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テトラブロモビスフェノールA

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
テトラブロモビスフェノールA
識別情報
略称 TBBPA, TBBP-A, TBBA
CAS登録番号 79-94-7 チェック
PubChem 6618
ChemSpider 6366 ×
UNII FQI02RFC3A チェック
EC番号 201-236-9
KEGG C13620 ×
MeSH C443737
ChEBI
特性
化学式 C15H12Br4O2
モル質量 543.9 g·mol−1
密度 2,12 g·cm−3 (20 °C)[1]
融点

178 °C, 451 K, 352 °F [1]

沸点

250 °C, 523 K, 482 °F ((decomposition)[1])

への溶解度 insoluble
危険性
主な危険性 N[1]
Rフレーズ R50/53[1]
Sフレーズ S60 S61[1]
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

テトラブロモビスフェノールA(Tetrabromobisphenol A、TBBPA)は、臭素難燃剤の一種である。市販されているものは黄色を呈するが、純粋なものは白色の固体である。難燃剤としては最も一般的なものの1つである[2]

生産と用途

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TBBPAは、ビスフェノールAの臭素化により生産される。市販されるTBBPAのほとんどは、化学式 C15H16−xBrxO2 (x=1-4)で表される、臭素化度の異なるものの混合物である。臭素化度が高いほど難燃性が高い。ヨーロッパの年間消費量は2004年に6,200トンと推定されている[3]

この他の用途として、合成樹脂の反応性成分(モノマー)としての利用があり、ビスフェノールAの一部をTBBPAに置き換えて難燃性ポリカーボネートを製造するのに使用される。特に、プリント基板で使用されるエポキシ樹脂の製造には、低グレードのTBBPAが使用される。

TBBPAモノマーを含むポリカーボネート共重合体

毒性

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欧州食品安全機関(EFSA)は、2011年12月にTBBPAおよびその誘導体への食品の暴露に関する研究を発表した。この研究では魚介類など海産物から344の食品サンプルを調査したうえで、「欧州連合における現時点のTBBPAへの食品の曝露は、健康上の懸念を引き起こさない」と結論付けた。また、EFSAは「特に幼児が、ハウスダストを通じてTBBPAにさらに曝露しても、健康上の懸念が生じる可能性は低い」と判断した[4]

TBBPAが内分泌攪乱物質および免疫毒性物質である可能性を示唆する複数の研究がある。内分泌攪乱物質としては、エストロゲン(女性ホルモン)とアンドロゲン(男性ホルモン)の両方に干渉する可能性がある[5]。さらに、TBBPAはその構造から甲状腺ホルモンであるチロキシン(T4)様物質として作用し、しかも T4 よりも輸送タンパクであるトランスサイレチンとの結合能が強いため、T4 の活性を阻害する。また、T細胞におけるCD25受容体の発現を阻害して活性化を妨げ、ナチュラルキラー細胞の活性を低下させることにより、免疫応答を抑制する可能性がある[6] [7]

TBBPAに関する2013年の文献レビューでは、TBBPAは「内分泌系の障害に関連すると考えられ得る悪影響」を引き起こさないと結論付けられており[8]、国際的な定義によればTBBPAは「内分泌攪乱物質」と見なされるべきではないとされる。さらに、哺乳類においてはTBBPAは急速に排泄されるため、体内に蓄積される可能性はない。ハウスダストや食事、血清サンプル中に検出されるTBBPAの濃度は非常に低く、ヒトにおけるTBBPAの1日摂取量は数ng/kg体重/日を超えないと推定されている。大衆の曝露も、REACHにおける導出無毒性量(derived-no-effect-levels、DNEL)を遙かに下回っている。

TBBPAはビスフェノールAとTBBPAジメチルエーテルに分解するが、ゼブラフィッシュDanio rerio)での実験では、TBBPAはビスフェノールAまたはTBBPAジメチルエーテルよりも発生時の毒性が高い可能性があることが示唆されている[9]

検出

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環境中に排出されたTBBPAは、水圏土壌底質に極低濃度で検出される。また、下水汚泥ハウスダストからも検出される[10]。TBBPAは、460件以上の研究をレビューしたEUリスク評価手順に基づいて8年間に渡る評価が行われている。リスクアセスメントの結果は、2008年6月にEU官報に掲載された[11]。リスクアセスメントの結論は、欧州委員会のSCHER委員会(健康および環境リスクに関する科学委員会[12])で承認された。TBBPAはREACHに登録されている[13]

