ザハール・プリレーピン
ザハール・プリレーピン Zakhar Prilepin Захар Прилепин | |
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プリレーピン 2020年 | |
ペンネーム | ザハール・プリレーピン |
誕生 |
エフゲニー・ニコラエヴィッチ・プリレーピン 1975年7月7日(49歳) ソビエト連邦 ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国, リャザン州イリインカ[1] |
職業 | 作家, ジャーナリスト, 政治家 |
最終学歴 | ニジニ・ノブゴロド州立大学 |
活動期間 | 2003年– |
ジャンル | 小説, エッセイ |
文学活動 | 写実主義文学, ファンタジー |
代表作 |
『病理学 (小説)』 『サニキャ (小説)』 『罪 (プリレーピンの小説)』 『僧院』 (小説) |
公式サイト |
zaharprilepin |
ウィキポータル 文学 |
エフゲニー・ニコラエヴィッチ・プリレーピン(Yevgeny Nikolayevich Prilepin;ロシア語: Евге́ний Никола́евич Приле́пин;[2][3][4][5] 1975年7月7日 -)は、ロシアの作家で、政党「真実のために」の党首を2020年2月1日から2021年2月の「公正ロシア」への合併まで務めた[6]。ザハール・プリレーピン(Zakhar Prilepin;ロシア語: Захар Прилепин)、エフゲニー・ラヴリンスキー(Yevgeny Lavlinsky;ロシア語: Евгений Лавлинский)とも称する。
以前は、国家ボリシェヴィキ党に1996年から2019年まで所属していた。
ヤースナヤ・ポリャーナ文学賞などいくつもの文学賞を受賞している[7]。
経歴
[編集]エフゲニー・プリレーピンは1975年7月7日に、リャザン州イリインカで教師と看護師の家庭に生まれた。1984年までその地に住み、その後ジェルジンスクに移った[8]。16歳の時にパン商店で運搬人として働き始めた[3]。ニジニ・ノブゴロド州立大学文献学部と公共政策学部を卒業した。彼は肉体労働者、警備員として働き、ロシア警察の対テロ特殊部隊であるOMONに分隊長として務め、1996年から1999年まで第一次チェチェン紛争の戦闘に参加した[3][7]。
1999年、経済難のためOMONを退職し、ニジニ・ノヴゴロドの新聞『デロ』でジャーナリストの職に就いた。彼はいくつもの筆名を使ったが、最も著名なのはエフゲニー・ラヴリンスキーであった。2000年には編集長になり、同時期に最初の小説『病理学』を書き始めた[8]。
プリレーピンは禁止されているロシア国家ヴォルシェビキ党の党員であり[3]、政党「もう一つのロシア」を支援し、2007年3月24日に行われたニジニ・ノヴゴロド反体制デモ行進に参加した。2012年7月、彼は短篇『同志スターリンへの手紙』を発表したが[9][10]、これは近代ロシアの「自由主義社会」に反対するスターリニズム的批評で、反ユダヤ主義と広くみなされた[11][12][7]。
プリレーピンと政治家ウラジスラフ・スルコフとの交友関係はしばしば報道されているが、スルコフの従弟はプリレーピンの妹イェレナと結婚している[13]。
2017年2月にプリレーピンは長いインタビューに応じ、その中で自称ドネツク人民共和国の志願兵大隊リーダーだったと明かしている。この軍隊はドンバスの親ロシア派分離主義勢力の特殊部隊第4偵察突撃隊であり、「プリレーピン大隊」として知られていた。プリレーピンはこの部隊が2016年7月に彼の主導で結成されたと主張し、「我々は白馬に乗って放棄した町々に入った」と語った。さらに彼は、少佐の階級で副官だったと言った[14][15]。プリレーピンは部隊の中で影響力があり、「マロロシア」の概念は彼が作り上げたと思われる[16]。2018年7月下旬、プリレーピンは「復員」してモスクワに戻った[17]。彼が主導した部隊は2018年9月に解散した[18][19]。2019年8月15日ロシアのニュースサイトZnak.comによるインタビューで、プリレーピンはその部隊が他のどの部隊よりもウクライナ人を殺害したと述べたが、これには異議が唱えられた[20][21][22]。彼はウクライナでテロ容疑で指名手配されており、ボスニア・ヘルツェゴヴィナには治安上の理由で入国を拒否されている[20][23]。
2018年11月29日、彼は全ロシア人民戦線に参加した[24]。これにより彼は、エドワルド・リモノフが創設した「もう一つのロシア」から除名されたが、リモノフはかつて同志であり、プリレーピンに対し二つの政党のどちらかを選べと語っていた[25]。
2019年10月29日、彼は公的運動「真実のために」を創設した。彼は運動を政党に発展させ2021年ロシア下院選挙に参加するのを目指していた[26]。しかし、この組織は2021年2月に「公正ロシア」に合併した[6]。
