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グラフ電卓

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
テキサス・インスツルメンツ社の典型的なグラフ電卓 TI-84 Plus
テキサス・インスツルメンツ社の典型的なグラフ電卓 TI-84 Plus

グラフ電卓(グラフでんたく)もしくはグラフィック電卓(グラフィックでんたく)は、グラフの描画、連立方程式の計算、変数を用いた演算ができる電卓である。グラフ関数電卓ともいう[注釈 1]。ポピュラーなグラフ電卓はプログラミング可能で、ユーザが科学技術、教育向けにカスタマイズしたプログラムを作ることができる。グラフ電卓は大きなディスプレイを持ち、複数行のテキストや計算を表示できるのが一般的である。

歴史

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Casio fx-7000G:世界初のグラフ電卓

カシオは最初の商用グラフ電卓、fx-7000Gを1985年に発売した。カシオの製品には、機能を簡単に呼び出せるアイコンメニュー (1994, FX-7700GE以降)、多色グラフ (1995, CFX-9800G)、SDカードによるメモリ拡張 (FX-9860SD)、教科書風の入力出力 (2009, FX-9750GII & 9860GII)、バックライト (2009, FX-9860 Slim & GII)、フルカラー高解像度バックライトディスプレイ (2010, FX-CG10/CG20 PRIZM)、視認性スコアによるデザイン向上 (2024, GRAPH MATH+)[2] などの新機能が盛り込まれた。

シャープは最初のグラフ電卓、EL-5200を1986年に発売した。シャープの製品には、タッチスクリーン(EL-9600シリーズ)、数式エディタ (教科書風の入力)、リバーシブルキーボード (一方は入門者向けの基本関数、もう一方は専門家向けの追加関数) (EL-9900)などの新機能が盛り込まれた。

ヒューレット・パッカードHP-28Cでそれに続いた。[3] HP-28S (1988), HP 48SX (1990), HP 48S (1991)他、多くのモデルが発売された。 HP 50g (2006) は数式処理システム (CAS)を備え、代数式を解析的に扱うことができた。他にない強力なCAS計算機は、2001年のカシオペア A-10、A-11のようなMaple V代数エンジンを実行するスタイラス式PDAを一掃した。 HP 28 シリーズ から HP 48 シリーズ は主にプロの科学・工学市場向け、HP 38GHP 39/40 シリーズ は高校大学教育市場向け、HP 49/50 シリーズ は教育用からプロ向けまですべての需要に応えた。HPのグラフ電卓は逆ポーランド記法 (RPN) / 逆ポーランドLisp (RPL)でよく知られているが、HP 49G からは一般的な入力方法(アルジェブレイク入力:ALG)も導入した。

テキサス・インスツルメンツは1990年からグラフ電卓を発売しており、一番古いものはTI-81である。より新しい計算機には大容量のメモリ、速いプロセッサ、TI-82, TI-83, TI-84 Plus シリーズのようなUSB接続機能が追加されている。他のモデルには、10~14歳の生徒向けに設計されたTI-80TI-73がある。他のグラフ電卓は微積分向けに設計されているTI-85, TI-86, TI-89, TI-92シリーズ (TI-92、TI-92 Plus、 Voyage 200)。CASは TI-89, TI-Nspire CAS, TI-92 シリーズで導入された。テキサス・インスツルメンツの計算機は教育市場を主なターゲットとしているが、一般に広く利用可能である。

機能

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数式処理システム

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いくつかのグラフ電卓は、記号的な結果を出すことのできる数式処理システム (CAS) を備えている。これは代数式を扱い、因数分解、展開、簡単化などの操作を行える。またこれにより、数値的な近似のない正しい答えを出すことができる。数式処理システムを持つ計算機は 記号またはCAS 計算機と呼ばれる。CAS計算機には HP 50g, HP Prime, TI-Nspire CAS, TI-89, Casio ClassPadシリーズ英語版などがある。

