センスメイキング
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意味づけ[1](センスメイキング、英: Sensemaking)[2] とは、人間が経験から意味を与える過程を言う[3]。 想定、予測、期待していないこと(unexpected)を、感知(observation)した後、評定(orientation)し判断(decision)するプロセスである。OODAループのODに該当する[4]。
センスメイキングという概念は、1970年代に組織研究を行っていたカール・ワイクによって紹介され、組織における理論と実践の双方に影響を及ぼした。そして組織研究の分野において、従来注目されてきた意思決定という概念から、行動がどのように意味づけされて決定されていくのか過程に注目したセンスメイキングという概念へと焦点が移行してきている[5]。
特性
[編集]Weickはセンスメイキングを理解や解釈と区別するため、少なくとも7つの特性を含んだプロセスであると指摘している[2]。
- アイデンティティ構築に根づいたプロセス - アイデンティティは自己と状況との相互作用を通して構成されるものであり、アイデンティティによってセンスメイキングのプロセスが規定されることもあれば、センスメイキングのプロセスを通してアイデンティティが規定されることもある。
- 回顧的プロセス - Pirsigが「知的に考察される対象は常に過去にある」[6]と述べているように、人は自分たちの行っていることを行った後でのみ知ることができる。したがって、経験から意味を創造するということは、過去に生じていたことに注意を向ける過程を指している。
- 有意味な環境をイナクトするプロセス - センスメイキングという概念は認識のみならず行為を含んでおり[7]、行為を通して人々は自らの環境を創造するが、同時にその環境もまた人々を創造する相互規定的な関係にある。この関係は、法律を制定する(イナクト; 英: enact)ことで社会が規定されると同時に、法で規定された社会が人々の行動を規定するという関係と類似している。
- 社会的プロセス ー 人の行動や内面で行っていることは他者に左右される。シンボリック相互作用論を引き合いに出して語られることもある[8]。
- 進行中のプロセス - センスメイキングには始まりがなければ終わりもない。ディルタイやハイデッガーが述べているように、人は常に何が生じているか意味づけをしてそれを修正していく状況のただなかにある[9][10]。
- 抽出された手掛かりが焦点となるプロセス - 特定の情報を手掛かりとして抽出し、よりどころとなる準拠点を確立することで、結論に至る行為が導き出される。言い換えると、手掛かりとなる事象への気づき(英: noticing)を起点として、その手掛かりが何を意味するか確定することで、とるべき行動が決定されていく。
- 正確性よりももっともらしさ主導のプロセス - もっともらしい推論とは「直接可能な情報や少なくとも同意した情報がわずかにもかかわらず、確実性を十分具えたアイデアや理解を生み出す営みである」[11]。また、ある条件の下では不正確な認知が良い結果を生み出すこともありうると指摘があるように[12]、センスメイキングの分析において正確性は二次的な基準でしかない。
脚注
[編集]- ^ 入江 2018, p. 81.
- ^ a b カール・E・ワイク 『センスメーキングインオーガニゼーションズ』 遠田雄志・西本直人訳、文眞堂、2001年。
- ^ 入江 2019, p. 31.
- ^ 入江 2019, p. 30.
- ^ Karl E. Weick (1993). “The Collapse of Sensemaking in Organizations: The Mann Gulch Disaster”. Administrative Science Quarterly 38: 628-652.
- ^ Winokur 1990, p. 82.
- ^ Thomas, Clark & Gioia 1993.
- ^ Fine 1993.
- ^ Rickman 1976.
- ^ Winograd & Flores 1986.
- ^ Isenberg 1986.
- ^ Sutcliffe 1994.
参考文献
[編集]- 入江, 仁之『「すぐ決まる組織」のつくり方 ー OODAマネジメント』フォレスト出版、2018年。ISBN 978-4-866800-09-7。
- 入江, 仁之『OODAループ思考[入門] 日本人のための世界最速思考マニュアル』ダイヤモンド社、2019年。ISBN 978-4-478-10662-4。
- Fine, G.A. (1993), “The sad demise, mysterious disappearance, and glorious triumph of symbolic interactionism”, Annual Review of Sociology 19: 61-87, doi:10.1146/annurev.so.19.080193.000425
- Isenberg, D.J. (1986), “The structure and process of understanding: Implications for managerial action”, in H.P. Sims, Jr., & D.A. Gioia, The thinking organization, San Francisco: Jossey-Bass, pp. 242-243
- Rickman, H.P (1976), Dilthey: Selected writings, London: Cambridge University Press
- Sutcliffe, K.M. (1994), “What executives notice; Accurate perception in top management teams”, Academy of Management Journal 37: 1360-1378, doi:10.2307/256677
- Thomas, J.B.; Clark, S.M.; Gioia, D.A. (1993), “Strategic sensemaking and organizational performance: Linkages among scanning, interpretation, action, and outcomes”, Academy of Management Journal 36: 1360-1378, doi:10.2307/256677
- Winograd, T.; Flores, F. (1986), Understanding computers and cognition: A new foundation for design, Norwood, NJ: Ablex
- Winokur, J. (1990), Zen to go, New York: Penguin