バスクチーズケーキ
バスクチーズケーキ | |
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サン・セバスティアンにあるラ・ビーニャで提供されているバスクチーズケーキ |
バスクチーズケーキ、あるいはバスク風チーズケーキとは、外側を黒く焦がした濃厚な風味のあるチーズケーキである。スペインのサン・セバスティアンにある料理店ラ・ビーニャ(La Viña)のレシピをもとにしたベイクドチーズケーキで、バスク地方では「バスクチーズケーキ」にあたる名称では流通していない。日本では2018年頃からバスクチーズケーキという名称で知られるようになっている。
特徴
[編集]ベイクドチーズケーキの一種で、表面は黒くなるまで焦がしたキャラメルのような状態である一方、中は柔らかいのが特徴である[1][2][3]。チーズケーキとしては酸味が少なく、味は「ベイクドチーズケーキとレアチーズケーキの双方のいいとこ取り[4]」と言われる。クリームチーズ、卵、砂糖、小麦粉、生クリームなどをよくまぜてオーブンで焼き、その後に冷蔵して作る[1][2][3][5][6]。ただし、小麦粉を使用しないレシピもある[7]。濃厚なチーズの風味があり、ワインとあわせて食することもある[1]。焼いて作るためベイクドチーズケーキであるが、内部はしっとりして溶けるような口当たりであるため「ベイクドでもレアでもない食感[8]」だと言われている。紅茶、コーヒー、ワイン、コニャック、ウイスキーなどとともに食すこともある[5]。
来歴
[編集]ラ・ビーニャ
[編集]バスク地方には現地語で「バスクチーズケーキ」あるいは「バスク風チーズケーキ」にあたる名称で知られているケーキは存在しない[1]。スペイン北部、ギプスコア県のサン・セバスティアンにあるレストランであるラ・ビーニャで出している、外側を黒く焼いたチーズケーキが日本語で「バスクチーズケーキ」と呼ばれているものである[1]。ラ・ビーニャでは大きめに切った2切れを1枚の皿にのせて供する[9]。ラ・ビーニャはこのケーキの作り方を公開しており、現地ではよく知られている[1]。単なる「チーズケーキ」を指す「タルタ・デ・ケソ」(tarta de queso) として、地元ではバルなどの飲食店でよく提供されている[2]。
日本の洋菓子店への導入
[編集]日本国内では2016年、株式会社Plan・Do・Seeの運営するレストランにて、「バスク風チーズケーキ」として提供されはじめた[10]。同社のパティシエがスペイン・バスク地方のサンセバスチャンで食べたチーズケーキを、日本でも再現すべく開発された[10]。
2018年7月5日、東京都港区にて日本初のバスクチーズケーキ専門店ガスタが開店し、本家ラ・ビーニャから正式継承をした製法を用いたチーズケーキに「バスクチーズケーキ」と名付け、広く知られるようになった[3]。専門店の開店により、バスクチーズケーキが日本で注目されるようになった[11]。九州では先駆けとなるSOUL CAKE SHOPが熟成冷凍加工なる特殊な製法で作られるものも開発。他にも江東区のカオリーヌ菓子店など、バスクチーズケーキを出すケーキ店がメディアでとりあげられた[7]。近年では、進化系バスクチーズケーキとして「熟成バスクチーズケーキ」も発売されている[12]。
コンビニスイーツとしての普及
[編集]2019年、コンビニエンスストアのローソンが独自開発によりバスクチーズケーキをコンビニスイーツとして売り出すこととなった[13]。2月上旬から中旬にかけて群馬県で試験的に販売を行い、女性客を中心に好評を博した[14]。2019年3月26日に「バスチー」という略称で全国的にバスクチーズケーキ販売を開始し、販売3日で100万個を販売した[15]。開発にあたっては「レアチーズやベイクドチーズといった定番とはひと味違った商品[16]」を狙ったという。「バスチー」について、料理人の藤沢セリカは厳密に言うとバスクで饗されているデザートと「味付けは違」うが「やわらかい食感や風合いなど」は似ていると評している[17]。これはそれまでのローソンのコンビニスイーツとしてはもっとも早く売れ行きをのばした菓子であったプレミアムロールケーキを上回るペースであり、大きなヒット商品となった[18]。女性を中心に人気を博し、販売開始2ヶ月で1300万個を売り上げた[3][18]。2019年8月には生クリームを添加した「プレミアムバスチー」も発売した[19]。2019年9月までには売り上げが2600万個、12月初め頃までには3200万個、12月末頃には3500万個に達した[20][21][22]。2019年のクリスマスシーズンには、フードロスを抑えるため日持ちを向上させるべくレシピを変更した[23]。
ローソンのスイーツ売り上げは2019年11月15日時点で「前年同期比約6割増と好調に推移[24]」することとなった。2019年3~8月期のローソンの増益の理由のひとつはこのバスクチーズケーキのヒットであると考えられている[25]。ローソンの開発担当者である東條仁美は、既に洋菓子店などで人気が出始めていたバスクチーズケーキをいち早くコンビニで売り出したタイミングが良かったと分析している[26]。バスクチーズケーキの開発はローソンの「他社にない商品で差別化する戦略[27]」の典型例として評価されている。
ローソンでのヒットをきっかけに他社もバスクチーズケーキを販売するようになった[21]。セブンイレブンはローソンより半年ほど遅れてバスクチーズケーキを販売するようになったが、これは「これまで常に新市場を切り開いてきたセブンの自信が揺らいでいる[28]」ことを示すような追随であると評された。ファミリーマートも南九州にて、限定商品としてバスクチーズケーキを売り出した[21][29]。
