ゾウの糞のリサイクル
ゾウの糞のリサイクル(ゾウのふんのリサイクル)とは、飼育されるゾウが排出する糞を人が再利用(リサイクル)すること。糞に残った繊維質から紙を製造したり、燃料や堆肥に加工したりする。また、食品を得ることも行われる。
ゾウ一頭は1日に200 - 250キログラムを食し、平均50キログラムの糞を1日に排出するとされ、しばしばその糞の有効活用が行われる。
紙
[編集]ゾウの糞をリサイクルして作られた紙(英語: Poo Paper)は、世界で初めてスリランカで開発された。その後、スリランカ政府と日本国政府の交渉の末、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(ワシントン条約)の特例措置により、世界中の動物園などに輸出されるようになり、他の国でもお土産品として製造されるようになった。
タイ・チェンマイのタイ国立ゾウ保護センターでは、ゾウの糞(の繊維)から紙を作る。ゾウ1頭当たり、1日に115枚の紙を生産できる。この紙は塩素を用いておらず、また、無菌であり、かつ匂いはしないとされる[1]。
繊維を取り除いたかすは肥料となる。また、この紙は、絵画にも用いられる[2]。さらにゾウの糞中の繊維質と、ヤシ殻の繊維質とをあわせて、緑化マットも生産され、屋上緑化などに用いられる[3]。
絵本『ぼくのウンチはなんになる?』が著されたスリランカでは、ぞうの糞 10キログラムから A4 サイズの紙660枚が製造でき、また、この絵本の紙材料になっている[4]。このようなゾウへの取り組みにより、人間と軋轢があって、スリランカでは厄介者だったゾウが、非木材紙の供給源の一つとみられるようになった[5]。
恩賜上野動物園や千葉県の市原ぞうの国などでは、ゾウの糞のリサイクルペーパーが用いられる。
紙のすき方
[編集]ゾウの糞からの紙のすき方の手順と材料は以下である[6][7][8]。
- 手順
- 準備するもの
※繊維が細かくできればできるほど、薄い紙を製造することができる。※色を用いれば色紙が作成できる[8]。※乾かした紙の表面を削って、整える場合もある[8]。
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紙を漉く
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完成品
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乾いた紙に絵を描く
メタンガス
[編集]タイでは、ゾウの糞よりメタンガス(バイオガス)を各場所で生産し、調理などに用いている。1日1頭当たりのゾウの糞で、2家庭1日分のガスが賄えると見積もられている[9][10]。
牛糞よりバイオガスを生産する仕組みと同じで、密閉できる(地下などの)タンクに糞をため、嫌気的な条件にしてメタン発酵を行う。
米国のデンバー動物園では、タイで使用されるトゥクトゥクという三輪タクシーを輸入し、ゾウの糞をも使った糞燃料ガス車に改造し、園内で用いている。この車に用いられる燃料は、糞やごみをペレット[要曖昧さ回避]化したものである。また、園内でゾウなどを飼育する放飼場“トヨタ・エレファント・パッセージ” (Toyota Elephant Passage) には、糞のバイオガス化システムがあり、糞の埋め立て(投棄)量を減らすことに貢献している[11]。
フランスのボーバル動物園では、パンダやゾウなどの糞や植物ゴミを用いてバイオガスを発生させ、園内の自家発電とガス供給を行い、設備への保温や暖房に用い、余った電気は電力会社に売電するという[12]。
堆肥
[編集]画像外部リンク | |
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エレファント・ダンの画像 ユニバーサル園芸社 2012年3月6日公開[13] | |
大森山動物園 ゾウさん堆肥 バクトマテリアル社 公開[14] |
糞の堆肥化は多くの動物園で行われる。
大阪市の大阪市天王寺動物園では、2004年から、有機堆肥「エレファント・ダン」(ぞうさんのうんち)を製造している。2002年から糞の堆肥化に取り組み、有機性廃棄物堆肥化装置(高速発酵処理機)を導入した。生産は、ゾウ 2 頭の 1 日分の糞 120キログラム、納豆菌や乳酸菌などを混ぜ、高温で1日発酵させ、乾燥させて堆肥化する。製造量は1日 20 - 30 キロ。入場者に配布される[15]。
秋田県の大森山動物園では、2010年、同園から排出されるゾウの糞から作った“ゾウさん堆肥”の商品化を行った。当時の動物園の草食動物からは毎日700キログラムの排泄物がでて、うち 9割がゾウ2頭からの由来だったが、その糞尿の堆肥化を行い、牧草作りを行っていた。2009年からバクトマテリアル社と共同研究をし、カビ類の繁殖を抑制する納豆菌の一種・バクト菌を加えて発酵させる方法を用い、『ゾウさん堆肥』を開発した。また、バクト菌は雑草種子をも死滅させるといわれ、高品質の堆肥となっている[16]。 ゾウさん堆肥は、農家も用いるようになり、「ゾウさん米」という名で稲作が行われたりしている[17]。
