ツルアラメ
ツルアラメ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ツルアラメ
| |||||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||
学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Ecklonia cava ssp. stolonifera (Okamura) S. Akita, K. Hashimoto, Hanyuda & H. Kawai, 2020[1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
ツルアラメ、アラメ[2][注 1]、ガガメ[2]、カジメ[2][注 2] |
ツルアラメ(蔓荒布[3][4]、学名:Ecklonia cava ssp. stolonifera)は、コンブ目コンブ科[注 3]カジメ属に属する大型の褐藻の1種である。多年生の海藻であり、1本の茎(茎状部)の先端に葉(葉状部)がつき、ときにその両縁から側葉が羽状に伸びている(右図)。茎の基部からは長い匍匐枝を伸ばし、そこから新たな藻体が生じて栄養繁殖を行う(右図)。葉の表面はふつうシワ状である(右図)。北海道南部から九州、韓国の日本海岸に分布する。潮下帯に生育し、水深199メートルからの採集記録もある。「ツルアラメ」の名は、匍匐枝を伸ばすことに由来する[3]。
特徴
[編集]ツルアラメの胞子体は発達した付着器と茎(茎状部)、その先端についた葉(葉状部)からなる[3][4][8](右上図)。多年生(最大5-6年[9])であり、長さ25-150センチメートルになる[3]。茎の基部から匍匐枝(匍匐根枝、匍匐茎、ストロン)が横に伸び、所々から細い根枝が生じて基質に付着している[3][8](右上図)。茎は円柱状、直径3-5ミリメートル、長さ5-50センチメートルになる[8]。葉は帯状、披針形、長楕円形、円形などであり、幅5-30センチメートル、長さ20-100センチメートル、基部はくさび形または円形、中帯部と縁辺部の厚さは同程度、葉面には不規則なシワがある[3][8](右上図)。葉の両縁はときに羽状に伸びて側葉となり、側葉は幅1-5センチメートル、長さ3-15センチメートル、葉縁には鋸歯状の突起がある[3][8](右上図)。茎と葉には粘液腔道があり、茎ではときに不規則な2列になる[8]。
匍匐枝から新しい藻体が生じて栄養繁殖を行う[3][9][8](右上図)。近縁の褐藻とは異なり、ツルアラメは主に栄養繁殖によって安定的な群落の維持拡大を行っていることが報告されている[9]。またツルアラメは、葉の両面に多数の遊走子嚢(単子嚢)からなる子嚢斑を形成する[8]。子嚢斑は最初にシワの窪みに形成され、やがてこれがつながって不規則な楕円形の子嚢斑になる[8]。遊走子は着生して微小な糸状の配偶体となり、卵生殖を行う[9]。
分布・生態
[編集]北海道南部から九州北部、韓国にかけての日本海沿岸に分布する[1][2][3][8]。低潮線付近から潮下帯のやや深場(ふつう水深2-35メートル)に生育する[3][9]。若狭湾沖で水深199メートルの海底から採集された記録があり、海藻の最深記録とされることもある[10][11][注 4]。
ツルアラメは多年生であるため、サザエやアワビ、ウニ類などの藻食動物にとって餌として重要である[9]。ただしツルアラメ群落内にはキタムラサキウニやエゾアワビはほとんど認められないとされ[9]、またツルアラメはアラメやアントクメなど他のコンブ目藻類にくらべてポリフェノール(フロロタンニン)を多く含み、これが忌避成分となっていることが報告されている[13]。ツルアラメのポリフェノール含量は冬から春に少なく夏から秋に多い[14][15]。
人間との関わり
[編集]東北地方から北陸地方の日本海側では、ツルアラメは食用とされることがある[2]。ただし上記のようにツルアラメはポリフェノールを多く含み、それが苦味やえぐみの原因となるため、これが少ない冬から初夏にかけての若芽が利用される[3]。佐渡地方ではツルアラメを刻んで煮たものを枠に入れて乾燥させ、「板アラメ」として販売している[10][16]。
またツルアラメの苦味やえぐみの原因となるポリフェノールについては抗酸化作用や血糖上昇抑制作用が報告されており[17]、これを利用した製品も販売されている[18]。
