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スチルビデオフロッピー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
スチルビデオフロッピー
ビデオフロッピー
富士フイルム フジックス ビデオフロッピー
メディアの種類 磁気ディスク
記録容量 25/50枚・800KiB
回転速度 3600/3000rpm
策定 電子スチルカメラ懇親会
ディスクの直径 47mm
大きさ 60×54×3.6mm
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スチルビデオフロッピー(:Still Video Floppy)とは、電子スチルカメラ懇親会が策定した静止画 (= スチルビデオ) のアナログ記録用磁気ディスクで、主に電子スチルカメラに用いられた。一般的にはビデオフロッピーと呼ばれる[1]ディジタルデータを書き込めるようにもされ[2]ソニーワードプロセッサ[注 1]の記録媒体として採用されたほか、NEC PC-9800シリーズ用の外付けドライブ[注 2]が発売された。2インチフロッピーとも呼ばれる。

各社のビデオフロッピーおよび2インチデータディスク

概要[編集]

ソニーは1981年8月24日に、電子スチルカメラのマビカを発表した。これの記憶媒体として開発されたマビパックが祖となる記録媒体である。1983年2月に17社の参加で発足した電子スチルカメラ懇親会により1984年5月に基本となる静止画再生の規格が取りまとめられ[1]、ビデオフロッピーの応用範囲を広げるべく撮影日時などといったメタ情報や短い音声、再生制御情報の記録方法の検討が進められ、参加者が42社となった同懇親会より1986年4月にスチルビデオフロッピーシステムの規格が発表された[2]1988年7月13日には高画質化のためのハイバンド規格が承認された[3]

ビデオフロッピーは3.5インチフロッピーディスクのようにシャッターを持った硬質なプラスチックジャケットにディスクが収められており、内部のディスクは1秒間に仕向け地における標準テレビ放送のフィールド周波数と同じだけ回転する[注 3][1]。このディスクには52本のトラックが存在しており、外側の50本を静止画およびメタ情報、もしくは短い音声の記録に用いる。フィールド記録の場合は50枚、フレーム記録の場合は25枚の画像が記録できる。残った2本のうち最内周をキュートラックと称して再生制御用データの記録に用い、最後の1本が画像と制御データとのガードバンドである[1]

物理的特性[編集]

カウンタがあるマビパックEC-50, シャッタが付いたマビパックVFD-50, 2インチデータディスク PD-1

ディスクジャケットの外形寸法は60×54×3.6mmで、マビパックに存在していたカウンタは応用分野によってはユーザの混乱のもととなり、撤去することによってコストダウンも可能であるため撤去された。カウンタが撤去された一方で防塵用のシャッタが追加された。ディスクにヘッドを触れさせるため、ジャケットに設けられた窓は磁気ヘッドの良好な接触を図るために両面に設けられており、カセットテープのように折り取る形の誤消去防止部と、将来的なディスク種別の追加のために記録媒体認識ホールを設けている[2]

内蔵ディスクの外径は47㎜であり、1.85インチである。ディスクの厚さは両面に塗布された磁性体の厚さを含んで40μmである[2]。この値は複数の厚さより実験的に検討し、最も良好な結果を得られたものを採用している[1]。このディスクに幅60μmのトラックを100μmのトラックピッチで52本刻んでいる。

記録方法[編集]

この項では各種データの記録方法について記す。

静止画記録[編集]

ディスクの回転は仕向け地の標準テレビ放送の方式によって異なり、日本や北米などNTSC圏では60回/秒、西欧などPAL圏では50回/秒となる[1]。1トラックに各方式の1フィールドの輝度信号を低搬送波FM変調をして記録し、色差信号はR-YおよびB-Yの信号を交互に (線順次で) FM変調を行い記録する。色差信号の周波数偏移は、コンポジット信号をそのまま処理できるように設定されている[4]。非ハイバンド記録の場合、帯域幅は輝度信号が4.5MHz, 色差信号が1MHzとなるため、ディジタル記録における輝度信号と色差信号との標本数比のように表現すると、いわば4:1:0となる。ハイバンド記録の場合は輝度信号の帯域幅が6.5MHzとなる[5]

なお、非ハイバンド方式ながら色差信号の記録を省略し、輝度信号の帯域幅を6MHzに広げているカメラも存在している[6][7]。一方で、ハイバンド方式を基本としてクインカンクスサンプリングおよびサンプル値伝送を行って高画素化しようという試みも存在した[8]