バスクチーズケーキのヒットは、コンビニをはじめとする小売の洋生菓子市場を盛り上げるきっかけになったと指摘されている[30]。ホテルニューオータニ幕張のビュッフェのラインナップにバスクチーズケーキが入るようになったり、日本酒の蔵元が発酵食品の甘酒入りのバスクチーズケーキを出すなど、さまざまな店舗で売られるようになった[31][32][注釈 1]。この流行の影響で、他にもチーズを使った新しい菓子類が出回るようになった[34]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f 小宮良之. “大流行スイーツ「バスクチーズケーキ」現地バスクで知った意外な正体”. 現代ビジネス. 2020年3月24日閲覧。
- ^ a b c 「バスク⾵チーズケーキ ⾵味濃厚 中トロ」『読売新聞』2019年11月30日、東京夕刊、p. 4。
- ^ a b c d 井土聡子. “「バスク」で人気再燃 チーズケーキと五輪に深い縁?|グルメクラブ|NIKKEI STYLE”. NIKKEI STYLE. 2020年3月24日閲覧。
- ^ 藤沢セリカ『絶品!バスクチーズケーキ』河出書房新社、2020年、2頁。
- ^ a b 黒澤麻子『行ったつもりのバスク料理』ブックマン、2020年、101頁。
- ^ 藤沢セリカ『絶品!バスクチーズケーキ』河出書房新社、2020年、2-14頁。
- ^ a b 「チーズ通が選ぶチーズケーキ」『日経プラスワン』2018年11月10日、p. 1。
- ^ 「2019年ヒット商品ベスト30」『⽇経トレンディ』2019年12⽉号、p. 13。
- ^ 黒澤麻子『行ったつもりのバスク料理』ブックマン、2020年、102頁。
- ^ a b “バスクチーズケーキについて”. the LIFE by Plan・Do・See. 2022年9月2日閲覧。
- ^ 「19年ヒット食品、上半期大賞「悪魔のおにぎり」、令和は「即食」に注目」、『日経産業新聞』2019年6月14日、p. 11。
- ^ “北海道産素材と熟成の技から生まれる株式会社ビースリーの「熟成バスクチーズケーキ」熟成前と比較して旨味が強く、濃厚なトロッと感、しっとり感、まったり感がより感じられることを証明”. PR TIMES. 2021年12月8日閲覧。
- ^ 「ネット・人口減 小売り苦境」『日本経済新聞』2019年10月12日朝刊、p. 3。
- ^ 「ローソン「バスチー」好評」『日経MJ』2019年4月5日、p. 13。
- ^ 「コンビニ2社逆風下で増益」『日本経済新聞』2019年10月10日朝刊、p. 15。
- ^ 「チーズケーキ、コンビニ花盛り ひと味違うバスク⾵/3カ⽉ 300万個販売/定番で勝負」、『朝日新聞』2019年4⽉6日朝刊、p. 9。
- ^ 藤沢セリカ『絶品!バスクチーズケーキ』河出書房新社、2020年、16頁。
- ^ a b 「ヒットが生まれる!「コンビニの棚」定点観測」『日経トレンディ』2019年6月号p. 14。
- ^ 「プレミアム版「バスチー」導入」『日経MJ』2019年8月7日、p. 13。
- ^ 「セブン&アイ、百貨店などリストラ 柱のコンビニ変調で切迫」『日本経済新聞』2019年10月13日朝刊、p. 7。
- ^ a b c 「2019年ヒット商品番付――消費者にリーチ︕新星の刃、話題もバスチーも濃厚」『日経MJ』、2019年12月4日、p. 3。
- ^ 「ヒット商品番付フード編」『日経MJ』2019年12月27日、p. 11。
- ^ 「バスチーお日持ち長く」『日経MJ』2019年12月18日、p. 11。
- ^ 矢尾隆行「ヒットの裏側 スイーツ専門店よりコンビニ」『日経MJ』2019年11月25日、p. 2。
- ^ 「ローソン、4年ぶり増益 3~8月営業「バスチー」ヒットで」『日本経済新聞』2019年10月5日、p. 7。
- ^ 「チーズケーキ「バスチー」流行来る前に低価格で提供」『日経MJ』2019年4月26日、p. 5。
- ^ 「内需企業、脱・安売りへカジ」『日本経済新聞』2019年11月17日朝刊、p. 7。
- ^ 「セブン&アイ、営業最高益で大リストラ」『日経MJ』、2019年10月14日、p. 1。
- ^ “ご好評にお応えして第二弾展開!!チーズケーキ専門店「enne THE CHEESECAKE SHOP」監修「バスクチーズケーキ」発売のご案内 | 地産地消&タイアップ商品”. 南九州ファミリーマート. 2020年3月25日閲覧。
- ^ “和洋菓子・デザート類市場に関する調査を実施(2020年) | ニュース・トピックス | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所”. www.yano.co.jp. 2020年3月24日閲覧。
- ^ 「一足早くクリスマス気分」『日本経済新聞』2019年12月3日、地方経済面千葉。
- ^ 「推し酒スイーツ 投票して ⻄宮で総選挙 ケーキなど5品=兵庫」『読売新聞』2019年9月7日大阪朝刊、p. 31。
- ^ 萩原真 (2019年8月21日). “トピック情報 > EVENT > 飲むだけじゃない日本酒楽しんで「酒蔵スイーツ総選挙」”. 神戸新聞
- ^ 「最新グルメトレンド&予測2020」、『日経トレンディ』2019年11月号、p. 104。
関連項目
[編集]- ガトー・バスク - バスクチーズケーキとは異なる。