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アスタウンディング新人賞

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
アスタウンディング新人賞
万年筆のペン先5個を星形のように配置したピンバッジ
全受賞者と候補者に与えられるピンバッジ
受賞対象過去2年間にプロとしてデビューしたSF作家またはファンタジー作家から最優秀作家を選考する
主催世界SF協会 (WSFS)
初回1973年
最新受賞者ジャネット・ウン英語版

アスタウンディング新人賞(アスタウンディングしんじんしょう、the Astounding Award for the Best New Writer)は、プロフェッショナルな出版物で過去2年間にデビューしたSF作家またはファンタジー作家から最も優秀な新人作家を選考し表彰する賞である[1]。スポンサーはアナログ誌(旧アスタウンディング誌)の現出版元Dell Magazinesである[1]。候補者選定と受賞者選考はワールドコンを主催している世界SF協会 (World Science Fiction Society, WSFS) が管理するが、実務はその年のワールドコン運営委員会が行う。そして、ワールドコンでのヒューゴー賞授賞式で同時に授賞式を行うが、ヒューゴー賞の一部というわけではない[2]

その年と前年のワールドコンの参加者は、ヒューゴー賞と同様に候補者を推薦することができる[3]。まず、1月から3月に参加者が予備投票を行い、6人のノミネート作家を選定する。受賞者を決めるための投票はワールドコン開催時期にもよるが、4月から7月に行われることが多い[4]。公称発行部数がある程度あれば、世界のどこで小説が発行されてもその作家は候補となりうる[5]。候補となる資格の最終的な判定はWSFSが行うが、その基準は、1万部以上売れていて、単語当たり6セント、全体で50米ドル以上の対価を得ている作品が出版されている作家、である[6]

この賞の受賞者と候補者の作品は、1977年までの5年間、ジョージ・R・R・マーティンの編集する New Voices というアンソロジー・シリーズとして出版された(1977-84年)[7]。1996年にノミネートされ1997年に受賞したマイクル・A・バーンスタイン英語版などはこの賞について、本の売れ行きには影響しなかったが、有名な作家や編集者に名前を覚えてもらえる効果があったとコメントしている[8]。受賞者が必ずしもその後SF史に名を残したとは言い難く、資格条件にも起因して、素早く人気が出た作家を表彰しているだけだという批判もある[1]

1973年から毎年授与されており、2012年までに167人の作家がノミネートされてきた。受賞したのはそのうち41人で、一度だけ2名が同時受賞したことがある。47人が2年連続でノミネートされ、そのうち15人が2年目で受賞している。

旧名称「ジョン・W・キャンベル新人賞」に冠されていたジョン・W・キャンベルはSF編集者兼作家で、アスタウンディング誌/アナログ誌で編集長を務めたことでSF黄金時代を築くことに大きな役割を果たした[9]が、当時より差別的な言動や編集方針で知られていた人物であった。2019年の受賞者ジャネット・ウンがこのことに触れた受賞スピーチを行ったことを受けて、2020年より賞の名称から彼の名を外すこととなった[10]


受賞者一覧

[編集]
  • 年度は授賞年(選考対象となった作品の刊行年ではない)。
  • この賞は人物を対象としており、特定の作品を表彰するものではなく、公式記録にも作品名は記載されない。ここでは、対象期間に出版された主な作品を挙げている。長篇も短編も挙げているが、全作品を網羅しているわけではない。
  • アスタリスク (*) がある受賞者は、2年連続でノミネートされ、2年目で受賞した者である。プラス記号 (+) は、得票が同点となって同時受賞した者を示している。

