タウバーの定理
解析学において、タウバーの定理(タウバーのていり、英: Tauber's Theorem)は無限級数の収束に関する定理[1]。ある一定の条件の下、無限級数におけるアーベルの定理の逆が成り立つことを述べる。オーストリアの数学者アルフレッド・タウバーが1897年に示した[2]。後に英国の数学者G. H. ハーディとJ. E. リトルウッドはタウバーの定理を原型とする種々の拡張を与え、それらをタウバー型定理と呼んだ[3]。
導入
[編集]∑
anは∑∞
n=0 an=lを満たす実数の級数とする。このとき、アーベルの定理によれば、f(x)= ∑∞
n=0 anxnを収束半径1のベキ級数とすると、f(x)はx → 1 −でf(x) →lを満たす。また、クロネッカーによる定理[4]によれば、n → ∞で 1/n∑∞
k=0 kak→0が成り立つ。
一方でアーベルの定理の逆は必ずしも成り立たない。すなわち、f(x)= ∑∞
n=0 anxnを収束半径1のベキ級数としたときに、f(x)がx → 1 −でf(x) →lという条件を満たす、言い換えればアーベル総和可能であっても、∑∞
n=0 anはlに収束するとは限らない。例えば、 an=(−1)nとすると、f(x)= ∑∞
n=0 anxn=1/1+xは f(x)=1/2であるが、∑∞
n=0(-1)nは収束しない。また、クロネッカーによる定理の逆についても同様であり、n → ∞で1/n∑∞
k=0 kak→0という条件が満たされても、∑∞
n=0 anは収束するとは限らない。しかしながら、タウバーの定理はアーベルの定理とクロネッカーによる定理の結果が同時に満たされているならば、逆に∑∞
n=0 an=lが成り立つことを保証する。
定理の内容
[編集]級数∑
anはアーベル総和可能、すなわち、収束半径1のベキ級数f(x)= ∑∞
n=0 anxnがx → 1 −でf(x) →lを満たすとする。このとき、条件
- (T0)
が満たされるならば、
が成り立つ。この定理をタウバーの定理という。条件(T0)は、
- (T'0)
に置き換えてもよい。
タウバー型定理
[編集]タウバーの定理における条件(T0)または(T'0)はアーベル総和可能でアーベル総和の値がlとなる級数が通常の意味でlに収束する条件を与えている。より一般的に、総和法において、値lに総和可能な級数が(T0)や(T'0)のようにlに収束する条件をタウバー型条件と呼び、タウバー型条件を与える定理をタウバー型定理と呼ぶ。
タウバーの定理における条件(T'0)はランダウの記号を用いると、
- (T'0)
と表すことができる。1911年にJ. E. リトルウッドはこれをさらに弱い条件
- (T1)
と置き換えることができることを示した[5]。
さらにG. H. ハーディとJ. E. リトルウッドはこの条件を弱め、定数Cが存在し
- (T2)
とすることができることを示した。
脚注
[編集]- ^ 石黒(1977)、第3章
- ^ A. Tauber, "Ein Satz aus der Theorie der unendlichen Reihen" , Monatshefte für Mathematik und Physik, 8 (1897), pp. 273–277. doi:10.1007/BF01696278
- ^ D. Choimet and H. Queffélec (2015), chapter.1
- ^ L. Kronecker, "Quelques remarques sur la détermination des valeurs moyennes", C.R.A.S. 103 (1887) pp.980–987
- ^ J. E. Littlewood, "The converse of Abel's theorem on power series", Proc. London Math. Soc. 9 (1911), pp. 434–448 doi:10.1112/plms/s2-9.1.434
参考文献
[編集]- D. Choimet and H. Queffélec, Université de LilleTwelve Landmarks of Twentieth-Century Analysis, Cambridge University Press (2015) ISBN 978-1107650343
- 石黒一男『発散級数論』森北出版(1977) ISBN 978-4627031494