オオバウマノスズクサ
オオバウマノスズクサ | ||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
オオバウマノスズクサの花
| ||||||||||||||||||||||||
分類(APG III) | ||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||||||||
Aristolochia kaempferi Willd. (1805)[1] | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
オオバウマノスズクサ |
オオバウマノスズクサ(大葉馬の鈴草[3]、学名: Aristolochia kaempferi、中国名:大葉馬兜鈴[4])はウマノスズクサ科ウマノスズクサ属のつる植物である。
特徴
[編集]低山の山林に生息するつる性の落葉木本。蔓は木化して他の草木に絡み[5]、高さ2 - 3メートル (m) に達する[6]。若い茎は緑色で軟毛を密生するが、やがて無毛になる[6][7][8]。蔓は木質化が進み、老成すれば直径2センチメートル (cm) 程度になり、まばらに分岐する[9]。太い茎は淡褐色で、縦に稜状の筋がある[3]。地下茎は長く伸びる[7]。葉は互生[8]。葉は幅広のものから狭いものまで変異が大きい[7]。
花期は5 - 6月、子房下位。花被筒は外面有毛、内部は無毛。花被筒は基部から下向きに伸び、中程で湾曲して上に向かい、縁は開出して三浅裂。6本の花柱は短柱となり、その廻りに6本の雄蕊をつけるが花糸はない。花柄は3 - 5 cm で、葉腋から1本ずつ出る[8]。萼筒が強く折れ曲る長い筒状の花は、入った虫が簡単に出られない構造になっており、中で虫が動き回ることで受粉できる[5]。朔果は6稜を持つ長楕円形で5 - 8 cm。種子は長さ5ミリメートル (mm) で楕円形[8]。染色体数は2n=32[10]。
冬芽は長さ2 mmほどの円錐形で、2枚の芽鱗に包まれ、白色から淡褐色の毛に覆われている[3]。側芽は互生し、主芽の下に副芽(花芽)がつく[3]。葉痕はV字形で維管束痕が3個つく[3]。
分布
[編集]本州の関東地方以西の太平洋岸、四国、九州、沖縄、中国に分布する[8]。ただし後述するように、中国のものは別種とし、本種を日本固有種と考える研究もある。日本では海岸近くの林縁[9]やみかん畑のへり[7]などに生育する。
分類学
[編集](本項目の大部分は、(渡邉・東馬、大井・東馬 2016)、(馬 1989)によるものである。)
ケンペルは(Kaempfer 1712)(日本語題は『廻国奇観』として知られる)において、「Sam kakuso」としてオオバウマノスズクサを紹介している[文献 1]。本種は(Kaempfer 1791) [文献 2]の図版t49をタイプとして、Linne (1805)[文献 3]に記載され、和名としては廻国奇観で紹介された「Sam kakuso」が採用されている[11]。
中国では基本変種のA. kaempferi f. kaempferiの他に以下の3変種が認められる[4]。
- A. kaempferi f. heterophylla:花茎に卵型または円形で茎を抱く長さ5-15mmの小苞片がある。陝西省、甘粛省南部、四川省西部、湖北省西部。
- A. kaempferi f. thibetica:葉が琴または倒卵状の長い円形をなす。四川省(叙永県、康定市)、重慶市南川区、雲南省中部以北。
- A. kaempferi f. mirabilis:葉が細長く披針型。四川省雷波県。
ただし、(馬 1989)は、本種を中国のものは別種とし、(Ohi-Toma et al. 2014)(渡邉・東馬、大井・東馬 2016)は本種を日本固有種として扱っている。
(大井 1953)[文献 4]は葉が三裂する点をウマノスズクサとホソバウマノスズクサ(現アリマウマノスズクサ)の相違点とし、これ以降の図鑑等ではおおむねこの見解に従っている[11]。
本種の近縁種に関する分類が混乱する理由は、本属の分類には花の特徴が重要であるにもかかわらず、自然状態において開花個体を見出すことが少ない地域がある上に、たとえ花が付いていても腊葉標本では花の立体的な構造や色などの情報が失われることによる[12]。そのため、葉の形態に注目して種と分類群を認識してきた経緯があるが、本種(及びアリマウマノスズクサなどの近縁種)は葉の形態変異が多様であることも混乱の理由である[13]。
近縁種のウマノスズクサ(Aristolochia debilis)は、冬に地上部が枯れる草本である[3]。
種の保全状況評価等
[編集]2019年現在、愛知県[14]と茨城県[15]では絶滅危惧Ⅱ類、香川県[16]と熊本県[17]では準絶滅危惧(NT)に指定されている。
ギャラリー
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ Kaempfer 1712, p.884
- ^ Kaempfer, Engelbertus. 1791. Icones selectae plantarum, quas in Japonia collegit. t. 49. Josephus Banks,London.
