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エナラプリル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
エナラプリル
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 Vasotec, Renitec
Drugs.com monograph
MedlinePlus a686022
胎児危険度分類
  • C,D
法的規制
  • (Prescription only)
薬物動態データ
生物学的利用能60% (oral)
代謝hepatic (to enalaprilat)
半減期11 hours (enalaprilat)
排泄renal
データベースID
CAS番号
75847-73-3 チェック
ATCコード C09AA02 (WHO)
PubChem CID: 5388962
IUPHAR/BPS英語版 6322
DrugBank DB00584 チェック
ChemSpider 4534998 チェック
UNII 69PN84IO1A チェック
KEGG D07892  チェック
ChEBI CHEBI:4784 チェック
ChEMBL CHEMBL578 チェック
化学的データ
化学式C20H28N2O5
分子量376.447 g/mol
物理的データ
融点143 - 144.5 °C (289.4 - 292.1 °F)
テンプレートを表示

エナラプリル(Enalapril)は高血圧鬱血性心不全の治療に用いられるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の一つである。商品名レニベース。ACEはペプチドホルモンであるアンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換する酵素である。アンジオテンシンIIの作用の一つは血管の収縮であり、その結果血圧を上昇させる。ACE阻害薬はこの効果を阻害して血圧を下降させる。また、アルドステロン分泌の抑制による利尿作用を有する。エナラプリルは収縮期心不全による死亡率を低下させる。副作用として肺のブラジキニン増加による空咳が生じる。

WHO必須医薬品モデル・リストに収載されている[1]

効能・効果

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日本で承認されているものは本態性高血圧症、腎性高血圧症、腎血管性高血圧症、悪性高血圧、慢性心不全(軽症~中等症)[注 1]である[2]。非症候性の左心室機能不全にも用い得る[3]。高血圧、心不全、糖尿病で腎保護作用を示す。高血圧のない状態でも腎保護効果を期待して使用され[4]慢性腎不全に対して応用されている[5]

  1. ^ ジギタリス製剤、利尿剤等の基礎治療剤を使用しても充分な効果が認められない場合

禁忌

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血管浮腫の既往歴のある患者、アリスキレンを投与中の糖尿病患者、デキストラン硫酸固定化セルロース、トリプトファン固定化ポリビニルアルコールまたはポリエチレンテレフタレートを用いた吸着器によるアフェレーシスを施行中の患者、アクリロニトリルメタリルスルホン酸ナトリウム膜(AN69)を用いた血液透析施行中の患者等には禁忌である[2]

エナラプリルの胎児危険度分類はDであり、妊婦へは禁忌である。妊娠が判明したら直ちに服用を中止しなければならない。

妊娠初期にアンジオテンシン変換酵素阻害剤を投与された患者群において、胎児奇形の相対リスクは降圧剤が投与されていない患者群に比べ高かったとの報告がある。妊娠中期および末期にアンジオテンシン変換酵素阻害剤を投与された高血圧症の患者で羊水過少症、胎児・新生児の死亡、新生児の低血圧、腎不全、高カリウム血症、頭蓋の形成不全および羊水過少症によると推測される四肢の拘縮、頭蓋顔面の変形等が顕れたとの報告がある。

羊水過少症英語版が発生する場合もある。エナラプリルは乳汁中に移行するので、授乳中は服用を中止すべきである[2][6]

副作用

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副作用発生率は治験で10.48%、使用成績調査で4.30%であり、主なものは咳嗽(0.99、2.13)、めまい(1.81、0.30)、BUN上昇(-、0.24)、血清クレアチニン上昇(0.33、0.21)、血清カリウム上昇(0.81、0.16)である(治験、使用成績調査の順)[2]。咳嗽はブラジキニンが増加することにより起こると言われている。また、咳嗽はACE阻害薬服用患者の約2割で生ずるとの資料もある[7]

重大な副作用として注意喚起されているものは、

である。浮腫は顔面、口唇、気道等に発生し、時に呼吸困難を来たす。浮腫は服用初期に発生しやすいとされる[6]。浮腫の発生率には人種差があり、黒人で多い[6]

作用機序

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通常、アンジオテンシンIはアンジオテンシン変換酵素(ACE)でアンジオテンシンIIに変換される。アンジオテンシンIIは血管平滑筋を収縮させ、血圧を上昇させる。エナラプリルの活性代謝物であるエナラプリラトはACEを阻害してアンジオテンシンIIを減少させ、血管の収縮を抑え、血圧を低下させる[6]

薬物動態

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薬物動態に関する数値は、以下の通りである[6][8]