研究室用途

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多くのグラフ電卓が、温度計、pH計、気象装置、音量計、露出計、加速度計、その他のセンサー電子機器と接続でき、データロガーとして使ったり、Wi-Fiやその他の通信モジュールのように監視、ポーリング、教授とのやり取りに利用できる。研究室の学生は、このような機器を通じて統計学や応用数学の学習を深めることができる。プログラミング機能は、PCが近くにない時に開発者、大学教授、学生がラピッドプロトタイピングのために使用することがある。

ゲーム

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グラフ電卓はプログラムが容易なため、適度な大きさの本体と利用者の多いプラットフォームを備えたゲーム機として使われることが多い。携帯ゲーム機の価格が同じくらいまで下がっているとはいえ、グラフ電卓は数学的なゲームを作るのに良い機能を提供する。しかし、公表されているデータシートやプログラミング言語を超えた能力のためファームウェア改造も伴うようなサードパーティー製のソフト開発は、本来ターゲットとする高校や大学でのテストでの不正な使用をあおるとして、製造者と教育関係者の間で争点となった。近年では、学生や研究者はコンピュータ支援数学ソフトを学習だけでなく実験にも利用するようになっている。

画面表示

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グラフ電卓の一部はカラー出力やアニメーション、インタラクティブなグラフ描画(2D,3D)、代数定理のアニメーション、グラフや描画を含む文書の作成などが可能である。テキサス・インスツルメンツなどの製造元はコンピュータ上でグラフ電卓をエミュレートしたり操作するソフトウェアを提供している。