チェコのプラハ動物園では、アイスクリームの容器のようなものに入ったゾウの糞1キログラムが売られ、家庭菜園の肥料として購入されている[18]。
食品
[編集]タイの高級なコーヒー豆・“ブラック・アイボリー・コーヒー” (Black Ivory) は、コーヒー豆(タイ・アラビカ種)をゾウに未消化状態で排出させ、糞の中から回収して生産する。製造はタイ北部にあるゾウ保護センターなど、各地のゾウたちである。ブラックアイボリーは、なめらかな口当たりと強い香りがあるとされる。ゾウの消化は30数時間で行われるが、コーヒー豆を消化することはできず、ただ、コーヒー豆に含まれるタンパク質が消化され、これにより蛋白質由来の苦味が消えるとされている。このコーヒー豆は、インドネシアでジャコウネコの糞から産出される高級コーヒー豆「コピ・ルアク」と同様の高いランクの価格帯で取引され、1 キロ当たり1,100 US ドルである(2012年現在)[19][20][21]。 このコーヒー豆は日本でも売られる。
2013年、このコーヒー豆を用いて作ったスパイスビール(当時の酒税法により分類は発泡酒)『うん、この黒』を日本のビール醸造所「サンクトガーレン」が製造し、エイプリルフールである4月1日に販売、即日完売した[22][23]。スタイルはコーヒースタウト[23]。
アフリカ東部には“象糞茶”(サバンナ・ティー)が伝わる。糞を1年間ほど乾かし、煮出すと紅茶に似た飲料が得られる。ゾウの糞はアフリカ各地で民間薬として扱われていた。ゾウ糞を薬として扱った例は江戸時代中期の日本においてもみられ、1729年に徳川吉宗の命でベトナムから来日した従四位広南白象は民間に払い下げられた後、引き取り主の中野村の百姓源助と名主の川崎平右衛門が、その糞を丸めて乾燥させたものに「象洞」という名をつけて丸薬として売り出したところ、飛ぶように売れ、1年後には駿府、京都、大坂にも「象洞」の店ができたほどであったという[24][25]。
更に
[編集]排出されたばかりのゾウの糞は体温測定に用いられる。これを「糞温」という。ゾウとの接触には危険が伴うが、この方法は、必ずしもゾウと接触する必要が無いため、完全な馴致(人馴れ)がなされていない個体にも用いられる。ゾウの糞温の測定方法は定められており、排泄直後の糞に水銀体温計を約5センチメートル挿入し、30 秒後に糞塊の中心部まで入れ、90 秒間測定する。ちなみにアフリカゾウとアジアゾウの正常な体温はおよそ 36 - 37 ℃の範囲にある。このほか排出物の体温測定には尿温もある[26]。
日本の岡山県の池田動物園は、大学入試の合格を祈念するために、ゾウの糞を利用した『合格運粉』(ごうかくうんこ)を2013年に配った。ヒンドゥー教の神ガネーシャにちなむ[27]。
昆虫のフンコロガシは、その採餌にゾウの糞も利用する。その糞利用はスカラベを参照。
他の動物の糞
[編集]ライオンの糞は特徴的なきつい臭いがする。そのライオンの糞で、猫の忌避、野生動物被害を防止する試みが行われる。日本では、2007年、シカとの衝突事故に悩むJR東日本が岩手大学と共同でライオンの糞からシカが忌避する成分をつきとめ、シカが線路に近寄ってこない成果を上げた。これは2003年にJR西日本がライオンの糞でシカ事故を減らした実績に基づくものだった[28]。ところが、2013年になると、一部の地域のシカには効果が無く、事故が増えているという[29]。
英国ではライオンの糞が売られている。ただ、BBCの1件のレポートでは、猫の忌避剤に用いても、人間が糞を蒔いていることを認識されて効果は無かったとしている[30]。
競走馬の馬糞は良質の堆肥となる。JRAの栗東トレーニングセンターから排出される馬糞とわらは堆肥化され、米を育て、日本酒となって市場に出荷される[31]。
かつての日本ではツキノワグマの糞が薬になっていた。
関連文献
[編集]- ツシッタ・ラナシンハ、秋沢淳子(訳)、2006、『ぼくのウンチはなんになる? ぞうさんペーパーブックシリーズ 原題:I am Phant the elephant. The world's only living paper mill.』、ミチコーポレーション(発行)、英治出版(販売) ISBN 978-4990315009
- 植田紘栄志『冒険起業家 ゾウのウンチが世界を変える。』ミチコーポレーションぞうさん出版事業部(発行)ISBN 978-4-9903150-1-6
脚注
[編集]- ^ Dung Facts Elephantdungpaper.com (Thai Elephant Conservation Center)
- ^ 神保町でトラとゾウを守るチャリティー展-「ぞうさんペーパー」に描いた作品も 2011年12月16日 神田経済新聞
- ^ 毎日新聞 2009年12月9日 『ゾウのフンで緑化マット製作 動物との共存図り』
- ^ ぼくのウンチはなんになる?/リサイクル絵本/独断でおすすめの1冊 ともだちMUSEUM
- ^ 第15回 サステナブルな紙という名の展示会 - L-Cruise 2008年2月29日 日経トレンディネット
