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アイゲングラウ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
様々なターゲット直径(単位:分)に対する閾値増分と背景輝度。Blackwell (1946)の表4と表8からのデータで、Crumey (2014)がプロットした。低照度時の平坦な曲線はアイゲングラウを示す。

アイゲングラウドイツ語: Eigengrau(意味:固有の、本来の灰色)、発音: [ˈʔaɪ̯gŋ̍ˌgʁaʊ̯])とは、アイゲンリヒトオランダ語ドイツ語で「固有、本来の光」の意味)、ダークライトブレイングレーとも言い、のない状態で多くの人が見ていると報告する、背景色が均一に濃い灰色のこと。アイゲンリヒトという言葉の歴史は19世紀まで遡るが[1]、現在の科学論文ではほとんど使用されていない。この現象に対する一般的な科学用語には、「視覚ノイズ(visual noise)」や「背景適応(background adaptation)」などがある。これらの用語は、現象に見られる小さな白黒の点の刻々と変化するその場の認識のために発生する[2]

視覚系にとってコントラストは絶対的な明るさよりも重要であるため、通常の照明環境では、アイゲングラウは黒い物体よりも明るく知覚される[3]。例えば、夜空は星がもたらすコントラストによって、アイゲングラウよりも暗く見える。

Blackwellが情報を収集し、Crumeyがプロットしたコントラスト閾値のデータでは[4]、約10− 5 cd m−2 (25.08 mag arcsec-2) 以下の適応輝度でアイゲングラウが発生することが判明している[5]。これはリッコの法則の極端な場合にあたる。

発生理由

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既に研究者は1860年の時点で、網膜に内在するノイズ源が、実際の光子によって引き起こされるものと区別できないランダムな事象を生み出すと仮定することで、強度感度曲線(→intensity-sensitivity curves)の形状を説明できることに気づいていた[6][7]。その後、カエル(Rhinella marina)の桿体細胞を用いた実験で、これらの自然現象の頻度が強く温度依存的であることが示され、ロドプシンの加熱による異性化によって引き起こされることが示唆された[8]。ヒトの桿体細胞では、この現象は平均して約100秒に1回起こり、桿体細胞内のロドプシン分子の数を考慮すると、ロドプシン分子の半減期は約420年であることを意味する[9]。ロドプシンが形質導入チェーンの入力にあるため、暗黒事象と光子応答の区別がつかないことは、この説明でわかる。一方、神経伝達物質の自然放出などの過程も完全に否定することはできない[10]

脚注

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  1. ^ Ladd, George Trumbull (1894-01-01). Direct control of the retinal field.. doi:10.1037/h0068980. https://zenodo.org/record/1429102. 
  2. ^ Hansen, R. M.; Fulton, A. B. (2000-01). “Background adaptation in children with a history of mild retinopathy of prematurity”. Investigative Ophthalmology & Visual Science 41 (1): 320–324. ISSN 0146-0404. PMID 10634637. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10634637. 
  3. ^ Wallach, H. (1948-06). “Brightness constancy and the nature of achromatic colors”. Journal of Experimental Psychology 38 (3): 310–324. doi:10.1037/h0053804. ISSN 0022-1015. PMID 18865234. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18865234. 
  4. ^ Blackwell, H. Richard (1946-11-01). “Contrast Thresholds of the Human Eye” (英語). JOSA 36 (11): 624–643. doi:10.1364/JOSA.36.000624. https://opg.optica.org/josa/abstract.cfm?uri=josa-36-11-624. 
  5. ^ Human contrast threshold and astronomical visibility”. academic.oup.com. 2023年6月11日閲覧。
  6. ^ Alpern, Mathew; Jameson, Dorothea, eds (1972). Visual psychophysics. Berlin: Springer. ISBN 978-0-387-05146-8 
  7. ^ Barlow, Horace B., ed (1977). Vertebrate photoreception: symposium spons. by the Rank Prize Funds and held at the Royal Soc. on 2-3 Sept. 1976. London: Academic Pr. ISBN 978-0-12-078950-4 
  8. ^ Baylor, D. A.; Matthews, G.; Yau, K. W. (1980-12). “Two components of electrical dark noise in toad retinal rod outer segments”. The Journal of Physiology 309: 591–621. doi:10.1113/jphysiol.1980.sp013529. ISSN 0022-3751. PMC 1274605. PMID 6788941. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6788941. 
  9. ^ Baylor, D. A. (1987-01). “Photoreceptor signals and vision. Proctor lecture”. Investigative Ophthalmology & Visual Science 28 (1): 34–49. ISSN 0146-0404. PMID 3026986. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3026986. 
  10. ^ Shapley, Robert; Enroth-Cugell, Christina (1984-01). “Chapter 9 Visual adaptation and retinal gain controls” (英語). Progress in Retinal Research 3: 263–346. doi:10.1016/0278-4327(84)90011-7. https://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/0278432784900117. 

関連項目

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