クヴェルドウールヴ
クヴェルドウールヴ(古ノルド語: Kveld-Úlfr、「宵の狼」を意味する)[1][2][3]、またはウールヴ・ビヤールヴァソン(古ノルド語: Úlfr Bjálfason)[4]は、9世紀ノルウェー・ソグンの有名なヘルシル(地方豪族)[5]・土地所有者である。『エギルのサガ』の最初の数章における主役の一人であり、『植民の書』やその他のアイスランドの情報源(アイスランド人のサガ)にも登場する。
『エギルのサガ』では、クヴェルドウールヴは変身する力を持っている(古ノルド語: hamrammr[6]、ウールヴヘジンも参照)と噂されていた、と述べられている[7][8]。またベルセルクの力も有していた[9][10]。
クヴェルドウールヴ・ビヤールヴァソン | |
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誕生 |
ウールヴ・ビヤールヴァソン 805 ノルウェー |
死没 | 878年(72 - 73歳没) |
職業 | ヘルシル、土地所有者、スカルド詩人 |
言語 | 古ノルド語 |
活動期間 | ヴァイキング時代 |
文学活動 | スカルド詩 |
代表作 | エギルのサガ、植民の書 |
配偶者 | サルビョルグ・カーラドッティル |
子供 | ソーロールヴ・クヴェルドウールヴスソン、スカラグリーム |
親族 | ビヤールヴィ、ハルベラ・ウールヴスドッティル |
ウィキポータル 文学 |
家族
[編集]クヴェルドウールヴはビヤールヴィ[11]と、向う見ずのウールヴ[12]の娘にして半巨人のハルビョルン[13]の妹であるハルベラ・ウールヴスドッティル[14]との間に生まれた息子であった。したがってクヴェルドウールヴはハーロガランドの雄鮭のケティル[15]の従兄弟であり、ハーロガランドの雄鮭のケティルの子孫であるナウムダルの雄鮭のケティルの親戚にあたる[16]。クヴェルドウールヴはヴァイキングの首領ベルズル・カーリ[17]の娘サルビョルグ・カーラドッティル[18]と結婚した。したがってクヴェルドウールヴはヴァイキング仔羊のエイヴィンド[19]およびスカルド詩人エイヴィル・フヌーヴァ[20]の義兄弟にあたる。クヴェルドウールヴとサルビョルグの間には2人の息子、ソーロールヴ[21]とグリーム[22]がいた[7]。グリームは「スカラグリーム」(「禿のグリーム」を意味する)[23]という呼び名の方がよく知られている。
ハラルド王への対抗
[編集]クヴェルドウールヴはヴェストフォルドの王ハラルド美髪王の強まる支配に対抗したが、アグジルの富者キョトヴィ[24]が主導するハラルドに対抗する連合に加わることを拒否し、ソグンの王たちの軍勢の中で戦おうともしなかった。クヴェルドウールヴは息子ソーロールヴがハラルドの臣下となることを許し、王に忠誠を誓わなかったにもかかわらず平和に暮らすことを許された。
死
[編集]ソーロールヴがハラルド王の部下たちに殺されたことで、クヴェルドウールヴは悲しみに圧倒され「床に臥した」[25]。賠償の求めが王に拒否されたのち、クヴェルドウールヴと彼の息子スカラグリームはソーロールヴの殺害者たちを殺して復讐を果たし、ノルウェーからアイスランドへの逃亡の旅に出た。道中、復讐時に「ベルセルクの激怒」を発したことによる消耗のため、老いたクヴェルドウールヴの命は尽きた。クヴェルドウールヴの棺が流れ着いた場所の近く、ボルグにスカラグリームは自身の農場を構えた[9]。
脚注
[編集]- ^ 「クヴェルドウールヴ」の表記は谷口 (1979), p. 7(『エギルのサガ』第1章), etc. にみられる。
- ^ 「Kveld-Úlfr」の表記はJónsson校訂版にみられる。
- ^ 「宵の狼」の表記は谷口 (1979), p. 7(訳注内) にみられる。
- ^ 「ウールヴ」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「ヘルシル」の表記はヘイウッド & 伊藤・村田訳 (2017), p. 175(項目「社会階級」の本文内); p. 444(事項索引 - ヘルシル) にみられる。谷口 (1979), p. 846(解説)では「ノルウェーの豪農クヴェルドウールヴ」と表現されている。
- ^ “hamrammr adj. , hamrammur (ONP)”. Dictionary of Old Norse Prose. コペンハーゲン大学. 2022年12月9日閲覧。
- ^ a b 『エギルのサガ』第1章。
- ^ 谷口 1979, p. 7.
- ^ a b 『エギルのサガ』第27章。
- ^ 谷口 1979, pp. 41, 42.
- ^ 「ビヤールヴィ」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「向う見ずのウールヴ」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「半巨人のハルビョルン」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「ハルベラ」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「雄鮭のケティル」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 『植民の書』5:3.
- ^ 「ベルズル・カーリ」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「サルビョルグ」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「仔羊のエイヴィンド」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「エイヴィル・フヌーヴァ」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「ソーロールヴ」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「グリーム」の表記は谷口 (1979), p. 7 にみられる。
- ^ 「スカラグリーム」「禿のグリーム」の表記は谷口 (1979), p. 31(『エギルのサガ』第20章) にみられる。
- ^ 「富者キョトヴィ」の表記は谷口 (1979), p. 16(『エギルのサガ』第9章) にみられる。
- ^ 『エギルのサガ』第26章。
参考文献
[編集]- 谷口, 幸男『アイスランドサガ』新潮社、1979年9月25日。全国書誌番号:79033499。
- ジョン・ヘイウッド『図説 ヴァイキング時代百科事典』伊藤盡(監訳)、村田綾子(訳)、柊風舎、2017年4月25日。ISBN 978-4-86498-042-5。
- Jónsson, Guðni: “Egils saga Skalla-Grímssonar” (古ノルド語). Íslendinga sögur. Heimskringla.no. 2022年12月9日閲覧。
- Ellwood, T., trans. The Book of the Settlement of Iceland: Translated From The Original Icelandic of Ari the Learned. Kendal: T. Wilson, Printer and Publisher, 1898.
- Palsson, Hermann and Paul Edwards, trans. Egil's Saga. NY: Penguin, 1976.