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ピロストラトス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フィロストラトスから転送)

ピロストラトスまたはフィロストラトス古希: Φιλόστρατος, Philostratos ; : Philostratus ; 170年頃 - 240年代[1])は、ローマ帝国期のレムノス島出身のギリシア語著述家・弁論家第二次ソフィスト

主な著作として、「第二次ソフィスト」の由来になった伝記集『ソフィスト列伝』[2][3]ナザレのイエスと同時代の奇跡行者の伝記『テュアナのアポロニオス伝[4]トロイア戦争の異説物語『英雄が語るトロイア戦争』(『へーローイコス』)[5]、などがある。

フルネームフラウィウス・ピロストラトゥス: Flavius Philostratus)またはプラビオス・ピロストラトス古希: Φλάβιος Φιλόστρατος, Phlabios Philostratos[注釈 1]。彼の親族には、同業・同出身地のピロストラトスが複数いる[7][8]。1人目は本項のピロストラトス(通称アテナイのピロストラトス[注釈 2])、2人目はその父親のピロストラトス(ベロス・ピロストラトス[8])、3人目は義理の息子かつ甥のピロストラトス(レムノスのピロストラトス)、4人目は孫のピロストラトス(小ピロストラトス)。以上4人のうち、最も著名なのは本項のピロストラトスである[8]

人物

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ピロストラトスの人物像には不明な点が多く、断片的な資料を繋げ合わせることで推測される。

おそらく170年頃にレムノスで生まれた。青年期にアテナイに赴き、ナウクラティスのプロクロス英語版のもとで弁論術を修得した。その後ローマに移り住み、セウェルス帝妃ユリア・ドムナの主宰する知的サロンに参加した。彼女との縁によりカラカラ帝にも仕え、各地の遠征にも随行した。『スーダ』によれば、軍人皇帝ピリップス・アラブスの在位時(244年 - 249年)まで活動した 。[10][11]

彼がレムノス人だと分かるのは、後世のエウナピオスシュネシオスの記述による。その一方で、フォティオスは彼をテュロス人だとしており[12]、他方で彼自身の書簡ではアテナイ人と称される[注釈 2]

彼のプラエノーメンが「フラウィウス」だと分かるのは、『ソフィスト列伝』やヨハネス・ツェツェス英語版の記述による。

作品

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親族のピロストラトスと混同されやすい等の理由から、作品の帰属にも諸説ある[5]。いずれも古代ギリシア語で書かれている。

英雄が語るトロイア戦争

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『へーローイコス』(邦題:『英雄が語るトロイア戦争』『英雄論』[5]古代ギリシア語: Ἡρωικός ; ラテン語: Heroicus ; 213-214年ごろ成立)は、トロイア戦争を題材にした物語作品で、ホメロスの『イリアス』と『オデュッセイア』の異説にあたる。

枠物語として、現代(3世紀)のトラキア・ケルソネソストロイア遺跡の対岸)に住むぶどう園主が、トロイア戦争の英雄プロテシラオス幽霊(英雄神[13])と交流して、その交流内容をフェニキア人旅人対話形式で聴かせる、という形式をとる。作中では、ホメロスへの賛辞と批判修正が入り交じる。

テュアナのアポロニオス伝

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テュアナのアポロニオス伝[4]古希: Τὰ ἐς τὸν Τυανέα Ἀπολλώνιον ; : Vita Apollonii, 217-238年ごろ成立)は、テュアナのアポロニオス伝記の形をとった物語作品で、ユリア・ドムナの依頼により書かれた。

テュアナのアポロニオスは、1世紀テュアナ出身の新ピタゴラス学派哲学者であり、ナザレのイエスと同時代に活動した奇跡行者でもある。本書では、そのアポロニオスが、西はヒスパニア東はインドまで世界各地を旅する様子を描く。そのなかで、彼の奇跡や哲学の描写だけでなく、地誌伝説上の生物など雑多な内容が描かれる。

