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ヒストン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
コアヒストンの種類とヌクレオソーム構造 (右上の図でH2A, H2B のH3,H4に対する位置が反対になっている気がします)

ヒストン: histone)は、真核生物クロマチン染色体)を構成する主要なタンパク質である。

概要

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H2AH2BH3H4のヒストン八量体とDNAから構成されるヌクレオソーム構造

ヒストンは、長い DNA分子を折り畳んで核内に収納する役割をもつ。ヒストンはDNAに結合するタンパク質の大部分を占め、ヒストンとDNAの重量比はほぼ1:1である。

コアヒストンH2AH2BH3H4の4種類に分類される。それぞれ2分子ずつ集まり、ヒストン八量体(ヒストンオクタマー)を形成する(図1)。1つのヒストン八量体は、約 146 bp の DNA を左巻きに約1.65回巻き付け、ヌクレオソームを構築する。ヌクレオソームはクロマチン構造の最小単位である。一方、ヌクレオソーム間のDNA(リンカーDNA)に結合するヒストンはリンカーヒストンと総称され、その代表的なものはヒストンH1と呼ばれる。有核赤血球では H1 の代わりに H5 が用いられる。コアヒストン(特にH3とH4)は進化的によく保存されているのに対し、リンカーヒストンの一次構造はより多様性が大きい。

ヒストンは強い塩基性のタンパク質であり、酸性の DNA との高い親和性を示す。各ヒストンを構成するアミノ酸のうち、20%以上が塩基性の残基(リシンまたはアルギニン)である(表)。コアヒストンは球形のカルボキシル末端と、直鎖状のアミノ末端(ヒストンテール)からなっている。

各ヒストンの特徴
ヒストンの種類 分子量(Mr リシンとアルギニンの割合
コアヒストン  H2A  14,000 20%
 H2B  13,900 22%
 H3  15,400 23%
 H4  11,400 24%
リンカーヒストン H1 20,800 32%

ヌクレオソームの形成は一般に転写に対して阻害的に働く。転写が活性な遺伝子座の染色体では、ヌクレオソームが緩んだりヒストンが解離していることが知られている。それらの部位はヌクレアーゼ(DNA分解酵素)に対する感受性が高くなっている。

ヒストンの化学修飾

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種類と表記

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リシン残基とそのモノ・ジ・トリメチル化

ヒストンは、アセチル化(acetylation [ac])・リン酸化(phosphorylation [ph])・メチル化(methylation [me])・ユビキチン化(ubiquitination [ub])といった化学修飾を受けることが知られている。アセチル化とユビキチン化はリシン(lysine [K])残基、メチル化はリシンとアルギニン(Arginine [R])残基、リン酸化セリン(serine [S])とスレオニン(threonine [T])残基を対象とする。これらの化学修飾は、遺伝子発現等、数々のクロマチン機能の制御に関わっていることが証明されつつある。複数の修飾の組み合わせがそれぞれ特異的な機能を引き出すという仮説は、ヒストンコード仮説と呼ばれている[1]

代表的な化学修飾を下の表に示す。例えば、H2Aの5番目のリシン残基にはいるアセチル化はH2AK5acと表記される。メチル化は導入されるメチル基の数によって、モノメチル化(monomethylation [me1])・ジメチル化(dimethylation [me2])・トリメチル化(trimethylation [me3])に分類される。H3の9番目のリシン残基にはいるトリメチル化はH3K9me3と表記される。

修飾酵素と修飾認識ドメイン

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これら多数の化学修飾のうち、いくつかについては修飾酵素と脱修飾酵素が同定されている。例えば、ヒストンのアセチル化・脱アセチル化を担う酵素は、それぞれヒストンアセチルトランスフェラーゼ(histone acetyltransferases [HAT])・ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylases [HDAC])と総称される。また、特定のアミノ酸配列とその化学修飾を認識して結合するタンパク質が知られており、例えば、HP1(heterochromatin protein 1)はそのクロモドメイン(chromodomain)を介してH3K9me3に結合する。その他にも、アセチル化リシンを認識するブロモドメイン(bromodomain)や、メチル化ヒストンテールを認識するTUDORドメイン、PHDドメインが知られている。多くのヒストン修飾酵素・脱修飾酵素(複合体)にもこれらのヒストン修飾認識ドメインが存在する。これらの複合体は、特異的なヒストン修飾を認識してリクルートされ、その修飾の維持やさらなる広がりを触媒する。修飾酵素・認識タンパク質・脱修飾酵素の組み合わせは、writer・reader・eraserと通称されることもある。

