シンジケートローン
シンジケートローン(英語: Syndicated loan)とは、借入人に対して、複数の貸付人(金融機関)が同一の契約で実施する融資(ローン)のこと。略してシローンとも呼ばれる。
概要
[編集]複数の金融機関などがシンジケート団を組み、同一の融資契約書に基づき、同一条件で信用供与を行う融資形態である[1]。分類としては間接金融であるが、社債発行における市場型取引と似通っているため、市場型間接金融と位置づけられる[1]。
資金を調達する企業はシンジケート団組成条件を「アレンジャー( 不動産の証券化などで関係者の調整をする者 )」から受け、合意した場合は、アレンジャーにシンジケート組成の委託を行う[1]。「アレンジャー」はインフォメーションレターを参加金融機関に配布し、参加表明した金融機関とシンジケート団を組成し、融資条件を調整する[1]。
資金を借りる場合、調達企業が「エージェント」に融資申し込みを行い、参加金融機関はシンジケート口座に入金し、調達企業へ個別に貸し出す[1]。元利金を支払う場合、調達企業は「エージェント」に一括して元利金を支払い、「エージェント」は参加金融機関に元利金を振り分けて支払い処理を行う[1]。また、「エージェント」は契約条項の履行管理も行う[1]。なお、一般的にはメインバンクが「アレンジャー」「エージェント」の双方を務めることが多いが、それ以外の金融機関が務める場合もある。
日本国内においては、契約書はJSLA(日本ローン債権市場協会)の標準契約書をベースにすることが多い[要出典]。また、債権譲渡もJSLAの契約をベースに行われている[要出典]。
当事者
[編集]- 借入人
- 融資の借入人。アレンジャーの指名(マンデート)を行う。基本的には、借入の調整は基本的にはアレンジャーとのみ行い、借入後の事務はエージェントのみと行う。
- 貸付人(シンジケート団)
- アレンジャーが貸付人を招聘し、エージェントが融資事務管理を行う。なお、アレンジャー・エージェントはアレンジメント業務・エージェント業務を受託するのみで貸付を行わない場合もあり得る。
- アレンジャー(幹事) - 借入人から指名を受けて、借入人との条件調整、貸付人の招聘等を行う。借入人より組成手数料(アレンジメントフィー)を受領する。
- ブックランナー(主幹事) - アレンジメント業務を実質的に取り仕切る者
- マンデーテッドリードアレンジャー(主幹事) - 借入人よりアレンジャーのマンデートを受けた者の称号
- リードアレンジャー(主幹事) - アレンジャーが複数いる場合に序列を表すために使用されることがある称号
- ジョイントアレンジャー・共同アレンジャー(共同幹事) - アレンジャーが複数いる場合に使用されることがある称号
- コアレンジャー(副幹事) - アレンジャーに準じた名誉的な称号としてコアレンジャーの名称が使われることもある。実質的にパーティシパントに近い。
- パーティシパント(参加者/参加金融機関/参加行/投資家) - 特別な役割が与えられていない貸付人。「平参加」ともいう。
- エージェント - 融資事務を受託し、借入人と貸付人の間に入り窓口となる。借入人より事務手数料(エージェントフィー)を受領する。以下の通り業務別に複数のエージェントで役割分担を行う場合もある。
- ファシリティエージェント - 借入人からの通知の貸付人への取次や、貸付人の意思決定の取りまとめ等を実施
- ペイイングエージェント - 資金決済関連の事務を実施
- セキュリティエージェント - 担保管理関連の事務を実施
種類
[編集]- ローン形態
- タームローン
- 基本的に長期(1年以上)の融資形態。主に設備投資資金、長期の運転資金、借り換え(リファイナンス)資金等に活用。
- コミットメント型タームローン
- タームローンのうち、定められた期間内に実行が可能な形態。設備投資資金で実行時期が複数に分かれる場合等に活用。
- コミットメントライン
- 定められた限度額・期間内で実行可能な短期の融資形態。主に運転資金等に活用。
- 募集方式
- クラブディールシンジケーション
- 既存取引金融機関など限られた金融機関によりシンジケート団を組成
- ジェネラルシンジケーション
- 新規取引金融機関などを幅広く募集してシンジケート団を組成
- 組成の方式
- アンダーライト方式
- アレンジャーが組成額全額の融資を引き受ける方式。貸付人を集められない場合はアレンジャーが融資を行う必要がある一方、アレンジメントフィーが相対的に高い傾向にある。
- ベストエフォート方式
- アレンジャーが組成額全額を引き受けない方式。貸付人が集まらない可能性もあるが、アレンジメントフィーが相対的に安い傾向にある。
手順
[編集]- 組成・実行
- アレンジャーが借入人に条件を提案(タームシートを提示)
- 借入人がアレンジャーにマンデートを付与(マンデートレターを提出)
- アレンジャーが貸付人候補にインフォメーションメモランダム(案件説明資料)を提示し、招聘活動開始(ローンチ)
- 貸付人候補はコミットメントレター(参加表明書)をアレンジャーに提出
- アレンジャーが各貸付人への融資金額の割当(アロケーション)を確定
- アレンジャーが契約書の調整・作成を実施
- 契約書調印 - 当事者が多いため、各当事者が押印した調印頁をエージェントに送り、エージェント側で製本することが多い
- 融資実行 - 各貸付人がエージェント口座に
- 管理・返済
- 借入人は元利払いをエージェントに一括で行い、エージェントから各貸付人に分配することが多い
- 借入人はコベナンツに規定された資料提出は、エージェントに一括で行い、エージェントから各貸付人に資料展開されることが多い
契約
[編集]複数の貸付人が同一の契約書に調印するため、標準化されたJSLA(日本ローン債権市場協会)の標準契約書を使う。また、コベナンツが付される事が多い。
- 主なコベナンツ
- 報告・情報提供義務条項
- 担保制限(ネガティブ・プレッジ)条項
- 財務制限条項
- 例:PL「経常利益が2期連続して赤字にならないこと」、BS「純資産が前期比75%を下回らないこと」
メリット・デメリット
[編集]- 借入人のメリット
- 借入人のデメリット
- 手数料(アレンジメントフィー、エージェントフィー等)が必要[2]
- アレンジャーのメリット
- アレンジャーのデメリット
- アンダーライト方式の場合、貸付人を集められないと自身で組成額全額を融資する必要がある
- 貸付人(パーティシパント)のメリット
- 貸付人(パーティシパント)のデメリット
市場
[編集]全国銀行協会の統計によると、日本のシンジケートローンの市場規模は以下の通り[3]。
- 組成件数(2020年):2,968件(タームローン1,675件、コミットメントライン1,293件)
- 組成金額(2020年):34兆5,358億円(タームローン18兆7,397億円、コミットメントライン15兆7,961億円)
- 残高(2020年12月末):94兆3,830億円(タームローン68兆182億円、コミットメントライン26兆3,648億円)
事例
[編集]- 典型的な例
- 借入人の大企業(主に東京・大阪に所在)のメインバンク(メガバンク等)がアレンジャーになり、地方銀行の東京支店・大阪支店等がパーティシパントとして参加(社債による資金運用と同様)。
- 借入人の地域有力企業のメインバンク(地方銀行)がアレンジャーになり、地域金融機関(第二地方銀行・信用金庫・信用組合等)が参加。
脚注
[編集]外部リンク
[編集]- 『シンジケート・ローン』 - コトバンク