ジヴァニア
ジヴァニア(ギリシャ語: ζιβανία, ζιβάνα, トルコ語: Zivaniya)とは、地中海のキプロス島で伝統的に生産されてきた、主にブドウを原料とする蒸留酒、すなわちブランデー(グレープ・ブランデー)の1種である。ただし、同じくブドウを主な原料とするものの、混成酒として作られるジヴァニアも存在する。また、基本的にはホワイトスピリッツ(無色透明な蒸留酒)だが、長期貯蔵を行うなどして、有色となったジヴァニアも存在する。
概要
[編集]ジヴァニアは、病気の房などを取り除く選果作業を経た、熟したブドウの果実のみから作られる。このブドウは、キプロス島で栽培されているブドウ(Xynisteri種やMavro種)である。このブドウを醸造して作った辛口のワインと、ワイン生産の際などに発生する、ポマース(ブドウの搾りかす)とを混合して、専用の蒸留器で蒸留することによってジヴァニアは製造される。その後は、基本的に熟成などを行わない、いわゆるホワイトスピリッツ(無色透明な蒸留酒)として仕上げられる。このため、基本的に糖分などは製品に含まれない[注釈 1]。
ただし、ジヴァニアの製法は他にも存在する。まず、ポマースを使用せずに、地元産のワインを蒸留して作った、いわゆる通常のグレープ・ブランデーの原酒[注釈 2]と同等のジヴァニアも存在する。したがって、こちらもホワイトスピリッツで、糖分などは製品に含まれない。そしてもう1つが、上記いずれかの製法で作られた蒸留酒のジヴァニアに、ポマースを漬け込んで、さらにそれを水で希釈して作る、混成酒のジヴァニアである。こちらは、他のタイプのジヴァニアとは性質を異にする。
ただ、いずれの製法のジヴァニアも、レーズンのような香りを持つという特徴が存在する。また、だいたいアルコール度数は45%程度で製品化される。そして蒸発などが起こらないように密封されて出荷される。
以上のような比較的短期間で作られるジヴァニア以外に、長期貯蔵を行った特別なジヴァニアも存在する。また、キプロス島の幾つかの村では、ジヴァニアにシナモンを漬け込んで仕上げられた、赤色を呈した混成酒も作られてきた[注釈 3]。
歴史
[編集]ジヴァニアは、遅くとも1879年にはキプロス島で作られていたことを示す文献が残っている[1]。
そして1989年からは、EUによって、キプロス島で作られた、上記の製法のグレープ・ブランデー[注釈 4]以外は「ジヴァニア」を名乗ってはならないと規定されている[2]。
キプロスでの慣習
[編集]キプロス島でジヴァニアは、酒の1つとして楽しまれてきたのは言わずもがなである。なお、ジヴァニアを飲む際、いわゆるつまみものとして、乾燥させたナッツ類や、地元の料理を用意する場合もある。また、近年ではジヴァニアを冷凍庫で冷やしてから飲むといった楽しみ方もされる。
このように酒として楽しむ以外に、次のような目的でもジヴァニアは利用されてきた。1つは、傷口の治療(消毒)、身体の痛い場所をマッサージする時に塗る、風邪薬、歯痛の治療といった、治療を目的とした利用がなされてきた。もう1つは、特に山間部の村々において、冬に身体を温めるための飲み物としての利用もなされてきた。
この他、長期貯蔵されたジヴァニアは、高級品として扱われてきた。この特別なジヴァニアは、何かの行事の時に飲まれてきたり、客人をもてなす時に出されたりしてきた。
また、既述の通り、幾つかの村では、ジヴァニアをベース(原料)とした混成酒も作られてきた。この混成酒は、ジヴァニアにシナモンを漬け込んで作られており、漬け込まれたシナモンの影響で酒は赤色を呈し、またシナモンの香りも加わる。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ ただし、出荷するまで、腐食しないようにメッキ処理を行った金属製のタンクに貯蔵する場合もあるものの、新品の木製の容器に貯蔵する場合もあるため、木製の容器を使った場合、色が付く可能性もある。なお、いずれの貯蔵容器も蒸発が起こらないように密封されている。
- ^ ここで言う通常のグレープ・ブランデー(いわゆる通常のワインから作られたブランデー)の原酒というのは、ブドウから作った醸造酒、すなわち、一般的なワインを蒸留しただけの無色透明な蒸留酒のこと。一般的なブランデーは、この原酒を木製の樽で熟成させる。この樽熟成を終えた後のブレンドを行う前の、いわゆる琥珀色の原酒という意味ではない。あくまで蒸留器から得られたままの、無色透明な原酒である。
- ^ 「ジヴァニアをベース(原料)とした混成酒」と表記してある点に注意。EU圏においてリキュールを名乗るためには、一定以上の濃度の糖分が含まれている必要がある。(詳しくはEUにおけるリキュールの定義の節を参照のこと。)
- ^ ブランデーの分類の1つの方法として、グレープ・ブランデーとフルーツ・ブランデーとに分類することがある。ブドウもフルーツ(果物)の1種なのだが、ブドウを原料としたブランデーだけは「グレープ・ブランデー」と呼ばれて区別される。また、単に「ブランデー」と言った場合も通常は、このグレープ・ブランデーを指すのだが、原料をハッキリさせるために、敢えて「グレープ・ブランデー」と表記してある。ちなみに、もう一方の「フルーツ・ブランデー」と言うのは、ブドウ以外の果物、例えば、リンゴ、ナシ、スモモなどで作られるブランデー全てを含む。ただし、「*・ブランデー」と付く酒の中にはリキュールに分類される酒もあって、それはフルーツ・ブランデーに含まれないので、混同しないよう注意されたい。このグレープ・ブランデーとフルーツ・ブランデーという分類は、あくまで蒸留酒のブランデーの分類であって、リキュールの分類ではない。
出典
[編集]- ^ Samuel W. Baker (1879). "Cyprus, as I Saw it in 1879." p.120 Project Gutenberg (Etext edition, 2003). ISBN 1-84637-912-1
- ^ "The name ‘grape marc’ or ‘grape marc spirit’ may be replaced by the designation Zivania solely for the spirit drink produced in Cyprus."