  • 服用から効果発現まで:約1時間
  • 最高効果:4〜6時間
  • 効果持続時間:12〜24時間
  • 吸収率:約6割
  • 代謝:エナラプリルはプロドラッグであり、代謝されてエナラプリラトとなる[9]
  • 排泄:2相性であり、α相の半減期は2〜6時間(腎濾過)、β相の半減期は36時間(全身臓器に分布し平衡となった薬剤分子の排泄)

β相は反復投与時の血中濃度の蓄積には寄与しないが、薬効の発現に関しては重要な役割を持つと思われる。腎障害(クレアチニンクリアランス:< 20mL/min)がある場合には、エナラプリラトの著明な累積が見られるので、服用量を減量する必要がある。

エナラプリラト

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エナラプリラト
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
Drugs.com monograph
ライセンス US FDA:リンク
データベースID
CAS番号
76420-72-9
IUPHAR/BPS英語版 6332
ChemSpider 4575429
UNII GV0O7ES0R3 チェック
ChEBI CHEBI:4786
ChEMBL CHEMBL577
化学的データ
化学式C18H24N2O5
分子量348.4 g/mol
テンプレートを表示

エナラプリラト(Enalaprilat、開発コードMK-422)はエナラプリルの活性代謝物である。最初のジカルボン酸含有ACE阻害剤であり、カプトプリルの限界を克服するために開発された。スルフヒドリル基カルボン酸基に置き換えられ、カプトプリルと同等の有効性を得るために構造式ベースで改良が加えられた。

エナラプリラトはしかし、それ自身に問題を抱えていた。構造式を変更した結果、イオン化特性が悪化して、経口投与では消化管から充分に吸収されなくなってしまった。この問題はエタノールを用いたエステル化で解決された。こうして産み出された分子がエナラプリルである[10]:13

エナラプリラトはプロドラッグであり、in vivo で様々なエステラーゼで代謝されてエナラプリルになる。血中エナラプリル濃度は服用の2〜4時間後に最高になる。

開発の経緯

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世界初のACE阻害薬としてカプトプリルが誕生した後、金属味(スルフヒドリル基が原因)等の解消を目指していくつもの薬剤が開発された.[11][10]:12–13

エナラプリラトはカプトプリルの欠点を一部解消したものである。さらにその薬物動態を改善するためにエチルエステル化され、エナラプリルが完成した。1981年に販売が開始された[10]:13

出典

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  1. ^ WHO Model List of EssentialMedicines”. World Health Organization (October 2013). 22 April 2014閲覧。
  2. ^ a b c d レニベース錠2.5/レニベース錠5/レニベース錠10 添付文書” (2014年6月). 2016年7月31日閲覧。
  3. ^ U.S. National Library of Medicine. Last Revised October 1, 2010 MedlinePlus: Enalapril
  4. ^ John J.V. McMurray (January 21, 2010). “Clinical Practice: Systolic Heart Failure”. N Engl J Med 362 (3): 228–238. doi:10.1056/NEJMcp0909392. PMID 20089973. http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcp0909392. "Two large trials showed that when patients with NYHA class II, III, or IV heart failure were treated with enalapril, as compared with placebo, in addition to diuretics and digoxin, the rates of admission to the hospital were reduced, and there was a relative risk reduction for death of 16 to 40%." 
  5. ^ He YM et al. Enalapril versus losartan for adults with chronic kidney disease: a systematic review and meta-analysis. Nephrology (Carlton). 2013 Sep;18(9):605-14. doi: 10.1111/nep.12134. PMID 23869492
  6. ^ a b c d e FDA Label: Enalapril Maleate Tablet Last updated April 2011
  7. ^ Dykewicz, Mark S. (April 2004). “Cough and Angioedema From Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors: New Insights Into Mechanisms and Management”. Medscape. 2 April 2014閲覧。
  8. ^ D. J. Tocco (1982). “The physiological disposition and metabolism of enalapril maleate in laboratory animals”. Drug Metab Dispos. 10 (15): 15–19. PMID 6124377. http://dmd.aspetjournals.org/content/10/1/15.abstract 2016年5月25日閲覧。. 
  9. ^ Menard J and Patchett A. Angiotensin-Converting Enzyme Inhibitors. Pp 14-76 in Drug Discovery and Design. Volume 56 of Advances in Protein Chemistry. Eds Richards FM, Eisenberg DS, and Kim PS. Series Ed. Scolnick EM. Academic Press, 2001. ISBN 9780080493381. Pg 30
  10. ^ a b c Jie Jack Li, History of Drug Discovery. Chapter 1 in Drug Discovery: Practices, Processes, and Perspectives. Eds. Jie Jack Li, E. J. Corey. John Wiley & Sons, Apr 3, 2013 ISBN 9781118354469
  11. ^ Jenny Bryan for The Pharmaceutical Journal, 17 Apr 2009 From snake venom to ACE inhibitor — the discovery and rise of captopril

関連項目

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