ゴンドールの執政
ゴンドールの執政(ゴンドールのしっせい、Steward of Gondor)では、J・R・R・トールキンの小説『指輪物語』および『シルマリルの物語』の舞台となる中つ国に存在する、架空の国の役職について述べる。
概要
[編集]執政(Steward)とは、本来はゴンドールの国王を補佐する役職である。しかし建国より2000年ほどが過ぎたころに王統が絶え、それ以来執政がゴンドールの統治権を行使することになった。
まだ王が健在だったころは、執政の職位は始祖フーリンの子孫からその都度選ばれてきたが、ペレンドゥアの代から国王同様に世襲の職となった。
代々の執政は就任時などに「偉大なる王還りますときまで」と誓いを立てたが、次第にこの文言は単なる儀礼と化し、真摯にとらえるものもいなくなっていった。むしろ執政たちは北方にいると噂される王の末裔の存在を警戒していたが、それでも敢えて玉座を侵そうとするものは誰もいなかった。
第三紀3019年、父デネソールの死後に執政の地位を継いだファラミアは、帰還した王エレスサール(アラゴルン)に統治権を返還した。かれは同時に職位も返上しようとしたが、王はそれを拒み、改めてファラミアとその子孫を執政として任命した。
執政は王冠も王笏も持たず、白い杖をその地位の証とした。また、かれらの旗は紋章のない白旗だった。また、「王の僕」アランドゥア(arandur)の子音を抜き出したR・ND・Rの上に3つの星を施したものを印として用いる。
王の補佐としての執政
[編集]- フーリン(Húrin)
- 一族の始祖。エミン・アルネン出身。ミナルディル王(在位1621 - 1634年)の執政を務めた。
- ペレンドゥア(Pelendur)
- 1944年のオンドヘア王の死に伴い、1年間ゴンドールを統治し、アルノールのアルヴェドゥイ王子の王位請求を退けた。
- かれの代から執政の位は世襲となる。
- ヴォロンディル(Vorondil)
- 狩猟者と称される。リューンの湖近くで(オロメの放った「アラウの牛」の子孫と思われる)白い野牛を狩り、その角から一族に代々伝えられる角笛を作った(指輪の仲間のボロミアが携えていた角笛のことである)。2029年没。
統治の実権を持った執政
[編集]※ 以下、代・名・没年の順に執政について記載する。
警戒的平和
[編集]- 1. マルディル・ヴォロンウェ(Mardil Voronwë) 2080年
- 2. エラダン(Eradan) 2116年
- 3. ヘリオン(Herion) 2148年
- 4. ベレゴルン(Belegorn) 2204年
- 5. フーリン1世(Húrin I) 2244年
- 6. トゥーリン1世(Túrin I) 2278年
- 7. ハドル(Hador) 2395年
- 8. バラヒア(Barahir) 2412年
- 9. ディオル(Dior) 2435年
「揺るがざる」(the Steadfast)と称されたマルディルはエアルヌア王の執政だった。2043年の即位に際しアングマールの魔王が挑発してきた際は激しやすい王を押しとどめることができたが、2050年の再挑戦のときは止められなかった。
結局エアルヌアはそのまま帰らず、新たな王位請求者も現れなかったため、マルディルとその子孫が統治を代行することになった。ミナス・モルグル奪取後は冥王サウロンも指輪の幽鬼も目立った動きを見せず、一応平和な時代が続いた。
オスギリアス陥落
[編集]- 10. デネソール1世(Denethor I) 2477年
- 11. ボロミア(Boromir) 2489年
2475年、モルドールからウルク=ハイの軍勢が出撃し、イシリエンを攻略してオスギリアスの都を陥落させた。かれらは執政デネソールの息子ボロミアによって撃退されたものの、オスギリアスは完全に無人となった。ボロミアは心身ともに優れた傑物であり、その勇猛さはアングマールの魔王ですら恐れを抱くほどだったが、癒えることのない呪いの傷を受けたために短命に終わった。
エオルの誓い
[編集]- 12. キリオン(Cirion) 2567年
- 13. ハルラス(Hallas) 2605年
