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UKUSA協定

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ファイブアイズから転送)
UKUSA協定ユークーサきょうてい
Location of UKUSA協定(ユークーサきょうてい)
形態 諜報協定
締結国
設立 1946年3月5日 (78年前) (1946-03-05)
目的 情報共有

UKUSA協定(ユークーサきょうてい、:United Kingdom-United States of America Agreement)とは、アメリカ (USA) の国家安全保障局イギリス (UK) の政府通信本部など5ヶ国の情報機関が世界中に張り巡らせたシギント (SIGINT) の設備や盗聴情報を相互利用・共同利用する為に結んだ協定のことである[1]

かつては秘密協定だったが、現在は条文の一部が公開されている[2]。 なお、UKUSA協定グループのコンピュータネットワークエシュロン (Echelon) と呼ばれている[1]

協定締結組織

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共通点は、イギリス帝国の植民地を発祥とするアングロサクソン諸国の機関であること(アメリカ以外は現在も英連邦構成国)。

ファイブ・アイズ とも呼ばれる。

さらに2018年初めからは、日本フランスドイツの3ヶ国が中国のサイバー空間における活動を念頭に会合を開き、ファイブアイズと3ヶ国の連携で情報共有の新たな枠組みが作られた[3]。2020年には、日本、フランス、韓国が参加した枠組みも発足した[4]

イギリス紙のガーディアンは、「対中国の観点から日本がファイブアイズへ参加し、6番目の締結国となる可能性がある」と報じている(2019年7月29日)[5]

歴史

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第二次世界大戦中、アメリカ陸軍アメリカ海軍それぞれの暗号部(のち1952年に「軍保安局」ことAFSAを経てNSA)とイギリスの政府暗号学校(GC&CS、現在の政府通信本部)は、共同でドイツの暗号機エニグマを解読した[6]。この協力関係は1940年6月に始まった。この年、駐米イギリス大使フィリップ・ヘンリー・カー(11代ロジアン侯爵)は国務省を通じてアメリカ戦争省に対して、短波ラジオ(航空機レーダー探知機)などの機密技術情報の提供を依頼した。大統領や陸軍・海軍長官はこの依頼を閣議で了承し、旧陸軍省の戦争計画部が暗号部に協力を命じた[7]。1943年、アメリカ旧陸軍省とイギリスのGC&CSが「特殊な諜報に関する協定」を、アメリカ陸軍とGC&CSが「信号諜報に関する協定」をそれぞれ締結した。

米英両国の間の協力関係は戦後も続き、1946年にはソ連との冷戦に備えて協定を結んだ[8]。1956年のスエズ動乱で米英両国は対立したが[6]、協力関係は途絶えずにカナダやオーストラリア、ニュージーランドなどのアングロサクソン諸国を加えて[8]、世界中に通信傍受施設のネットワークを張り巡らせた。NSAは北極圏からリビアの砂漠まで2000箇所に6000人を配置し、日本にも上瀬谷通信施設三沢暗号業務センターを設けた[9]。この時代の通信傍受施設では三角測量を行なって、ソ連の艦船や潜水艦の位置、戦略ミサイルや防空ミサイルの配置を割り出していたと言う。またNSAは戦時中から1970年代までウエスタンユニオンなどの三大電報会社が海外に送信する全ての電信を毎日提出させて、外交公電や暗号電報を探し出し、解読していたと言う[6]鹵獲したドイツのゲハイムシュライバー暗号機によって、1945年国連設立から数年はソ連の最高レベルのものを含め世界30ヶ国以上の暗号を解読することが出来たため、国連本部ビルニューヨークに置かせたという説もある[6]

1970年代になると「国際シギント規則」が整備され、協定グループ間で用語や用紙の規格の共通化が行われた[1]。またコンピュータネットワークが整備されて、単一の「プラットフォーム」が作られた。これは協定各国の52個のコンピュータシステムをメリーランド州フォート・ジョージ・G・ミード英語版にあるNSAのホストコンピューターに接続してネットワーク化したものである[1]。使用するソフトウェアは共通であり、エシュロンと呼ばれることもある[1]。各国の傍受局はエシュロンと繋がっており、データをネットワーク上で共有化することで各国の傍受施設を共同利用・相互利用でき[1]、あたかも1つの巨大な傍受網のようになっている。イギリスのGCHQが傍受した情報は北アメリカのNSAやCSECなどが回覧でき[10]、1982年のフォークランド紛争ではアルゼンチン軍の暗号の殆どをNSAが解読してイギリスに教えた[1]。シギント衛星の共同利用も行なわれており、資金難で独自衛星を断念したイギリスは、NSAの偵察衛星「マグナム」(Magnum)に分担金を支払って相乗りした[1]。この仕組みはファックスや商業通信衛星「インテルサット」が普及した1980年代に入ると効果を増した。以前は封書で運ばれていた私信や外国で発信された企業の契約・業務交渉、外国の軍事外交文書が衛星の傍受で手に入るようになったのである。地球を取り囲むように配置されたインテルサットに向けて、各国は「ミラーサイト」を作って、90フィート (27 m)のパラボラアンテナ群を向けた[10]。例えば日本の三沢暗号業務センターでは、合衆国空軍第301情報編隊がインテルサット8や中国の国内衛星を傍受していると言う[10]。NSAの場合、傍受した情報はその場で分析したり、リモコン傍受基地からエシュロンで本部やハワイ・オアフ島のキャンプ・クニアにあるクニア地域シギント工作センター (RSOCs) [10]などに送って共有化することで、各国は世界中で傍受した様々な情報や報告書を入手できるようになった[1]

