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セルモーター

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
セルスターターから転送)
一般的な自動車用セルモーター
1920年代の"era self-starter"

セルモーター(またはセルスターター: starter, self starter, starter motor)は、自動車発電機などで使われる内燃機関(エンジン)を始動させるためのモーター(電動機)である。

セルモーターという呼び方は和製英語である。1942年昭和17年)3月発売の「2602年型トヨタトラック」(トヨタ・KB型トラック[1])のカタログ(3ページ)には、「スターチング・モーター」、同カタログの仕様書(16ページ)には「起動電動機」と記されている[2] 。「セルスターター」は、モーターの駆動に電池 (cell) を利用することから「cell starter」と呼んだという説と、英語のself starterから来ているという説がある。

国内自動車製造者では部品名称としてトヨタ自動車ダイハツ工業三菱自動車工業スタータマツダスターターSUBARUスタータモータ日産自動車本田技研工業スターターモータースズキスターティングモータと称している[3]

解説

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内燃機関の吸気・圧縮行程は、運転中はフライホイールやシリンダーなどの惰性力を利用して行われる。しかし始動時はこの慣性力がないため、外部から回転力を得なければ吸気・圧縮行程を始めることができない。セルモーターは始動のきっかけとなる回転を与える手段の1つであり、内燃機関を利用した機械に広く普及している機構である。イグニッションキーやエンジンスターターボタンといったスイッチの操作により、バッテリーなどを電源として動作する。

セルモーターは、エンジンの圧縮行程で発生する回転抵抗に打ち勝って十分な速度で回転させるだけの強力なトルクを生みだす。セルモーターの主要部は直流電力によって動作する電磁石界磁形整流子電動機で、多くは直巻整流子電動機が採用され、少数ながら複巻整流子電動機が採用される。セルモーターのトルクギアで減速されてエンジンの出力軸に伝達され、これらのギアとギアの噛み合いを断接するクラッチ機構を含めてセルモーターASSYとされる場合が多い。

自動車の場合はエンジンの出力軸にはリングギアという大歯車があり、セルモーターの小歯車(ピニオン)を噛み合わせている。ピニオンはソレノイドアクチュエータによって軸方向にスライドし、モーターのスイッチが入れられた際にのみリングギアに噛み合うようになっている。トルク伝達経路にスタータークラッチと呼ばれるワンウェイクラッチを設けてエンジン運転中の回転がセルモーターに伝達しない機構になっている。

セルモーター以外の始動方法

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セルモーターが実用化される以前はエンジンを人力で回転させて始動をおこなっていた。自動車の場合は車外からエンジンのクランクシャフトにクランク棒を接続して回していた。現在でも、オートバイや可搬式発電機などのうち、排気量が小さなエンジンでは人力でも始動が比較的容易であることから、重量とコストが増えるセルモーターを採用せずにキックスターターリコイルスターターを採用している場合がある。また、競技用の自動車やボートなどでは、エンジンの始動時にのみ必要なセルモーターは、走行中の操縦性や運動性に不利な影響を及ぼす重量物として搭載されない場合が多く、人力を用いた始動方法のほか、フォーミュラカーなどでは車体外部からスターターモーターユニットを接続して始動する。また、エアツールを応用した圧縮空気やタイヤ充填用の窒素ガスを利用して始動する方法もある。クラッチを持たないレーシングカートでは人力や他の車両で押して、車輪からエンジンに伝わるトルク(バックトルク)で始動させる押しがけと呼ばれる方法が用いられる。

マツダはi-stopの前段階の技術として、SISS(スマート・アイドリング・ストップ・システム)と呼ぶセルモーターを使わないエンジン始動方法を研究していた。エンジン内部に未燃焼ガスを入れておき、始動時に点火することでエンジンを再始動する方式である。

自動車用の実用化

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1903年にアメリカ合衆国ニューヨーク市で、発明家のクライド・J・コールマンが「自動車用電気式スターター」として米国特許(番号745,157)を取得したが、この時点では実用化されなかった。

本格的な実用化はキャデラック社の創業者であるヘンリー・リーランドの要望が元になったとするのが通説である。リーランドの自動車製造業界での友人であったバイロン・J・カーターは、路傍でキャディラック製自動車のエンジンを始動できずに困っていた女性ドライバーに代わってクランク棒の操作を行ったところキックバックを受けて重傷を負い、これが遠因となり1908年に亡くなった。リーランドは自社製品で友人を死なせた事態を哀しみ、クランク棒に代わるエンジン始動方式の開発を命じたがキャデラックの開発陣には実現できず、車両用電装品メーカーのデルコを創業していた技術者チャールズ・ケタリングの社外案が採用された[要出典]