2023年1月、プリレーピンはロシア国家親衛隊に参加しウクライナの戦闘に再び参戦する契約にサインした[27]。
同年5月6日にプリレーピンが乗った車が仕掛けられた爆発物によって爆破され、運転手は死亡しプリレーピンは両足を負傷した。露当局は関わったとされる人物を拘束した[28]。
影響
[編集]プリレーピンはソビエト連邦の小説家レオニード・レオーノフを尊敬している。レオーノフの伝記はプリレーピンが執筆している[29]。
プリレーピンが好んでいる作家には、ガイト・ガズダノヴ、ロマン・ガリー、ボリス・ザイツェフ、トーマス・マン、ヘンリー・ミラー、アナトリー・マリエンホフ、ウラジーミル・ナボコフ、エドワルド・リモノフ、アレクサンダー・プロハノフ、ジョナサン・フランゼン、そしてミハイル・ショーロホフがいる。彼は又19世紀末から20世紀初頭にかけたロシアの詩と、ラテンアメリカの詩、そして現代ギリシャの詩も好んでいる。最も愛好しているのはロシアの叙情詩人セルゲイ・エセーニンである[30]。
私生活
[編集]プリレーピンはマリアという名の女性と結婚し、息子が2人、娘が2人いる。ニジニ・ノブゴロドに住んでいて、犬も飼っている[8][31]。彼の妹イェレナは、ジェルジンスクで母親と暮らしている[3]。父親は1994年に亡くなった[8]。
著作
[編集]小説
[編集]- 病理学 (小説). Andreevsky Flag, Moscow 2005, 250 pages[注釈 1]
- サニキャ (小説). Ad Marginem, Moscow 2006, 280 pages[注釈 2][32]
- 罪 (プリレーピンの小説). Vargius, Moscow 2007
- 黒い猿 Чёрная обезьяна. AST, Moscow 2012
- 僧院 Обитель. AST, Moscow 2014[注釈 3]
短篇
[編集]- 熱いウォッカに満ちた靴 (短編集)Ботинки, полные горячей водкой. AST, Moscow 2008
- 戦争 Война. AST, Moscow 2008
- 革命 Революция. AST, Moscow 2009
エッセイ
[編集]- 私はロシアから来た Я пришёл из России. Moscow 2008
- テラ タルタララ。これは個人的に気になる Terra Tartarara. Это касается лично меня (エッセイ集). AST, Moscow 2009
- 空飛ぶ船引き Летучие бурлаки. AST, Moscow 2014
その他の著作
[編集]- レオニード・レオーノフ:彼の劇は素晴らしい Леонид Леонов: Игра его была огромна. Molodaya Gvardiya, Moscow 2010[33]
- 本を見る人 Книгочёт. Astrel, Moscow 2012
- 心の誕生日。ロシア文学との対話 Именины сердца. Разговоры с русской литературой. AST, Moscow 2009
日本語翻訳作品
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]脚注
[編集]- ^ “Захар Прилепин – Биография”. Zaharprilepin.ru. 19 August 2013閲覧。
- ^ “Захар Прилепин | Новая литературная карта России”. Litkarta.ru. 19 August 2013閲覧。
- ^ a b c d e “Прилепин, Захар”. Lenta.ru. 19 August 2013閲覧。
- ^ “Биография Захара Прилепина | Анонимная Правда”. Sta-sta.ru. 19 August 2013閲覧。
- ^ Medved magazine, No 3 (138), 2010
- ^ a b “Манифест”. spravedlivo.ru. 2 June 2022閲覧。
- ^ a b c 沼野充義, 沼野恭子 編訳『ヌマヌマ : はまったら抜けだせない現代ロシア小説傑作選』河出書房新社、2021年10月、184頁。ISBN 978-4-309-20840-4。
- ^ a b c d “ВСЁ СБЫЛОСЬ” (ロシア語). zaharprilepin.ru. 18 August 2021閲覧。
- ^ “Письмо товарищу Сталину – Общество – Свободная Пресса”. svpressa.ru (30 July 2012). 19 August 2013閲覧。
- ^ 松下隆志「ザハール・プリレーピン、あるいはポスト・トゥルース時代の英雄」『ゲンロン』(6), 2017.9.15, p76-77
- ^ “Ежедневный Журнал: Дебютант”. Ej.ru (24 September 2012). 19 August 2013閲覧。