ヒストン アセチル化 リン酸化 メチル化 ユビキチン化 修飾酵素 脱修飾酵素 結合タンパク質
H2A S1ph[2] MSK - -
K5ac CBP, p300, HAT1, TIP60 - -
K119ub Ring1 NYSM1 -
T120ph NHK1, BUB1 - -
H2B K5ac p300 - -
K12ac CBP, p300 - -
S14ph Mst1 - -
K15ac CBP, p300 - -
K20ac CBP, p300 - -
K120ub RNF20, UbcH6 - -
H3 R2me CARM1, PRMT6 JHJD6 -
T3ph[3] Haspin - Survivin
K4me SETD7 (me1), NSD3 (me2), MLL (me3) LSD/KDM1 (me1-2), KDM2s, KDM5s CHD1, ING, TAF3, WDR5
R8me CARM1 - -
K9ac PCAF HDAC1, HDAC2, SIRT1, SIRT6 BRD4
K9me G9a (me2), SUV39H (me3), SETDB1 KDM3s, KDM4s HP1
S10ph Aurora B, MSK PP1 14-3-3
T11ph CHK2 - -
K14ac CBP, p300 , PCAF, TIP60 - BRD4, BRG1
R17me - CARM1 - -
K18ac CBP, p300 , PCAF - -
K23ac CBP, p300 , PCAF - -
R26me CARM1 - -
K27ac CBP, p300 - -
K27me EZH2 KDM3s, KDM6s Pc
S28ph Aurora B, MSK PP1 14-3-3
K36me NSD1, SET2 KDM2s, KDM3A, KDM4s MRG15
K56ac CBP, p300 - -
K79me Dot1L - -
H4 S1ph[2] CK2 - -
R3me PRMT1, PRMT5 JMJD6 TDRD3
K5ac HAT1, CBP, p300, TIP60, HBO1 - BRD4
K8ac CBP, p300, TIP60, HBO1 - -
K12ac HAT1, CBP, p300, TIP60, HBO1 - BRD2, BRD4
K16ac[4] MOF, TIP60 SIRT1, SIRT2 -
K20me[5] PR-SET7 (me1), SUV420H (me2-3) PHF8 53BP1 (me1, me2), MBTD1, PHF20

ヒストン・バリアント

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ヒストンにはバリアントhistone variants)と総称されるサブタイプが存在する。例えばヒトでは、H2AとH3において多数のバリアントの存在が顕著である。H4のバリアントはこれまでに報告されていない。バリアントの中には、転写DNA修復に特異的な機能をもつもの(H2A.ZやH2A.X等)、組織特異的に発現しているもの、さらに機能的にユニークな存在としてセントロメア形成に関わるもの(CENP-A)がある。

分類  ヒト  出芽酵母
H2A H2A(主要) -
H2A.Z H2A.Z
H2A.X H2A(H2A.X型を主要なH2Aとして利用)
H2A.Bbd (H2A.B) -
macroH2A -
H2B H2B(主要) H2B(主要)
spH2B(精子特異的) -
hTSH2B (精巣・精子特異的) -
H2BFWT (精巣・精子特異的) -
H3 H3.1(複製依存的;主要) -
H3.2(複製依存的) -
H3.3(複製非依存的) H3(H3.3型を主要なH3として利用)
H3.4(H3T; 精巣特異的) -
H3.5  -
H3.X(霊長類特異的) -
H3.Y(霊長類特異的) -
CENP-A(セントロメア特異的) Cse4(セントロメア特異的)
H4 H4(主要) H4(主要)

ヒストン・シャペロン

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ヒストンに結合してヌクレオソーム形成を促進するシャペロンの総称(histone chaperones[6]。酸性アミノ酸に富み、塩基性のヒストンと結合してその凝集を抑制する。それぞれのコアヒストンあるいはバリアントに特異的に働くシャペロンが存在する。

