ゴジラ・メガムリオン
座標: 北緯16度30分0秒 東経139度25分0秒 / 北緯16.50000度 東経139.41667度
ゴジラ・メガムリオン(Godzilla Megamullion)もしくはゴジラ・ムリオン(Godzilla Mullion)は、沖ノ鳥島南東約600キロメートルの公海の海底に存在するドーム状の高まりである[1][3]。名称は日本の怪獣映画『ゴジラ』にちなむ[1][2][4][注釈 1]。周辺一帯をゴジラメガムリオン地形区(ゴジラメガムリオンちけいく)と称する[1][2]。
概要
[編集]沖ノ鳥島と北マリアナ諸島のほぼ中間に位置するゴジラ・メガムリオンは、2001年(平成13年)、日本の大陸棚確定のための海底調査により発見された[1]。メガムリオン(megamullion)は「巨大なムリオン("Mullion"=「方立」)を意味する言葉であり[6][注釈 2]、「メガムリオン地形」とは地下のマントルが露出して固まったものと考えられる岩塊がドーム状をなしている地形を指している[1][注釈 3]。海洋コアコンプレックスとも呼ばれ[8]、表面に海底の拡大方向にコルゲーションと呼ばれる平行な畝(うね)構造をともない、かんらん岩や斑れい岩などから構成されている[3][8]。また、玄武岩の散在も確認されている[3]。
ゴジラ・メガムリオンは、フィリピン海プレートにあるパレスベラ海盆(Parece Vela Basin)に位置する[3][8][注釈 4]。その大きさは縦125キロメートル、幅55キロメートル、最深部との高低差4キロメートルであり、マントルが露出したドーム状の岩塊としては世界最大である[1][7][10][4]。その面積は東京都のおよそ3倍に達する[1]。その巨大さはあたかも海底の巨大怪獣のようだとして、怪獣「ゴジラ」に由来して命名され[10][4][11]、確認されている14の丘についても、頭や尾などの名称が付されている[10]。ゴジラ・メガムリオンは生成から1000万年以上経っており、泥をかぶった状態にある[8]。
海上保安庁によれば、2021年(令和3年)、日本が提案した「ゴジラメガムリオン地形区」が、国際水路機関(IHO)とユネスコの政府間海洋学委員会(IOC)が共同で設置する「海底地形名小委員会(SCUFN)」 において承認された[1][2][注釈 5]。世界の海底地形の名称を標準化するための国際会議は3度にわたってオンラインで開催された[1]。日本ではすでに「ゴジラ」の名称を付して呼んでいたが、この国際承認によりIHO/IOCの海底地形名集に掲載され、今後は地図・海図や論文などで公式に使用することが認められる[1]。ゴジラメガムリオン地形区では、数十回におよぶ海上保安庁海洋情報部や金属鉱物資源機構などによる調査航海がなされており、数十か所において高密度サンプリングが達成されて、フィリピン海プレートの組成や構造について一定の研究成果を得ている[1][3]。2023年(令和5年)2月にはゴジラの各部位に対応する海底地形名称14件が追加で承認された[12]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 自然物にゴジラの名前が付けられたのは、2018年にアメリカ航空宇宙局(NASA)などによって銀河UGC 2885に「ゴジラ銀河(Godzilla galaxy)」の愛称が付けられた事例に次いで2番目である[2][5]。
- ^ ムリオンまたはマリオンは、本来は「方立」およびその意匠を意味する建築用語で、窓を縦方向に支える構造物のことである[6]。この名を冠した建物としては「有楽町マリオン」が知られる[7]。
- ^ 「メガムリオン地形」(「畝つき亀の甲」地形)は、張力場のもとで、低角の(水平に近い)正断層が大規模に発達することによって、通常は地表に現れない、断層下側の地殻の深部やマントルの一部がむき出しになったのではないか、とする仮説が有力である[7]。
- ^ パレスベラ海盆は、四国海盆とともに約3000万 - 1500万年前に形成された背弧海盆。両者の形成により、伊豆・小笠原・マリアナ島弧と九州・パラオ海嶺が分断された [9]。パレスベラ海盆の中央部には長辺35キロメートル以下の普通サイズのムリオンが他にも見つかっている[8]。
- ^ 「小坂海山群」「ゴジラメガムリオン地形区」「長岡海嶺」など日本提案の地名と、長岡海嶺の「トモダチ海山」や「友情=フレンドシップ海嶺」など日米共同提案の地名の計18件が同時に承認された。
出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j k l “日本提案の海底地形名が国際会議で承認”. 日本政府 海上保安庁. 2022年1月16日閲覧。
- ^ a b c d e “「ゴジラ」星座の次は海底地形の名称に、地球最大の“ゴジラメガムリオン地形区””. 映画ナタリー (ナターシャ). (2022年1月6日) 2022年1月14日閲覧。
- ^ a b c d e 小原泰彦ほか (2013年3月14日). “ゴジラメガムリオンにおける高密度サンプリングが明らかにしたこと:背弧海盆の発達史に関する試論”. 海洋研究開発機構. 2022年1月7日閲覧。
- ^ a b c 野村宏平、冬門稔弐「1月11日」『ゴジラ365日』洋泉社〈映画秘宝COLLECTION〉、2016年11月23日、18頁。ISBN 978-4-8003-1074-3。
- ^ Jenner, Lynn (2020年1月2日). “NASA's Hubble Surveys Gigantic Galaxy”. NASA. 2022年1月7日閲覧。
- ^ a b “マリオン/建築用語”. 建築情報.net. 2014年1月13日閲覧。
- ^ a b c “パレスベラ海盆の非マグマ的拡大”. 東京大学大気海洋研究所 横山祐典研究室. 2014年1月13日閲覧。
- ^ a b c d e 「しんかい 6500」 潜航記 (PDF) - 自然科学のとびら Vol.15, No.3 Sept., 2009 通巻58号(神奈川県立生命の星・地球博物館 広報誌)
- ^ “「用語解説」2013年8月”. 日本政府 地震調査研究推進本部. 2022年1月7日閲覧。
- ^ a b c 「マントル「のぞき窓」沖ノ鳥島沖に 命名「ゴジラ」 地球内部 解明に期待」『読売新聞』読売新聞(読売新聞)、東京、2014年1月11日、夕刊14頁。2022年1月16日閲覧。
- ^ “Melt stagnation in peridotites from the Godzilla Megamullion Oceanic Core Complex, Parece Vela Basin, Philippine Sea”. Lithos Volumes 182–183, December 2013, Pages 1–10 (2013年12月). 2014年1月13日閲覧。
- ^ “国際的に認められた海底の“ゴジラ” 海底地形名14件を追加承認”. オリコンニュース. (2023年2月14日) 2023年2月15日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 小原泰彦ほか (2013年3月14日). “ゴジラメガムリオンにおける高密度サンプリングが明らかにしたこと:背弧海盆の発達史に関する試論”. 海洋研究開発機構. 2022年1月7日閲覧。 - 国立研究開発法人 海洋研究開発機構
- 田中喜年ほか (2007年3月1日). “パレスベラ海盆メガムリオン域における精密地殻構造調査”. 海洋情報部技報第25号. 海上保安庁海洋情報部. 2022年1月7日閲覧。 - 海上保安庁海洋情報部「海の研究」