デルタ航空89便緊急着陸事故
事故機のデルタ航空ボーイング777、2013年撮影 | |
事件・インシデントの概要 | |
---|---|
日付 | 2020年1月14日 |
概要 | 圧縮機失速による緊急着陸及び人口密集地域での燃料投棄による健康被害、詳細調査中 |
現場 | アメリカ合衆国・カリフォルニア州ロサンゼルス及びロサンゼルス国際空港 |
乗客数 | 149 |
乗員数 | 16 |
負傷者数 | 0 |
死者数 | 0 |
生存者数 | 165 (全員) |
機種 | ボーイング777-200ER |
運用者 | デルタ航空 |
機体記号 | N860DA |
出発地 | ロサンゼルス国際空港 |
目的地 | 上海浦東国際空港 |
地上での死傷者 | |
地上での負傷者数 | 約56 |
デルタ航空89便緊急着陸事故(デルタこうくう89びんきんきゅうちゃくりくじこ、英:Delta Air Lines Flight 89)は、2020年1月14日にアメリカ合衆国・カリフォルニア州ロサンゼルス国際空港発中華人民共和国・上海市上海浦東国際空港行きのデルタ航空89便(ボーイング777-200ER)がロサンゼルス国際空港離陸直後に圧縮機失速を起こしたために同空港へ引き返し緊急着陸を行った事故である。
緊急着陸は成功し89便の乗員乗客165人全員が無事であったが、空港へ引き返す際に人口密集地域において燃料投棄を行ったため屋外にいた少なくとも56人が燃料を浴び皮膚や肺への軽度な刺激を引き起こし、投棄地点下にあった複数の学校が清掃のため一日閉鎖されるなどの被害が出た。
事故
[編集]2020年1月14日現地時間午前11時32分、デルタ航空89便は乗員16人と乗客149人の計165人を乗せてロサンゼルス国際空港を離陸した[1][2][3]。ロサンゼルス国際空港を離陸後、太平洋上にて上昇中に右エンジンが圧縮機失速を起こし、パイロットはその旨及び空港へ引き返すことを管制官に報告した。ロサンゼルス国際空港から上海浦東国際空港へ向かうためには最大着陸重量を優に超える量の燃料を積む必要があり、管制官は燃料投棄のために海上へ留まる必要があるかを尋ねた。しかし、パイロットは「我々はそれを制御下においています。...それは重要ではありません。」と燃料投棄は行わないとし、管制官による「了解、燃料の投棄を行う必要はありませんか?」との再度の問いかけに対しても「ありません。」と返した[4]。パイロットはロサンゼルス国際空港で最も長い滑走路25Rへの着陸を要請した[5]。89便は空港へ引き返して緊急着陸を行い、乗員乗客165人全員が無事に地上へ戻った[6]。
89便が緊急着陸のためロサンゼルス国際空港へ接近した際、5つの小学校と高校を含むロサンゼルス郡内の5マイル (8km) の区画に渡って燃料を投棄した[1]。最も影響を受けたのはカダヒーにあるパーク・アベニュー小学校で、何人かの生徒が燃料を浴びた。また、サウスゲイトの小学校でも生徒複数名が被害を受けた[7]。当時体育の授業を受けていた生徒らは、上空を通過する89便を見るまで雨が降っているものと勘違いしていた[8]。
余波
[編集]ファーストレスポンダーは、89便が燃料を投棄したときに屋外にいた生徒と教員を治療するために複数の学校に呼ばれた。少なくとも56人の子供と大人が、皮膚と肺に軽度の刺激を受けたと報告されている[3]。影響を受けたすべての学校は清掃のために閉鎖されたが、翌日より授業が再開された[4]。
一連の出来事はCBSニュース[3]、ニューヨーク・タイムズ[1]、ロサンゼルス・タイムズ[2]などの調査・分析・報道により多くのメディアの注目を集め国際的なメディアでも取り上げられた[4][9][10]。航空専門家は89便の乗員の行動に戸惑いを見せた。かつてユナイテッド航空で機長を務めた人物は、人口密集地域での燃料投棄は「誰も」が行うことのない「かなりとんでもないこと」であると述べた。安全専門家のジョン・コックスは「(緊急事態が発生したのは) 海上であったし、彼らは脅威が差し迫った状況でも無かった」ため、パイロットは「何故燃料投棄に適した海上から戻ってきた際に低高度で燃料を投棄し続けたのか、そして燃料を投棄している旨を管制官に報告しなかったのかを説明する必要がある。」と述べた[11]。ボーイング777のパイロットであるレス・アベンドは、パイロットは2度管制官に原因不明の理由で着陸を遅らせる必要があると報告したと述べた。これは89便の乗員がチェックリストを完了させ燃料を投棄するためにより多くの時間が必要であり、速やかに着陸することができない状況であったことを示唆している。アベンドは何故パイロットが海上で燃料を投棄しなかったのか、何故パイロットは管制官に自らの意図の説明に時間を割かなかったのかを推測し、「正直、私には答えが出せません。」と述べた[5]。
