アレクシス・ダデン
アレクシス・ブレイ・ダデン(英語: Alexis Bray Dudden, 1969年5月26日 - )は、アメリカ合衆国のコネチカット大学教授。
専門は東アジア近現代史。父親はフルブライト協会の創設者であり、事務局長(1980〜84年)を務めた歴史学者のブリンマー大学のArthur Power Dudden教授 (1921–2009)[1]。1991年にコロンビア大学を成績上位(magna cum laude)で卒業。1991~1992年に慶応義塾大学、1995~1996年にフルブライト奨学金で立教大学に留学し、1997年にシカゴ大学を卒業。1998年からコネチカット大学准教授に就任[2][3]。2005年に「Japan's Colonization of Korea: Discourse and Power.」を執筆し、日韓併合は帝国主義時代の潮流の結果ではなく日本が韓国を計画的に植民地にした結果である主張し、日韓併合に関する新しい学術的な見解として評価された[3]。2015年に朝鮮日報社からマンへ賞の平和賞を受賞。同年の韓国独立運動記念日の記念演説で朴槿恵大統領が「歴史とは好きに取捨選択し、必要なことだけ記憶するものではない」とダデンの言葉を引用する[4]など韓国への影響力を深める。2016年から2017年にかけては韓国の延世大学国際学研究科の客員教授を務めた[5]。古森義久によれば、女性国際戦犯法廷の主催者とされる[6]が、女性国際法廷の主催者名簿に彼女の名前は存在しない[7]。
日韓関係の分析
[編集]韓国を活気に満ちた民主主義を達成した国、日本を極右が言論の中心にいる国としており[8]、日韓関係が最悪の状況となった原因について、日本は奴隷労働や食人行為を含む戦時中の侵略行為について公然と議論することを避け、法的責任の問題を回避してきた。これは米国が安全保障の理由で賠償を免除したことに起因し[9]、80万人の韓国人が日本での労働に強制的に動員された強制労働や奴隷労働の歴史に対する偏った認識が拍車をかけており[10]、その責任は、韓国の苦しみを無視して、日韓で解決する問題であると不介入を続けて、日本の後ろ盾となっている米国にある[11][12]と解説した。
この解説に対して、アール.H.キンモンスはダデン教授は自説の論拠が乏しいために食人行為などの奇妙な言及を行っていると指摘。一例として、日本人によって「奴隷にされ、投獄された人々に対する賠償」がないという主張に対して、日本政府からの賠償が行われてないというのは日韓基本条約や財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定を無視していると反論し、韓国政府が日本から提供された資金を戦争被害者ではなく国内産業に使用したことについて日本政府に責任はないと反論した[13]。
旭日旗問題
[編集]2019年11月1日、ガーディアン紙に“Japan’s rising sun has a history of horror. It must be banned at the Tokyo Olympics”を寄稿して、旭日旗を掲げる行為は大日本帝国の侵略の歴史を肯定して残虐行為を浄化する目的であるため韓国が意義を唱えることは当然の行為であると旭日旗問題を解説し、国際オリンピック委員会に対して、この旗の下で80万人の韓国人が奴隷にされ、中国、シンガポール、フィリピン、ミャンマーなど何百万人もの人々が暴力に苦しめられたことを日本に教育しなければ、これらの国々がボイコットすることになると警告を行った[14]。
この解説に対して、大正大学名誉教授のアールH.キンモンス名誉教授は、旭日旗を掲げる日本の海上自衛隊を中国、フィリピン、ミャンマーが歓迎している実情に沿っていないと指摘し、日本国憲法第21条の「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」に対して、ダデン教授は日本国政府が旭日旗の掲揚を禁止する法的根拠を明示していないと批判した[13]。
北朝鮮による日本人拉致問題
[編集]北朝鮮による日本人拉致問題については、日本は植民地時代に何百万人もの韓国人を誘拐し奴隷にしたという事実があるため、20世紀に行方不明になった一握りの日本人が誘拐された可能性について、アジアの国々は日本に同情していない。横田めぐみの奪還に日本政府は熱心であるが、1938年から1945年の間にアジア全土から最大20万人の女性と少女を日本国が性的奴隷にした慰安婦問題に対して、国連で議論することを避ける二律背反を行っていると日本を批判している[15]。
慰安婦問題
[編集]- 2005年2月15日、Japan Focus誌に日本政府がアジア女性基金の解散を決定したことを批判する記事を寄稿。アジア女性基金を日本国政府が被害者に直接の謝罪を拒絶するために創設した半民半官の組織と批判した上で、その解散は日本が被害者jへの謝罪を終了する行為であると批判を行った[16]。