- 14. フーリン2世(Húrin II) 2628年
- 15. ベレクソール1世(Belecthor I) 2655年
- 16. オロドレス(Orodreth) 2685年
- 17. エクセリオン1世(Ecthelion I) 2698年
- 18. エガルモス(Egalmoth) 2743年
キリオンの長い治世の間にゴンドールの敵はますます勢力を強め、南方の沿岸は海賊によって荒らされ続けた。だがより深刻な脅威は北方のロヴァニオンのバルホスだった。かれらは2510年に大河アンドゥインを渡り、一気に攻勢をかけてきた。迎撃に出たゴンドール兵がバルホスと霧ふり山脈から出現したオークの挟み撃ちに遭い、銀筋川と白光川の間のケレブラントの野に追い詰められようとしたその時、遠く北のエオセオドの国から青年王エオル率いる軍勢が駆けつけた。キリオンが援軍を求めて送った6人の使者のうち、ボロンディアだけが生き残ってかれらの元へたどり着いていたのである。
エオセオドの援軍によってケレブラントの野の合戦は勝利に終わり、ゴンドールは窮地を逃れた。3か月後、キリオンは息子ハルラスやドル・アムロスの大公らを連れ、エレンディルの墓がある聖地アモン・アンワルにエオルを招くと、その場でかれの一族にカレナルゾンの地を割譲することを宣言した。それに対してエオルは、ゴンドールの危機に際し必ず駆けつけるという友好の誓いを立てた。
こうしてローハンの国が誕生し、ゴンドールの心強い味方となった。
ローハンの長い冬
[編集]- 19. ベレン(Beren) 2763年
- 20. ベレゴンド(Beregond) 2811年
ベレンの時代に、ウンバールとハラドから3つの大艦隊が差し向けられて沿岸を荒らしまわり、ゴンドールは大打撃をこうむった。艦隊はアイゼン川河口のような北にまで進出したため、ローハンまでもが襲撃を受けた。
2758年の冬は5か月の長きにわたり、白の山脈に追い詰められたロヒアリムたちは身動きが取れず、槌手王ヘルムも死亡した。しかし南方のゴンドールでは寒さもひどくはなく、ベレンの息子ベレゴンドが援軍を率いてローハンから侵略者たちを撃退した。
2759年、サルマンがベレンの元を訪れてオルサンクの鍵を受け取った。後世、かれの狙いはパランティーアにあったといわれているが、この時点でのサルマンは善意からアイゼンガルドの管理を申し出たのであり、ゴンドールやローハンにとっては頼もしい西の守りだった。
ボロミア以来の偉大な大将であるベレゴンドが父の後を継ぐと、ようやくゴンドールもかつての力を取り戻し始めた。ドワーフとオークの戦争が行われたのはかれの時代だが、南方には噂しか伝わってこなかった。
白の木の死
[編集]- 21. ベレクソール2世(Belecthor II) 2872年
- 22. ソロンディア(Thorondir) 2882年
ベレクソール2世の死とともに、ミナス・ティリスの白の木もまた枯れた。しかし若木が見つからなかったため、枯れた木は「王還りますときまで」そのまま残された。
冥王再来
[編集]- 23. トゥーリン2世(Túrin II) 2914年
- 24. トゥアゴン(Turgon) 2953年
モルドールのオークはその数を増し、イシリエンからほぼすべてのゴンドール国民が退避した。これに対抗して、トゥーリン2世はイシリエンの各地に兵士たちのための隠れ場所を建設した。後にフロド・バギンズとサムワイズ・ギャムジーが訪れるヘンネス・アンヌーンはその1つである。また、カイア・アンドロス島の防備も強化された。
だが、より大きな危険は南方にあり、南ゴンドールを占領したハラドリムをポロス川沿いにくい止める必要があった。このときエオルの誓いを果たすため、ローハン王フォルクウィネは双子の息子フォルクレドとファストレドを派遣した。ロヒアリムの助力を得てトゥーリンは勝利するが、両王子はともに還らぬ人となり、川のほとりの塚山に葬られた。
2951年、冥王サウロンが公然と名乗りを上げ、モルドールに帰還するとバラド=ドゥーアを再建した。さらにトゥアゴンが死ぬと、サルマンはアイゼンガルドを私物化し始めた。
星の鷲
