ザ・グラス・スタジオ イン オタル
種類 | 株式会社 |
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本社所在地 |
日本 〒047-0023[1] 北海道小樽市最上2丁目16番16号[1] 北緯43度10分42.942秒 東経140度58分31.483秒 / 北緯43.17859500度 東経140.97541194度座標: 北緯43度10分42.942秒 東経140度58分31.483秒 / 北緯43.17859500度 東経140.97541194度 |
設立 | 1979年10月4日[1] |
業種 | 卸売業 |
法人番号 | 5430001050013 |
事業内容 |
各種ガラス製品の製造販売 ガラス製品の製造体験 |
代表者 | 浅原千代治(2022年時点)[1] |
資本金 | 2700万円[1] |
外部リンク | 公式ウェブサイト |
ザ・グラス・スタジオ イン オタル(The Glass Studio in Otaru)は、北海道小樽市に存在するガラス工房。ガラス職人の浅原千代治(1947年 - )が、1979年(昭和54年)に設立した工房である[2]。個人作家の工房としては小樽で最初の工房であり[3]、小樽のガラス作家工房の先駆けとされる[4][5]。法人名は「ザ・グラス・スタジオ」[6]。
沿革
[編集]代表者の浅原千代治は、自身で4代目となる大阪府のガラス製造業[2]、三友硝子工芸に生まれた[7]。小樽にある同姓のガラス業者である浅原健蔵(北一硝子社長[8])から「北海道でガラス屋をやる夢がある」「景色のいい所で製作すると美しい作品が生まれる」と誘われ、浅原自身も小樽を訪ねて、歴史、風土、小樽運河保存運動などの市民運動に惹かれた[9]。このことで浅原は、小樽でガラス業を興すことを決心し、浅原の考えに共鳴した職人たちと共に[10]、1979年(昭和54年)に小樽に移住して[11]、同1979年に小樽市緑のガラス浮き玉の廃工場を買い取り、この工房を立ち上げた[2][12]。
浅原の小樽移住には、「寒い北国はガラス工芸にふさわしい[13][14]」「小樽の風土は作品を生み出す[13][15]」「小樽は北海道の道庁所在地である札幌市の隣町であるために、商業的にも都合が良く[15][14]、北海道中心部からの情報も入りやすい[16]」「涼しい気候が高熱でのガラス作りに適している」といった考えや事情があった[3]。過去にイギリスや北ヨーロッパのガラス工芸を見て、それらと似た風土を持つ北海道に工房を開きたいとの思いも、移住への後押しとなった[7]。自らが社長となったことには、アメリカを発端とするスタジオ・グラス・ムーブメント(ガラス工芸において、自分で考えたものを自分の工房で自分で作る運動)に触発されたことで[14]、制約のない自由な環境で作品を作りたいとの思いがあった[17]。ガラス界ではかつて、デザイナーと職人が分業であり[18]、大規模となればさらにデザイナー、職人、営業と役割が分担される傾向があったが[19]、これに対して浅原は、自分たちの手による一貫作業を目指した[19]。
この工房では、それまでの小樽の浮き球とは印象の異なる、色もデザインも様々なガラス製品の製作が開始された[5]。当初は工芸品の製作のみであったが、工房の製品を求める来訪者が増加したことで、工房の一部を売店に改装して、展示販売を開始した[20]。また見学者の増加に伴い、ガラス学校の開設などで、ガラス文化の振興を図った[13][21]。
来訪者の増加に対し、従来の工房では手狭で対応できなくなったため[13]、1986年(昭和61年)3月には見学ホールを持つギャラリー兼工房が、天狗山麓の小樽市最上に建設され、そちらへ移転した[12][22]。この新工房は、来訪者の利便と、工房での作業効率に主眼を置いた工房である[13]。土地は北海道中央バスから借り、小樽天狗山スキー場のバス停留所でもあるため、雪かきが不要である上に、観光客を呼び込むにも適しているといった利便性があった[23]。
