ゼロカルカーレ
ゼロカルカーレ Zerocalcare | |
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生誕 |
1983年 イタリア トスカーナ州コルトーナ |
国籍 | イタリア |
職業 | 漫画家 |
代表作 | 『アルマジロの予言』、『わたしの名は忘れて』、『コバニ・コーリング』 |
公式サイト | http://www.zerocalcare.it |
ゼロカルカーレ(Zerocalcare, 1983年 -)は、イタリアの漫画家。本名はミケーレ・レック(Michele Rech)。
略歴
[編集]トスカーナ州のコルトーナに生まれ、幼少期をフランスで暮らしたのちにローマ北東のレビッビアに移住する。ペンネームのゼロカルカーレとは、イタリア語で「水垢ゼロ」を意味する。由来はテレビCMであり、ネットのフォーラム用のハンドルネームを決める時に流れていたCMのキャッチフレーズだった[1]。
ゼロカルカーレの作家デビューには、2001年のジェノヴァ・サミットが大きな影響を与えた。10万人から20万人といわれる人々がサミット反対デモでジェノヴァに集まり、23歳のデモ参加者がカラビニエリに射殺された[注釈 1]。当時17歳でデモに参加していたゼロカルカーレは、サミットの経験をもとに「法廷に立つ俺たちの物語 (La nostra storia alla sbarra)」(2002年)を発表し、社会運動に参加する漫画家としての活動を始める[3]。
パンク・ロックやハードコア・パンクに親しみ、2000年代半ばからはローマを中心とするチェントロ・ソチャーレに関わった。チェントロ・ソチャーレとは、日本語で社会センターとも呼ばれ、空き家や跡地などをスクウォッターとして自主管理する空間を指す。その場所でゼロカルカーレはアンダーグラウンドなイベント告知用のポスターなどを多数制作した[注釈 2][5][6]。2011年に漫画家のマッコックスのすすめで、ウェブに発表していた作品を作品集としてまとめる。これが『アルマジロの予言』(2011年)で、ゼロカルカーレの 内面の一部でもあるアルマジロが登場し、作者の日常とアルマジロとの対話が描かれている。同作品は2018年にイタリアで映画化され、日本ではイタリア映画祭2019で上映された[7][8]。『アルマジロの予言』から自伝的な作品の発表を続け、単行本5作目の『わたしの名は忘れて』(2014年)は、漫画でありながらイタリアの文学賞ストレーガ賞のセミファイナリストにノミネートされて大きな賛否を呼んだ。最終選考には残らなかったが、高校生が投票するヤング部門では2位となった。このノミネートはゼロカルカーレの名が広く知られるきっかけとなった[注釈 3][10]。
2014年にはチェントロ・ソチャーレの仲間の誘いがきっかけで、シリア内戦下のシリアとトルコの国境へ向かい、クルド人を支援する活動に参加した[注釈 4]。当時はコバニ包囲戦でクルド女性防衛部隊(YPJ)やクルド人民防衛隊(YPG)がISILに抵抗を続けており、ゼロカルカーレたちはコバニに近いトルコ側のマーテル村で活動をした。2015年にはシリア北部の自治区であるロジャヴァに向かい、クルドがISILに勝利した後のコバニを訪ね、YPJの司令官ナスリン・アブダラをはじめとする人々と交流した。ゼロカルカーレはこれらの体験をイタリアの雑誌「インテルナツィオナーレ」にルポルタージュの漫画として発表し、大きな注目を集めた。ルポをまとめた単行本として『コバニ・コーリング』(2016年)が刊行されるとイタリアで12万部以上のヒットとなり、8ヶ国語に翻訳された。同作品は2017年にはナポリ・コミコンでアッティリオ・ミケルッツィ賞も受賞している[注釈 5][13]。ゼロカルカーレはクルドへの支援を続け、2016年にはトルコの兵器売却を批判するキャンペーンポスター、2018年にトルコ軍のアフリーンへの侵攻を批判するイラストを制作した[14]。『コバニ・コーリング』の2020年版では、アメリカ軍のシリア撤退やトルコ軍のロジャヴァ侵攻、そして各国の無関心を批判した[注釈 6]。事態の悪化を懸念しつつ、クルドへの支持を表明している[16]。
2020年からは、イタリアにおけるコロナ禍の生活を題材としたアニメーションも自主制作し、テレビ番組「プロパガンダ」で人気を集めている[17]。ゼロカルカーレの作品では漫画、アニメ、ゲームについて多数触れられており、日本の作品も多い。自身の作画については『ドラゴンボール』の影響が最も大きいと語っている[14]。
2021年には、監督・脚本・主演を務めたアニメーションシリーズ『点線に沿って切り取る』がNetflixでリリースされ、2023年にはセカンドシリーズ『世界は僕を切り裂けない』が同じくNetflixでリリースされた[18]。
主な著作
[編集]- La nostra storia alla sbarra, 2002. (『法廷に立つ俺たちの物語』)
- La profezia dell'armadillo, Edizioni Graficart, 2011. (『アルマジロの予言』)
- La profezia dell'armadillo - colore 8 bit, BAO Publishing, 2012.
- Un polpo alla gola, BAO Publishing, 2012.
- Ogni maledetto lunedì su due, BAO Publishing, 2013.
- Dodici, BAO Publishing, 2013.