[編集]- 25. エクセリオン2世(Ecthelion II) 2984年
叡智の人エクセリオン2世はゴンドールの守りを固めるために国内外から優秀な人物を募集し、頼りになるとわかった者には高い地位と褒美を与えた。なかでも最も重用されたのは「星の鷲」ソロンギルと呼ばれる男だったが、かれの出自や本名を知るものは誰もいなかった。ソロンギルは陸海問わず多くの戦果を上げたが、2980年にウンバールへ夜襲をかけたのを最後にミナス・ティリスには戻らずどこかへ去っていった。
最後の統治代行者
[編集]- 26. デネソール2世(Denethor II) 3019年
デネソールは文武に長け、王者の風格を備えた人物だった。しかし長きにわたるパランティーアを通じた冥王との精神戦がかれの心を蝕み、息子を2人とも喪ったと思ったときに限界に達して自らを火葬にしてしまった。
王の帰還
[編集]父デネソールの死に伴い執政職を継承したファラミアは、王の血を引くアラゴルンに統治権を返上した。その場で改めて執政に任命されたファラミアは、王の戴冠式を取り仕切った後、イシリエンの領主として新たな時代を生きた。
ファラミアが第四紀82年に没すると、息子のエルボルンが後を継いだという。
系譜
[編集]※ かっこ付きの数字は、何代目の統治権を持った執政かを示している。
フーリン | |||||||||||||||||||||||||
ペレンドゥア | |||||||||||||||||||||||||
狩猟者 ヴォロンディル | |||||||||||||||||||||||||
マルディル ヴォロンウェ(1) | |||||||||||||||||||||||||
エラダン(2) | |||||||||||||||||||||||||
ヘリオン(3) | |||||||||||||||||||||||||
ベレゴルン(4) | |||||||||||||||||||||||||
フーリン1世(5) | |||||||||||||||||||||||||
トゥーリン1世(6) | |||||||||||||||||||||||||
ハドル(7) | |||||||||||||||||||||||||
バラヒア(8) | |||||||||||||||||||||||||
ディオル(9) | 娘 | ||||||||||||||||||||||||
デネソール1世(10) | |||||||||||||||||||||||||
ボロミア(12) | |||||||||||||||||||||||||
キリオン(12) | |||||||||||||||||||||||||
ハルラス(13) | |||||||||||||||||||||||||
フーリン2世(14) | |||||||||||||||||||||||||
ベレクソール1世(15) | |||||||||||||||||||||||||
オロドレス(16) | モルウェン | ||||||||||||||||||||||||
エクセリオン1世(17) | |||||||||||||||||||||||||
エガルモス(18) | |||||||||||||||||||||||||
ベレン(19) | |||||||||||||||||||||||||
ベレゴンド(20) | |||||||||||||||||||||||||
ベレクソール2世(21) | |||||||||||||||||||||||||
ソロンディア(22) | |||||||||||||||||||||||||
トゥーリン2世(23) | |||||||||||||||||||||||||
トゥアゴン(24) | |||||||||||||||||||||||||
ドル・アムロス大公 アドラヒル | エクセリオン2世(25) | ||||||||||||||||||||||||
フィンドゥイラス | デネソール2世 | ||||||||||||||||||||||||
ボロミア | ファラミア | エオウィン | |||||||||||||||||||||||
エルボルン | |||||||||||||||||||||||||