- 2006年4月16日、Japan Focus誌にレーン・エヴァンス下院議員らによる戦時慰安婦に対する責任を受け入れるよう日本に求める米国議会決議を支持する記事を寄稿。慰安所を日本政府と日本軍の共謀によって設置された施設とし、推定5万人から20万人の女性が誘拐または騙されて性奴隷として使役されたと解説し、日本政府は性的奴隷制、戦時中の残虐行為、強制労働に対する賠償をサンフランシスコ平和条約によって免れてきたと批判を行った[17]。
- 2006年4月16日、Japan Focus誌に日本の戦争責任資料センターと共同で2007年3月1日の参議院予算委員会で安倍晋三総理大臣が慰安婦について「強制性について、それを証明する証言や裏付けるものはなかった」と発言したことを批判する記事を寄稿。日本人をメガネと出っ歯を掛けたフンドシ姿というステレオタイプな表現で侮辱する漫画を引用しながら「日本の軍人が強姦中に胸を切り落とした」「軍医に胎児を切り出された」慰安婦を使い捨てる行為だと批判を行った[18]。
- 2013年2月15日、週刊金曜日に安倍晋三総理大臣の歴史認識が日本の国際的な地位を引き落とすと寄稿。安倍は日本による性的奴隷制度の真実を持っている人々が死ぬのを待って既知の証拠を否定する作戦を取り、竹島問題は「日本は韓国に竹島を奪われた被害者」と日韓の加害関係を逆転するための作戦であるとしており、安倍の「いじめ」に米国は耳を傾けてはならないと主張している[12]。
- 2015年5月5日、米国や欧州、オーストラリアで活動する日本学、歴史学などの学者187人と「日本の歴史家たちを支持する声明」を発表。「日本の歴史家たちを支持する声明」を主導したとして、韓国政府から平和大賞を授与される[6]。
- 2015年、日韓慰安婦合意が成立し、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に」解決されたことが日韓政府によって宣言されると、「韓日政府間の慰安婦合意は共同記者会見以上の何ものでもない」と主張し、「日本政府は国家的責任を負わなければいけない。これがなければ実質的な意味でいかなる合意も成し遂げられない」と慰安婦問題の継続を求めた[19]。
- 2021年3月10日、韓国KBSの記者に「ラズマイヤー教授を批判する学者にテロ事件が発生し捜査中」[20]だと伝えた。この記事の中でダデンは「日本にいるので、脅迫の対象に直接行動が可能です。東京にある私の同僚たち、三人の仲間たちは、彼らの研究室で爆発が原因で火が出ました」と言っている。
活動
[編集]- 2014年2月7日、普天間基地移設問題では辺野古新基地を「この醜い構造物は米国の恥だ」と批判する寄稿を行った[21]。
- 2015年1月15日のニューヨーク・タイムズインターネット版にて、安倍晋三首相は日本を第2次世界大戦以前の状態まで復活させようとする膨張主義政策をとっており、尖閣諸島・竹島・北方領土の領有権主張もその政策の一部だと厳しく批判した[22]。
- 2015年1月16日付けのニューヨークタイムズに次の記事を寄稿している[23]ここで北方領土、竹島と尖閣の領土紛争は安倍政権の拡張主義的見解の結果であり、また安倍政権は日本国憲法の条項である戦争放棄を修正しようとしていると批判している。この記事に対して同じニューヨークタイムズに批判記事[24]が掲載されている。日本政府の領土主張を「膨張主義者」、「復讐主義者」、そして「修正主義」の例として特徴づけることは完全に根拠がないと批判している。
- 2015年2月2日、日米欧の学者ら17人連名で、普天間飛行場の辺野古移設中止を求める書簡を辺野古移設を支持するアメリカ合衆国大統領バラク・オバマあてに送った[25]。
- 2016年12月25日、安倍晋三首相の真珠湾訪問に先立ち、日米両国の歴史学者ら53人が連名で発表した、安倍の歴史認識を問いただす公開質問状に名を連ねた[26]。この公開質問に対して、米国ダートマス大学のジェニファー・リンド教授は「日米間は信頼関係があるから和解は成立するが、中国や韓国は日本と信頼関係はないため、慰霊は逆効果になる」と解説している[27]。
批評
[編集]- ハワイ大学のジョージ・アキタ教授は、ダデンの日本の朝鮮統治の研究を「学者らしからぬ、意味不詳かつ一方的な記述の羅列と、ときに史実の立証が不可能な出来事に基づく、単純にして怪しげな結論なのである」と論じている[28]。
- 麗澤大学のジェイソン・モーガン准教授は「アレクシス・ダデンという日本叩きで有名な教授がいて、彼女は20年以上も日本を叩き続けています。彼女の指導教授も日本叩きの達人で、40年以上、証拠を一切出さずにただ日本を責めて、日本が悪かった、謝れ謝れ、その繰り返しなのです。」と評している[29]。
- 古森義久は、ダデンは「徹底した韓国びいき、日本叩きで知られた人物」と論じている。2019年にダデンがニューヨークタイムスへの寄稿で、「日韓対立は(アメリカ政府が)韓国より日本を大切にしたせいで起こった」とアメリカ政府を批判した際には「そんな無理までしないと韓国の立場を擁護できないのだ」と評している[6]。