規制

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RoHSによる規制について、欧州委員会から委託を受けたコンサルティング・ファームが検討を行っていたが、2021年3月2日に最終報告書が公開され、「添加用途でのTBBP-AのRoHS2の付属書IIへの収載を推奨」すると結論された[14]。ただし、反応性の用途、特にFR4プリント基板の素材としての使用は推奨する規制に含まれない、とされた[15]

脚注

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  1. ^ a b c d e f Record of Tetrabromobisphenol A 労働安全衛生研究所(IFA)英語版発行のGESTIS物質データベース, accessed on 2008/2/15
  2. ^ Dagani, M. J.; Barda, H. J.; Benya, T. J.; Sanders, D. C. (2005), "Bromine Compounds", Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Weinheim: Wiley-VCH, doi:10.1002/14356007.a04_405
  3. ^ Draft EU Risk Assessment of 2,2′,6,6′- TETRABROMO-4,4′-ISOPRYOPYLIDENE DIPHENOL, Final Environmental Draft of June 2007
  4. ^ EFSA Scientific Opinion on Tetrabromobisphenol A (TBBPA) and its derivatives in food (2011) https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.2903/j.efsa.2011.2477. See page 1.
  5. ^ Shaw, S.; Blum, A.; Weber, R.; Kannan, K.; Rich, D.; Lucas, D.; Koshland, C.; Dobraca, D. et al. (2010). “Halogenated flame retardants: do the fire safety benefits justify the risks?”. Reviews on Environmental Health 25 (4): 261–305. doi:10.1515/REVEH.2010.25.4.261. PMID 21268442. 
  6. ^ Pullen, S; Boecker R.; Tiegs G (2003). “The flame retardants tetrabromobisphenol A and tetrabromobisphenol A–bisallylether suppress the induction of interleukin-2 receptor α chain (CD25) in murine splenocytes”. Toxicology 184 (1): 11–22. doi:10.1016/S0300-483X(02)00442-0. PMID 12505372. 
  7. ^ Kibakaya, EC; Stephen K; Whalen MM (2009). “Tetrabromobisphenol A has immunosuppressive effects on human natural killer cells”. Journal of Immunotoxicology 6 (4): 285–292. doi:10.3109/15476910903258260. PMC 2782892. PMID 19908946. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2782892/. 
  8. ^ Colnot, Thomas; Kacew, Sam; Dekant, Wolfgang (2013). “Mammalian toxicology and human exposures to the flame retardant 2,2′,6,6′-tetrabromo-4,4′-isopropylidenediphenol (TBBPA): implications for risk assessment”. Archives of Toxicology 88 (3): 553–73. doi:10.1007/s00204-013-1180-8. PMID 24352537. 
  9. ^ McCormick, J; Paiva MS; Häggblom MM; Cooper KR; White LA (2010). “Embryonic exposure to tetrabromobisphenol A and its metabolites, bisphenol A and tetrabromobisphenol A dimethyl ether disrupts normal zebrafish (Danio rerio) development and matrix metalloproteinase expression”. Aquatic Toxicology 100 (3): 255–262. doi:10.1016/j.aquatox.2010.07.019. PMC 5839324. PMID 20728951. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5839324/. 
  10. ^ Kuch B, Körner W, Hagenmaier H (2001): Monitoring von bromierten Flammschutzmitteln in Fliessgewässern, Abwässern und Klärschlämmen in Baden-Württemberg Archived 2003-12-29 at the Wayback Machine.. Umwelt und Gesundheit, Universität Tübingen.
  11. ^ TBBPA draft RAR[リンク切れ]
  12. ^ European Union Risk Assessment Report on TBBPA (2008) http://echa.europa.eu/documents/10162/32b000fe-b4fe-4828-b3d3-93c24c1cdd51
  13. ^ TBBPA REACH Registration webpage http://echa.europa.eu/web/guest/information-on-chemicals/registered-substances
  14. ^ Fraunhofer IZM; Oeko-Institut e.V (2020年11月). Study to support the review of the list of restricted substances and to assess a new exemption request under RoHS 2 (Pack 15) - Final report (PDF) (Report). 欧州委員会. 2021年5月11日閲覧
  15. ^ Fraunhofer IZM; Oeko-Institut e.V 2020, p. 557.

参考文献

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外部リンク

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