ネコヤマヒゴタイ
ネコヤマヒゴタイ | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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分類(APG IV) | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
Saussurea modesta Kitam. (1933)[1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
ネコヤマヒゴタイ(猫山平江帯)[2] |
ネコヤマヒゴタイ(猫山平江帯、学名:Saussurea modesta)は、キク科トウヒレン属の多年草[2][3]。
特徴
[編集]茎は直立し、高さは30-70cmになる。茎に狭い翼があり、ふつう単純であるが、上部が分岐するときは枝は鋭角的に分枝する。根出葉は花時にも存在する。根出葉と茎の下部につく葉や根出葉の葉身は、披針形で長さ7-10cm、縁は低平な鋸歯縁、鋸歯は微突端状になる。葉身の基部はくさび形になり、葉柄は長さ3-10cmになり、葉柄の基部は茎を明瞭に抱く[2][3]。
花期は9-10月。頭状花序は茎先または枝先に少数が密集して散形状につき、頭花の径は10-13mmになり、花柄は長さ2-5mmになる。総苞は長さ9-10mm、径5-6mmになる狭筒形。総苞片は8-9列あり、縁は紫褐色をおび、総苞片間にくも毛があり、総苞外片は卵状披針形から長卵形で、先端は鋭くとがるが尾状とはならない。頭花は筒状花のみからなり、花冠の長さは9mm、色は紅紫色になる。果実は長さ3.5mmになる痩果になる。冠毛は2輪生で、落ちやすい外輪は長さ1.5-2.5mm、花後にも残る内輪は長さ8mmになる。染色体数は2n=26[2][3]。
分布と生育環境
[編集]日本固有種[4]。本州の中国地方の広島県、近畿地方の兵庫県に分布し[4]、山地の乾いた草原に生育する。超塩基性岩地である蛇紋岩地を好む[3]。
名前の由来
[編集]和名ネコヤマヒゴタイは、「猫山平江帯」の意で[2]、タイプ標本の採集地が広島県比婆郡小奴可村(同郡東城町を経て、現、庄原市)の猫山であることに由来する。植物学者北村四郎 (1933) による命名である[5]。
種小名(種形容語)modesta は、「適度な」「内気な」の意味[6]。
種の保全状況評価
[編集]- 絶滅危惧II類 (VU)(環境省レッドリスト)
都道府県のレッドデータ、レッドリストの選定状況は次の通り[7]。岐阜県-絶滅危惧I類、静岡県-絶滅危惧IB類(EN)、兵庫県-Aランク、岡山県-絶滅危惧I類、広島県-絶滅危惧I類(CR+EN)。
ギャラリー
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総苞は狭筒形。総苞片は8-9列あり、縁は紫褐色をおび、総苞片間にくも毛があり、総苞外片は卵状披針形から長卵形で、先端は鋭くとがるが尾状とはならない。
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茎葉の葉身は、披針形で縁は低平な鋸歯縁、鋸歯は微突端状になる。
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茎葉の裏面。
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葉柄の基部は茎を明瞭に抱く。
キリガミネトウヒレンとの混同と独立
[編集]本種とキリガミネトウヒレン Saussurea kirigaminensis Kitam. (1934)[8]は同一の種とする見解がある[2][9][10]。
しかし、門田裕一 (2017) は、『改訂新版 日本の野生植物 5』記載の際、本種とキリガミネトウヒレンは別の種とした。門田によると、本種は花時にも根出葉が存在し、葉の鋸歯は微突端状、葉柄の基部は茎を明瞭に抱き、花柄が長さ2-5mmになり、総苞外片の先端は鋭突頭になり、中国地方の乾いた草原に生育する。一方、キリガミネトウヒレンは花時に根出葉はなく、葉の鋸歯は粗い鋸歯縁、葉柄の基部は茎を半ば抱き、花柄はほとんどなく、総苞外片の先端は尾状に伸び、長野県霧ヶ峰とその周辺の湿地周辺に分布する[3]。
超塩基性岩地のトウヒレン属
[編集]ネコヤマヒゴタイのように、超塩基性岩地に生育するトウヒレン属の種は、日本に数種ある。北から、ウリュウトウヒレン Saussurea uryuensis[11] は、北海道上川地方、宗谷地方に分布し、岩がちの草地や岩壁に生育する。2013年にヒダカトウヒレン S. kudoana を基本種とする変種から独立した種とされた。カムイトウヒレン S. kenjihorieana[12] は、北海道上川地方の幌内山地に分布し、夏緑林林内の草地に生育する2015年新種記載の種。ユウバリトウヒレン S. yubarimontana[13]は、北海道夕張岳山麓などの岩地に生育する2013年新種記載の種。ヒダカトウヒレン S. kudoana[14]は、北海道日高地方のアポイ岳とその周辺に分布し、岩がちの草地や岩壁に生育する。イナトウヒレン S. inaensis[15]は、長野県の伊那市および下伊那郡大鹿村に特産し、夏緑林の林縁や林間の草地に生育する。ワカサトウヒレン S. wakasugiana[16]は、福井県大島半島の特産で、海岸の波打ち際近い草地に生育する2004年新種記載の種[17]。オヌカトウヒレン S. ochiaianaは、岡山県新見市、広島県庄原市に分布し、蛇紋岩地の湿地に生育する2023年新種記載の種[18]。トサトウヒレン S. yoshinagae[19]は、四国の徳島県、愛媛県、高知県に分布し、山地の草地、土手、田畑の畔などに生育する。キリシマヒゴタイ S. scapose[20]は、高知県と九州の山地の草原や夏緑林の林下に生育する[17]。