1990年代に冷戦が終わると、国家間の戦争より麻薬やテロ、密入国、ロシアの犯罪組織などが問題になった[10]。2000年頃には武器拡散を防ぐために、GCHQが傍受した中国イラン対艦ミサイルの取引を妨害するNSAの作戦が行なわれたと言う[10]。一方でUKUSA協定グループ以外の国々は同盟国・敵対国ともに盗聴されて、情報はデータベースに半永久的に保管されるので[10]、個人のプライバシーの侵害や産業スパイを心配した。欧州議会はNSAがエシュロンを使って、エアバスの技術を盗むのではないかと疑い調査した[10]。1995年にジュネーブで行われた日米自動車交渉では、NSAが自動車会社の幹部の電話を盗聴したと言う[10]。協定各国のどこかで作られた曖昧な情報によって、知らない間にブラックリストにのせられて拘禁された外国人が何人もいて、政府の監視技術の広域化による個人の権利侵害の危険性を心配する意見もあった[10]

無敵かと思われたUKUSA協定グループだったが、2001年のアメリカ同時多発テロ事件を防止することは出来なかった(ただし911テロ事件の犯行計画を事前に米政府が察知していたが何らかの理由により公表しなかった、又はそもそも当テロ事件が米政府による自作自演だったという可能性を疑う主張は多方面から根強く存在している)。

2000年代は従来の衛星通信やマイクロ波通信の他に、インターネットやデジタル携帯電話が普及し、光ファイバー光波長多重通信 (WDM) を用いた海底ケーブルの利用や暗号化が進み、盗聴の難易度が上がった[10]。しかし世界のインターネットエクスチェンジ (IXP)[11]やトランジット・トラフィック[12]、盗聴や逆探知の鍵となるルーターの技術[10]や莫大な数の個人情報を持つ有力なネットサービスを握っている[13]のは協定各国であり、その気になれば幾らでも通信傍受は可能である。ウォーターゲート事件を受けて制定された外国情報活動監視法 (FISA) による国内盗聴には規制があり[14]、NSAは偶然に傍受した合衆国市民の氏名を報告書から消すために多大な努力を払っているが[10]、同時多発テロ事件以降はFISAにより盗聴活動の是非審査を行なう「外国情報活動監視裁判所」の許可を得ずに数千件の国内盗聴を行なったという[12]。GCHQも新技術に対応した通信傍受を行っているようである[15]。またNSAはアメリカサイバー軍を傘下に収めてクラッキングを行ない、冷戦時代に中国とソ連に侵入したU-2偵察機や北朝鮮近海に侵入した情報収集艦のように情報を盗みに行くことも考えており[6]、既に世界中で6万1000件のクラッキングを実行しているという内部告発もある[16]

協定の条文

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第二次世界大戦後最初の英米通信諜報協定(BRITISH-U.S.COMMUNICATION INTELLIGENCE AGREEMENT。頭文字を取ってBRUSA―ブルーサとも略称される)は、1946年3月5日に合衆国陸海軍通信諜報局 (STate-Army-Navy CommunIcations Board; STANCIB) とロンドン信号諜報局 (London Signal Intelligence Board; LSIB) が締結したもので、12章の条文で構成されている[17]

  • 協定の当事者(Parties to the Agreement)
  • 協定の範囲(Scope of the Agreement)
  • 協定の広さ - 製品(Extent of the the Agreement - Products)
  • 協定の広さ - 方法と技術(Extent of the the Agreement - Method and Techniques)
  • 協定の第三者(Third Parties to the the Agreement)
  • 英連邦の自治領(The Dominions)
  • 合衆国と大英帝国の政府機関の伝達経路(Channels between U.S and British Empire Agencies)
  • 配布と保安(Dissimination and Security)
  • 配布と保安 - 取引(Dissimination and Security - Commercial)
  • 以前の協定(Previous Agreements)
  • 協定の修正と終了(Amendment and Termination of Agreement)
  • 活動開始と実施(Activation and Implementation of Agreement)

