りすの書房
株式会社りすの書房(りすのしょぼう)は、東京都墨田区に存在した出版社である。
代表取締役の男性(2015年11月時点で26歳)が1人で経営していた[1]が、同社代表は2015年11月20日に解散したと述べ[2]、2016年2月2日付で法人格も消滅している[3]。「ユダ書院」ほか、4つのレーベル(ブランド名)で出版していたという[4]。
概要
[編集]会社の所在地[5]には、理容室が存在する[6](現在は取り壊されて別の建物が存在する)。2015年11月6日放送の日本テレビ『スッキリ!!』の報道に拠れば、取材する2日前まで「りすの書房」という縦書きの札が出ていたことが明らかとなっている[7]。
『亞書』
[編集]2015年2月からアマゾンジャパンのインターネット通販で1冊6万4800円の値段をつけた本『亞書』が96巻ほど次々と1冊ずつだけ扱われてきた[6]ことが、同年10月頃にネット上で話題となった。どの巻もA5判で480ページのハードカバーである[1]。
それを受けて、全国紙や週刊誌がこれを採り上げ、国立国会図書館の納本制度により、すでに42冊分の136万円余が支払われていることが明らかになった[1]。さらに、亞書以外も含めた同社出版の本(著作権のない聖書などを「1冊5万円ほど」[6])は、国立国会図書館にこれまで288冊届き、このうち252冊分の代償金として621万7884円が既に支払われていることも判明した[8]。
国立国会図書館の広報によると、「ハードカバーで製本されており、簡易なものではありませんでした。また、ネット上でも頒布されていたのをこちらで確認しています」[6]ということである。田村俊作慶應義塾大学名誉教授(図書館情報学専攻)は、「本の内容から納本の適否を判断することは、検閲につながるのでやってはならない」[1]と述べつつ、「想定外のことだが、この仕組みを悪用しようとすれば、できてしまいそうなことが明らかになった」と述べている[1]。
同社代表の主張
[編集]亞書について、同社代表は、「まだ1冊も売れていない」と述べている[1]。時事通信によると、同書は「注文を受けてから製本するオンデマンド出版本で、販売実績はない」[9]とされているが、他方で同社代表は朝日新聞社の取材に対して「1巻につき20部作っています」とも述べている[4](112巻まで作った[4]ということなので、これが本当ならば112×20=2240冊の『亞書』が存在していることになる)。
この「亞書」の著者として記されている人物「アレクサンドル・ミャスコフスキー」は、架空の人物で[1]、実際は同社代表が自分で書いたという[4]。同書の内容は、「パソコンでギリシャ文字をランダムに即興的に打ち込んだものなので、意味はない」という[4]。また、自分でレーザープリンタで印刷したと述べている[1]。
週刊新潮によると、同社代表は、亞書にはレーザープリンタ2台100万円など計1500万円の費用が掛かっており、赤字だと主張している[10]が、この1500万円のうち「800万円が僕の人件費です」と述べている[10]。
これに対して、板倉宏日本大学名誉教授(刑法)は、「800万円の人件費が正当な対価とは到底、認められません」[10]「高額な代償金を得ようとしたとしか思えない」[10]と述べている。
返却・代償金返金請求
[編集]当初、同社代表(匿名)は、この問題に対して「代償金の返還が請求された場合には、その請求に応じる所存でございます」[11]と述べていた。しかし、その後図書館側が本の返却と代償金返還請求を決定した[12]ため、本当に返還請求をされることになり、「納得できない」[9]と主張していた(この制度は、定価の半額で強制的に図書を持って行かれる制度であるから、本来なら返却が決まれば喜ぶべきものである)。しかし、2016年2月4日に公式サイト上で、国立国会図書館に136万円の現金を札束で持参し[13]、返納したと発表した[2]。
代償金返還請求に対する同社代表の声明文
