コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

スペース・ギター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Space Guitar
レコードレーベルの写真。 タイトルやアーティスト、レコード会社名などが記載されている。
78rpmレコードのDJコピー
楽曲
録音1954年2月、ロサンゼルス
ジャンル
時間2:30
レーベルフェデラルレコード
作詞者ジョニー・"ギター"・ワトソン
プロデュースラルフ・ベース

スペース・ギター」は、アメリカのR&Bミュージシャン、ジョニー・"ギター"・ワトソンによるインストゥルメンタル楽曲である。1954年にシングル盤でリリースされたこの曲は、ワトソンが初めてギター演奏を披露した曲である。ギター以外の編曲は当時のR&Bやジャンプ・ブルースでは典型的と言ってよいものだが、ワトソンによる前代未聞のギタープレイこそがこの曲を特筆すべきものにしている。

リリース当時、ビルボード誌の評者はレビューを書くことも点数を与えることもできず、途方に暮れたという。その後ビルボード誌のランキングにこの曲が登場することはなかった。より現代の評価では、ワトソンの度を越したギターと音響効果の多用により、この曲は時代を先取りした一曲と評されている。この曲の新奇なギターは、ジミ・ヘンドリックスフランク・ザッパボ・ディドリーアイク・ターナーなどのギタリストたちに影響を与えたことが分かっている。

背景

[編集]

1954年4月までにワトソンはR&Bプロデューサーのen:Ralph Bassによるプロデュースのもと「ヤング・ジョン・ワトソン」名義で3枚のシングルをレコーディングしていたが、1枚もチャートインすることはなかった。[1] その時19歳だったワトソンが主に担当していたのはボーカルかピアノパートであり、彼以外のギタリストがギターを担当することもあった。[2] しかし「スペース・ギター」でワトソンはギタリストとしての本領を発揮した。[3]

テキサス出身のワトソンはT-ボーン・ウォーカークラレンス・"ゲイトマウス"・ブラウン[3]の影響を受けながらも、彼自身のアイデアも楽曲に取り入れていた: 「自分が作れる新しいサウンドの全てを確認していたんだ(I was seeing all these new sounds I could create) ……それを少し推し進めて、どうなるか見物することに対する恐れはなかったさ」[4] 当時の彼のスタイルについて、ジョン・ハートレイ・フォックスは「酔っ払いが口走るような演奏と激しく増幅された爆音、そして奇妙な即興的アイデアで、ワトソンはそのスタイルを完全に形成しつつあった」[5]と語っている。また彼は派手なパフォーマーでもあり、歯でギターを弾いたり、頭の後ろでギターを弾いたり、客の間を歩き回りながらギターを弾いたりなど、ウォーカーやギター・スリムのような演奏も披露していた。[6]

作曲とレコーディング

[編集]
「スペース・ギター」はグーギー建築のコーヒーショップや、オールズモビルロケット88のように、洗練された現代の象徴で、未来的な視野を持つと同時に、過去のものを取り入れていた。
—デイヴィッド・リッツ、音楽伝記作家[4]

ギターを除き、「スペース・ギター」のサウンドや楽器構成は当時の典型と言ってよいものであった。[7]この楽曲は リズム・アンド・ブルースや、[8] ジャンプ・ブルース[9] あるいはブルース・ギター・インストゥルメンタル[10]と説明される。 ストップタイムを取り入れたり、当時有名だったテレビドラマのテーマ曲( theme music from Dragnet)のフレーズを無許可でワトソンが弾いたりするなど[9]様々な実験的要素があるが、ワトソンのギター・フィルやソロと、当時新奇だったリバーブエフェクトの使用こそが最も注目されている要素である。[9]

バーンバウムはワトソンのギターを「猛烈に連射される音と、語るような表現力があるギター、やかましいコード、耳障りな一時停止と再開、そして耳が痛くなるような爆音のリバーブ」と表現する。[3]彼は指弾きであるにもかかわらず非常な早弾きで、そのスタイルは「ハイパースピード」や「ラピッドファイア」などと形容される。[11][12] またワトソンは過剰にビブラートやスライド奏法を用いていて、それはリバーブによってさらに誇張されている。[9]

1950年代前半、リバーブは「当時唯一の『エフェクト』だった」。[9] 1984年のインタビューでワトソンはリバーブは「音を持続させるのに素晴らしい方法」だと語っている。[13] 「スペース・ギター」では、リバーブはソロの最中ずっとかかっているような使われ方ではなく、いきなりリバーブがかけられたり、突然生音に戻ったりする。[14]

ワトソンの以前のシングルと同じく、「スペース・ギター」はラルフ・ベースによってプロデュースされた。レコーディングはLAのスタジオで1954年2月に行われ、デヴォニア・ウィリアムズがピアノ、ビル・ゲイザーがテナーサックス(途中で20秒ほどのサックスソロを演奏した[15])、マリオ・ドラガルドがベース、チャールズ・ペンダーグラフトがドラムを担当した。[7] ワトソンによれば、レコーディングエンジニアの「何がしたいのか分からないよ、全く!何なんだそれは?お前は宇宙人か?(Are you some kind of spaceman?)」という発言が曲名に取られた。[13]

リリース・評価

[編集]

