コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

デデキントゼータ関数

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

デデキントゼータ関数(デデキントゼータかんすう、: Dedekind's zeta function)とは、

代数体 K に対して

で表される関数のことをいう。ただし、和は K の整イデアル[1]全てを動き、 は整イデアル ノルムである。従って、デデキントゼータ関数は、ヘッケのL関数の特別な場合である。 特に、K有理数体のとき、リーマンゼータ関数になる。

与えられた整数 n に対して、ノルムが n である整イデアルは有限個しかなく、ノルムは正整数であるので、 デデキントゼータ関数は、

と、ディリクレ級数の形で表すことが出来る。

デデキントゼータ関数は、 に対して、絶対かつ一様収束する。従って、 で、正則関数である。

関数等式

[編集]

n 次代数体 K に対して、デデキントゼータ関数は次の関数等式を満たす:

ただし、K実共役体虚共役体の個数とする。

特に、K を有理数体にすれば、よく知られたリーマンゼータ関数の関数等式

が成立する。

さらに、 に対する、代数体 K の完備ゼータ関数を

とおけば[2]、関数等式

を満たし、解析接続できる。従って、 まで解析接続できる。

解析接続できない では、デデキントゼータ関数は 1 位ので、留数

である。つまり、

である[3]

ただし、K の実共役体、虚共役体の個数、w は、K に含まれる 1 のベキ根の個数、 は、それぞれ K類数単数基準とする。

デデキントゼータ関数の零点

[編集]

(1) 自明な零点

との関係式から自明な零点を求めることができる。
  • K総実体のとき
    任意の正整数 k に対して、
  • K総実体ではないとき
    任意の正整数 k に対して、

(2) 非自明な零点

s が、 である零点とすれば、 であると予想されている。これを拡張されたリーマン予想という。リーマンゼータ関数に対するリーマン予想をその特別な場合として含む予想であり、現在でも未解決である。

オイラー積

[編集]

任意の整イデアルは、素イデアルの積で表すことができるので、デデキントゼータ関数は、以下のオイラー積表示を持つ。

のとき、

ただし、積は K の素イデアル全てを動くものとする。

ディリクレのL関数との関係

[編集]

デデキントゼータ関数のオイラー積表示により、素イデアルのノルムの値からデデキントゼータ関数を具体的に計算することができる。素イデアルのノルムは、有理素数[4]の素イデアル分解の結果から求めることができるが、K が一般の代数体の場合、素イデアル分解が複雑であるので、具体的に計算することは大変難しい。 しかし、K二次体または円分体であれば、素イデアル分解の様子がよく分かっているので、オイラー積を計算することができ、その結果、デデキントゼータ関数をディリクレのL関数を用いて表現することができることが知られている。

(1) K が二次体の場合

K の判別式を D とし、 を法 D に関するクロネッカー指標とすると、

が成立する。

(2) K が円分体の場合

とする。

が成立する。ここで、最初の積は、法 m に関する原始的ディリクレ指標全てにわたる積とし、二番目の積は、法 m に関する原始的ディリクレ指標のうち、単位指標以外のもの全てにわたる積である。

さらに、任意の有理数体のアーベル拡大体 K は、ある円分体の部分体であるので(クロネッカー=ウェーバーの定理)、上のことから、 は、いくつかのディリクレL関数の積で表すことができる。

応用例

[編集]

デデキントゼータ関数を用いた応用例として、2つの平方数の和で表す方法の数を求めてみることにする。

これはヤコビの二平方定理として知られ、いろいろな証明方法が知られているが(ヤコビの二平方定理の証明を参照)、ここでは、デデキントゼータ関数を使った方法で証明してみる。

とおき、K 上のデデキントゼータ関数 を二通りの方法で計算する。

まずは、ディリクレ級数の形でデデキントゼータ関数を表し、その係数を求めてみる。

とおくと、

[5]

が成立するので、 は、n を2つの平方数の和で表す方法の数の4倍に等しい。慣例に従って、2つの平方数の和で表す方法の数を と書くと、

と表される。

さて、K は二次体であるので、 は、リーマンゼータ関数と、クロネッカー指標からなるディリクレL関数の積で表される。 のクロネッカー指標を具体的に求めることにより、

が成立する。二通りに表された を比較することにより、

が成立する。これはヤコビの二平方定理に他ならない。

さらなる応用として、K を別の二次体 にすることで、上と同じ方法で、 の形での表し方の数を求めることができる。

注釈

[編集]
  1. ^ K整数環のイデアルのこと。
  2. ^ K を有理数体にすれば、完備ゼータ関数になる。
  3. ^ K を有理数体にすれば、 であるので、リーマンゼータ関数に対する の留数に等しい。
  4. ^ 有理整数である素数のこと。
  5. ^ 4 で割るのは、 が全て同じイデアルに属するからである。

参考文献

[編集]
  • ノイキルヒ, J. 著、足立恒雄(監修)・梅垣敦紀 訳『代数的整数論』シュプリンガー・フェアラーク東京、東京、2003年。 

関連項目

[編集]