チャイカ
チャイカ(キリル文字表記: чайка チャーイカ、ラテン文字転写の例: chaika, čajka)は、ロシア語の女性名詞で、「カモメ」のこと。チャイカは一般に広く愛されており、様々なものの名称や愛称に使用されている。また、チャイカ(Чайка)は、ウクライナ系の姓でもある。地名としても旧ソビエト連邦諸国の各地に見られる。
一方、ポーランド語ではチャイカ(czajka チャイカ、チャーイカ)は「カモメ」ではなく「タゲリ」のことを指す。ポーランド語で「カモメ」を意味する語はドイツ語系の「メヴァ」(mewa メヴァ、メーヴァ)である。また、ウクライナ語では「カモメ」を指すことの方が一般的であるが、「タゲリ」を指すこともある。どちらもチドリ目の鳥であるが、なぜ混同が生じたのかについては明白ではない。
概要
[編集]チェーホフのかもめ
[編集]「チャイカ」(かもめ)といって思い当たるものの筆頭に上げられるのは、まずロシアの作家アントン・チェーホフの戯曲『かもめ』であろう。これは湖畔のとある田舎の物語で、文学や舞台における「新しい形式」を求める青年の挫折、彼の恋する相手や大女優である母親との軋轢、都会からやってきた流行作家やこの田舎のほかの住人らの生活・人生を描く。初演は、役者や観客の不理解から一時チェーホフに「もう二度と戯曲は書くまい」と決心させたほどの失敗に終わったが、モスクワ芸術座での2度目の公演は大成功を収め、チェーホフにのちに「4大戯曲」と呼ばれることになる『ワーニャ伯父さん』、『三人姉妹』、『桜の園』を書かせることとなった。また、モスクワ芸術座は「かもめ」のエンブレムを劇団のシンボルに採用している。
『かもめ』には「4幕の喜劇」という副題が付けられているが、内容は一般に「コメディー」から想像されるもの若干異とはなる。一見「悲劇」と名付けられそうなこの戯曲に敢えて「喜劇」と銘打ったことから、チェーホフがそのような本人たちにとってはとても喜劇的とはいえない人生を、客観視してひとつの「喜劇」として描いたと評される。
なお、『かもめ』の初期の日本語訳では「海の鴎」(注:原文正字)という訳語が使用されているが、чайка には英語の seagull のように「海」という意味が特に含まれているわけではないので、敢えて「海の」と形容する必要はない。また、一見「陸の鴎」のように思われる里山にいるカモメも、季節によって海から川沿いに移動しているだけであったりするので、「海の鴎」という訳語はあまり意味がない。また、戯曲の舞台はあくまで「湖の畔」であるので、そこに飛び交うカモメが「海の鴎」であるというのは描写的におかしく、また実物のカモメとシンボルとしての「かもめ」を「鴎」、「海の鴎」と訳し分けてしまっているとすれば、それはナンセンスである。現代では、一部の例外を除いてたんに「かもめ」と訳されている。
宇宙のかもめ
[編集]ソ連の女性宇宙飛行士ワレンチナ・テレシコワは、1963年に宇宙船ヴォストーク6号で女性初の宇宙飛行を果たした際、「チャイカ」のコールサインを使用した。無線交信で彼女の言った「ヤー・チャイカ」という言葉は、「私はかもめ」というチェーホフの台詞に直訳され、ロマンチックなイメージで有名になった。実際には、たんに「こちら«チャイカ»、どうぞ」というような実務上の呼びかけであるが、宇宙船のコールサインにこの単語を用いるということからはロシア人のこの単語に対する感性が窺われる。
関連項目
[編集]- チャイカ(Чайка)は、ウクライナ系の姓。ロシア系の姓では一般名詞を形容詞化して使用している場合が多いが、ウクライナ系の姓には動植物の名詞がそのまま性となっているものが少なくない。なお、「Чайка」は本来女性名詞であるが、姓となった場合には男性・女性は関係なく、ロシア系の姓のように語尾が変化することはない。チャイカ姓をもつ著名人としては、現在ロシアで検察庁長官を務めるユーリイ・ヤーコヴレヴィチ・チャイカが挙げられる。その他、ロシアの大作曲家として知られるピョートル・イーリイチ・チャイコーフスキイ(チャイコフスキー)の姓も、「チャイカ」に由来するものである。すなわち、これは「чайка」の物主形容詞「чайков」に形容詞語尾「-ский」をつけて作られた姓で、ウクライナ系またはポーランド系といわれる。