89便の事件を受け、シアトル・タコマ国際空港に隣接するワシントン州ベリアンの市長は、同空港の運営者であるポート・オブ・シアトルに対し同様の状況が発生した場合の緊急対応計画を作成するように要請した[12]。
事故機は修理され、1月24日にデルタ航空での運航に復帰した[13]。
調査
[編集]1月15日、連邦航空局は89便の事故を調査中であると発表した。声明の中で、FAAは「アメリカ合衆国の主要空港に離着陸する航空機には特別な燃料投棄手順があります」「通常は高度の高い場所で、指定された人の居ない場所に燃料を投棄するように求めています。燃料は地面に到達する前に霧化して分散します」と述べた[4]。
脚注
[編集]- ^ a b c “Delta Airplane Dumps Jet Fuel on Los Angeles Schools”. The New York Times. (January 15, 2020) January 15, 2020閲覧。
- ^ a b “Tracking Delta Flight 89’s path before it dumped fuel on an elementary school”. Los Angeles Times. (January 14, 2020) January 15, 2020閲覧。
- ^ a b c “Delta jet dumps fuel over Southern California, sickening dozens of schoolkids and adults”. CBS News. (January 14, 2020) January 15, 2020閲覧。
- ^ a b c d “FAA investigating Delta jet fuel-dumping on schoolkids”. CTV. (January 15, 2020) January 15, 2020閲覧。
- ^ a b Abend, Les (January 22, 2020). “Pilot: The mystery of Delta flight's fuel dump”. CNN May 7, 2020閲覧。
- ^ “Jet dumps fuel that lands on schoolkids near Los Angeles”. The Bakersfield Californian. (January 14, 2020) January 15, 2020閲覧。
- ^ “Elementary school kids doused as jet dumps fuel before emergency landing” (英語). Los Angeles Times (2020年1月14日). 2020年1月27日閲覧。
- ^ “Children in P.E. class showered with jet fuel: 'We thought it was rain'” (英語). Los Angeles Times (2020年1月14日). 2020年1月27日閲覧。
- ^ “Children seen leaving school in tears after plane fuel dumped on playground”. Metro. (January 15, 2020) January 15, 2020閲覧。
- ^ “Plane dumps fuel over schools near Los Angeles airport”. BBC. (January 15, 2020)
- ^ “Aviation experts puzzled after airliner dumps fuel over city”. Washington Post. (January 15, 2020) January 16, 2020閲覧。
- ^ Ayers, Christin (January 15, 2020). “Burien mayor calls for 'plan of action' at Sea-Tac Airport after LAX fuel dump incident”. KING 5 News January 18, 2020閲覧。
- ^ “Flight history for aircraft - N860DA”. Flightradar24. Flightradar24. 2020年1月24日閲覧。