コルモゴロフスケール
コルモゴロフスケール(英: Kolmogorov scale)は、大小様々なスケールが存在する乱流の中で、最も小さなスケールである。コルモゴロフスケールでは、粘性の影響が支配的になるため、乱流の運動エネルギーは熱エネルギーに変換される。
定義
[編集]コルモゴロフスケールにおける長さ、時間、速度はそれぞれコルモゴロフ長、コルモゴロフ時間、コルモゴロフ速度と呼ばれる。これらは、単位質量当たりのエネルギー散逸率と動粘性係数を用いて以下のように定義される[2,3]。
これらの定義は、1941年にコルモゴロフによって提唱された理論[1]から導かれる。コルモゴロフの理論では、乱流の最小スケールの物理量は[m2 s-3]と[m2 s-1]のみで表されると仮定している。たとえば、コルモゴロフ長は、次元解析から次のように導出される。まず、長さの次元をL、時間の次元をTと表すことにする。このとき、エネルギー散逸率の次元はL2 T-3、動粘性係数の次元はL2 T-1、コルモゴロフ長の次元はLである。次元がLになるようなとの組み合わせは一つしかなく、上記に示した定義式が得られる。
コルモゴロフ時間、コルモゴロフ速度の導出も同様である。
レイノルズ数との関係
[編集]コルモゴロフスケールの物理量を用いると、レイノルズ数Reは
と表される。
ここでであるので
となることがわかる。レイノルズ数は流体の慣性力と粘性力の比を表しているため、上式は冒頭で述べたように、コルモゴロフスケールでは粘性の影響が十分に支配的であることを意味する。
渦管との関係
[編集]乱流中には強い旋回を伴う流れ構造が観察されており、このような乱流構造は渦管と呼ばれている。1968年にSaffman[4]は、渦管の直径はコルモゴロフ長からテイラー長の範囲に収まることが多いことを予測しており、その後1993年にJime'nezら[5]は、渦管の半径がコルモゴロフ長の4倍程度であることを直接数値計算によって示している。
参考文献
[編集][1] Kolmogorov, A. N. (1941), "Local structure of turbulence in an incompressible fluid at very high Reynolds numbers," Dokl. Akad. Nauk SSSR. 31: 99–101.
[2] Tennekes, H. and Lumley, J. L. (1972), “A first course in turbulence,” MIT press.
[3] Davidson P. A. (2015), “Turbulence: an introduction for scientists and engineers,” second edition, 24, 264-267,464.
[4] Saffman, P. G. (1968), "The lift on a small sphere in a slow shear flow," J. Fluid Mech., 22, 385-400.
[5] Jime'nez, J., Wray, A. A., Saffman, P. G., and Rogallo, R. S. (1993), “The structure of intense vorticity in isotropic turbulence,” J. Fluid Mech., 255, 65–90.