当時は秘密とされていた吹きガラスの創作を、この新工房では公開し、見学用の回廊を付けた[6]。製作方法を公開したのは、「技術は伝承できるが、感性は伝承できない」との考えによるものであり[18]、この発想は、当時としては画期的なものであった[6]。1989年(昭和64年)には、工房開設十周年を記念して、工房に隣接して、喫茶コーナーを備えた新館「グラス・スタジオ・アネックス」が建設された[22]。
1995年(平成7年)には、小樽市を舞台とした映画『Love Letter』の撮影場所としても用いられた[24]。2014年(平成26年)には、革新的な商品開発や地域貢献に取り組む企業を称えるために、北海道経済産業局により選定される「地域でがんばる中小企業・小規模事業者」の一つとして選定された[18][25]。
小樽では、伝統業であった漁業用のガラス製の浮き玉作りが、1990年代以降のガラスブームにより土産物として人気を博しており、この工房を皮切りに、北一硝子のガラスギャラリー、小樽運河工芸館など、続々とガラス関連事業が立ち上がるきっかけにもなった[26]。
特徴
[編集]建物は、1階がガラス工房、2階が売店となっている[27]。工房では、プロの作家の指導のもとでの吹きガラス体験もでき、一輪挿しやグラスなどを製作することもできる[28][29]。日付や名前を入れることもできるため、オリジナルの土産品作りに適している[29]。
2階の店内では、ガラス製の雛人形などの芸術性の高い商品から、グラスや食器など実用的な商品まで、さまざまな商品が広い店内に所狭しと並んでいる[28]。作家ごとの作品展示コーナーも用意されている[11][30]。「小樽ブルー」など、小樽の四季をテーマにした作品[4]、小樽の海や空などの自然をイメージした作品も多い[31]。
1階と2階は吹き抜けの構造であり[32]、工房が2階の店舗の階下にあることから、店舗から階下の工房での制作風景を見学できる作りになっている[11]。建物は天狗山の麓の高台に位置しており、建物からは小樽の市街地、石狩湾の海、遠くの増毛連峰の山々を望むこともできる[11]。
芸術的な作品作りに取り組むガラス工房の先駆けとされ、多くの若手を育てる場にもなっている[11]。この工房で修業を積んだ後に、独立して自らの工房を構えた作家も少なくない[11]。「ザ・グラススタジオ・イン・函館」やアメリカなど[2]、この工房出身者による工房が、日本国内外に開かれている[4]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e f “会社概要”. ザ・グラス・スタジオ イン オタル (2016年). 2022年10月4日閲覧。
- ^ a b c d 佐々木 1997, p. 57
- ^ a b 佐々木 1997, p. 61
- ^ a b c 宮坂麻子「日本一のガラスを吹く 小樽ガラス・北海道」『朝日新聞』朝日新聞社、2007年11月13日、東京夕刊、5面。
- ^ a b 北海道新聞社 1984, p. 178
- ^ a b c 津野慶「街・キラリ・輝け 小樽のガラス工房 ザ・グラス・スタジオ イン オタル 若者に技術吹き込む」『北海道新聞』北海道新聞社、2006年1月13日、樽B朝刊、27面。
- ^ a b 秋岡 & 谷川 1983, p. 152
- ^ 斉藤高広「私のなかの歴史 北一硝子社長 浅原健蔵さん ランプにきらめく夢 小樽ガラス 日本一の輝き これからも」『北海道新聞』2011年1月31日、全道夕刊、3面。
- ^ 「“民の力”で迎えた市制100年・北海道小樽市(4)「小樽ガラス」が紡ぐ歴史と未来 - シンポジウム2」『トラベルニュースat』トラベルニュース社、2022年6月15日、4面。2022年10月4日閲覧。
- ^ 浅原 1991, pp. 56–57
- ^ a b c d e f 交通新聞社 2016, p. 111
- ^ a b 「91潮流 対談 魅惑の風舞う北の大地」『北海道新聞』1991年11月2日、全道朝刊、6面。
