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ウォレミマツ

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ウォレミマツ属から転送)
ウォレミマツ
1. ウォレミマツ(Mt Annan botanical garden, オーストラリア
保全状況評価[1]
CRITICALLY ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 裸子植物 gymnosperms
: マツ綱 Coniferopsida
: ナンヨウスギ目 Araucariales[注 1]
: ナンヨウスギ科 Araucariaceae
: ウォレミマツ属 Wollemia
: ウォレミマツ W. nobilis
学名
属: Wollemia W.G.Jones, K.D.Hill & J.M.Allen (1995)

種: Wollemia nobilis W.G.Jones, K.D.Hill & J.M.Allen (1995)

和名
ウォレミマツ[5][6][7]、ウォレマイ・パイン[4][8]、ジュラシックツリー[4][9][10][11]
英名
Wollemi pine

ウォレミマツ[注 2]学名: Wollemia nobilis)は、裸子植物マツ綱ナンヨウスギ科に属する常緑高木の1種である。ウォレミマツは、ウォレミマツ属[12](ウォレミア属[4])の唯一の種である。1994年、オーストラリアシドニーに比較的近いウォレマイ国立公園内で発見され、1995年に新属新種として記載された。樹皮はスポンジ状でコブがある。水平に伸びる枝につく葉は扁平な披針形、2または4列につき、特徴的な配置をしている。雌雄同株であり、"雄花"、"雌花"とも水平に伸びる枝の先端に単生する。自生地で確認されているのは100本以下であり、遺伝的多様性も極めて低いことから、絶滅が危惧されている。

英名(Wollemi pine)をカナ読みしてウォレマイ・パイン[注 2]ともよばれる。名称は、ウォレマイ国立公園と発見者である森林監督官デヴィッド・ノーブルに由来する[13]。ウォレミマツ属自体の化石記録はないが、中生代から見つかる化石植物に似ているため「生きている化石」とされ[注 3]、日本ではジュラシックツリーともよばれる。

特徴

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大きなものは高さ40メートル (m)、幹の直径 1.2 m になる常緑高木である[6][14][15][注 4]。樹齢は500–1,000年ほどに達すると考えられている[14][15]。樹冠は細く柱状[15](図1, 2a, b)。主幹からは、横に伸びる枝が輪生し、ふつう1年に1輪の枝を形成する[6]。この横枝は分枝することなく、3–8年間成長し、最終的に先端に生殖器官("雄花"、"雌花")をつけて成長を終了する[6][14](下図2a, b)。この横枝は成長停止後も数年間残って葉もついたままであるが、やがて枝の付け根からとれて落ちる[6][14]。主幹の休眠芽から新たな枝が生じて垂直方向に伸び、二次の主幹となり、水平に伸びる枝を輪生する[6][14]。このように一次の主幹に二次の主幹がつき、さらにそこから三次の主幹が生じることを繰り返し、特徴的な樹冠が形成される[6][14][15]。また、根元から萌芽することもある[6][16]樹皮は濃褐色、スポンジ状でコブがあり、表面が薄く鱗片状に剥がれる[6][14][15](下図2c)。休眠芽はふつう白い樹脂で覆われる[15](下図3a)。

2a. 樹冠
2b. 樹冠: 上部の枝先に"雌花"、その下部の枝先に"雄花"がついている。
2c. 幹の樹皮

垂直に伸びる枝につくは針状から鱗片状、3–10 × 2–4 ミリメートル (mm)、らせん状につく[6][15][16](下図3a)。水平に伸びる枝につく葉は扁平な披針形で先端は尖らず、長さ3–8センチメートル (cm)、幅2–8 mm、裏面または両面に気孔があり、6–14本の平行脈をもち明瞭な中肋を欠き、4–8本の樹脂道が存在する[6][14][15][16]。水平に伸びる枝では葉は基部でねじれて向軸面が上を向き、2または4列につく[6][14][15][16](下図3b, c, 4a, b)。4列につく場合、やや長い葉からなる2列が150–175°、その間にやや小さな葉からなる2列が50–90°の角度で配列している[6][17][16]