シャペロン カーゴ 機能
FACT[7] H2A-H2B, H2A.X-H2B, H3-H4 積み込み(deposition)と交換(exchange)
Nap1[8] H2A-H2B, H3-H4 核輸送と積み込み
Chz1 H2A.Z-H2B H2A.Z-H2Bの積み込み
APLF core histones, macroH2A.1-H2B DNA損傷時のmacroH2A.1の挿入(incorporation)
Asf1 H3-H4 CAF-1とHIRAへの積み替え(transfer)
CAF-1 H3.1-H4 H3.1-H4の積み込み; H3-H4テトラマーの形成
HIRA H3.3-H4 H3.3-H4の積み込み
Daxx H3.3-H4 テロメアへのH3.3-H4の積み込み
DEK H3.3-H4 H3.3-H4の挿入とヘテロクロマチンの制御
NASP H3-H4 ヒストンの供給と交換
Rtt106 H3-H4 H3-H4テトラマーの形成と積み込み
HJURP CENP-A-H4 CENP-A-H4の挿入の制御

この他にも、アフリカツメガエル卵母細胞から同定されたヌクレオプラスミン(nucleoplasmin)がある。1977年、ヌクレオプラスミンの発見を通してヒストン・シャペロンという概念が初めて提唱された[9]

クロマチン・リモデリング複合体

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ATPの加水分解に依存してヌクレオソーム構造の崩壊や再構築を促進するタンパク質複合体の総称(chromatin remodeling complexes)。ヌクレオソーム・リモデリング複合体(nucleosome remodeling complexes)とも呼ばれる。遺伝子発現DNA修復、組換えなど様々なクロマチン機能の制御に関わる。

クロマチン・リモデリング複合体は、コアとなるATPaseサブユニットを指標にして、4つのサブファミリーに分類される(表:括弧内はそれぞれの複合体のATPaseサブユニットを表す)。ISWI サブファミリー複合体は2-4個のサブユニットから構成される。それ以外のサブファミリーに分類される複合体はすべて10個程度のサブユニットから成る巨大な複合体である。多くのクロマチン・リモデリング複合体は、クロモドメインやブロモドメインなどのヒストン修飾結合モチーフをもつサブユニットを有する。すなわち、これらの複合体は特異的なヒストン化学修飾を介してクロマチンにリクルートされ、周囲のヌクレオソーム構造を変化させる能力をもつ。

分類 ヒト 出芽酵母
SWI/SNF[10] BAF (hBRM or BRG1), PBAF (BRG1) SWI/SNF (Swi2/Snf2), RSC (Sth1)
ISWI[11] NURF (SNF2L), CHRAC (SNF2H), ACF (SNF2H), WICH (SNF2H), NoRC (SNF2H) ISWIa (Isw1), ISWIb (Isw1), ISW2 (Isw2)
CHD[12] CHD1 (CHD1) CHD1 (Chd1)
NuRD (Mi-2a/CHD3, Mi2b/CHD4) -
INO80[13] INO80 (hIno80) INO80 (Ino80)
SRCAP (SRCAP), TRRAP/Tip60 (p400) SWR1 (Swr1)

ヒストンの進化的起源

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古細菌がヒストンに似たタンパク質が有することから、ヒストン様タンパク質真核生物と古細菌の分岐以前から存在したと考えられている[14][15]。例えば、ある種の古細菌のヒストン様タンパク質は、真核細胞のH3+H4テトラマーに対応する構造をとり、~60 bp 周期のヌクレオソーム様構造[16]あるいはより伸長したポリマー構造(ハイパーヌクレオソーム [hypernucleosomes])[17]を形成することが報告されている。一方、ヒストン様タンパク質の元来の機能はゲノムの折り畳みにあったのではなく、遺伝子発現の制御[18]あるいはウイルスやトランスポゾンの攻撃からのゲノムの保護[19]にあったのではないかという議論もある。