- Dimentica il mio nome, BAO Publishing, 2014. (『わたしの名前は忘れて』)
- Kobane Calling, Internazionale n. 1085, 2015.
- L'elenco telefonico degli accolli, BAO Publishing, 2015.
- La città del decoro (Città dei Puffi), La Repubblica, 2015.
- Ferro e piume, Internazionale n. 1122, 2015.
- Kobane Calling, BAO Publishing, 2016.
- 栗原俊秀訳『コバニ・コーリング』 花伝社, 2020年
- Groviglio, La Repubblica, 24 December 2016.
- Così passi dalla parte del torto, Einaudi, 2016.
- Macerie prime, BAO Publishing, 2017.
- Macerie Prime sei mesi dopo, BAO Publishing, 2018.
- Educazione subatomica, CNR Edizioni, 2018.
- Questa non è una partita a bocce, L'Espresso, 2018.
- C'è un quartiere che resiste, Internazionale, 2019.
- Macelli, Internazionale, 2019.
- La scuola di pizze in faccia del professor Calcare, BAO Publishing, 2019.
- Scheletri, BAO Publishing, 2020.
- A babbo morto. Una storia di Natale, BAO publishing, 2020.
- Romanzo sanitario, L'Espresso, 2021.
- La dittatura immaginaria, Internazionale, 2021.
- Etichette, Internazionale, 2021.
- Strappare lungo i bordi, Netflix, 2021.
- Niente di nuovo sul fronte di Rebibbia, BAO Publishing, 2021.
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 主要国首脳会議やWTO、IMFなどの国際機関への抗議活動は、ジェノヴァ・サミット以前から盛んだった。1999年のケルン・サミットでは抗議グループが人間の鎖を作った。同年11月のシアトルのWTO閣僚会議は、抗議行動で開会式が中止となり、新ラウンドの合意にいたらなかった[2]。
- ^ チェントロ・ソチャーレは左派を中心とする活動として行われている。政治議論の他に、移民やロマへの支援、演奏や映画上映、劇場、図書館、保育園など多様な活動がある。イタリアでは刑法の対象となるが、40年近く続いた場所もあるという[4]。
- ^ 前年にも漫画家のジピの『いち物語 (Unastoria)』がセミファイナリストに選ばれていた[9]。
- ^ シリア内戦は国際化した内戦とも呼ばれる。バッシャール・アル=アサド政権と反政府勢力の内戦として始まったが、反政府勢力をサウジアラビア、アメリカ、カタール、トルコなどが支援し、アサド政権をイランやロシアが支援して大規模化した。2011年以降の7年間で50万人の死者と700万人の難民が出ており、2020年時点でも国連シリア特使のゲイル・ペダーセンが和平に向けて活動を続けている[11]。
- ^ ゼロカルカーレは、『コバニ・コーリング』はパンクバンドのアタラッシア・グロプ(Atarassia Grop)や、エローデ(Erode)の音楽と歌詞に多くを負っていると書いており、作中でも使われている[12]。
- ^ 2019年10月にドナルド・トランプ政権は、クルド人勢力を支援していたアメリカ軍の撤収を発表し、トルコ軍がロジャヴァに侵攻した。クルド人勢力はトルコ軍に対抗するためにアサド政権に協力を求め、事態は流動化した[15]。
出典
[編集]- ^ 栗原 2020, pp. 270–271.
- ^ 野林, 他 2003, 第10章.
- ^ 栗原 2020, pp. 271–272.
- ^ 北川 2015, pp. 123–124.
- ^ Le profezie di Zerocalcare videodrome-xl, 2012年2月6日
- ^ 栗原 2020, p. 273.
- ^ イタリア映画祭2019 作品情報 2019年
- ^ 栗原 2020, pp. 273–274.
- ^ 栗原 2020, p. 275.
- ^ 栗原 2020, pp. 274–275.
- ^ 東 2020, pp. 32–33, 150–151.
- ^ ゼロカルカーレ 2020, p. 262.
- ^ Vincitori Premi Attilio Micheluzzi 2017 Napoli COMICON, 2017年4月30日
- ^ a b 栗原 2020, pp. 275–277.
- ^ 東 2020, pp. 150–151.
- ^ ゼロカルカーレ 2020, pp. 265–267.
- ^ 【新刊】9月7日発売『コバニ・コーリング』 花伝社note, 2020年8月28日
- ^ “ゼロカルカーレ(Zerocalcare)について”. allcinema. 2023年6月26日閲覧。
参考文献
[編集]- 北川眞也「大都市をいまここでスクウォットせよ ミラノ郊外における社会的場所への欲求」『社会文化研究』第17巻、社会文化学会、2015年、121-140頁、doi:10.24700/ascc.17.0_121、ISSN 1884-2097、NAID 130007832341、2021年3月31日閲覧。
- 栗原俊秀「訳者解説」『コバニ・コーリング』花伝社、2020年。
- ゼロカルカーレ『コバニ・コーリング』花伝社、2020年。
- 野林健; 大芝亮; 納家政嗣; 山田敦; 長尾悟『国際政治経済学・入門』有斐閣〈有斐閣アルマ〉、2003年。
- 東大作『内戦と和平-現代戦争をどう終わらせるか』中央公論新社〈中公新書〉、2020年。ISBN 978-4121025760。