3a. 直立する枝
3b. 枝葉
3c. 4列についた葉

雌雄同株[6][16]、"花期"は春(10–11月)[18]。生殖器官(雄球花、雌球花)は輪生する側枝に頂生し、樹冠の上部には雌球花が、その下部には雄球花がつく[6][15](上図2b)。雄球花[注 5]は赤褐色、無柄、細長い円筒形で長さ 5–11 cm、直径 1–2 cm、らせん状に配列した500個以上の小胞子葉からなる[6][14][15][16](下図4a, b)。小胞子葉の背軸面に4–9個の花粉嚢(小胞子嚢)がついている[16]花粉は卵形、無口粒、気嚢を欠く[16]雌球花[注 6]は無柄、球形から楕円形、長さ6–12 cm、直径 5–10 cm、緑色、らせん状に配列した300枚以上の鱗片からなる[6][14][15][16](下図4c)。苞鱗種鱗は全体が合着しているが、苞鱗の先端がのぎ状に長く(6–12 mm)突出する[14][16](下図4c)。種鱗向軸側に1個の倒生胚珠がついている[16]球果は、受粉して18–20か月後の晩夏から秋に成熟し、亜球形、長さ約 12.5 cm、直径約 10 cm ほどになり、各果鱗は長さ 12–17 mm、幅 14–22 mm、個々に脱落する[6][14][15][16][18](下図4d)。種子は淡褐色、薄く、7–11 × 5–7 mm、周囲に翼がある[14][15]子葉は地上性、2枚[16]染色体数は 2n = 26[22]

4a. 雄球花
4b. 雄球花
4c. 雌球花: 苞鱗がのぎ状に突出している。
4d. 球果

分布・生態

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5. ウォレミマツの分布地点

オーストラリアニューサウスウェールズ州グレーター・ブルー・マウンテンズ地域にあるウォレマイ国立公園[23](ウォレミ国立公園[6], Wollemi National Park)内の砂岩の険しい渓谷沿いのみから知られている[6][14][15](図5)。気候は湿潤で土地は痩せている[6][16]。この場所は大都市であるシドニーから比較的近い(約150キロメートル北西)が、急峻な地形であるため、20世紀末まで人の目に触れなかった[6][14][15]

自生地では、Ceratopetalum apetalumクノニア科)、Doryphora sassafrasアセロスペルマ科)、Syzygium smithiiフトモモ科)などと共に暖温帯林を形成し、ウォレミマツは林冠から突き抜けて伸びている[6][17]。林内の草本層はシダ類Dicksonia antarctica, Cyathea australis, Sticherus flabellatus, Adiantum diaphanum, Doodia aspera, Blechnum nudum など)が優占している[16]菌根共生では、アーバスキュラー菌根外生菌根の両方をもつことが報告されている[15]

保全状況

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1998年時点では約40本の成木と約200本の幼木が知られていたが、2020年の調査では46本の成木と43本の幼木しか確認されなかった[17]。また、遺伝的多様性(集団内および集団間)が極めて低いことが示されており、近交弱勢や集団の脆弱性が危惧されている[6][17]。種子の発芽率は極めて低い[6]国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、近絶滅種(CR)に指定されている[1]

保護のため自生地の正確な場所は公開されていない[14][15]。許可された研究者がこの自生地に入るためには、植物病原菌などを持ち込まないように厳重な滅菌対策をする必要がある[17]。しかし、ウォレミマツに対する病原菌として現在問題となっているエキビョウキン属卵菌綱)の Phytophthora cinnamomiP. multivora は、無許可の侵入者によって持ち込まれた可能性が高いと考えられている[14][15][17]

2019年から2020年に起こった山火事によって、自生地のウォレミマツは危うく消滅するところであったが、消防士たちの懸命な作業によってこの唯一の自生地は救われた[14][17]

