よしの冊子
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『よしの冊子』(よしのぞうし)とは、寛政の改革で知られる松平定信の家臣・水野為長が、世情を定信に伝えるために記録した18世紀の風聞書[1]。官界やそれらを取り巻く世間の内幕情報をまとめたもので、門外不出だったが、1820年ごろに発見された[2]。書かれている内容は噂話であるため必ずしも史実とは限らないが、当時の世相を知る貴重な資料として多くの著作に利用されている[1]。原本は無題だが[1]、一段落ごとに「そのようだ」という伝聞を意味する「よし(由)」とあったことから、「よしの冊子」と呼ばれるようになった[2]。
概要
[編集]賄賂が横行した田沼意次の時代が終わり、1787年に松平定信が30歳という若さで老中に抜擢されたが、経験の浅い定信は政府の内部事情に疎かったため、側近の水野為長が隠密を使って情報を集め、要旨をまとめて定信に渡していた[2]。その原本は、天明初年 - 寛政中期(18世紀後半)に書かれ、全部で169から200冊あったと言われるが、所在はわかっていない[3]。1830年(文政13年)に田内親輔が定信の遺箱の中から為長筆の原本を発見し、藩友以外に見せないよう明記の上、後世に定信の施政を伝える資料として抄出した[3]。現存する写本はこの親輔の抄本を基にしており、桑名市立中央図書館、国立国会図書館、慶應義塾大学に所蔵されている[3]。
内容は、個人の風聞・評判や人事が中心で、そのほか、定信邸内の事柄、都市や農村の情報、対外政策、思想まで多岐に渡る[1]。
脚注
[編集]- ^ a b c d 橋本佐保「「よしの冊子」における寛政改革の考察」『史苑』第70巻第2号、立教大学、2010年、133-172頁、doi:10.14992/00001656、ISSN 03869318。
- ^ a b c 松平定信の隠密情報に見る江戸の役人社会水野三公、こだわりアカデミー、2001年
- ^ a b c 風聞書「よしの冊子」の史料学的研究―テキストマイニングによる分析 立教大学学術推進特別重点資金(立教SFR)大学院生研究、2011年度研究成果報告書
関連文献
[編集]- 『随筆百花苑 第八巻・第九巻 風俗世相篇』中央公論社(1980 - 1981)-「よしの冊子」の翻刻収録
- 『江戸の役人事情―『よしの冊子』の世界』 水谷三公、筑摩書房(ちくま新書, 2000) ISBN 4-48-005851-6
- 『武士の評判記 : 『よしの冊子』にみる江戸役人の通信簿』山本博文、新人物往来社(新人物ブックス, 2011) ISBN 978-4-404-03981-1