本書によって伝えられたアポロニオスは、後世、キリスト教批判者などに注目された。また、本書におけるラミアーの描写は、17世紀ロバート・バートン英語版に受容され、さらにそのバートンを経由して19世紀ジョン・キーツにも受容された[14]

ソフィスト列伝

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『ソフィスト列伝』[3]古希: Βίοι Σοφιστῶν ; : Vitae Sophistarum ; : Lives of the Sophists, 231年-237年ごろ成立)は、ソフィスト達の伝記で、執政官ゴルディアヌス1世への献呈作品[15]

全2巻からなり、第1巻ではゴルギアス古代ギリシアのソフィストを、第2巻ではローマ帝国期のソフィスト(第二次ソフィスト)を扱う。内容は、史実に即した伝記というよりは、ピロストラトスの視点に基づく評伝として書かれている。ピロストラトスのいう「ソフィスト」は、蔑称ではなくむしろ「哲学者」と並ぶ尊称だった。

エイコネス

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その他

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現代語訳

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日本語

  • ピロストラトス 著 / 内田次信 訳『英雄が語るトロイア戦争』平凡社ライブラリー、2008年。ISBN 978-4582766523 (『へーローイコス』の全訳)
  • ピロストラトス 著 / 秦剛平 訳『テュアナのアポロニオス伝1』京都大学学術出版会西洋古典叢書〉、2010年。ISBN 978-4876981854 (2巻未刊)
  • ピロストラトス、エウナピオス 著 / 戸塚七郎、金子佳司 訳『哲学者・ソフィスト列伝』京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2001年。ISBN 978-4876981311 (戸塚七郎 解説)

英語

いずれもローブ・クラシカルライブラリー

  • Alciphron, Aelian, and Philostratus, The Letters. Translated by A. R. Benner, F. H. Fobes. 1949. Loeb Classical Library. ISBN 978-0-674-99421-8
  • Philostratus, Lives of the Sophists. Eunapius, Lives of the Philosophers and Sophists. Translated by Wilmer C. Wright. 1921. Loeb Classical Library. ISBN 978-0-674-99149-1
  • Philostratus, Apollonius of Tyana. 3 volumes. Translated by Christopher P. Jones. 2005-6. Loeb Classical Library. ISBN 978-0-674-99613-7, 978-0-674-99614-4, 978-0-674-99617-5
  • Philostratus, Heroicus; Gymnasticus; Discourses 1 and 2. Edited and translated by Jeffrey Rusten and Jason König. Loeb Classical Library. (Cambridge, Massachusetts and London, England, 2014).

ドイツ語

脚注

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注釈

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  1. ^ あるいは「ルキウス・フラウィウス・ピロストラトゥス」(Lucius Flavius Philostratus)というローマ市民式の名前も持っていた[6]
  2. ^ a b 彼が「アテナイのピロストラトス」(: Philostratus Atheniensis, : Philostratus of Athensまたは: Philostratus the Athenian)と称される理由は、当時のレムノス島がアテナイ領でありアテナイ市民権をもっていたため、あるいはギリシア文化の中心地であるアテナイがあこがれの的だったためとされる[9][8]