人間との関わり

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6. キュー植物園(英国)のウォレミマツ

オーストラリア政府は、違法な採取を避けるため、収集家や栽培業者、植物園などの要望に応じて挿し木などによる苗木を配布している[17](図6)。日本でも、各地の植物園などで見ることができる[24][25][9]。また、東京ディズニーランドユニバーサル・スタジオ・ジャパンにも植栽されている[10][11]。オーストラリアでは、クリスマスツリーに使われることがある[14]

極めて危機的な絶滅危惧種であるウォレミマツがこのように扱われているのは、絶滅危惧種の保護に商業利用が役立つかどうかをテストするためでもある[14][15]。さまざまな環境条件で植栽された情報を得ることができ、また分散して株を維持できる。また、得られた資金はウォレミマツや他の絶滅危惧種の保護のために用いられている[15]。この結果、ウォレミマツは温暖で年間を通じて十分な降雨量があり、水はけが良い酸性土壌が理想的であることが明らかとなっている[14][15]。ただし環境適応能は比較的高く、-12°Cから45°Cまで耐えることができ、野外で生育可能な最北の地はスコットランドである[14][15]

分類

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1994年9月、峡谷調査をしていたウォレマイ国立公園と野生生物保護局の職員たちによって、ウォレミマツは発見された[6][14]。発見者であるデヴィッド・ノーブル(David Noble)は、小川のそばに落ちていた特徴的な葉のつき方をした枝と、特徴的な樹皮から、ウォレミマツの発見に至った[6][14][15]。これをもとに研究した植物学者達により、1995年に新属新種 Wollemia nobilis として記載されたが、属名(Wollemia)はウォレマイ国立公園の名(もともと wollumii は、アボリジニの言葉で「見張る」や「周りを見渡す」を意味する)に由来し、種小名(nobilis)は発見者である David Nobel への献名であり、またその nobel(高貴な)な樹形も示している[6][15][16]

ナンヨウスギ科の中では、ウォレミマツはナギモドキ属Agathis)の姉妹群であることが示されている[14]。ウォレミマツの葉の特徴やのぎ状の苞鱗ナンヨウスギ属に似ているが、苞鱗と種鱗が合着していることや種子の形態はナギモドキ属に似ている[6][14]

ウォレミマツは「生きている化石」とよばれるが、ウォレミマツ属に分類される化石記録は知られていない[6][14]。ただし、ウォレミマツによく似た化石は中生代から知られている。ウォレミマツの花粉によく似た花粉化石であるディルウィニテス属(Dilwynites)は、後期白亜紀オーストラリアニュージーランド南極大陸から報告されており、最も新しいものは200万年前から知られている[6][14]。ただし、この花粉化石はナンヨウスギ科の別属のものを含んでいる可能性もある[14]。また、後期白亜紀から古第三紀に見つかるアラウカリオイデス属(Araucarioides)も、ウォレミマツに似ている[6]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ マキ科とともにナンヨウスギ目に分類されるが[2]ヒノキ科イチイ科などとともにヒノキ目(Cupressales)に分類されることもある[3]。さらにマツ科(およびグネツム類)を加えた広義のマツ目(Pinales)にまとめられることもある[4]
  2. ^ a b ただし、系統的にはマツ(pine)とはやや異なる。
  3. ^ イチョウメタセコイアなど裸子植物の中にはこのような例は他にも多い。
  4. ^ この最大の個体は King Billy とよばれる[15]
  5. ^ "雄花"ともよばれるが、厳密には花ではなく小胞子嚢穂(雄性胞子嚢穂)とされる[19]。雄性球花や雄性球果ともよばれる[20][21]
  6. ^ "雌花"ともよばれるが、厳密には花ではなく大胞子嚢穂(雌性胞子嚢穂)とされる[19][20]。送受粉段階の胞子嚢穂は球花とよばれ、成熟し種子をつけたものは下記のように球果とよばれる[20]