[編集]返還請求された後、同社代表は、「国立国会図書館の代償金返還に関する声明」と題した声明文を出し、国立国会図書館による頒布実態等の調査や告知[14]に対して、「その滑稽な三文芝居」「噴飯を禁じ得ず」「数を重ねるごとにいよいよつまらず、くそも出ず」「つまらぬ御託が書いてあり、苦笑しました」「この遅滞、このザマときて、こん畜生、俺は激怒した」[13]と恨み節を述べている。また、メディア報道については、「関係各社が一丸となって返還請求実現のために奔走して来た」[13]と報道機関も批判している。
また、『亞書』については、「大感謝セール、六〇〇円の叩き売り、月末恒例『亞書大売出し』を近く開催する予定」[13]としていたが、その後同社のサイトは閉鎖された。
フィクションへの登場
[編集]左近洋一郎・原作、カミムラ晋作・作画の漫画『どくヤン! 読書ヤンキー血風録』第1巻第8話に『亞書』が登場する[15]。
出典
[編集]- ^ a b c d e f g h 塩原賢、竹内誠人 (2015年11月1日). “1冊6万円謎の本、国会図書館に 「代償」136万円”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). オリジナルの2015年11月1日時点におけるアーカイブ。 2017年1月3日閲覧。
- ^ a b “解読不能な謎の高額本「亞書」 発売元が国立国会図書館に136万円を返納したと発表” (日本語). ねとらぼ. アイティメディア (2016年2月5日). 2016年5月30日閲覧。
- ^ 株式会社りすの書房の情報 - 国税庁法人番号公表サイト
- ^ a b c d e 塩原賢、竹内誠人 (2015年11月1日). “「ネットの指摘はいわれなき中傷」 「亞書」制作の男性”. 朝日新聞デジタル (朝日新聞社). オリジナルの2015年11月1日時点におけるアーカイブ。 2017年1月3日閲覧。
- ^ 日本出版インフラセンター・日本図書コード管理センターが運営する、登録出版者の検索にて「りすの書房」と検索。2016年1月14日閲覧。
- ^ a b c d “1冊6万円の本を半額で国会図書館に大量納入 税金投入する必要あるのかと疑問が相次ぐ”. J-CASTニュース (ジェイ・キャスト). (2015年10月27日) 2016年1月14日閲覧。
- ^ "物議 なぜ?"謎の本"に136万円超 国会図書館と出版社 直撃取材". スッキリ!!. 6 November 2015. 日本テレビ放送網/TVでた蔵. 2016年3月25日閲覧。
- ^ “国立国会図書館、高額本78冊納本の出版社に代償金136万円 印刷費用など資料提出求めず”. 産経ニュース (産経新聞社). (2015年11月2日) 2016年1月14日閲覧。
- ^ a b “ラテン文字羅列「アート本」=国会図書館に納本、代償金受給”. 時事ドットコム (時事通信社). (2015年11月21日). オリジナルの2016年1月14日時点におけるアーカイブ。 2017年1月3日閲覧。
- ^ a b c d 「国会図書館をカモにできると思いついた「26歳社長」のご口上」『週刊新潮』2015年11月26日雪待月増大号、新潮社、2016年1月14日閲覧。
- ^ “一部のWEBサイト記事および書き込み等に関する当社の見解”. りすの書房 (2015年11月2日). 2016年1月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月14日閲覧。
- ^ https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2015/1214208_1830.html
- ^ a b c d “「亞書」制作者がコメントを発表 国立国会図書館の対応に不満” (日本語). ねとらぼ. アイティメディア (2016年2月3日). 2016年3月25日閲覧。
- ^ “『亞書』の返却及び代償金返金請求について”. 新着情報. 国立国会図書館収集書誌部 (2016年2月2日). 2016年3月25日閲覧。
- ^ どくヤン!あとがき鼎談「完全版」② - 本の雑誌特派員、WEB本の雑誌、2021年12月8日。