  *   2年連続ノミネートされ、2年目に受賞   +   同時受賞

作家[2] 対象期間中の主な作品(群) 脚注
1973 ジェリー・パーネル "Peace with Honor"(『宇宙の傭兵たち』第一部)、『デイヴィット王の宇宙船』 [11]
1974 スパイダー・ロビンスン英語版+ "The Guy with the Eyes" [12]
リサ・タトル*+ "Stranger in the House" [13]
1975 P・J・プロージャー英語版* "Epicycle" [14]
1976 トム・リーミイ 「トウィラ」、「サンディエゴ・ライトフット・スー」 [15]
1977 C・J・チェリイ Gate of Ivrel [16]
1978 オースン・スコット・カード エンダーのゲーム」(短編版) [17]
1979 ステファン・ドナルドソン* 『破滅の種子』 [18]
1980 バリー・B・ロングイヤー英語版* 「第二の法」「わが友なる敵」 [19]
1981 ソムトウ・スチャリトカル* "Sunsteps" [20]
1982 アレクシス・A・ギリーランド英語版 The Revolution from Rosinante, Long Shot for Rosinante [21]
1983 ポール・O・ウィリアムズ英語版* The Breaking of Northwall, The Ends of the Circle [22]
1984 ロバータ・マカヴォイ 『黒龍とお茶を』 [23]
1985 ルーシャス・シェパード "The Taylorsville Reconstruction" [24]
1986 メリッサ・スコット英語版* 『遥かなる賭け』 [25]
1987 カレン・ジョイ・ファウラー* "Recalling Cinderella", "Face Value" [26]
1988 ジュディス・モフィット英語版 "Surviving", Pennterra [27]
1989 ミカエラ・ロスナー英語版 Walkabout Woman [28]
1990 クリスティン・キャスリン・ラッシュ英語版* "Sing" [29]
1991 ジュリア・エックラー英語版 "The Music Box", The Kobayashi Maru [30]
1992 テッド・チャン 「バビロンの塔」、「理解」 [31]
1993 ローラ・レズニック英語版* "No Room for the Unicorn" [32]
1994 エイミー・トムスン英語版 『ヴァーチャル・ガール』 [33]
1995 ジェフ・ヌーン 『ヴァート』 [34]
1996 デイヴィッド・ファインタック* 『大いなる旅立ち』、『チャレンジャーの死闘』 [35]
1997 マイクル・A・バーンスタイン英語版* 「理想の教室」 [36]
1998 メアリ・ドリア・ラッセル The Sparrow [37]
1999 ナロ・ホプキンスン Brown Girl in the Ring [38]
2000 コリイ・ドクトロウ 「クラップハウンド」 [39]
2001 クリスティン・スミス英語版* Code of Conduct [40]
2002 ジョー・ウォルトン* The King's Peace [41]
2003 ウェン・スペンサー* 『エイリアン・テイスト』 [42]
2004 ジェイ・レイク英語版 "Into the Gardens of Sweet Night" [43]
2005 エリザベス・ベア 『HAMMERED—女戦士の帰還—』 [44]
2006 ジョン・スコルジー 『老人と宇宙』 [45]
2007 ナオミ・ノヴィク 『気高き王家の翼』 [46]
2008 メアリ・ロビネット・コワル "Portrait of Ari" [47]
2009 デイヴィッド・アンソニー・ダーラム英語版* Acacia: The War with the Mein [48]
2010 ショーニン・マグワイア Rosemary and Rue [49]
2011 レヴ・グロスマン英語版 The Magicians [50]
2012 E・リリー・ユー英語版 「地図作るスズメバチと無政府主義のミツバチ」
2013 ムア・ラファティ* "1963: The Argument Against Louis Pasteur"
2014 ソフィア・サマター 『図書館島』
2015 ウェズリー・チュウ英語版* The Lives of Tao
2016 アンディ・ウィアー* 火星の人
2017 エイダ・パーマー英語版 Too Like the Lightning
2018 レベッカ・ローンホース英語版 「本物のインディアン体験™️へようこそ」"Welcome to Your Authentic Indian Experience™"
2019 ジャネット・ウン英語版 Under the Pendulum Sun
2020 R・F・クァン英語版 The Poppy War [51]
2021 エミリー・テシュ Silver in the Wood [52]
2022 シェリー・パーカー=チャン She Who Became the Sun [53]