ケタリングは1910年にコールマンによる電気式スターターの特許を買い取り、自身がNCRで電動キャッシュレジスターに用いたモーター技術を組み入れて改良した。レジスター用のモーターは瞬間的に大きな出力を発生しながら繰り返される負荷に耐える必要があり、その特性は自動車エンジン用のセルモーターとして応用できるものであったためである。1911年までにはキャデラックでのテストを繰り返して実用的なものに改良した。蓄電池を搭載し、イグニッションシステムとあわせて電気式ヘッドライトも組み込まれ、自動車における電装部品の機能を拡大した。ケタリングのシステムでは、セルモーターはエンジンを始動するだけでなく走行時にはバッテリー充電のための発電機となった(セルダイナモ[要出典]。これは後年でも一部の自動車では使用されたが、現在はセルモーターと発電機とは個別に独立した装置を搭載するのが一般的となっている。

ケタリングらによるセルモーターは1912年にキャデラックの市販車に搭載され、四輪自動車用として史上初の本格的な電気式スターターシステムとされている。当初は女性向けのオプション装備であったが、数年のうちに米国では代表的な大衆車であるフォード・モデルT(1917年からオプション装備)をはじめとして、ほとんどすべての自動車がセルモーターを装備するようになった。この動向は1920年代にはヨーロッパにも広まり、以降1950年代までの自動車にはセルモーターと非常用の手動クランクを共に搭載するのが一般化した。1960年代以降は電装品の信頼性が向上して手動クランクは併用されなくなった。[要出典]

オートバイへの普及

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オートバイにおいては、ケタリングがセルモーターを発明する前の年である1910年に、ヴィンセント・ベンディックスワンウェイクラッチの一種であるベンディックスギアを開発し、スタータークラッチとしてセルモーターに組み合わせた。自動車におけるピニオンギア構造と比較すると小型で、補機を搭載するための空間的な余裕が少ないオートバイの車体にもセルモーターの搭載が可能となった。

一方、小排気量のオートバイの場合はキックスターターなどでも実用上の問題がなく、セルスターターの需要は大排気量車に限られた。小型オートバイに至るまでセルモーターが普及したのは第二次世界大戦後であった。

レブリダクション

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通常タイプとリダクションタイプのセルモーター比較

クランクシャフトを回転させるのに必要なトルクが比較的小さい自動車やオートバイでは、モーターの回転を直接伝達するピニオンがリングギアやプライマリードリブンギアに噛み合わされるが、高いトルクを必要とするエンジンではレブリダクション方式が用いられる場合がある。レブリダクション方式はモーターの回転がギアあるいは遊星ギアによって減速され、トルクが増大されてピニオンに伝達されるタイプのものである。

トラックなどの大型車両やディーゼルエンジン車などエンジンの回転抵抗が大きい車両だけでなく、普通乗用車のオートマチックトランスミッション搭載車のように、クランクシャフトに慣性モーメントが大きいトルクコンバーターが固定されている場合にも多く用いられる。純正でレブリダクション方式のセルモーターを搭載していない車種でも、改造によって圧縮比を高くした場合や排気量を増加させた場合にはクランクシャフトの回転抵抗が増大するため、リダクション方式のセルモーターに交換する場合がある。

緊急発進

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万一、踏切など速やかに通過しなければならない場面においてエンジンが停止し再始動できない場合、マニュアルトランスミッション車で利用可能な緊急手段として、スターターモーターのトルクで車両を移動させる方法が自動車教習所で用いられる教本に掲載されている。トランスミッションの低いギア(1速か後退)を選び、クラッチを接続したままスタータースイッチを入れることでスターターモーターのトルクを車輪に伝達させる手順であるが、クラッチスタートシステムという安全装置が装備されている車種では利用できない。

モータースポーツの世界では、1988年ル・マン24時間レースでクラウス・ルートヴィッヒの運転するポルシェ・962Cが燃料切れを起こし、スターターモーターで走行してピットに戻った。これは自走してピットに戻れなければリタイアとなるルールのために行われたものである。

脚注

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  1. ^ トヨタKB型トラック - トヨタ自動車75年史(更新日不明)2018年7月7日閲覧
  2. ^ トヨタKB型トラック- トヨタ自動車75年史 > カタログ(更新日不明)2023年9月14日閲覧
  3. ^ 自動車部品検索サイト”. 2011年10月12日閲覧。

参考文献

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関連項目

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