脚注
[編集]- ^ ネコヤマヒゴタイ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ a b c d e f 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p.561
- ^ a b c d e 門田裕一 (2017)『改訂新版 日本の野生植物 5』「キク科トウヒレン属」p.261
- ^ a b 『日本の固有植物』pp.147-148
- ^ 北村四郎「日本菊科新植物(承前)」『植物分類及植物地理(Acta Phytotaxonomica et Geobotanica)』第2巻第1号、植物分類地理学会、1933年、46-47頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00002594030。
- ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1503
- ^ ネコヤマヒゴタイ、日本のレッドデータ検索システム、2024年2月18日閲覧
- ^ キリガミネトウヒレン(ネコヤマヒゴタイ-シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ 北村四郎 (1981)『日本の野生植物 草本III合弁花類』「キク科トウヒレン属」p.222
- ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1137
- ^ ウリュウトウヒレン 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ カムイトウヒレン 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ ユウバリトウヒレン 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ ヒダカトウヒレン 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ イナトウヒレン 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ ワカサトウヒレン 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ a b 門田裕一 (2017)『改訂新版 日本の野生植物 5』「キク科トウヒレン属」pp.255-271
- ^ 門田裕一「アジア産トウヒレン属(キク科)の分類学的研究IX.北海道からの1新種と本州からの2新種」『植物研究雑誌 (The Journal of Japanese Botany)』第98巻第1号、ツムラ、2023年、1-12頁、doi:10.51033/jjapbot.ID0053。
- ^ トサトウヒレン 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
- ^ キリシマヒゴタイ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
参考文献
[編集]- 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本III 合弁花類』、1981年、平凡社
- 加藤雅啓・海老原淳編著『日本の固有植物』、2011年、東海大学出版会
- 門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』、2013年、山と溪谷社
- 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 5』、2017年、平凡社
- 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
- 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
- 日本のレッドデータ検索システム
- 北村四郎「日本菊科新植物(承前)」『植物分類及植物地理(Acta Phytotaxonomica et Geobotanica)』第2巻第1号、植物分類地理学会、1933年、46-47頁、doi:10.18942/bunruichiri.KJ00002594030。
- 門田裕一「アジア産トウヒレン属(キク科)の分類学的研究IX.北海道からの1新種と本州からの2新種」『植物研究雑誌 (The Journal of Japanese Botany)』第98巻第1号、ツムラ、2023年、1-12頁、doi:10.51033/jjapbot.ID0053。