アゲハモドキ
アゲハモドキ | |||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Epicopeia hainesii Holland, 1889 | |||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||
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亜種[1] | |||||||||||||||||||||
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アゲハモドキ(揚羽擬、Epicopeia hainesii)は、アゲハモドキガ科に分類されるガの一種。
分布
[編集]日本列島、朝鮮半島、台湾、中国大陸、チベット[1]およびベトナム[2]において分布が確認されている。日本では北海道、本州、四国、九州および対馬に分布する。 本種は分布と形態的な差異により以下の4亜種に分けられる[1][注釈 1]。
- E. h. hainesii:日本本土
- E. h. tsushimana:対馬
- E. h. matsumurai:台湾
- E. h. sinicaria:中国、チベット
形態・生態
[編集]成虫の前翅開帳は日本本土亜種で55-60mm[3]。後翅には尾状突起と赤色の斑紋が存在する。翅は黒っぽい灰色を基調とするが、台湾亜種 subsp. tsushimana と中国亜種 subsp. sinicaria は前・後翅ともに中心部が白っぽくなる変異が見られる。この変異は連続的で、白色の程度には個体差がある[1]。触角は♂で櫛歯状、♀ではほぼ糸状になる[3][4]。後述するように形態的にアゲハチョウ科の一部と類似する[1][3]。
昼行性とされるが、夜間は人工の灯りにも飛来する[4][5]。成虫は日本本土亜種では5月から9月ごろ[3]、台湾亜種では4月から10月ごろまで見られ[6]、いずれも年2回発生とされる[4][6]。
幼虫の腹脚は5対。体表が白い蝋状物質に覆われる。食草としてミズキ科のミズキ、クマノミズキ、ヤマボウシが記録されている[6]。本種の食草はかつてクスノキ科のヤマコウバシとされていたが、これは誤りである[7]。
擬態
[編集]本種の成虫はクロアゲハやジャコウアゲハなどの黒地に赤紋を有するアゲハチョウ科の蝶に類似することがよく知られる[1][3]。とくに有毒種であるジャコウアゲハの♀との類似が指摘され[8]、有毒種をモデルとしたベイツ型擬態の好例とされることがある[9]。しかしながら、本種とジャコウアゲハの分布域は完全には重なっておらず、たとえば北海道にはクロアゲハもジャコウアゲハも分布しないが本種は分布する[10]。モデル種が同所的に分布しない場合、捕食回避のためのベイツ型擬態は機能しにくいため、ミューラー型擬態の可能性も議論されているが、幼虫の食草であるミズキ科植物にはアリストロキア酸やピロリジジンアルカロイド、強心配糖体などの典型的な有毒二次代謝産物は含まれておらず、捕食者に対する化学防御手段も現在のところ解明されていない[8]。「ある昆虫が鳥にとってまずいこと」自体を実証するのは難しいためにベイツ型擬態とミューラー型擬態の境界は曖昧であることもあり[11]、化学生態学をはじめとして、本種の擬態に関する生態学的な知見は依然として不足している[8]。
また、本種の幼虫に関しても、ボタンヅルワタムシ Colophina clematis(半翅目アブラムシ科)などの白い蝋状物質を分泌する昆虫によって形成される擬態環に関与している可能性が報告されている[12]。
ギャラリー
[編集]-
台湾亜種 subsp. matsumurai 展翅標本
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台湾亜種幼虫
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本土亜種 subsp. hainesii 成虫
外部リンク
[編集]注釈
[編集]脚注
[編集]- ^ 朝鮮半島およびベトナムに分布する個体群の亜種分類は不明
出典
[編集]- ^ a b c d e f g 井上寛 (1978). “日本・韓国・台湾のアゲハモドキ属”. 蝶と蛾 29 (2): 69-75. doi:10.18984/lepid.29.2_69 .
- ^ Josef Jaroš; Karel Spitzer (1999). “Notes on the ecology and distribution of two species of the genus Epicopeia in Korea and Vietnam (Epicopeiidae)”. Nota lepidopterologica 22 (3): 183-189. ISSN 0342-7536 .
- ^ a b c d e 槐正史 編『①チョウ・バッタ・セミ』文一総合出版〈ポケット図鑑日本の昆虫1400〉、2013年。ISBN 978-4-8299-8302-7。
- ^ a b c 柳田慶浩; 福田輝彦; 中尾健一郎. “Epicopeiidae アゲハモドキガ科”. Digital Moths of Japan. 2021年2月13日閲覧。
- ^ 古川雅通 (2009). “対馬の気になる蛾”. やどりが 2009 (222): 6-11. doi:10.18984/yadoriga.2009.222_6 .
- ^ a b c 顔聖紘; 穆家宏; 詹家龍 (1995). 吉本浩. ed. “台湾産アゲハモドキガ科の生活史”. 蝶と蛾 46 (4): 175-184. doi:10.18984/lepid.46.4_175 .
- ^ 杉繁郎「アゲハモドキの食餌植物」『昆蟲』第32巻第3号、東京昆蟲學會、1964年、405頁、NAID 110003497863。
- ^ a b c Ritsuo Nishida. “Chemical Ecology of Poisonous Butterflies: Model or Mimic? A Paradox of Sexual Dimorphisms in Müllerian Mimicry”. In Toshio SekimuraH.; Frederik Nijhout. Diversity and Evolution of Butterfly Wing Patterns. Springer. p. 205-220. doi:10.1007/978-981-10-4956-9_11
- ^ 徳重哲哉 (2015). “生物シリーズ 姫路市の蝶 ジャコウアゲハ Atrophaneura alcinous Klug”. 姫路科学館 サイエンストピック 科学の眼 (522) .
- ^ 堀繁久、櫻井正俊『昆虫図鑑 北海道の蝶と蛾』北海道新聞社、2015年、109頁。ISBN 978-4-89453-776-7。
- ^ James Mallet; Mathieu Joron (1999). “Evolution of Diversity in Warning Color and Mimicry: Polymorphisms, Shifting Balance, and Speciation”. Annual Review of Ecology and Systematics 30: 201-233. doi:10.1146/annurev.ecolsys.30.1.201 .
- ^ Kazuo YAMAZAKI (2017). “White plant shoots, wax-producing insects and other white structures made by arthropods: A mimicry complex?”. EUROPEAN JOURNAL OF ENTOMOLOGY 114: 343-349. doi:10.14411/eje.2017.043 .