Side Two
#タイトル作詞・作曲名義時間
1.「ベル・ボーイ - Bell Boy」  
2.「ぼくはもうたくさん - I've Had Enough」  
3.「ヘルプレス・ダンサー - Helpless Dancer」  
4.「ドクター・ジミー - Dr. Jimmy」  
合計時間:
Side Three
writer5
#タイトル作詞・作曲名義時間
1.「ズート・スーツ - Zoot Suits」Peter Meadenハイ・ナンバーズ
2.「ハイ・ヒール・スニーカーズ - Hi Heel Sneakers」Robert Higginbothamクロス・セクション
3.「ゲット・アウト・ステイ・アウト - Get Out and Stay Out」  
4.「4つの顔 - Four Faces」  
5.「ジョーカー・ジャイムス - Joker James」  
6.「少年とゴッドファーザー - The Punk and the Godfather」  
合計時間:
Side Four
#タイトル作詞・作曲名義時間
1.「ナイト・トレイン - Night Train」Oscar Washington, Lewis P. Simpkins, Jimmy Forrestジェームス・ブラウン
2.「ルイ・ルイ - Louie Louie」Richard Berryザ・キングスメン
3.「グリーン・オニオンズ - Green Onions」Booker T. Jones, Steve Cropper, Lewie Steinberg, Al Jackson Jr.ブッカー・T&ザ・MG's
4.「悲しき雨音 - Rhythm of the Rain」John Claude Gummoeカスケーズ
5.「ヒーズ・ソー・ファイン - He's so Fine」Ronnie Mackシフォンズ
6.「ビー・マイ・ベイビー - Be My Baby」Jeff Barry, Ellie Greenwich, Phil Spectorロネッツ
7.「ダ・ドゥー・ロン・ロン - Da Doo Ron Ron」Phil Spector, Jeff Barry, Ellie Greenwichクリスタルズ
合計時間:
  • CD
1993年
#タイトル作詞・作曲名義時間
1.「ぼくは海 - I am the Sea」  
2.「リアル・ミー - The Real Me」  
3.「ぼくは一人 - I'm One」  
4.「5時15分 - 5.15」  
5.「愛の支配 - Love Reign o'er Me」  
6.「ベル・ボーイ - Bellboy」  
7.「ぼくはもうたくさん - I've Had Enough」  
8.「ヘルプレス・ダンサー - Helpless Dancer」  
9.「ドクター・ジミー - Dr. Jimmy」  
10.「ズート・スーツ - Zoot Suit」Peter Meadenハイ・ナンバーズ
11.「ハイ・ヒール・スニーカーズ - Hi Heel Sneaker」Robert Higginbothamクロス・セクション
12.「ゲット・アウト・ステイ・アウト - Get Out and Stay Out」  
13.「4つの顔 - Four Faces」  
14.「ジョーカー・ジャイムス - Joker James」  
15.「少年とゴッドファーザー - The Punk and the Godfather」  
16.「ナイト・トレイン - Night Train」Oscar Washington, Lewis P. Simpkins, Jimmy Forrestジェームス・ブラウン
17.「ルイ・ルイ - Louie Louie」Richard Berryザ・キングスメン
18.「グリーン・オニオンズ - Green Onions」Booker T. Jones, Steve Cropper, Lewie Steinberg, Al Jackson Jr.ブッカー・T&ザ・MG's
19.「悲しき雨音 - Rhythm of the Rain」John Claude Gummoeカスケーズ
20.「He's so Fine」Ronnie Mackシフォンズ
21.「ビー・マイ・ベイビー - Be My Baby」Jeff Barry, Ellie Greenwich, Phil Spectorロネッツ
22.「ダ・ドゥー・ロン・ロン - Da Doo Ron Ron」Phil Spector, Jeff Barry, Ellie Greenwicクリスタルズ
合計時間:

※2000年に発売されたCDには、ザ・ハイ・ナンバーズのシングル「ズート・スーツ」のB面に収録されていた「アイム・ザ・フェイス」[注釈 12]が収録された。

2000年
#タイトル作詞・作曲名義時間
1.「ぼくは海 - I am the Sea」  
2.「リアル・ミー - The Real Me」  
3.「ぼくは一人 - I'm One」  
4.「5時15分 - 5.15」  
5.「愛の支配 - Love Reign o'er Me」  
6.「ベル・ボーイ - Bellboy」  
7.「ぼくはもうたくさん - I've Had Enough」  
8.「ヘルプレス・ダンサー - Helpless Dancer」  
9.「ドクター・ジミー - Dr. Jimmy」  
10.「ズート・スーツ - Zoot Suit」Peter Meadenハイ・ナンバーズ
11.「ハイ・ヒール・スニーカーズ - Hi Heel Sneaker」Robert Higginbothamクロス・セクション
12.「ゲット・アウト・ステイ・アウト - Get Out and Stay Out」  
13.「4つの顔 - Four Faces」  
14.「ジョーカー・ジャイムス - Joker James」  
15.「少年とゴッドファーザー - The Punk and the Godfather」  
16.「ナイト・トレイン - Night Train」Oscar Washington, Lewis P. Simpkins, Jimmy Forrestジェームス・ブラウン
17.「ルイ・ルイ - Louie Louie」Richard Berryザ・キングスメン
18.「グリーン・オニオンズ - Green Onions」Booker T. Jones, Steve Cropper, Lewie Steinberg, Al Jackson Jr.ブッカー・T&ザ・MG's
19.「悲しき雨音 - Rhythm of the Rain」John Claude Gummoeカスケーズ
20.「He's so Fine」Ronnie Mackシフォンズ
21.「ビー・マイ・ベイビー - Be My Baby」Jeff Barry, Ellie Greenwich, Phil Spectorロネッツ
22.「ダ・ドゥー・ロン・ロン - Da Doo Ron Ron」Phil Spector, Jeff Barry, Ellie Greenwicクリスタルズ
23.「アイム・ザ・フェイス - I'm the Face」Peter Meadenハイ・ナンバーズ
合計時間:

映画に使用されたが本作に収録されていない楽曲

[編集]