「スペース・ギター」は1954年4月にフェデラル・レコードから発売された。[16]カップリング曲はen:Rudy Toombs による「Half Pint-a-Whiskey」で、78rpmおよび45rpm両方で発売され、A面とB面の区別はなかった。ビルボード誌の評者は「Half Pint-a-Whiskey」に100点満点中80点の高い評価を与えたが、「スペース・ギター」は混乱した「??」という評価が点数の代わりに与えられた。[16] この盤の短いレビューは「鼓膜を破壊する可能性があるため、音量には注意した方がよい。普通ではなく、独自のサウンドで、変化に富む。最も異様なレコードで、非常に興味深いカップリングである」と結ばれている。[16]

ワトソンの以前のシングルと同じく、このシングルは一切ランクインせず[17]、またアルバムにも収録されていない。フェデラル・レコードによる彼の扱いが良くないと感じたワトソンはその後モダン・レコードと契約した。[1]彼はそこで「ジョニー・"ギター"・ワトソン」の芸名を使い始め、1955年、R&Bバラードの「Those Lonely Nights」で初の成功を収めた。[18]

影響

[編集]
ドラムスティックでスライドギターを行うワトソン。1976年撮影

近年になり「スペース・ギター」は評価を受けている。1996年、en:All Music Guide to the Blues誌内で批評家のen:Richie Unterbergerは楽曲を「同時代で最も偉大な遺産であり、ロック・ギタリスト達が15年経ってもマスターできていなかった未来的な音」と評した。[12] 他の批評家たちも作品の先取性について「サウンドとテクニックの両面において10年以上先を行っていた傑作」[11] そして「当時売る音楽としてはあまりにも狂おしく未来的」[3]と言及している。

その不協和音的な要素は、「無調音、不協和音、リバーブ、ディストーション、速弾き」(マクドナルド)[19] また「不穏な不協和音とノイズが使われ、『アヴァン・ロック』の最も初期の実例のひとつ」(グリーン)[20]と評されている。 何人かのライターが「スペース・ギター」が初期のフィードバック奏法の実例であると書いている[21][22]が、en:Premier Guitar誌のマイケル・ロスは「このレコードにはフィードバックはない」と指摘している。[23]

音楽ライターのen:Cub Kodaはワトソンを「『スペース・ギター』により、ボ・ディドリーアイク・ターナーノイズミュージック表現において影響を与えた未来的ギタリスト」と評した。[24] フランク・ザッパの伝記作家、ジョン・コルチェリによれば、「ザッパが『スペース・ギター』を初めて聴いた時、彼はギターのトーンをワトソンのものにできるだけ近づけようとした」。[25] ジャスティン・パッチによれば、この曲が「若きジミ・ヘンドリックスの音と想像力に影響を与えたことは疑いがない」。[8] またバーンバウムはこの曲を「ジミ・ヘンドリックスの前触れ」と呼んだ。[3]

I Heard That (1985年, en:Charly Records)、 Gangster of Love (c.1990年, Charly)、そして The Very Best of Johnny "Guitar" Watson (1999年, en:Rhino Entertainment).[24] The various artists collections The King R&B Box Set (1996, King)[26] and Honky Tonk! The King & Federal R&B Instrumentals (2000, Ace Records)[27]など、ワトソンの初期作品を集めたいくつかのコンピレーションアルバムに収録されたことで、「スペース・ギター」はより注目を集めた。

プレイヤー

[編集]

出典

[編集]
  1. ^ a b Topping 1986, p. 1.
  2. ^ Ritz 1999, pp. 4, 9.
  3. ^ a b c d e Birnbaum 2013, p. 277.
  4. ^ a b Ritz 1999, p. 6.
  5. ^ Fox 2009, p. 162.
  6. ^ Ritz 1999, p. 5.
  7. ^ a b Ritz 1999, p. 9.
  8. ^ a b Patch 2020, p. 91.
  9. ^ a b c d e Forte 2003, p. 98.
  10. ^ Eagle & LeBlanc 2013, p. 401.
  11. ^ a b Batey 2003, p. 141.
  12. ^ a b Unterberger 1996, p. 271.
  13. ^ a b Dahl 1994, p. 120.
  14. ^ Kennedy 2013, p. 23.
  15. ^ Young John Watson (1954). "Space Guitar" (Song recording). Federal Records. 該当時間: 1:23. 45-12175。
  16. ^ a b c Billboard 1954, p. 31.
  17. ^ Whitburn 1988, p. 436.
  18. ^ Topping 1986, p. 2.
  19. ^ Macdonald 2016, eBook.
  20. ^ Greene 2016, p. 191.
  21. ^ Leigh 2016, eBook: Template:" 'スペース・ギター' from 1954, which is full of distortion and feedback".
  22. ^ Gregory 2003, p. 20: Template:" 'Space Guitar', with its liberal use of feedback and distortion".
  23. ^ Ross, Michael (May 11, 2012). “Forgotten Heroes: Johnny 'Guitar' Watson”. Premierguitar.com. March 5, 2022閲覧。
  24. ^ a b Koda, Cub. “The Very Best of Johnny "Guitar" Watson [Rhino – Review]”. AllMusic. March 3, 2022閲覧。
  25. ^ Corcelli 2016, eBook.
  26. ^ Erlewine, Stephen Thomas. “Various artists: The King R&B Box Set – Review”. AllMusic. March 17, 2022閲覧。
  27. ^ Campbell, Al. “Honky Tonk! The King & Federal R&B Instrumentals – Review”. AllMusic. March 4, 2022閲覧。

参考文献

[編集]