撮影日時やフィールド記録・フレーム記録の別、コマ番号などのメタ情報はIDコードと呼ばれ、DPSK変調を行って画像に周波数多重される[4]。この際の搬送波は仕向け地の標準テレビ放送の水平同期周波数の13倍となる。

音声記録[編集]

時間圧縮した音声を、1トラックに4分割して書き込む[9]。静止画と同様にFM変調をして記録する。1/640に時間圧縮した際の収録時間は9.6秒となる[10]

デジタルデータ記録[編集]

4セクタ50トラックにて記録される。1トラックあたり16KiBの容量を持ち、ディスク全体で800KiBとなる。記録方式には8/10変換が用いられ。距離5のリードソロモンの二重積に誤り訂正が行われる[11]

再生制御情報 (キューデータ) の記録[編集]

最内周の52トラック目にのみ、#デジタルデータ記録の手法に則って記録される。2個のシステムファイルのほか、62個までの再生制御ファイルおよび表示ないしは印刷するためのテキストファイルを含むことができる[12]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ プロデュースシリーズ
  2. ^ 前述のワードプロセッサとPC-9800シリーズ用との情報交換用である。SONY PDD-150
  3. ^ 日本や北米などNTSC圏では60回/秒、西欧などPAL圏では50回/秒となる

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f 水島 昌洋「1. 電子スチルカメラ懇談会の活動とビデオフロッピー規格」『テレビジョン学会誌』第39巻第9号、1985年9月、756-759頁、doi:10.3169/itej1978.39.756 
  2. ^ a b c d 太田 隆啓「スチルビデオフロッピーシステム規格の概要 : (1)ジャケットとディスク」『テレビジョン学会技術報告』第10巻第4号、1986年5月、25-26頁、doi:10.11485/tvtr.10.4_25 
  3. ^ 鈴木 鋭一、滝口 英夫「4-1 電子スチル写真システムへの応用」『テレビジョン学会誌』第43巻第11号、1989年11月、1252-1258頁、doi:10.3169/itej1978.43.1252 
  4. ^ a b 国吉 孝「スチルビデオフロッピー規格の概要 : (2)ビデオ記録方式」『テレビジョン学会技術報告』第10巻第4号、1986年5月、27-28頁、doi:10.11485/tvtr.10.4_27 
  5. ^ 橋口 住久「2-5 電子スチルカメラ」『テレビジョン学会誌』第44巻第11号、1990年11月、1510-1516頁、doi:10.3169/itej1978.44.1510 
  6. ^ 橋口 住久「電子スチルカメラ1988 : 特別公演 : 方式・回路」『テレビジョン学会技術報告』第12巻第57号、1988年12月、1-6頁、doi:10.11485/tvtr.12.57_1 
  7. ^ 竹前 三喜夫、木村 真琴, 太田 雅, 本告 龍造, 奥山 猛「ニコンスチルビデオカメラシステム : スチルビデオカメラ及びレンズQV-1000C,QVニッコール : スチルビデオトランスミッターQV-1010T : 光・フィルム技術」『テレビジョン学会技術報告』第12巻第54号、1988年11月、7-12頁、doi:10.11485/tvtr.12.54_7 
  8. ^ 藤本 良、小倉 時彦, 大橋 一仁, 笹倉 孝男, 小倉 栄夫, 倉橋 直「2"ビデオフロッピーの高画質化 : CHSV」『テレビジョン学会技術報告』第14巻第76号、1990年12月、1-6頁、doi:10.11485/tvtr.14.76_1 
  9. ^ 佐々木 高行「スチルビデオフロッピー規格の概要 : (3)音声記録方式」『テレビジョン学会技術報告』第10巻第4号、1986年5月、29-30頁、doi:10.11485/tvtr.10.4_29 
  10. ^ 湯浅 正俊、堀井 浩司, 平松 達夫「電子スチルカメラ(1985デイスプレイ国際会議報告)」『テレビジョン学会技術報告』第9巻第35号、1985年12月、41-46頁、doi:10.11485/tvtr.9.35_41 
  11. ^ 久多良木 健「スチルビデオフロッピー規格の概要 : (4)デジタルデータ記録方式」『テレビジョン学会技術報告』第10巻第4号、1986年5月、31-32頁、doi:10.11485/tvtr.10.4_31 
  12. ^ 増井 隆之「スチルビデオフロッピー規格の概要 : (5)キュートラックアプリケーションフォーマット」『テレビジョン学会技術報告』第10巻第4号、1986年5月、33-42頁、doi:10.11485/tvtr.10.4_33 

関連項目[編集]