映画に使用されたが本作には収録されていない楽曲を以下に示す。

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ ジミーに道徳の説教をする父親も、着こなしが完璧な憧れの女の子も、彼の独白で描写されただけだった。最後は、ジミーがボートを盗み出して沖にこぎだして岩にたどり着いて、人格の一体化を示唆するLove Reign O'er Meの叫びを上げる場面で終わる。彼の生死は彼自身の決断に委ねられている。
  2. ^ ジミーの父親が、バイクで遊び回って真夜中近くに帰宅した彼を𠮟責して、「お前の人格は分裂している」(bloody split personality)と決めつける場面がある。
  3. ^ 『四重人格』と同様に、4つの人格を示す楽曲である「ヘルプレス・ダンサー」, 「イズ・イット・ミー?」, 「愛の支配」, 「ベル・ボーイ」の一節から構成された「ぼくは海」から始まる。さらに、この4曲は部分的にではあるが、劇中(「イズ・イット・ミー?」が含まれる「ドクター・ジミー」はクレジットタイトルの部分)の挿入歌に用いられた。
  4. ^ 『四重人格』の収録版と同じで、4つの人格のテーマが「ヘルプレス・ダンサー」(金管楽器の独奏)、「イズ・イット・ミー?」(ヴォーカルのみ)、「ベル・ボーイ」(コーラスのみ)、「愛の支配」(ヴォーカルのみ)の順番に登場したのち、「リアル・ミー」(ヴォーカルのみ)で終わる。一方、映画の冒頭に使われた版では、「愛の支配」と「ベル・ボーイ」の順番が入れ替わっている。
  5. ^ 他の収録曲は、「少年とゴッドファーザー」のように映画ではごく短時間にしか使用されなかったものも含めて、映画での使用時間の長さとは無関係に全編が収録されたが、「ヘルプレス・ダンサー」だけは、映画と同様に終了直前の部分がフェイド・インしてそのまま終わるという極めて短い収録だった。
  6. ^ このストリングス・パートは、ザ・フーのアルバム『イッツ・ハード』(1982年)に収録された'I've Known no War'で使用された。
  7. ^ 2011年に発表されたQuadrophenia: Director's Cut Super Deluxe Editionに、タウンゼントが当時制作したデモである'Fill No. 1 Get Out And Stay Out'、'Quadrophenic Four Faces'、'Joker James'が収録された。
  8. ^ 1978年9月に急死したドラマーのキース・ムーンに代わって加入した新メンバーのケニー・ジョーンズが参加した。
  9. ^ ミーデン作として発表されたが、ザ・ダイナミックス英語版の'Misery'(1963年)の改変である。
  10. ^ 当然、選曲は著作権に基づくライセンスに大きく左右された。その結果、ザ・カスケーズザ・ロネッツなど、特にモッズに人気があったとは言えないグループの曲も選ばれた、と指摘されている。
  11. ^ この曲は当時の録音ではなく、映画の為にクロス・セクション(Cross Section)というバンドによって制作された。原曲は、シンガーのトミー・タッカー (シンガー)英語版が1964年に発表した楽曲。
  12. ^ ミーデン作として発表されたが、スリム・ハーポの'I Got Love If You Want It'(1957年)の改変である。
  13. ^ 映像はザ・フーのドキュメンタリー映画『キッズ・アー・オールライト』(1979年)にも使用され、音源は同名サウンドトラック・アルバム(1979年)に収録された。
  14. ^ 'Quadrophenia'は、4つの人格のテーマ曲である'Helpless Dancer'、'Is It Me?'、'Love Reign o'er Me'、'Bellboy'の一節から構成されたインストルメンタルである。映画ではジミーがロッカーズのメンバーになっていた旧友のケヴィンを襲撃してしまった後の場面で'Helpless Dancer'、彼が薬物を手に入れるためにステフのボーイフレンドから得た連絡先に、スパイダー、デイブと3人でバイクで向かう場面で'Bellboy'、彼がブライトンのダンスホールから叩き出されて一晩野宿した翌朝の場面で'Love Reign o'er Me'の一節がそれぞれ使用された。'Cut My Hair'はジミーがヘイスティングスで起こったモッズとロッカーズの乱闘騒ぎを取り上げた新聞記事の切り抜きを自分の部屋の壁に貼り付ける場面、'Is It in My Head?'は、ブライトンの大乱闘が警察によって鎮圧され、ジミーやエースが護送車で連行されステフがデイブのバイクでロンドンに帰っていく場面で使用された。
  15. ^ 「ハイ・ヒール・スニーカーズ」と同様、映画の為にクロス・セクションによって制作された。原曲はジョン・リー・フッカーが1956年に発表した楽曲である。

出典

[編集]
  1. ^ thewho.com”. 2023年11月16日閲覧。
  2. ^ Townshend (2012), pp. 250, 253.
  3. ^ Atkins (2000), pp. 249–251.
  4. ^ thewho.com”. 2023年9月1日閲覧。
  5. ^ thewho.com”. 2023年11月16日閲覧。
  6. ^ Neill & Kent (2007), pp. 86–87.

引用文献

[編集]
  • Atkins, John (2000). The Who on Record: A Critical History, 1963-1998. Jefferson, North Carolina: McFarland & Company, Inc., Publishers. ISBN 0786406097 
  • Neill, Andy; Kent, Matt (2007). Anyway Anyhow Anywhere: The Complete Chronicle of The Who 1958-1978. London: Virgin Books. ISBN 978-0-7535-1217-3 
  • Townshend, Pete (2012). Who I Am. London: HarperCollins. ISBN 978-0-00-747916-0 

関連項目

[編集]