脚注

[編集]
  1. ^ a b c The Locus index to SF Awards: About the John W. Campbell Award for Best New Writer”. Locus. Oakland, California: Locus. 2012年1月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月21日閲覧。
  2. ^ a b Campbell Award”. World Science Fiction Society. 2012年1月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月21日閲覧。
  3. ^ The Hugo Awards: FAQ”. World Science Fiction Society. 2011年5月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月21日閲覧。
  4. ^ The Hugo Awards: Introduction”. World Science Fiction Society. 2011年5月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年4月20日閲覧。
  5. ^ John W. Campbell Award Eligibility Page”. Writertopia. 2012年1月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月21日閲覧。
  6. ^ Campbell Award Eligibility FAQ”. Writertopia. 2012年1月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月21日閲覧。
  7. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. New Voices
  8. ^ Michael A. Burstein. “Comments on the Campbell Award”. Writertopia. 2012年1月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月21日閲覧。
  9. ^ Malcolm J. Edwards (1994) [1993]. Clute, John & Nicholls, Peter. ed. The Encyclopedia of Science Fiction. New York: St. Martin's Press. p. 199. ISBN 0-312-09618-6 
  10. ^ Comments on the Campbell Award”. Analog. 2019年8月28日閲覧。
  11. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Pournelle, Jerry
  12. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Robinson, Spider
  13. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Tuttle, Lisa
  14. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Plauger, P. J.
  15. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Reamy, Tom
  16. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Cherryh, C. J.
  17. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Card, Orson Scott
  18. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Donaldson, Stephen R
  19. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Longyear, Barry B.
  20. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Somtow, S. P.
  21. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Gilliland, Alexis A.
  22. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Williams, Paul O.
  23. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. MacAvoy, R. A.
  24. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Shepard, Lucius
  25. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Scott, Melissa
  26. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Fowler, Karen Joy
  27. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Moffett, Judith
  28. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Roessner, Michaela
  29. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Rusch, Kristine Kathryn
  30. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Ecklar, Julia
  31. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Chiang, Ted
  32. ^ Resnick, Laura (1991). “No Room for the Unicorn”. In Rosalind M. Greenberg; Martin H. Greenberg. Horse Fantastic. DAW Books. pp. 162–170. ISBN 0-88677-504-3 
  33. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Thomson, Amy
  34. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Noon, Jeff
  35. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Feintuch, David
  36. ^ Burstein, Michael A. (July 1994). “TeleAbsence”. Analog Science Fiction and Fact (Dell Magazines) 115 (8): 238–251. ISSN 1059-2113. 
  37. ^ Russell, Mary Doria (1996). The Sparrow. Villard. ISBN 0-679-45150-1 
  38. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Hopkinson, Nalo
  39. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Doctorow, Cory
  40. ^ Smith, Kristine (1999). Code of Conduct. Avon Eos. ISBN 0-380-80783-1 
  41. ^ Walton, Jo (2000). The King's Peace. Tor Books. ISBN 0-312-87229-1 
  42. ^ Spencer, Wen (2001). Alien Taste. Roc Books. ISBN 0-451-45837-0 
  43. ^ Lake, Jay (2003). “Into the Gardens of Sweet Night”. In Algis Budrys. L. Ron Hubbard Presents Writers of the Future Volume XIX. Galaxy Press. pp. 481–543. ISBN 1-59212-165-9 
  44. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Bear, Elizabeth
  45. ^ The Encyclopedia of Science Fiction, 3rd ed. Scalzi, John
  46. ^ Novik, Naomi (2006). His Majesty's Dragon. Del Rey Books. ISBN 0-345-48128-3 
  47. ^ Kowal, Mary Robinette (2006-01-30). “Portrait of Ari”. Strange Horizons (Strange Horizons). 
  48. ^ Durham, David Anthony (2007). Acacia: The War with the Mein. Doubleday. ISBN 0-385-50606-6 
  49. ^ McGuire, Seanan (2009). Rosemary and Rue. DAW Books. ISBN 0-7564-0571-8 
  50. ^ Grossman, Lev (2009). The Magicians. Heinemann. ISBN 0-434-01950-X 
  51. ^ “2020 Hugo, Lodestar, and Astounding Awards Winners”. Locus Magazine. (2020年7月31日). https://locusmag.com/2020/07/2020-hugo-lodestar-and-astounding-awards-winners/ 2020年8月2日閲覧。 
  52. ^ 2021 Hugo, Astounding, and Lodestar Awards Winners” (英語). Locus Online (2021年12月19日). 2021年12月23日閲覧。
  53. ^ 2022 Hugo, Astounding, and Lodestar Awards Winners” (英語). Locus Online (2022年9月5日). 2022年9月5日閲覧。

参考文献

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  • Clute, John; Langford, David; Nicholls, Peter, ed (2011). The Encyclopedia of Science Fiction (3rd ed.). ESF Ltd.

関連項目

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