教育におけるグラフ電卓

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北アメリカ
高校の数学教師は教室内でグラフ電卓を使用することを生徒に許可はおろか推奨までする。いくつかの場合においては(特に微積分コースにおいて)、グラフ電卓は必須である。なお、完全な周期表を内蔵している一部のグラフ電卓は、化学や物理などの授業では禁止されている。
アメリカ合衆国大学入学試験委員会 (The College Board)
QWERTY配列キーボードがないグラフ電卓ならば、大半のグラフ電卓とCAS電卓の使用をAP試験とSAT試験で許可している。しかし、同委員会とは無関係なACT試験と国際バカロレア(IB)認定校はCAS(数式処理システム)の使用を禁じている。
イギリス
グラフ電卓はAレベル数学コース(あらゆる種類の電卓が禁止されているC1課程を除く)で許可されている。しかしながら、グラフ電卓は必須ではなく、試験はおおよそ電卓に依存しないように作られている。同様にGCSE(一般教育証明試験)において、全ての現行コースはあらゆる種類の電卓の使用を許可しない試験を1つ含んでいる。しかし、それ以外の試験で生徒はグラフ電卓の使用を許可されている。GCSEにおいてグラフ電卓の使用は一般的ではない。金銭的負担になりがちなためである。CASの使用はAレベルでもGCSEでも許可されていない[4]。スコットランドのSQA(スコットランド資格認定局)は数学試験においてグラフ電卓の使用を許可している(電卓の使用を完全に禁止している paper 1 試験を除く)。しかしながら、試験中に特定の機能や情報を電卓に搭載するのは禁じられているので、試験前に試験監督によって確認されたり、試験センターによって配られた電卓だけを使ったりする。SQA試験はグラフ電卓を好んでおらず、満点を取るためには計算過程を全て示さないといけないので、グラフ電卓を使わない受験者よりもグラフ電卓を使う受験者が圧倒的有利にならないようになっている。
フィンランド・スロベニア周辺地域
数学の試験においてCAS(数式処理システム)あるいは3Dグラフィックス機能を搭載した電卓の使用を禁じている。しかしながら、フィンランドの場合は変化が生じている。2012年春以降からCAS電卓の使用が許可されているからである。
ノルウェー
IR通信のようなワイヤレス通信機能を持つ電卓はいくつかの技術系大学で禁止されてきた。
オーストラリア
方針が州によって異なる。
ビクトリア州
VCE(ビクトリア州教育証明書)は数学の試験で使用可能な公認電卓を指定している。高等数学 (Further Mathematics) のために公認されたグラフ電卓(例えば、TI-83 シリーズ/TI-84 Plus シリーズ, Casio 9860, HP-39G)あるいはCAS電卓(例えば、TI-89 シリーズ, Classpad 300, HP 40G)が使用可能である。VCEの数学試験(Mathematical Methods)と数学試験CAS(Mathematical Methods CAS)は Examination 1 と Examination2 から構成される[5]。Examination 1 は短い回答の問題と長い回答の問題から構成される電卓禁止の共通試験である。Examination 2 は長い回答の問題と選択問題から構成されるグラフ電卓の使用を想定した試験である。グラフ電卓は数学試験と数学試験CASのために想定されたものである。これらの2つの試験は共通して基本的な問題を含んでいるが、特徴的な問題も含んでいる。Specialist Mathematics 試験[6]も同様に Examination 1 と Examination2 から構成され、Examination 2ではグラフ電卓とCAS電卓の使用が想定されている。グラフ電卓のメモリをクリアすることは必須ではない。物理や化学のような科目では、普通の関数電卓だけが使用可能である。
西オーストラリア州
Tertiary Entrance Examination(西オーストラリア州の大学入学試験)の数学は電卓を使用する部分があり、生徒がグラフ電卓を使うことを想定している。CAS電卓も許可されている。物理、化学、会計のような科目では、プログラミングできない電卓だけが使用可能である。
ニューサウスウェールズ州
グラフ電卓は Higher School Certificate 試験(ニューサウスウェールズ州の大学入学試験)の一般数学で使用可能である。しかし、高レベル数学コースでは禁止されている。
中国
一般的に電卓は初等教育と中等教育で禁止されている。[要出典]
インド
電卓は初等教育と中等教育で禁止されている。大学では電卓の使用における大学毎の独自のルールがあり、試験では許可されたモデルの電卓を使用する。
ニュージーランド
標準規定あるいは科目の規定によって特別に許可されない限り、高性能な代数操作機能を持つと認定された電卓はNCEA試験で禁止されている。禁止された電卓はTI-89 シリーズのような電卓を含んでいる。
トルコ
あらゆる種類の電卓が全ての初等教育と高校で禁止されている。国際バカロレア(IB)認定校とアメリカンスクールは除く。[要出典]
シンガポール
ジュニアカレッジ(日本の高校に相当)で使われている。GCE'A'レベル試験の数学で必須である。ほとんどの学校はTI-84 PlusあるいはTI-84 Plus Silver Editionを使っている。
オランダ
高校生(VWOという日本の中学および高校に相当する6年制教育)は最後の3年間で試験の間にグラフ電卓の使用を義務付けられる。ほとんどの学生は TI-83 PlusあるいはTI-84 Plusを使用するが、Casio fx-9860G と HP 39Gを含む他のグラフ電卓も許可されている。通常電卓に代わってグラフ電卓はテストの間にほとんどの場合で使用が許可されている。このことは、事前にグラフ電卓をカンニングペーパーになるようにしたり、リンクケーブルを使ってテスト開始前にデータ交換をするという結果にときどきなってしまう。
イスラエル
グラフ電卓は Bagrut(アメリカのSATに相当)の数学試験で使用を禁じられている。それに加えてプログラミング電卓も使用できない[7]。大学では電卓の使用における大学毎の独自のルールがあり、試験では許可されたモデルの電卓を使用する。

プログラミング

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The game Tetris is being played on a TI-83 Plus.
TI-83 Plusでテトリスをプレイしている様子。グラフ電卓は時にゲーム機としても使われる。

ほとんどのグラフ電卓は、複雑で頻繁に使用される一連の計算を自動化するために、ユーザーの手で自らプログラムを入力・実行できる。

電卓本体へのプログラムの入力には、電卓のデフォルト機能として内蔵されている全画面テキストエディタやプログラミングツール、あるいはその他の追加ツールが使用される。QWERTYキーボードを本体に搭載している機種や、一般的なPC用のものに似た外部キーボードを接続可能な機種も存在する。

