コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ザカリーヤー・カズウィーニー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
磁器製、くりがた装飾、下絵付のタイル。ザカリーヤー・カズウィーニーの著書『被造物の驚異と万物の珍奇』を示す絵柄。19世紀イラン製[1]

ザカリーヤー・イブン・ムハンマド・アルカズウィーニーアラビア語: زكرياء ابن محمد القزوينى‎, ラテン文字転写: Zakarīyā’ ibn Muḥammad al-Qazwīnī )、1203年 - 1283年)あるいはザカリーヤー・カズウィーニーペルシア語: زکریا قزوینی‎)は、ペルシア人法学者、宇宙構造論学者、地理学者である[2][3]。「宇宙誌」として有名な2冊の書、博物誌被造物の驚異と万物の珍奇英語版 (アラビア語: عجائب المخلوقات وغرائب الموجودات‎)』及び地理書『諸国の遺跡と信者の情報 (アラビア語: آثار البلاد وأخبار العباد‎)』を編纂、執筆したことで知られる[4]

経歴

[編集]

カズウィーニーは、そのニスバが示す通り、現在はイランカズウィーンで13世紀の初頭に生まれた[4][3]。カズウィーニーの一族は、古くからカズウィーンに定住していたが、祖先は有名な教友アナス・ブン・マーリク英語版の系譜でアラブに起源を持つ、とする説もある[3]。カズウィーニーは、モンゴルペルシア侵攻に際して西方へ逃れ、モースル法学哲学を中心に、地理学天文学地質学植物学動物学なども学んだ[4][5]哲学者論理学者アスィールッディーン・アブハリーや、歴史家イブン・アスィールにも教えを受けたとされる。法学に精通し、ワースィトヒッラなどイラクとペルシアのいくつかの都市で、裁判官を務めた。ワースィトでは、マドラサで教鞭もとっていたという[4]

裁判官としての活動を辞めた後、カズウィーニーは知識の蒐集と学問の習得に勤しみ、メソポタミアシリアなども旅した後、イルハン朝バグダード太守アターマリク・ジュワイニーの庇護下に入った。カズウィーニーが編纂した博物誌『被造物の驚異と万物の珍奇』も、ジュワイニーに献じられたものである[5][2]

業績

[編集]
『被造物の驚異と万物の珍奇』写本(メトロポリタン美術館所蔵)の標題紙[6]

カズウィーニーが編纂、執筆した書として有名なものが、博物誌『被造物の驚異と万物の珍奇』と、地理書『諸国の遺跡と信者の情報』である。19世紀ドイツ東洋学者で、両書を編集しドイツで出版したヴュステンフェルト英語版は、この二書を合わせて「宇宙誌」と呼んだ。これは、森羅万象の膨大な情報をとり上げ、それらを神の顕現とみなす著作ということで、カズウィーニーのものはそのような書の代表である[4]。これらの書には、カズウィーニーの博覧強記ぶりが表れている[2]

『被造物の驚異と万物の珍奇』

[編集]

『被造物の驚異と万物の珍奇』は、12世紀にアフマド・トゥースィーによって著された同名の書があり、カズウィーニーの書も共通の枠組みを用い、多くの引用を行うなど、トゥースィーの書から大きな影響を受けているが、カズウィーニーの書の方が知識の体系化や網羅性が徹底しており、より幅広い読者に浸透したことで、『被造物の驚異と万物の珍奇』といえばまずカズウィーニーの書が思い浮かべられることが多い[7][8][4]

『被造物の驚異と万物の珍奇』は、カズウィーニーの知識の蒐集と学問の習得の帰結だが、これを編纂した動機は主に信仰心であり、あらゆる自然現象、森羅万象は称うべき神の御業であるとする世界観を表明し、読者の注意をそこへ向けようとしている[5][4]