引用文献

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  1. ^ Strahl BD, Allis CD (2000). “The language of covalent histone modifications”. Nature 403: 41-45. PMID 10638745. 
  2. ^ a b Barber CM, Turner FB, Wang Y, Hagstrom K, Taverna SD, Mollah S, Ueberheide B, Meyer BJ, Hunt DF, Cheung P, Allis CD (2004). “The enhancement of histone H4 and H2A serine 1 phosphorylation during mitosis and S-phase is evolutionarily conserved”. Chromosoma 112: 360-371. PMID 15133681. 
  3. ^ Musacchio A (2010). “Surfing chromosomes (and Survivin)”. Science 330: 183-184. PMID 20929762. 
  4. ^ Vaquero A, Sternglanz R, Reinberg D (2007). “NAD+-dependent deacetylation of H4 lysine 16 by class III HDACs”. Oncogene 26: 5505-5520. PMID 17694090. 
  5. ^ Jørgensen S, Schotta G, Sørensen CS. (2013). “Histone H4 lysine 20 methylation: key player in epigenetic regulation of genomic integrity”. Nucl. Acids Res. 41: 2797-2806. PMID 23345616. 
  6. ^ Burgess RJ, Zhang Z (2013). “Histone chaperones in nucleosome assembly and human disease”. Nat. Struct. Mol. Biol. 20: 14-22. PMID 23288364. 
  7. ^ Winkler DD, Luger K (2011). “The histone chaperone FACT: structural insights and mechanisms for nucleosome reorganization”. J. Biol. Chem. 286: 18369-18374. PMID 21454601. 
  8. ^ Zlatanova J, Seebart C, Tomschik M (2007). “Nap1: taking a closer look at a juggler protein of extraordinary skills”. FASEB J. 21: 1294-1310. PMID 17317729. 
  9. ^ Laskey RA, Honda BM, Mills AD, Finch JT (1978). “Nucleosomes are assembled by an acidic protein which binds histones and transfers them to DNA”. Nature 275: 416-420. PMID 692721. 
  10. ^ Euskirchen G, Auerbach RK, Snyder M (2012). “SWI/SNF chromatin-remodeling factors: multiscale analyses and diverse functions”. J. Biol. Chem. 287: 30897-30905. PMID 22952240. 
  11. ^ Erdel F, Rippe K (2011). “Chromatin remodelling in mammalian cells by ISWI-type complexes--where, when and why?”. FEBS J. 278: 3608-3618. PMID 21810179. 
  12. ^ Ramírez J, Hagman J (2009). “The Mi-2/NuRD complex: a critical epigenetic regulator of hematopoietic development, differentiation and cancer”. Epigenetics 4: 531-536. PMID 19923891. 
  13. ^ Morrison AJ, Shen X. (2009). “Chromatin remodelling beyond transcription: the INO80 and SWR1 complexes”. Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 10: 373-384. PMID 19424290. 
  14. ^ Sandman K, Reeve JN (2006). “Archaeal histones and the origin of the histone fold”. Curr. Opin. Microbiol. 9: 520-525. PMID 16920388. 
  15. ^ Visone V, Vettone A, Serpe M, Valenti A, Perugino G, Rossi M, Ciaramella M (2014). “Chromatin structure and dynamics in hot environments: architectural proteins and DNA topoisomerases of thermophilic archaea”. Int. J. Mol. Sci. 15: 17162-17187. PMID 25257534. 
  16. ^ Pereira SL, Grayling RA, Lurz R, Reeve JN (1997). “Archaeal nucleosomes”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 94: 12633-12637. PMID 9356501. 
  17. ^ Mattiroli F, Bhattacharyya S, Dyer PN, White AE, Sandman K, Burkhart BW, Byrne KR, Lee T, Ahn NG, Santangelo TJ, Reeve JN, Luger K (2017). “Structure of histone-based chromatin in Archaea”. Science 357: 609-612. PMID 28798133. 
  18. ^ Ammar R, Torti D, Tsui K, Gebbia M, Durbic T, Bader GD, Giaever G, Nislow C (2012). “Chromatin is an ancient innovation conserved between Archaea and Eukarya”. Elife 1: e00078. PMID 23240084. 
  19. ^ Talbert PB, Meers MP, Henikoff S (2019). “Old cogs, new tricks: the evolution of gene expression in a chromatin context”. Nat. Rev. Genet.: doi: 10.1038/s41576-019-0105-7. PMID 30886348. 

参考図書

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  • 巌佐庸他 編『岩波生物学辞典 第5版』岩波書店、2013年。 
  • J. Watson他 著(中村桂子 監訳)『遺伝子の分子生物学 第6版』東京電機大学出版局、2010年。 
  • 平岡泰・原口徳子 編『染色体と細胞核のダイナミクス』化学同人、2013年。 
  • 牛島俊和・眞貝洋一 編『エピジェネティックスキーワード事典』羊土社、2013年。 
  • 平野達也胡桃坂仁志 編(実験医学増刊号)『教科書を書き換えろ!染色体の新常識』羊土社、2018年。 

関連項目

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外部リンク

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