プレカリアートユニオン
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Precariat Union | |
設立年月日 | 2012年(平成24年)4月 |
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組織形態 | 合同労働組合 |
加盟団体数 | 18支部 |
組合員数 | 約320名 |
国籍 | 日本 |
本部所在地 | ユニオン運動センター内 |
法人番号 | 5011005003841 |
加盟組織 | 全国コミュニティ・ユニオン連合会 |
公式サイト | プレカリアートユニオン |
プレカリアートユニオン(英語:Precariat Union)は、職場でつながりを作りにくい若い世代の正社員でも、契約社員、派遣、パート、アルバイトなどの非正規雇用でも、職場で仲間を増やし、労働条件の向上に取り組むことを目指すとして2012年(平成24年)4月に結成された、誰でも一人から加入できるユニオン(合同労働組合)であり、登記上、東京都新宿区に本部を置いている[1]。
日本労働組合総連合会(連合)の構成組織である全国コミュニティ・ユニオン連合会(全国ユニオン)を上部団体としている。代表権を持つ執行委員長としてライター出身の清水直子(本名:関口直子)が登記されている。
概要
[編集]結成にあたっては、
- ワーキング・プアからの脱却:仲間を増やして労働条件の維持向上を行う
- 生活のよりどころとなること:生活保護、第二のセーフティーネットなどの制度申請支援(中略)、仲間の行うさまざまな活動と組合活動の連携によって、豊かな労働組合運動を行う
との「結成宣言」が採択された[2]。
プレカリアートとは不安定な労働者という意味の造語であるが、職業や雇用形態にかかわらず誰でも加入できる。組合費に関しては年収により月額1000円から3000円の範囲で変動する。もっとも、団体交渉等の活動を経て使用者から解決金や労働基準監督署から労災保険給付金が得られた場合、その2割を組合費とは別に「拠出金」として納入しなければならない[3]。
2015年から2017年頃にかけて、プレカリアートユニオンの組合員を当事者とするアリさんマークの引越社に関する労働問題がマスコミの注目を浴びた。団体交渉そして数多くの行政審判、訴訟の末、最終的に引越社がプレカリアートユニオンに1億円の解決金を支払うことで解決した[4]。また、いわゆる「田口運送残業代請求訴訟」でプレカリアートユニオンの組合員を含む原告のドライバー4名の請求が認められる判決が出たことがあり[5]、その後も、中小運送会社で働き、「運送業界を変えよう」と闘いを繰り広げる組合員が存在する[6]。
2020年10月末にはOYO Japan合同会社に勤める組合員の労使紛争を解決した[7][8][9]。
批判
[編集]プレカリアートユニオンの要求に応じない会社(組合員の勤務先)に対しては、幾名もの「ビラまき職人」を自認する組合員を繰り出し[10]、あるいはインターネットやYouTubeを多用して執拗に批判したり、週1〜2回もの頻度で街宣車で押しかけたりするといったアグレッシブな組合活動[11]のスタイルには組合内外で異論もあり、実際に栃木県の会社との関係では、仮病で2年間出社せず、その間、別の会社で働いていたことが発覚して解雇された組合員について「不当解雇」の撤回を求める団体交渉を申し入れると、社長自宅附近での街宣活動などを行い、これが違法行為であるとして会社によりプレカリアートユニオンだけでなく組合員個人も被告として訴訟を起こされたことがあるほか、月額数千円の組合費よりも、時には解決金が数千万円にもなる退職和解に持ち込んで、その解決金の2割を拠出金として取得したほうが利益になるという”方針”のもとに退職を勧められ、その後は再就職が決まらず困り果てている組合員もいるという問題提起もなされている[12]。
このような"問題点"について、労働問題コンサルタントの田岡春幸は、「ユニオンの活動家の中にはプロ組合員や左翼活動家もおり、なかには総会屋からの転職組もいる。プレカリアートユニオンについても、顧問弁護士が『ブラック企業大賞』の実行委員を務めているなど、総じてメディアの扱いが巧みで、世論を味方につけ監督官庁もなかなか手を出せない状況を作り出している」と指摘している[13]。
こうした批判が存在するものの、清水直子は、プレカリアートユニオンは、個人的な恨みを晴らしたいとして組合活動を利用しようとする人や、法外な解決金額に固執して「街宣をすれば解決金が上がる」と言い張る人といった『困難な人』も分け隔てなくユニオンに迎え入れているとした上で、「交渉をともに担当する組合役員は、そう言いたくなるくらい傷ついていることは否定せず、しかし、労働組合の目的と、やっていいこと、いけないこと、できること、できないことを伝え、場合によっては毅然と対応」しており、労働組合は『事件屋』ではないとの信念を著書で表明している[14]。
組合内部での紛争
[編集]アルバイトによる労働組合の結成と行政審判