ツルアラメは繁殖力が強いため(匍匐枝から新たな藻体を形成する栄養繁殖を行う)、1990年代よりマコンブやワカメなど商品価値が高い海藻の漁場に侵入し、その成長を阻害することが報告されるようになった[3][14][19][20]。被害を受けた大間町(青森県)の漁協では、駆除と活用の両面から食用海藻としての利用が進められ、2010年には23トンが販売されている[15][21][22]。
分類
[編集]ツルアラメは、(Okamura(1913)) によってカジメ属の新種(Ecklonia stolonifera)として記載された[23]。ツルアラメに類似したカジメ属の種としてクロメやカジメがあるが、ツルアラメは匍匐枝をもつ点でこれらの種とは区別される。しかし遺伝子解析からは、ツルアラメとクロメ、カジメの間の形態的差異は、遺伝的差異とは一致しないことが示されている[1]。また交配実験では、ツルアラメはクロメやカジメととの間で正常な胞子体が形成されたことが報告されている[24]。そのため、ツルアラメとクロメはカジメの亜種とすることが提唱され、ツルアラメは Ecklonia cava ssp. stolonifera と命名された[1]。また日本海側で形態的にクロメと同定される個体(匍匐枝を欠く)は遺伝的にはツルアラメを含む系統群に属することが示されており、このような個体に対しては Ecklonia cava var. kuromeoides として変種レベルで命名されている[1]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e Shingo Akita; Kazuki Hashimoto; Takeaki Hanyuda; Hiroshi Kawai (2020). “Molecular phylogeny and biogeography of Ecklonia spp. (Laminariales, Phaeophyceae) in Japan revealed taxonomic revision of E. kurome and E. stolonifera”. Phycologia (Taylor & Francis) 59 (4): 330-339. doi:10.1080/00318884.2020.1756123 .
- ^ a b c d e 倉島彰 (2012). “アラメ、カジメ類”. In 渡邉信(監). 藻類ハンドブック. エヌ・ティー・エス. pp. 598-601. ISBN 978-4864690027
- ^ a b c d e f g h i j k l 神谷 充伸 (監) (2012). “ツルアラメ”. 海藻 ― 日本で見られる388種の生態写真+おしば標本. 誠文堂新光社. pp. 102-103. ISBN 978-4416812006
- ^ a b 田中次郎・中村庸夫 (2004). “ツルアラメ”. 日本の海藻 基本284. 平凡社. p. 103. ISBN 9784582542370
- ^ 吉田忠生, 鈴木雅大 & 吉永一男 (2015). “日本産海藻目録 (2015年改訂版)”. 藻類 63 (3): 129-189. NAID 40020642430.
- ^ 四ツ倉典滋 (2010). “日本産コンブ目植物の分類体系”. Algal Resources 3 (2): 193-198. doi:10.20804/jsap.3.2_193.
- ^ Samuel Starko; Marybel {Soto Gomez}; Hayley Darby; Kyle W. Demes; Hiroshi Kawai; Norishige Yotsukura; Sandra C. Lindstrom; Patrick J. Keeling; Sean W. Graham; Patrick T. Martone (2019). “A comprehensive kelp phylogeny sheds light on the evolution of an ecosystem”. Molecular Phylogenetics and Evolution 136: 138-150. doi:10.1016/j.ympev.2019.04.012. ISSN 1055-7903 .
- ^ a b c d e f g h i j 吉田忠生 (1998). “カジメ属”. 新日本海藻誌. 内田老鶴圃. pp. 342-344. ISBN 978-4753640492
- ^ a b c d e f g 能登谷正浩 (1995). “青森県沿岸のツルアラメ”. 日本水産学会誌 61 (1): 105-106. doi:10.11233/aquaculturesci1953.54.1.