- チャイカ(Чайка)は、旧ソ連圏やブルガリアなどに見られる地名。
- チャイカ(Чайка)は、ウクライナの首都キエフの飛行場のひとつ。厳密にはキエフの市外に隣接しているが、「キエフ・チャイカ空港」またはたんに「チャイカ飛行場」と呼ばれる。ブレスト=リトウスク街道を走る長距離バスのバス停は、「チャイカ」である。市内バスは、通りから脇に入り飛行場まで直結している。バス停名は「SKチャイカ」で、これは「スポルトィーヴヌィイ・クルーブ・チャーイカ」(Спортивнтй клуб Чайка)の略称である。 飛行場の画像
- チャイカ(Чайка)は、ウクライナの航空会社のひとつ。航空会社チャイカ(авіакомпанія "Чайка"アヴィアコムパーニヤ・チャーイカ)は、An-28、Yak-52、Mi-8などを保有、キエフのチャイカ空港をホームベースとしている。 An-28 #UR-28768, 2004 Yak-52 #UR-BFV, 2005
- チャイカ(Чайка)は、日本の首都圏でもっともよく知られたロシア料理店のひとつ。オフィシャルサイト:http://www.chaika.co.jp/。
- チャイカ(Чайка)は、ロシアの旧都サンクトペテルブルクのやや有名なホテルの名称。
- チャイカ(Чайка)は、ウクライナ・コサックがドニプロ川などで用いた小型の船の名称。
- チャイカ(Чайка)は、バルト艦隊の小型水雷艇。
- チャイカ(Чайка)は、黒海艦隊等で運用された掃海艇。
- チャイカ(Чайка)は、ソ連のGAZ(ГАЗガーズ、Горьковский автомобильный заводゴーリカフスキイ・アフタマビーリヌィイ・ザヴォート)で生産されたリムジンGAZ-14の愛称。
- チャイカ(Чайка)は、ソ連の時計メーカー。チャイカ_(時計メーカー)を参照のこと。
- チャイカ(Чайка)は、ベラルーシのカメラメーカーBelOMO製の35 mmハーフサイズ版コンパクトカメラ(ハーフカメラ)の名称。数種類発売された。
- チャイカ(Чайка)は、ソ連製の複葉単発単座戦闘機I-15につけられた通称。上主翼の形がいわゆる「ガル翼」(カモメの翼のように上方で折れ曲がった翼型)であることから名付けられた。
- チャイカ(Чайка)は、ソ連製の複葉単発単座戦闘機I-153の愛称。上主翼の形がいわゆる「ガル翼」であることから名付けられた。
- チャイカ(Чайка)は、ソ連製の単葉双発水陸両用飛行艇Be-12の愛称。主翼の形がいわゆる「ガル翼」であることから名付けられた。
- チャイカ(Czajka)は、ポーランド製の単葉攻撃機P.43の愛称。P.23カラシの発展型。名称は「カモメ」ではなく「タゲリ」の意味。
- チャイカ(Чайка)は、ロシアの作家チェーホフの戯曲。邦題は『かもめ』。上記およびかもめ、アントン・チェーホフの項を参照のこと。
- チャイカ(Чайка)は、ヴォストーク6号のコールサイン。上記およびワレンチナ・テレシコワ参照のこと。
- チャイカ(Чайка)は、ロシア極東サハリンのホルムスクにあるホテルの名称。
- チャイカ駅(Чайка)は、ロシアに複数ある鉄道駅の名称。
- チャイカ(Чайка)は、ロシアの電波航法システム(ロランCに類似)の名称。en:CHAYKAを参照のこと。
- チャイカはロシアの時計を製造する企業。
- 棺姫のチャイカは、榊一郎のライトノベル。またチャイカ・トラバントはその登場人物。