出典

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  1. ^ Owen Hodkinson (2019年10月30日). “Lucius Flavius Philostratus” (英語). Oxford Bibliographies Online. 2020年8月26日閲覧。
  2. ^ 勝又泰洋 (2017年). “研究ノート 「第二次ソフィスト運動」の知識人たちとの対話”. 日本西洋古典学会. 2020年8月26日閲覧。
  3. ^ a b ピロストラトス、エウナピオス 著 / 戸塚七郎、金子佳司 訳 2001.
  4. ^ a b 秦 2010.
  5. ^ a b c 内田 2008, p. 211.
  6. ^ Philostratus - Livius”. www.livius.org. ヨナ・レンダリング. 2020年9月1日閲覧。
  7. ^ Philostratus - Livius”. www.livius.org. ヨナ・レンダリング. 2020年9月1日閲覧。
  8. ^ a b c d ピロストラトス、エウナピオス 著 / 戸塚七郎、金子佳司 訳 2001, p. 383ff.
  9. ^ 桑山 2010, p. 3.
  10. ^ Philostratus - Livius”. www.livius.org. ヨナ・レンダリング. 2020年9月1日閲覧。
  11. ^ ピロストラトス、エウナピオス 著 / 戸塚七郎、金子佳司 訳 2001, p. 383-390.
  12. ^ A Byzantine commentary on Philostratus' "Life of Apollonius"”. www.livius.org. ヨナ・レンダリング. 2020年9月1日閲覧。
  13. ^ 内田 2008, p. 214.
  14. ^ 南條, 竹則『蛇女の伝説「白蛇伝」を追って東へ西へ』平凡社〈平凡社新書〉、2000年、116-142頁。ISBN 978-4582850598 
  15. ^ ピロストラトス、エウナピオス 著 / 戸塚七郎、金子佳司 訳 2001, p. 4.
  16. ^ 平松哲司「ベン・ジョンソンの男性的雄弁の美学 : Timberの詩論を通じてジョンソンの詩を読む」『城西人文研究』第12巻、1985年、129頁。 
  17. ^ Penella, Robert J. (1979). “Philostratus' Letter to Julia Domna”. Hermes 107 (2): 161–168. ISSN 0018-0777. https://www.jstor.org/stable/4476107. 

参考文献

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  •  この記事にはアメリカ合衆国内で著作権が消滅した次の百科事典本文を含む: Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Philostratus". Encyclopædia Britannica (英語). Vol. 21 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 445.
  • 桑山由文「アテナイへの「あこがれ」とピロストラトス」『西洋古典叢書月報』第82号、京都大学学術出版会〈西洋古典叢書〉、2010年。 (『テュアナのアポロニオス伝1』の付録)
  • 松原國師『西洋古典学事典』京都大学学術出版会、2010年。ISBN 9784876989256 

関連文献

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  • Aitken, Ellen Bradshaw, and Jennifer Kay Berenson MacLean, eds. 2004. Philostratus’s “Heroikos”: Religion and Cultural Identity in the Third Century C.E. Atlanta: Society of Biblical Literature.
  • Bowie, Ewen L., and Jaś Elsner, eds. 2009. Philostratus. Cambridge, UK: Cambridge Univ. Press.
  • Bryson, Norman. 1994. "Philostratus and the Imaginary Museum." In Art and Text in Ancient Greek Culture. Edited by Simon Goldhill and Robin Osborne, 255–283. Cambridge, UK: Cambridge Univ. Press.
  • Elsner, Jaś. 2009. "Beyond Compare: Pagan Saint and Christian God in Late Antiquity." Critical Inquiry 35:655–683.
  • Eshleman, Kendra Joy. 2008. "Defining the Circle of Sophists: Philostratus and the Construction of the Second Sophistic." Classical Philology 103:395–413.
  • Demoen, K., and Danny Praet, eds. 2009. Theios Sophistes: Essays on Flavius Philostratus’ “Vita Apollonii.” Leiden, The Netherlands: Brill.
  • Kemezis, Adam M. 2014. Greek Narratives of the Roman Empire under the Severans: Cassius Dio, Philostratus and Herodian. Cambridge, UK: Cambridge Univ. Press.
  • König, Jason. 2014. "Images of Elite Communities in Philostratus: Re-Reading the Preface to the “Lives of the Sophists.”" In Roman Rule in Greek and Latin Writing: Double Vision. Edited by Jesper Majbom Madsen and Roger Rees, 246–270. Leiden, The Netherlands: Brill.
  • Potter, David. 2011. The Victor’s Crown: A History of Ancient Sport from Homer to Byzantium. Oxford: Oxford Univ. Press.
  • Walker, Andrew. 1992. "Eros and the Eye in the Love-Letters of Philostratus." Proceedings of the Cambridge Philological Society 38:132–148.

外部リンク

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