- ^ “МЫ ЗДЕСЬ | Публикации | Сифилис антисемитизма”. Newswe.com. 19 August 2013閲覧。
- ^ “Захар Прилепин” (ロシア語). Скачать бесплатно книги в FB2 и EPUB форматах. 19 August 2021閲覧。
- ^ Захар Прилепин собрал в ДНР свой батальон
- ^ Following "Russia's Hemingway" to War, Atlantic Council's Digital Forensic Research Lab (28 April 2017)
- ^ From "Malorossiya" With Love?, Atlantic Council's Digital Forensic Research Lab (18 July 2017)
- ^ Russian writer quits Donbas terrorists' ranks, moves back to Moscow, UNIAN (18 July 2017)
- ^ Все хотят освобождения всех земель Новороссии
- ^ #MinskMonitor: The Rise and Fall of "Prilepin's Battalion"
- ^ a b “Best-Selling Russian Author Boasts Of 'Killing Many' In Ukraine's Donbas” (英語). RadioFreeEurope/RadioLiberty. 10 December 2022閲覧。
- ^ “Russian Novelist Brags His Battalion Killed the Most Ukrainians” (英語). Polygraph.info (ボイス・オブ・アメリカ). (2019年8月21日) 2024年9月7日閲覧。
- ^ “Militant Prilepin is offended that killing of large number of people is not recognized for his battalion” (英語). 10 December 2022閲覧。
- ^ “A Stolen Ukrainian Icon Reveals a Web of Secret State and Nonstate Connections | Wilson Center” (英語). www.wilsoncenter.org. 28 March 2021閲覧。
- ^ ОНФ подвёл итоги первой пятилетки и обновил руководство
- ^ Эдуард Лимонов исключил Захара Прилепина из партии «Другая Россия». За членство в ОНФ
- ^ Захар Прилепин написал партию
- ^ БОЙКО, Александр (2023年1月26日). “Майор Захар Прилепин отправился на спецоперацию во главе подразделения спецназа” (ロシア語). kp.ru. 2023年2月1日閲覧。
- ^ “ウクライナ侵略支持する作家、車爆発で両脚負傷…ロシアで相次ぐ著名人への爆破テロ”. 読売新聞 2023年5月7日閲覧。
- ^ Прилепин, Захар (2012). Podelnik epokhi: Leonid Leonov. ISBN 978-5-271-42690-2
- ^ Захар Прилепин. Биография
- ^ “Прилепин, Захар Российский писатель”. lenta.ru. 18 August 2021閲覧。
- ^ Prilepin, Zakhar『Санькя : роман』Ad Marginem、2009年 。
- ^ Prilepin, Zakhar『Леонид Леонов : "игра его была огромна"』Молодая гвардия、2010年 。
- ^ 『ヌマヌマ』河出書房新社、173-183頁。
- ^ 『ヌマヌマ :ミハイル・シーシキン,沼野 充義,沼野 恭子|河出書房新社』 。
参考文献
[編集]- 松下隆志「ザハール・プリレーピン、あるいはポスト・トゥルース時代の英雄」『ゲンロン』(6), 2017.9.15, p76-92 ISBN 978-4-907188-22-1
- 座談会「帝国と国民国家のはざまで」/ 乗松亨平、平松潤奈、松下隆志、東浩紀、上田洋子. 『ゲンロン』(13), 2022.10.25, p176-226 ISBN 978-4-907188-47-4