- ^ a b 海の自然再生ワーキンググループ (2007年). “2.7 海藻類”. 順応的管理による海辺の自然再生. 国土交通省. 2021年12月5日閲覧。
- ^ 鈴木雅大 (2020年6月6日). “ツルアラメ Ecklonia cava subsp. stolonifera”. 写真で見る生物の系統と分類. 生きもの好きの語る自然誌. 2021年12月5日閲覧。
- ^ Littler, M. M., Littler, D. S., Blair, S. M. & Norris, J. N. (1986). “Deep-water plant communities from an uncharted seamount off San Salvador Island, Bahamas: distribution, abundance, and primary productivity”. Deep Sea Research Part A. Oceanographic Research Papers 33: 881-892. doi:10.1016/0198-0149(86)90003-8.
- ^ 谷口和也, 蔵多一哉, 鈴木稔「褐藻ツルアラメのポリフェノール化合物によるエゾアワビに対する摂食阻害作用」『日本水産学会誌』第57巻第11号、日本水産学会、1991年、2065-2071頁、doi:10.2331/suisan.57.2065、ISSN 0021-5392、NAID 130001545187。
- ^ a b 伊藤聖子, 成田真由美, 加藤陽治「ツルアラメの調理加工に関する研究」『弘前大学教育学部紀要』第104巻、2010年、105-110頁。
- ^ a b 小田桐慎一郎 2014.
- ^ “ツルアラメ”. 新潟県. 2021年12月18日閲覧。
- ^ 岩井邦久 (2004). “ツルアラメ (Ecklonia stlonifera) のポリフェノールに関する研究”. 産業技術連携推進会議東北・北海道地域部会研究論文集 4: 127-129.
- ^ “奇跡の海藻 西ノ島ツルアラメ サプリメント”. Takakura. 2021年12月18日閲覧。
- ^ 小田桐慎一郎, 加藤陽治「ツルアラメに含まれる糖質, アミノ酸およびポリフェノールの季節変化」『日本食品科学工学会誌』第61巻第7号、2014年、268-277頁、doi:10.3136/nskkk.61.268。
- ^ 桐原慎二, 藤川義一, 蝦名浩, 能登谷正浩「青森県大間崎沿岸におけるツルアラメ卓越群落除去後に観察された海藻群落の遷移」『水産増殖』第54巻第1号、2006年、1-13頁、doi:10.11233/aquaculturesci1953.54.1。
- ^ “【大間町】 農山漁村の「地域経営」取組事例”. 青森県 (2021年9月9日). 2021年12月18日閲覧。
- ^ “海藻開発コンブリオ「大間の金とろろ やわらかホタテ入」”. 青森のうまいものたち. 青森県農林水産部総合販売戦略課. 2021年12月18日閲覧。
- ^ & Okamura(1913).
- ^ 右田清治「アラメ・カジメ類の属間・種間交雑」『長崎大学水産学部研究報告』第56号、1984年、15-20頁、NAID 120006970909。
参考文献
[編集]- Okamura, Kintaro (1913). “the marine algae of chosen”. Rep. Imp. Bur. Fish., Sci. Inv. 2: 17-30. doi:10.11501/1678722. NAID 10011941934. NDLJP:1678722 . (原記載)
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 鈴木雅大 (2020年6月6日). “ツルアラメ Ecklonia cava subsp. stolonifera”. 写真で見る生物の系統と分類. 生きもの好きの語る自然誌. 2021年12月5日閲覧。
- “ツルアラメ”. 海藻・海草写真. 三重大学 生物資源学部 藻類学研究室. 2021年12月18日閲覧。
- “ツルアラメ”. ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑. 2021年12月18日閲覧。
- Guiry, M.D. & Guiry, G.M. (2021年). “Ecklonia cava ssp. stolonifera''”. AlgaeBase. World-wide electronic publication, National University of Ireland, Galway. 2021年12月10日閲覧。 (英語)