シャウラセーニー
シャウラセーニー(Śaurasenī)は、中期インド・アーリア語(プラークリット)のひとつで、主にサンスクリット演劇の中で用いられる文学語である。
シャウラセーニー語・シューラセーナ語[1]とも呼ぶ。
概要
[編集]「シャウラセーニー」とは、「シューラセーナ語」を意味する。シューラセーナは十六大国時代の国名で、現在のウッタル・プラデーシュ州のマトゥラー一帯に相当するが、実際の文献では地域とは無関係に使用される。
他のプラークリットと同様、母音間の閉鎖音は脱落する傾向があるが、マーハーラーシュトリーほど極端ではなく、t/th は有声化して d/dh に変化するにとどまる[2]。マーガディーのような特殊な子音変化を持たない、比較的特徴の少ない言語である。
文献
[編集]演劇
[編集]サンスクリット古典劇の会話において、シャウラセーニーは主要なプラークリットである。たとえば王族の男性はサンスクリットを話すが、女性やヴィドゥーシャカ(道化)はシャウラセーニーを話す[2]。この特徴は馬鳴の劇『シャーリプトラ・プラカラナ』にもすでに見られる。ラージャシェーカラの『カルプーラ・マンジャリー』(9・10世紀ごろ)は全編プラークリットで書かれているが、会話部分にはやはりシャウラセーニーが使われている。
ジャイナ教シャウラセーニー
[編集]ジャイナ教のうちディガンバラ派(空衣派)はアルダマーガディー語で書かれた経典(アーガマ)の権威を認めず、その教理書はサンスクリットか、またはシャウラセーニーに似た言語で書かれた。後者をジャイナ教シャウラセーニーと呼ぶ。ジャイナ教シャウラセーニーで書いた著者のうち、2世紀のクンダクンダは特に有名である。
文法書
[編集]ヴァラルチの作と伝える『プラークリタプラカーシャ』ははじめマーハーラーシュトリーの文法書であったが、後にシャウラセーニー・マーガディー・パイシャーチーの文法が加えられた[3]。
脚注
[編集]参考文献
[編集]- Bubenik, Vit (2003). “Prakrits and Apabhraṃśa”. In Cardona, George and Jain, Dhanesh. Indo-Aryan Languages. Routledge
- 風間喜代三「プラークリット(語)」『言語学大辞典』 3巻、三省堂、1992年、756-758頁。ISBN 4385152179。
- 『シャクンタラー』のシャウラセーニーと、同じ内容をサンスクリットに直したものが対比されている。