この協定は「合衆国、英連邦、大英帝国を除く全ての国」の「政府、陸海空軍、派閥、政党、省庁、政府機関、部局、代理・自称代理の1人または複数の人間」が行う全ての通信を対象とし、「軍事、政治、経済的価値を持つ国外の通信」も含まれると規定した。そして外国の通信に関する「通信量の測定、通信文書と機器の取得、通信量の分析、暗号解析、暗号解読と翻訳、通信組織・実務・手続き・機器に関する情報の取得」などの業務の成果や「方法と技術」情報の交換に合意した[注釈 1]。またこの協定は排他的な協定で、英連邦の自治領と勝手に協定を結ぶことは出来ないと定めた[注釈 2]。その後、1956年に新しいUKUSA協定(1955年5月10日版)を締結して、付属文書で[注釈 3]オーストラリアとニュージーランドを管轄する文民組織「国防信号メルボルン支局」(DSB)との協力が明記された[18]

沿革

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締結国首脳(2024年現在)

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脚注

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注釈

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  1. ^ Extent of the agreement - Productsとmethod and techniques
  2. ^ Third Parties to the AgreementとThe Dominions
  3. ^ Appendix J ANNEXURE J1 UKUSA ARRANGEMENTS AFFECTING AUSTRALIA AND NEW ZEALAND
  4. ^ 「すべては傍受されている」10章では、ニュージーランドの参加は1977年としている[1]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o バムフォード 2003, 10章.
  2. ^ a b NATIONAL SECURITY AGENCY, CENTRAL SECURITY SERVICE (2010年6月24日). “UKUSA Agreement Release 1940-1956”. 2013年6月29日閲覧。
  3. ^ 米英など5カ国「ファイブアイズ」、日独仏と連携 サイバー攻撃、中国の機密情報共有”. 毎日新聞 (2019年2月4日). 2020年8月2日閲覧。
  4. ^ 対北朝鮮、機密共有は8カ国に”. 共同通信社 (2019年7月29日). 2020年8月2日閲覧。
  5. ^ Five Eyes alliance could expand in scope to counteract China”. The Guardian (2019年7月29日). 2020年8月2日閲覧。
  6. ^ a b c d e バムフォード 2003, 2章.
  7. ^ Early Papers Concerning US-UK Agreement – 1940–1944”. NATIONAL SECURITY AGENCY, CENTRAL SECURITY SERVICE (2010年6月24日). 2013年7月1日閲覧。
  8. ^ a b c d e NATIONAL SECURITY AGENCY, CENTRAL SECURITY SERVICE (2010年6月24日). “Declassified UKUSA Signals Intelligence Agreement Documents Available”. 2013年6月28日閲覧。
  9. ^ バムフォード 2003, 6章.
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n バムフォード 2003, 11章.
  11. ^ Ryan Singel (2007年10月15日). “世界中の通信トラフィックが米国経由:盗聴も自由に”. wired.jp. 2013年6月28日閲覧。
  12. ^ a b ライゼン 2006, 2章.
  13. ^ KIM ZETTER, MINORI YAGURA, HIROKO GOHARA/GALILEO (2013年6月11日). “米国家情報長官:個人情報収集「PRISM」報道は誤解”. wired.jp. 2013年6月28日閲覧。
  14. ^ 土屋大洋 「プリズム問題で露呈した、オバマ政権下で拡大する通信傍受とクラウドサービスの危うさ」 ダイヤモンド・オンライン、2013年6月17日
  15. ^ a b CYRUS FARIVAR, MINORI YAGURA/GALILEO (2013年6月24日). “「英情報機関、NSAと協力して光ケーブル網の通信傍受」”. wired.jp. 2013年6月28日閲覧。
  16. ^ KIM ZETTER, MAYUMI HIRAI/GALILEO (2013年6月13日). “「中国など世界各国を米NSAがハッキング」スノーデン氏、香港紙に語る”. wired.jp. 2013年6月28日閲覧。
  17. ^ Catalogue Reference:HW/80/4”. The National Archives (2010年6月). 2013年6月29日閲覧。
  18. ^ New UKUSA Agreement – 10 May 1955”. NATIONAL SECURITY AGENCY, CENTRAL SECURITY SERVICE (1955年5月10日). 2013年6月30日閲覧。

参考文献

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  • ジェイムズ・バムフォード『すべては傍受されている―米国国家安全保障局の正体』角川書店、2003年。ISBN 978-4047914421 
  • ジェームズ・ライゼン『戦争大統領―CIAとブッシュ政権の秘密』毎日新聞社、2006年。ISBN 978-4620317809 

関連項目

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外部リンク

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