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チェビシェフの不等式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

チェビシェフの不等式(チェビシェフのふとうしき、: Chebyshev's inequality)は、不等式で表される、確率論の基本的な定理である。パフヌティ・チェビシェフによって初めて証明された。

標本または確率分布は、平均の周りに、ある標準偏差をもって分布する。この分布と標準偏差との間の、どのような標本・確率分布でも成り立つ関係を示したのが、チェビシェフの不等式である。例えば、平均から標準偏差の 2 倍以上離れた値は、全体の 1/4 以下である。一般に、標準偏差の n 倍以上離れた値は全体の 1/n2 以下である。

歴史

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この定理はロシアの数学者パフヌティ・チェビシェフの名をつけられているが、最初にこの定理を示したのは彼の友人であり同僚でもあったIrénée-Jules Bienayméである[1]:98

この定理は最初に1853年に Bienaymé によって証明され[2]、後の1867年にチェビシェフによってより一般的な形で証明された[3][4]。彼の教え子であるアンドレイ・マルコフは、1884年に博士論文の中で別証明を与えた[5]

一般的表現

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この不等式は測度論を使って一般的に述べることができ、それから特別の場合(測度空間次元が 1)として、確率論での形が導かれる。

測度論的表現

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(X, Σ, μ) を測度空間、fX 上で定義された拡張実数無限大を含む)値可測関数とすると、任意の実数 t > 0 に対して

となる。より一般的には、g が非負実数値可測関数で、f の値域の範囲で減少しないとすれば、 と定義し

となる。最初の式は、ここで g(t)

で定義し、f の代わりに |f| を用いれば導かれる。

確率論的表現

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X を、期待値μ, 有限の分散σ2 である確率変数とすると、任意の実数 k > 0 に対して

ただし k > 1 の場合にだけ意味がある。

余事象について、こうなる。

例として、k = 2 を使えば、少なくとも半数の値は区間 (μ2σ,   μ + 2σ) 内に存在することが分かる。

チェビシェフの不等式は大数の法則(弱法則)の証明に用いられるものとして特に重要である。

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分かりやすい例として、大量の文章があるとしよう。それらの文章の長さは、平均 (μ) が 1000 文字であって、標準偏差 (σ) が 200 文字であることが分かっているとする。すると、チェビシェフの不等式から、次の事実が導かれる。

  • 長さが 717 から 1282 文字の文章の割合は少なくとも 50% である(k = 2 の場合)。
  • 長さが 600 から 1400 文字の文章の割合は少なくとも 75% である(k = 2 の場合)。
  • 長さが 400 から 1600 文字の文章の割合は少なくとも 88% である(k = 3 の場合)。
  • 長さが 200 から 1800 文字の文章の割合は少なくとも 93% である(k = 4 の場合)。
  • 長さが 2000 文字以下の文章の割合は少なくとも 96% である(k = 5 の場合)。

もし文章の長さが正規分布に従っているなら、次がいえる。

  • 長さが 770 から 1230 文字の文章 (μ − 1.15σ,   μ + 1.15σ) の割合は 75% である。
  • 長さが 717 から 1282 文字の文章 (μ2σ,   μ + 2σ) の割合は 84% である。
  • 長さが 600 から 1400 文字の文章 (μ − 2σ,   μ + 2σ) の割合は 95% である。

証明

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測度論的な証明

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AtAt = {xX | f(x) ≥ t} で定義すると

がすべてのに対して成り立つことより、

となる。上の不等式を g(t) で割れば、目的の不等式が得られる。

確率論的な証明

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任意の実数確率変数 Y と任意の正の実数 a に対して、マルコフの不等式から Pr(|Y| > a) ≤ E(|Y|)/a が得られる。この不等式に Y = (Xμ)2, a = (σk)2 を適用すると、チェビシェフの不等式が導かれる。

また直接証明する方法もある。事象 A に対し IAA指示関数に従う確率変数である(つまり IAA が起これば 1、そうでなければ 0)とする。すると

と証明される。


出典 

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  1. ^ Donald Knuth (1997). The Art of Computer Programming: Fundamental Algorithms, Volume 1 (3rd ed.). Reading, Massachusetts: Addison–Wesley. ISBN 978-0-201-89683-1. http://www-cs-faculty.stanford.edu/~uno/taocp.html 1 October 2012閲覧。 
  2. ^ I.-J. Bienaymé (1853). “Considérations àl'appui de la découverte de Laplace”. Comptes Rendus de l'Académie des Sciences 37: 309–324. 
  3. ^ P. Tchebichef (1867). “Des valeurs moyennes”. Journal de Mathématiques Pures et Appliquées. 2 12: 177–184. 
  4. ^ Routledge, Richard. Chebyshev’s inequality. Encyclopedia Britannica. https://www.britannica.com/science/Chebyshevs-inequality 
  5. ^ Markov A. (1884) On certain applications of algebraic continued fractions, Ph.D. thesis, St. Petersburg.

関連項目

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