コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ツォゼルグ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ツオゼルウから転送)

ツォゼルグ[1]ツォゼルウ[2]ナシ語英語版: Coqssei'leel'ee[3], Ts'o dze llü ghügh[4], 現代中国語:崇仁麗恩 chóng rén li ēn[5]など[注 1])とは、中国ナシ族神話に登場する男性である。神話中では人類の始祖とされている。

ツォゼルグの神話は、トンバ経典『ツォバトゥ』[注 2]にて語られている[1]ほか、口頭伝承として複数の類話が伝わっている[10][注 3]

神話のあらすじはこうである。原初の頃に、最初の人間の一族が生まれた。ツォゼルグの代に、ツォゼルグの兄弟姉妹が天神の怒りに触れ、大洪水が起きた。ツォゼルグ一人のみ、天神の教えによって生き残った。ツォゼルグは伴侶を探す。紆余曲折を経て、天女ツェフボバ[注 4]と出会う。ツォゼルグはツェフボバの父ジラアプの下を訪ねる。彼から次々と難題を課されるが、ツェフボバの助けを借りてことごとく乗り越える。ついには結婚を認めさせ、地上に戻る。その後、2人の間に生まれた3人の息子が、それぞれチベット族、ナシ族、ペー族の始祖となった。

このナシ族の神話やその他雲南地方の諸民族の類話については、日本神話における「オオナムヂがスセリビメを娶った神話」などとの類似性が指摘されており、東アジア広域にわたる比較神話学の研究対象となっている[2][11]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ ほか、従忍利恩(ツオンレンリエン)[6]など。
  2. ^ ナシ語英語版: Coq bber tv[7], 「人類移動の由来」[7]「人の来歴」[8]の意。漢訳題は『人類遷徙記』[8]『崇搬図』[9]『創世紀』[8]など。
  3. ^ 例えば黒澤 (2006), 黒澤 (2007) の翻訳は、トンパ経典そのものからではなく、ナシ族の老トンバ (en)・和志本(ホォ・チーペン)の語りに基づいている。
  4. ^ ツェフボボ、ツェフボボミなどとも。

出典

[編集]
  1. ^ a b 黒澤 (2007)
  2. ^ a b 諏訪 (1988)
  3. ^ 黒澤 (2007): 54, 64, 84, 137, et al.
  4. ^ Rock, 村井 (1978)
  5. ^ 君島 (1978): 15
  6. ^ 伊藤 (1989): 34
  7. ^ a b 黒澤 (2007): 42
  8. ^ a b c 黒澤 (2006): 139
  9. ^ 諏訪 (1988): 149
  10. ^ 新島 (2000)
  11. ^ 諏訪 (2005)

参考文献

[編集]
  • ジョセフ・ロック, 村井信幸訳 (1978)「Mo-so (Na-Khi) 族の文献中の洪水説話」『中国大陸古文化研究』中国大陸古文化研究会、第8集、pp.47-64
  • 伊藤清司 (1989)「二度の人類起源――中国西南少数民族の創世神話」『東アジアの創世神話』君島久子編、弘文堂ISBN 4-335-56073-7 、pp.28-52
  • 伊藤清司 (2005)「中国の神話」『世界神話事典〈角川選書 375〉』大林太良他編、角川書店ISBN 4-04-703375-8 、pp.326-333
  • 君島久子 (1978)「納西(麼些)族の伝承とその資料──「人類遷徙記」を中心として」『中国大陸古文化研究』中国大陸古文化研究会、第8集、pp.4-16
  • 君島久子・新島翠共訳「人類遷徙記 和志武整理」『中国大陸古文化研究』中国大陸古文化研究会、第8集、pp.17-32
  • 黒澤直道 (2006)『ツォゼルグの物語――トンバが語る雲南ナシ族の洪水神話』雄山閣ISBN 4-639-01935-1
  • 黒澤直道 (2007)『ナシ(納西)族宗教経典音声言語の研究――口頭伝承としての「トンバ(東巴)経典」』雄山閣ISBN 978-4-639-01962-6
  • 櫻井龍彦 (1989)「混沌からの誕生――『西南彝志』を中心としたイ族の創世神話」『東アジアの創世神話』君島久子編、弘文堂ISBN 4-335-56073-7 、pp.53-78
  • 諏訪哲郎 (1988)『西南中国納西族の農耕民性と牧畜民性――神話と言語から見た納西族の原像〈学習院大学研究叢書16〉』、学習院大学
  • 諏訪春雄 (2005)『日本王権神話と中国南方神話〈角川選書 377〉』角川書店ISBN 4-04-703377-4
  • 谷野典之 (1983)「雲南少数民族の創世神話」『雲南の民族文化』飯倉照平編、研文出版、pp.7-56
  • 新島翠 (2000)「天女の子孫(ナシ族)」『世界の神話101』吉田敦彦編、新書館ISBN 4-403-25047-5 、pp.168-169
  • 長谷川清 (1989)「始源の祖母――トン族の女神崇拝と社会的秩序」『東アジアの創世神話』君島久子編、弘文堂ISBN 4-335-56073-7 、pp.102-123