- ^ a b c d e 小樽市 2000, pp. 540–541
- ^ a b c 集英社 1990, p. 292
- ^ a b 小林 1990, pp. 68–69
- ^ 大石 1997, pp. 64–65
- ^ 小林 1990, pp. 70–71
- ^ a b c 「道経産局選定! がんばる中小企業“ザ・グラス・スタジオ”」『小樽ジャーナル』小樽ジャーナル社、2014年4月16日。2022年10月4日閲覧。
- ^ a b 高峰武「北の冷気が育む透明感」『熊本日日新聞』熊本日日新聞社、1992年4月5日、朝刊、11面。
- ^ 大石 1997, pp. 66–67
- ^ 浅原 1991, pp. 68–69
- ^ a b 「ガラスのお城、12日オープン」『北海道新聞』1989年11月2日、全道朝刊、21面。
- ^ 浅原 1991, pp. 60–61
- ^ 早川恭只, 津上英輔「人はなぜ旅に出るのか : 現代日本映画における旅表象に徴して」『成城文藝』第237/238巻、成城大学文芸学部、2016年12月、179頁、ISSN 0286-5718、CRID 1050282677573479424、2023年5月29日閲覧。
- ^ 竹中達哉「道経産局「地域でがんばる中小企業」小樽の「グラス・スタジオ」認定 市長に喜び語る」『北海道新聞』2014年4月17日、樽B朝刊、29面。
- ^ 「考察・小樽 ロマンがいざなうガラスと運河の街。開発の波に押されず“窓文化”創造へ」『日刊工業新聞』1990年11月9日、3面。
- ^ 阿部八重子「浅原千代治さんのガラス工芸(モノつくりのモノ語り)」『朝日新聞』2000年4月19日、北海道地方版、3面。
- ^ a b JTBパブリッシング 2014, p. 108
- ^ a b JTBパブリッシング 2015, p. 77
- ^ 大石 1997, p. 68
- ^ 『札幌・小樽・函館・旭川・富良野』(第9版)実業之日本社〈ブルーガイド てくてく歩き〉、2017年4月1日、66頁。ISBN 978-4-408-05730-9。
- ^ 「観光工場、作りながら魅せる時代 元祖「ビール」「ウイスキー」、人気の新顔はガラス工芸」『北海道新聞』1989年7月1日、全道夕刊、1面。
参考文献
[編集]- 浅原千代治『浅原千代治 ガラス工芸』NHK出版〈NHK工房探訪・つくる〉、1991年5月25日。ISBN 978-4-14-009151-7。
- 大石章『小樽ガラス物語』北海道テレビ放送〈HTBまめほん〉、1997年6月16日。 NCID BA31506540。
- 小林香「北に創る ガラス工芸作家浅原千代治氏 インタビュー」『北方圏 北の今・人・明日の書誌』第72号、北海道国際交流・協力総合センター、1990年7月14日、全国書誌番号:00028178。
- 佐々木譲「北の輝きに惹かれて」『太陽』第35巻第10号、平凡社、1997年8月12日、大宅壮一文庫所蔵:200142863。
- 秋岡芳夫、谷川健一 編『日本の技』 1巻、集英社、1983年2月8日。ISBN 978-4-08-180001-8。
- 『おたる再発見』北海道新聞社、1984年5月25日。 NCID BN0168215X。
- 『小樽市史』 第10巻 社会経済編、小樽市、2000年2月25日。全国書誌番号:20044630。
- 『札幌・小樽・富良野・旭山動物園』JTBパブリッシング〈楽楽 楽しい旅でニッポン再発見〉、2014年4月18日。ISBN 978-4-533-09606-8。
- 『函館・札幌・小樽さんぽ』交通新聞社〈散歩の達人MOOK〉、2016年4月1日。ISBN 978-4-330-64816-3。
- 『北海道』(改訂2版)JTBパブリッシング〈楽楽〉、2015年8月1日。ISBN 978-4-533-09542-9。
- 「小樽その美的世界 繊細で温かいグラスとすてきなホテル」『LEE』第8巻第6号、集英社、1990年6月1日、大宅壮一文庫所蔵:200086657。