ツォゼルグ
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ツォゼルグ[1]、ツォゼルウ[2](ナシ語: Coqssei'leel'ee[3], Ts'o dze llü ghügh[4], 現代中国語:崇仁麗恩 chóng rén li ēn[5]など[注 1])とは、中国・ナシ族の神話に登場する男性である。神話中では人類の始祖とされている。
ツォゼルグの神話は、トンバ経典『ツォバトゥ』[注 2]にて語られている[1]ほか、口頭伝承として複数の類話が伝わっている[10][注 3]。
神話のあらすじはこうである。原初の頃に、最初の人間の一族が生まれた。ツォゼルグの代に、ツォゼルグの兄弟姉妹が天神の怒りに触れ、大洪水が起きた。ツォゼルグ一人のみ、天神の教えによって生き残った。ツォゼルグは伴侶を探す。紆余曲折を経て、天女ツェフボバ[注 4]と出会う。ツォゼルグはツェフボバの父ジラアプの下を訪ねる。彼から次々と難題を課されるが、ツェフボバの助けを借りてことごとく乗り越える。ついには結婚を認めさせ、地上に戻る。その後、2人の間に生まれた3人の息子が、それぞれチベット族、ナシ族、ペー族の始祖となった。
このナシ族の神話やその他雲南地方の諸民族の類話については、日本神話における「オオナムヂがスセリビメを娶った神話」などとの類似性が指摘されており、東アジア広域にわたる比較神話学の研究対象となっている[2][11]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]参考文献
[編集]- ジョセフ・ロック, 村井信幸訳 (1978)「Mo-so (Na-Khi) 族の文献中の洪水説話」『中国大陸古文化研究』中国大陸古文化研究会、第8集、pp.47-64
- 伊藤清司 (1989)「二度の人類起源――中国西南少数民族の創世神話」『東アジアの創世神話』君島久子編、弘文堂、ISBN 4-335-56073-7 、pp.28-52
- 伊藤清司 (2005)「中国の神話」『世界神話事典〈角川選書 375〉』大林太良他編、角川書店、ISBN 4-04-703375-8 、pp.326-333
- 君島久子 (1978)「納西(麼些)族の伝承とその資料──「人類遷徙記」を中心として」『中国大陸古文化研究』中国大陸古文化研究会、第8集、pp.4-16
- 君島久子・新島翠共訳「人類遷徙記 和志武整理」『中国大陸古文化研究』中国大陸古文化研究会、第8集、pp.17-32
- 黒澤直道 (2006)『ツォゼルグの物語――トンバが語る雲南ナシ族の洪水神話』雄山閣、ISBN 4-639-01935-1
- 黒澤直道 (2007)『ナシ(納西)族宗教経典音声言語の研究――口頭伝承としての「トンバ(東巴)経典」』雄山閣、ISBN 978-4-639-01962-6
- 櫻井龍彦 (1989)「混沌からの誕生――『西南彝志』を中心としたイ族の創世神話」『東アジアの創世神話』君島久子編、弘文堂、ISBN 4-335-56073-7 、pp.53-78
- 諏訪哲郎 (1988)『西南中国納西族の農耕民性と牧畜民性――神話と言語から見た納西族の原像〈学習院大学研究叢書16〉』、学習院大学
- 諏訪春雄 (2005)『日本王権神話と中国南方神話〈角川選書 377〉』角川書店、ISBN 4-04-703377-4
- 谷野典之 (1983)「雲南少数民族の創世神話」『雲南の民族文化』飯倉照平編、研文出版、pp.7-56
- 新島翠 (2000)「天女の子孫(ナシ族)」『世界の神話101』吉田敦彦編、新書館、ISBN 4-403-25047-5 、pp.168-169
- 長谷川清 (1989)「始源の祖母――トン族の女神崇拝と社会的秩序」『東アジアの創世神話』君島久子編、弘文堂、ISBN 4-335-56073-7 、pp.102-123