カズウィーニーの『被造物の驚異と万物の珍奇』は、一部の専門家向けではなく、より広範な読者層に向けて著された書であり、カズウィーニーは編纂者として、諸文献の記述をそのまま盛り込むのではなく、取捨選択し整理して矛盾や破綻を排し、議論が複雑化しないように努めている。同じ意図で、カズウィーニーの書には豊富な挿絵が挿入されており、多くの写本が作られ、広く流布した[4]。原典はアラビア語で著されたが、ペルシア語トルコ語への翻訳も行われている[2][8]

『諸国の遺跡と信者の情報』

[編集]

『被造物の驚異と万物の珍奇』が博物誌であるのに対し、『諸国の遺跡と信者の情報』は主として地理学を扱っている。不可視のものも理解できるよう可視化を重視し、挿絵が豊富だった『被造物の驚異と万物の珍奇』とは対照的に、地理的情報を対象とする『諸国の遺跡と信者の情報』は、記述は具体性に富んでいるが、通常写本において挿絵は施されていない[4]

出典

[編集]
  1. ^ Carreaux de revêtement XIXe siècle”. Musée du Louvre. 2020年11月13日閲覧。
  2. ^ a b c d Bio-Bibliographies - Q”. Islamic Medical Manucscripts. U.S. National Library of Medicine. 2020年11月13日閲覧。
  3. ^ a b c Lewicki, T. (2012), “al-Ḳazwīnī”, in Bearman, P.; Bianquis, Th.; Bosworth, C.E. et al., Encyclopaedia of Islam (Second ed.), Brill, doi:10.1163/1573-3912_islam_SIM_4093, ISBN 9789004161214 
  4. ^ a b c d e f g h i 岡﨑桂二「カズウィーニー『被造物の驚異と万物の珍奇』における天使論 —ワースィト写本に即して—」『四天王寺大学紀要』第57巻、1-30頁、2014年3月http://www.shitennoji.ac.jp/ibu/docs/toshokan/kiyou/57/kiyo57-01.pdf 
  5. ^ a b c 林則仁「中世イスラーム世界における異形の種族の絵画表現の基礎的分析 —カズウィーニー著『被造物の驚異』の挿絵を中心に—」『龍谷大学国際社会文化研究所紀要』第22巻、185-199頁、2020年6月30日。ISSN 1880-0807https://cir.nii.ac.jp/crid/1050019302702421888 
  6. ^ Double Title Page from a `Aja'ib al-Makhluqat wa Ghara'ib al-Mawjudat (The Wonders of Creation and the Oddities of Existence)”. The Metropolitan Museum of Art. 2020年11月13日閲覧。
  7. ^ 守川 知子 監訳、ペルシア語百科全書研究会 訳注「ムハンマド・ブン・マフムード・トゥースィー著 『被造物の驚異と万物の珍奇』(1)」『イスラーム世界研究』第2巻、第2号、198-218頁、2009年3月。doi:10.14989/79932 
  8. ^ a b 山中由里子「未知との遭遇—驚異と怪異の比較研究」『怪異・妖怪文化の伝統と創造—ウチとソトの視点から』第45巻、31-42頁、2015年1月30日。doi:10.15055/00002145 
  9. ^ Earth - World Treasures: Beginnings”. Exhibitions. Library of Congress. 2020年11月13日閲覧。
  10. ^ a b Catalogue: Natural History”. U.S. National Library of Medicine. 2020年11月13日閲覧。
  11. ^ Folio from a Aja-ib al-Makhluqat (Wonders of Creation) by al-Qazvini”. National Museum of Asian Art. Smithonian Institution. 2020年11月13日閲覧。
  12. ^ An Elephant”. The Walters Museum. 2020年11月13日閲覧。
  13. ^ A Turkey and a Bird Called Abu Haruz”. The Walters Museum. 2020年11月13日閲覧。
  14. ^ A Monster of Gog and Magog”. The Walters Museum. 2020年11月13日閲覧。

関連文献

[編集]

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]