また、実際のプログラミングをPC上で行い、その後電卓付属のPCリンクケーブルやIrDA通信、あるいはメモリーカードで電卓へ転送することもある。この場合、設定可能なテキストエディタや16進エディタ、そして後述する各種言語の実装に特化したプログラミングツールを利用して開発できるというメリットがある。HPGCCTIGCC英語版などのような、グラフ電卓専用のPC上開発ツールも存在する。

初期の電卓は磁気カード等にプログラムを保存した。メモリ関連技術の進歩により、電卓に搭載できるメモリ容量が増加し、電卓内蔵のストレージをプログラムの保存場所にする機種も登場した。より新しい電卓の一部ではメモリーカードも使用できる。

グラフ電卓は、テキストで書かれたプログラムの要素を、短い数値トークンに置き換える。多くのグラフ電卓はPCとよく似た動作をし、アスキーコードから派生した7ビット、8ビット、9ビットのキャラクターセットを使ったり、UTF-8Unicodeを使うこともある。Windowsの文字コード表に類似するツールが搭載される場合もある。

グラフ電卓に搭載されるプログラミング言語は、キーストロークマクロ言語(キーを押した順序を再生する言語)やBASICに似ていることが多い。機種によっては一般的なプログラミング言語やその方言が搭載されていることもある。またRPLのように、メーカー独自の言語を搭載している機種もある。加えて一部の機種では、電卓をハックすることで、メーカーがサポートしていない言語が実行できる場合がある。プログラム内では、電卓に内蔵された数学計算機能、ビット操作、基数、条件分岐命令、入出力関数、グラフィックス関数などの機能を利用できる。機種によっては、文字列操作関数やサウンド出力機能も利用できる場合がある。

一部のグラフ電卓はアセンブリ言語と機械語でのプログラミングをサポートしている。エクスプロイト(ハック技の一種)を使ったときのみ可能となる機種も存在する。電卓のメインプロセッサとして提供されているチップには、TMS9900SH-3Z80ARMアーキテクチャMC68000などが挙げられる。これらの多くは、用途に応じてある程度改変がなされている。

一部のグラフ電卓はOSを搭載している。電卓のOSとして、電卓メーカーによる独自OS、MS-DOSWindows CEWindows NT 4.0 Embedded、Linuxなどがある。一部のユーザーは、TI-89TI-92シリーズTI-Nspireシリーズなどに、CP/M-68Kの機能削減版やLinuxなどのOSをインストールすることに成功している。独自にグラフ電卓用のOSを開発・公開しているユーザーも存在する[8]

ほとんどのグラフ電卓はPC上のMicrosoft Excelとファイル変換で連携できる内蔵スプレッドシートを搭載している[9][10]。2018年現在まで、電卓側のスプレッドシートでマクロやその他の自動化機能を持つ電卓は存在していない。一部の機種では、リスト・行列などのデータ構造を電卓のプログラミング言語で操作し、マクロとスクリプトが利用可能なスプレッドシートと同等の機能を実現できる。

注釈

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  1. ^ 一部で高等専門学校を中心に「数ナビ」と呼称する動きもある[1]が、定着しているとは言い難い。

出典

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参考文献

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  • Dick, Thomas P. (1996). Much More than a Toy. Graphing Calculators in Secondary school Calculus. In P. Gómez and B. Waits (Eds.), Roles of Calculators in the Classroom pp 31–46). Una Empresa Docente.
  • Ellington, A. J. (2003). A meta-analysis of the effects of calculators on students' achievement and attitude levels in precollege mathematics classes. Journal for Research in Mathematics Education. 34(5), 433-463.
  • Heller, J. L., Curtis, D. A., Jaffe, R., & Verboncoeur, C. J. (2005). Impact of handheld graphing calculator use on student achievement in algebra 1: Heller Research Associates.
  • Khoju, M., Jaciw, A., & Miller, G. I. (2005). Effectiveness of graphing calculators in K-12 mathematics achievement: A systematic review. Palo Alto, CA: Empirical Education, Inc.
  • National Center for Education Statistics. (2001). The nation's report card: Mathematics 2000. (No. NCES 2001-571). Washington DC: U.S. Department of Education.

関連項目

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