- ^ asahi.com:ゾウのフンから再生紙づくり 文京学院大生が実演へ - 環境 2010年10月19日0時34分 朝日新聞社
- ^ a b イベント「ウンチの紙すき」を行ないました! 動物たちのおはなし 2013年7月22日 到津の森公園
- ^ a b c d Process Elephantdungpaper.com (Thai Elephant Conservation Center)
- ^ Biogas Tanks ProWorld Foundation
- ^ Methane Capture from Elephant Dung in Thailand Smart Solutions for Climate Change Posted on August 3, 2012
- ^ Poo-Powered Rickshaw Unveiled At The Denver Zoo (PHOTOS, VIDEO) Posted: 03/22/2012 1:41 pm, Updated: 03/22/2012 3:46 pm, TheHuffingtonPost.com
- ^ 仏動物園、パンダの「ふん」再利用施設建設へ 国際ニュース 2013年04月08日 08:38 AFPBB News
- ^ ゾウのフン. from ユニバーサル園芸社. 2012年3月6日公開
- ^ ゾウさん堆肥. from バクトマテリアル社. 公開
- ^ ゾウのうんち、大人気/花の肥料に動物園が配布 2004/03/24 06:43 四国新聞社(共同通信)
- ^ 商品化へ“奮”闘中 ゾウのふんから堆肥 - 47NEWS(よんななニュース) 2010/12/19 08:43 河北新報
- ^ 田口農場 - Beautiful Akita 秋田の魅力データベース 2012年10月15日 秋田県
- ^ Stinky souvenirs! Prague Zoo sells elephant dung Posted on May 13, 2011 at 07:07pm IST, IBNLive.in.com
- ^ Coffee from Thai elephant's dung costs $50 per cup on December 07, 2012 at 10:26 AM, updated December 07, 2012 at 10:34 AM, syracuse.com
- ^ ゾウのふんから集めた超高級コーヒー豆、タイのホテルが発売 国際ニュース 2012年10月26日 11:19 AFPBB News
- ^ あの「コピ・ルアク」を軽く凌駕する世界一高価な超高級コーヒー豆「ブラック・アイボリー(Black Ivory)」の製造工程の写真 2012.12.12 07:58 - Daily News Agency
- ^ “ゾウの“排泄物”から作った黒ビール『うん、この黒』登場”. ORICON NEWS (2013年4月1日). 2017年2月4日閲覧。
- ^ a b 佐藤英典 (2013年4月4日). “【ビール速報】ウンコを使ったビール『うん、この黒』を飲んでみた / 苦みとコクに感動ッ!! ウンコウメェエエーーッ!”. ロケットニュース24. 2017年2月4日閲覧。
- ^ 薄井ゆうじ 『享保のロンリー・エレファント』 岩波書店、2008年5月。
- ^ 西沢淳男 『代官の日常生活 江戸の中間管理職』 角川ソフィア文庫 2015年 ISBN 978-4-04-409220-7 p.91.
- ^ 楠田博士の「月刊どうぶつ繁殖日誌」 Vol.2『ゾウの基礎体温』 2011.9.19 どうぶつのくに.net
- ^ 「運粉」で合格呼び込め 池田動物園、ゾウのふんお守りに2014/1/15 14:31 - 山陽新聞ニュース
- ^ 産経新聞 2007年9月2日 『“獅子フン迅” シカよけ特効薬にライオンの糞成分』
- ^ 鉄道事故:シカと電車、衝突4件相次ぐ 先月から突然の増、対応苦慮 — JR嵯峨野線/京都 2013年06月15日 地方版 毎日jawp(毎日新聞)
- ^ BBC News|ENGLAND|Cat-astrophic feline deterrent Wednesday, 3 April, 2002, 16:03 GMT 17:03 UK
- ^ 【競馬サイドストーリー】「馬糞」が「日本酒」になる! 2000頭分の排泄物を有効活用したJRA“エコ商法”のヒット 2013.4.13 18:00 MSN産経west(産経新聞)
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 西成で“DASH村”!? ゾウ糞の堆肥利用、菜園計画 生活保護受給者らが栽培 - ウェイバックマシン(2012年11月22日アーカイブ分) - MSN産経west(産経新聞)
- 「究極のリサイクル ゾウ糞有機堆肥で作ったサツマイモをゾウの春子にプレゼント」(大阪市天王寺動物園) - 毎日動画(毎日新聞)
- ぞうさんのうんち100%の紙(web-archive)