- ^ Species plantarum: exhibentes plantas rite cognitas, ad genera relatas, cum differentiis specificis, nominibus trivialibus, synonymis selectis, locis natalibus, secundum systema sexuale digestas.. 4. Impensis G.C. Nauk. (1805). p. 152 2021年8月2日閲覧。
- ^ 大井次三郎『日本植物誌』至文堂、1953年。
出典
[編集]- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Aristolochia kaempferi Willd. オオバウマノスズクサ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年6月2日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Isotrema kaempferi (Willd.) H.Huber オオバウマノスズクサ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年6月2日閲覧。
- ^ a b c d e f 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 230
- ^ a b 『中国植物志』 第二十四巻 1988, pp. 206–208
- ^ a b 『植物の世界 9』, p. 9-35
- ^ a b 『日本の野生植物 草本編II』, pp. 102–103
- ^ a b c d 『日本野生植物館』, p. 238
- ^ a b c d e 『原色日本植物図鑑 草本編』II, pp. 318–319
- ^ a b 『牧野日本植物圖鑑』 (1940), p. 634
- ^ Sugawara and Murata (1992)
- ^ a b 渡邉・東馬、大井・東馬 (2016)
- ^ Ohi-Toma et al. (2014")
- ^ 渡邉・東馬、邑田、大井・東馬 (2012)
- ^ 『レッドリストあいち2015』(2015), p. 25
- ^ 『茨城における絶滅のおそれのある野生生物 植物編 2012年改訂版』 (2012), p. 141
- ^ 『香川県レッドデータブック』 (2004), p. 190
- ^ 『レッドデータブックくまもと2019』 (2019), p. 198
参考文献
[編集]- 米倉浩司、梶田忠 (2003年). “植物和名ー学名インデックス YList”. 2021年8月2日閲覧。
- 佐竹義輔、大井次三郎、北村四郎、亘理 俊次、冨成 忠夫 編『日本の野生植物 草本(II)』(1982年6月7日 初版第5刷)平凡社、1982年。
- 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、230頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
- 北村 四郎、村田 源『原色日本植物図鑑 草本編 (II)』(2004年8月1日 改定61刷)保育社、1961年。ISBN 4-586-30016-7。
- 牧野富太郎『牧野日本植物圖鑑』(1951年8月15日 10版(改訂版))北隆館、1940年。
- 朝日新聞社『朝日百科植物の世界』 9巻、朝日新聞社、1997年。ISBN 978-4023800106。
- 神奈川県植物誌調査会『神奈川県植物誌 2001』神奈川県立生命の星・地球博物館、2001年。
- 『生育環境別 日本野生植物館』小学館、1997年。ISBN 4-09526072-6。
- 中国科学院中国植物志編輯委員会, ed. (1988). "大叶马兜铃 Aristolochia kaempferi Willd.". 中国植物志. Vol. 24. 科学出版社. p. 80. 2021年8月2日閲覧。
- Kaempfer, Engelbertus. (1712). Amoenitatum exoticarum politico-physico-medicarum fasciculi V: quibus continentur variæ relationes, observationes & descriptiones Rerum Persicarum & Ulterioris Asiae, multá attentione, in peregrinationibus per universum Orientem collect. Lemgoviae, typis & impensin H. W. Meyeri. 2021年8月2日閲覧。
- 渡邉- 東馬 加奈、大井- 東馬 哲雄「日本産オオバウマノスズクサ群の分類学史およびオオバウマノスズクサとアリマウマノスズクサの混同について」『分類』第16巻第2号、日本植物分類学会、2016年、131-151頁、doi:10.18942/bunrui.01602-06、ISSN 1346-6852、NAID 130005292307。
- 東馬哲雄、渡邉加奈「ウマノスズクサ科ウマノスズクサ属の系統・進化の研究紹介」(PDF)『小石川植物園後援会ニュースレター』第32号、小石川植物園後援会事務局、2006年12月10日、3-6頁、2021年8月2日閲覧。
- 大井・東馬哲雄; 渡邉・東馬加奈; 邑田裕子; 邑田仁 (2014). “Morphological Variations of Aristolochia kaempferi and A. tanzawana (Aristolochiaceae) in Japan [日本におけるオオバウマノスズクサとタンザワウマノスズクサ(ウマノスズクサ科)の形態的変異]” (PDF). 植物研究雑誌 (ツムラ) 89 (3): 152-163. doi:10.51033/jjapbot.89_3_10505. ISSN 0022-2062 2021年8月2日閲覧。.
- 渡邉・東馬 加奈、邑田 仁、大井・東馬 哲雄「オオバウマノスズクサとタンザワウマノスズクサ(ウマノスズクサ科)の形態的・生態的な違い」(PDF)『植物研究雑誌』第87巻第1号、ツムラ、2012年、67-70頁、doi:10.51033/jjapbot.87_1_10339、2021年8月2日閲覧。
- 菅原敬、邑田仁「東アジア産ウマノスズクサ属植物8種の染色体数」『植物分類,地理』第43巻第1号、日本植物分類学会、1992年、27-30頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00001078958、ISSN 0001-6799、NAID 110003760827。
- 马金双「东亚和南亚马兜铃属的修订」(PDF)『植物分类学报』第27巻第5号、1989年、321-364頁、2021年8月2日閲覧。
- (Ma J.S. (1989) A revision of Aristolochia Linn. from E. and S. Asia. Acta Phytotaxonomica Sinica. 27(5): 321-364)
- 愛知県環境部『第三次レッドリスト レッドリストあいち2015 新掲載種の解説』(PDF)愛知県、2015年3月、25頁 。2021年8月2日閲覧。
- 茨城県生活環境部環境政策課『茨城における絶滅のおそれのある野生生物 植物編 2012年改訂版』(PDF)茨城県、2013年3月、141頁 。2021年8月2日閲覧。
- 香川県 環境森林部 環境政策課 (2004年). “香川県レッドデータブック 香川県の希少野生生物” (PDF). 香川県. p. 190. 2020年10月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月2日閲覧。
- 熊本県希少野生動植物検討委員会(編著)『レッドデータブックくまもと2019-熊本県の絶滅のおそれのある野生動植物-』(PDF)熊本県 環境生活部 環境局自然保護課、2019年12月、198頁 。2021年8月2日閲覧。
外部リンク
[編集]- 『オオバウマノスズクサ』 - コトバンク