著書
[編集]- 『Japan's Colonization of Korea: Discourse and Power』(Studies of the Weatherhead East Asian Institute)」 Univ of Hawaii Pr、2006/11、ISBN 978-0824831394
- 『Troubled Apologies Among Japan, Korea, and the United States』 Columbia Univ Pr、2014/4、ISBN 978-0231141772
脚注
[編集]- ^ “ARTHUR POWER DUDDEN (1921–2009)”. Perspectives on History. 2021年5月3日閲覧。
- ^ “WEDDINGS; Alexis Dudden, Michael Eastwood”. New York Times. (1997年11月9日)
- ^ a b “Dudden, Alexis 1969–”. Encyclopedia. 2021年5月3日閲覧。
- ^ “朴大統領「必要なことだけ記憶するのは歴史でない」”. 中央日報. (2015年3月2日)
- ^ “[https://projects.iq.harvard.edu/constitutionofjapan/people/alexis-dudden A joint research project of Keio University and Harvard University 慶應義塾大学とハーバード大学の共同研究プロジェクト]”. Harvard University. 2021年5月4日閲覧。
- ^ a b c 古森義久 (2019年11月4日). “「米国が日本をえこひいき」決めつけて嘆く親韓学者”. JBpress. 日本ビジネスプレス. 2019年11月4日閲覧。
- ^ “女性国際戦犯法廷 > 主催団体”. VAWW-NET. 2021年5月5日閲覧。
- ^ Alexis Dudden (2008年8月1日). “Dangerous Islands: Japan, Korea, and the United States”. Japan Focus . "South Koreans have achieved a vibrant democracy and can hold their government accountable for its dealings with the United States. In Japan, the far right dominates the agenda of the center."
- ^ “Japan's rising sun flag has a history of horror. It must be banned at the Tokyo Olympics”. The Guardian. (2019年11月1日) . "American prisoners of war alone laboured at more than 50 sites in Japan with a death rate of up to 40%, and, although there have been a handful of personal apologies, there have not been reparations for any of those who were enslaved and imprisoned – Koreans, Americans, Chinese, Filipinos, Australians, British soldiers or anyone else. On this point Washington’s evasion stands out: the 1951 Treaty of Peace (the Treaty of San Francisco) and the US-Japan Mutual Security Treaty sacrificed reparations for American security interests – something that troubled other Allies at the time. Throughout, Japanese governments have navigated issues of legal responsibility by sidestepping open discussion of wartime era acts of aggression, including slave labour and even cannibalism."