出典

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  1. ^ a b Thomas, P. (2011年). “Wollemia nobilis”. The IUCN Red List of Threatened Species 2009. IUCN. 2023年11月16日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・邑田仁 (2013). 維管束植物分類表. 北隆館. p. 44. ISBN 978-4832609754 
  3. ^ Stevens, P. F. (2001 onwards). “Cupressales”. Angiosperm Phylogeny Website. 2023年2月20日閲覧。
  4. ^ a b c d 大場秀章 (2009). 植物分類表. アボック社. pp. 15–16. ISBN 978-4900358614 
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ウォレミマツ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年11月17日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ケン・ヒル (1997). “ウォレミマツ”. 週刊朝日百科 植物の世界 11. pp. 286–288. ISBN 9784023800106 
  7. ^ 岩槻邦男・太田英利(訳) (2014). 世界の絶滅危惧生物図鑑. 丸善出版. p. 48. ISBN 978-4621087640 
  8. ^ My GARDEN No.50. マルモ出版. p. 60 
  9. ^ a b “あわじクリーン舘”. るるぶ淡路島 鳴門'23. JTBパブリッシング. (2022). p. 46. ISBN 9784533149146 
  10. ^ a b 欲ばりに楽しむ!TDR&USJ完全制覇マニュアル. スタジオグリーン編集部. p. 103 
  11. ^ a b 晋遊舎ムックお得技シリーズ240 東京ディズニーランド&シー お得技ベストセレクション. 晋遊舎. (2023). p. 39 
  12. ^ 米倉浩司 (2019). 新維管束植物分類表. 北隆館. p. 56. ISBN 978-4-8326-1008-8 
  13. ^ セルジュ・シャール 著、ダコスタ吉村花子 訳『ビジュアルで学ぶ木を知る図鑑』川尻秀樹 監修、グラフィック社、2024年5月25日、23頁。ISBN 978-4-7661-3865-8 
  14. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad Wollemia nobilis W.G.Jones, K.D.Hill & J.M.Allen”. Atlas of Living Australia. 2023年11月15日閲覧。
  15. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z Wollemia nobilis W.G. Jones, K.D. Hill & J.M. Allen”. Trees and Shrubs Online. International Dendrology Society. 2023年11月18日閲覧。
  16. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q Jones, W. G., Hill, K. D., & Allen, J. M. (1995). “Wollemia nobilis, a new living Australian genus and species in the Araucariaceae”. Telopea 6 (2-3): 173-176. doi:10.7751/telopea19953014. 
  17. ^ a b c d e f g h Wollemia nobilis”. The Gymnosperm Database. 2023年11月15日閲覧。
  18. ^ a b Offord, C. A., Porter, C. L., Meagher, P. F., & Errington, G. (1999). “Sexual reproduction and early plant growth of the Wollemi pine (Wollemia nobilis), a rare and threatened Australian conifer”. Annals of Botany 84 (1): 1-9. doi:10.1006/anbo.1999.0882. 
  19. ^ a b 長谷部光泰 (2020). 陸上植物の形態と進化. 裳華房. p. 205. ISBN 978-4785358716 
  20. ^ a b c 清水建美 (2001). 図説 植物用語事典. 八坂書房. p. 260. ISBN 978-4896944792 
  21. ^ アーネスト M. ギフォードエイドリアンス S. フォスター『維管束植物の形態と進化 原著第3版』長谷部光泰鈴木武植田邦彦監訳、文一総合出版、2002年4月10日、332–484頁。ISBN 4-8299-2160-9 
  22. ^ Hanson, L. (2001). “Chromosome number, karyotype and DNA C-value of the Wollemi pine (Wollemia nobilis, Araucariaceae)”. Botanical Journal of the Linnean Society 135 (3): 271-274. doi:10.1111/j.1095-8339.2001.tb01096.x. 
  23. ^ ニュー・サウス・ウェールズ州を巡る12日間のロードトリップ”. オーストラリア政府観光局. 2023年11月16日閲覧。
  24. ^ 筑波実験植物園”. 筑波実験植物園. 2023年11月16日閲覧。
  25. ^ ウォレミマツ”. 山科植物資料館. 2023年11月16日閲覧。

外部リンク

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