- ^ “Japan's rising sun flag has a history of horror. It must be banned at the Tokyo Olympics”. The Guardian. (2019年11月1日) . "Since July 2019, a spat over trade restrictions and security arrangements has spilled on to the streets in both countries – Japanese beer sales in South Korea are down more than 97% while Korean-themed art exhibits have been cancelled in Japan – prompting many to declare that relations are at their lowest point since Japan’s occupation of Korea ended in 1945. This has been fuelled by polarised perceptions of the history of forced and slave labour during that occupation, when 800,000 Koreans were forcibly mobilised to work in Japan (among other issues, of course). But South Korea is not the only country where the flag causes offence. The IOC should educate itself before concerns and calls to boycott the games spread to China, Singapore, the Philippines or Myanmar, where millions of people suffered similar violence under the rising sun symbol."
- ^ “Japan's rising sun flag has a history of horror. It must be banned at the Tokyo Olympics”. The Guardian. (2019年11月1日) . "Washington must take responsibility for this situation, too. Its perennial insistence that Japan and South Korea “work out among themselves” their wartime histories perpetuates the split by failing to address how the United States put in place many of the post-1945 problems that have affected the region. The standoff has become so bitter that Washington cannot even maintain a security pact arranged between Seoul and Tokyo to share intelligence about North Korean missile launches. Tokyo appears so confident of Washington’s backing that it willfully disregards Allied prisoner of war suffering during the second world war, just as it dismisses the pain endured by the Koreans."
- ^ a b “Bullying and History Don't Mix いじめと歴史は相容れない”. Japan Focus. (2012年12月31日)
- ^ a b Dr. Earl H. Kinmonth (January 28, 2020). “[Mythbusters First, A Flag. Now, A Moustache. What Will South Koreans Whinge About Next?”]. Japan Forward
- ^ “Japan's rising sun flag has a history of horror. It must be banned at the Tokyo Olympics”. The Guardian. (2019年11月1日)
- ^ Alexis Dudden (2010年4月5日). “Memories and Aporias in the Japan-Korea Relationship 日本・コリア関係における記憶と内部矛盾”. Japan Focus
- ^ Alexis Dudden (2005年2月15日). “The End of Apology”. Japan Focus
- ^ Alexis Dudden (2006年4月16日). “US Congressional Resolution Calls on Japan to Accept Responsibility for Wartime Comfort Women”. Japan Focus
- ^ Alexis Dudden and Kozo MIZOGUCHI (2007年3月1日). “Abe's Violent Denial: Japan's Prime Minister and the 'Comfort Women'”. Japan Focus
- ^ 中央日報 2016年12月19日「韓国の新政府、慰安婦合意『無効』宣言できる」[1]
- ^ 김양순 기자 (2021年3月10日). “"램지어 비판 학자에게 테러 위협 사건 수사 중"”. KBSニュース
- ^ “平和守る闘い続ける OKINAWAへ海外識者メッセージ(5)”. 琉球新報 (2014年2月7日). 2015年12月6日閲覧。
- ^ JBPress 古森 義久 米国人歴史学者がNYタイムズ上で日本悪玉論を大展開 安倍政権の対外政策を「膨張主義」と断定[2]
- ^ Dudden, Alexis (2015年1月16日). “The Shape of Japan to Come”. New york times
- ^ “Japan and Its Territorial Claims”. New York Times. (2015年2月1日)
- ^ “「基地集中は人権侵害」 日欧米識者17人がオバマ大統領に書簡”. 琉球新報 (2015年2月4日). 2015年12月6日閲覧。
- ^ ハフィントンポスト 2016年12月26日[3]
- ^ ニューヨークタイムズ 2016/12/24 [4]
- ^ ジョージ・アキタ、ブランドン パーマー『「日本の朝鮮統治」を検証する1910-1945』草思社、2013年8月。ISBN 978-4794219978。
- ^ “「中国がフェイクニュースの発明の国なんですね?」「そうです。ほとんど本当のニュースがない」”. 正論. (2017年5月20日)
外部リンク
[編集]- 平和守る闘い続ける OKINAWAへ海外識者メッセージ(5) 琉球新報 2014年2月7日
- Alexis Dudden University of Connecticut
- Dudden, Alexis Encyclopedia.com
- Dudden, Alexis, 1969-Library of Congress
- Alexis Dudden, Michael Eastwood The New York Times 1997.11.16