[編集]2019年3月頃、プレカリアートユニオンでアルバイトを務めていた従業員兼組合員の数名が労働組合を結成し、プレカリアートユニオンに団体交渉を申し入れた。プレカリアートユニオンは、”アルバイト”は労働者ではないとして団体交渉を一度は拒否したが、後に団体交渉に応じた。 アルバイトらは、プレカリアートユニオンの"アルバイト"には残業代、有給休暇等が支払われず、社会保険、雇用保険等の加入手続もなされず、プレカリアートユニオン自身が「非正規差別」を行っているほか、そもそもユニオンの代表者などを決める大会(総会)で投票権を持つ代議員を清水直子ら一部の幹部が指名し、選挙が適正に行われておらず、清水直子が法的に執行委員長の地位にあるのかも疑義があり、労働組合法5条2項によれば本来一人一票の民主的な団体であるべきプレカリアートユニオンが清水直子ら一握りの幹部により私物化されているなどと指摘した[15]。
これに対し、清水直子らは、アルバイトらが労働組合を結成して勧誘活動を行ったことが「分派活動」であるとして代表の男性組合員に権利停止処分を言い渡したほか、後に、男性らの組合活動がプレカリアートユニオンに対する業務妨害や名誉毀損にあたるとして除名処分を言い渡した(もっとも、後述の総会決議不存在確認等請求事件により、これらの処分は法律上無効であることが裁判所により事実認定された。)。 アルバイトらの労働組合は、除名処分等が不当労働行為であるとして東京都労働委員会に行政審判を申し立てたが、その係属中の2023年7月に組合を解散したため、11月21日、既に解散したアルバイトらの労働組合には団体性がなく労働組合法2条の要件を欠くものとして却下命令が言い渡され、確定した[16]。
総会決議不存在確認等請求事件
[編集]2020年6月、プレカリアートユニオンのアルバイトとして別の労働組合を結成し、プレカリアートユニオンに団体交渉を求めるなどしていた元アルバイトの組合員のうち2名が、プレカリアートユニオンの総会決議のうち、前任者の大平正巳から清水直子に執行委員長が交代したとされる2015年9月19日の決議を含む、それ以降の代表者(執行委員長)を選任する決議のすべてが不存在である旨の確認を求める訴訟を東京地方裁判所に提起した。訴訟告知を受けた数名の元組合員と数社の企業が原告側で補助参加し、これを受けて裁判所も合議体で審理に臨んだ。
2024年2月28日、地裁民事11部(労働部)須賀康太郎裁判長は、原告らの請求を全て認め、2015年9月19日から2023年9月9日までの総会決議で清水直子らを執行委員長等に選任する決議の全てを法律上は不存在と確認する判決を言い渡し、原告の元アルバイトの組合員2名に対する除名処分などについても、法律上は不存在で、原告の元アルバイト2名は組合員としての地位を失っていないと事実認定した。 プレカリアートユニオンは控訴したが、11月13日、東京高等裁判所第17民事部吉田徹裁判長は、2024年5月26日の総会の不存在確認を求める原告側の附帯控訴とともにプレカリアートユニオンの控訴も棄却し、原判決を維持した。プレカリアートユニオンは最高裁判所に上告している。
本事件の地裁判決は、「代議員選任のための直接無記名投票が実施されなかったことから、労働組合に対する総会決議不存在確認請求が認められた例」などとして判例タイムズ[17]、労働経済判例速報[18]、労政時報[19]等の判例誌にも掲載された。
拠出金返還請求事件
[編集]2021年、総会決議不存在確認等請求事件を提起した元アルバイトの組合員のうち1名が、プレカリアートユニオンに支払った団体交渉の成功報酬にあたる「拠出金」が弁護士法72条に違反する非弁活動の報酬であり、公序良俗に反して無効だとして、その返還及び慰藉料の支払いを求める訴訟を提起した。しかし、2022年5月24日、東京地方裁判所民事第12部の髙木勝巳裁判長は原告の請求を棄却する判決を言い渡し、団体交渉等により得られた金の2割を拠出金として納めるべきとするプレカリアートユニオンの規約は弁護士法に違反するものではないとした。原告の組合員は控訴したが、東京高裁第24民事部の控訴審でも原判決が維持され(増田稔裁判長)、確定した。本事件は、労働判例[20]などの判例誌に掲載された。
使用者との紛争
[編集]テイケイ事件
[編集]2020年、大手警備会社のテイケイが、プレカリアートユニオンによる街宣活動が刑法の威力業務妨害や東京都の「拡声機による暴騒音の規制に関する条例」等に違反する不法行為で、かつ名誉毀損であるとして慰藉料と防音対策の工事費を求めて東京地方裁判所に提訴した。 これに対して、2021年、プレカリアートユニオン側も、テイケイによるプレカリアートユニオンを「反社へ資金提供」「鉄砲玉」「恐喝ゴロツキ集団」などと批判する垂れ幕の掲示や、組合員自宅への封書の送付が名誉毀損ないし支配介入の不当労働行為であるとして反訴した。 2023年4月19日、東京地裁民事第11部(労働部、前澤達朗裁判長)は、プレカリアートユニオンがテイケイに110万円、テイケイがプレカリアートユニオンに168万円を賠償せよとの判決を言い渡した[21]。 判決では、組合員自宅への封書の送付が支配介入であるなどとされたものの、プレカリアートユニオンが街宣活動で訴えた内容の一部が真実ではなかったとしてテイケイの名誉を毀損したと認定し、双方への賠償命令につながった。この判決は判例誌の労働法律旬報に掲載された。
機関紙
[編集]- プレカリアートユニオン
支部
[編集]- 地域ブロック支部(東京・神奈川・その他)
- 運送・運輸支部
- 明窓ビルサービス支部
- OYO Hotels支部
- 明成物流支部
- ラオックス支部
- 東洋テック支部
- 多摩美術大学支部
- 田口運送・都流通商会支部
- 静岡支部
- 静岡支部クローバー分会
- 静岡支部ひ・まわり分会
- ななくさ支部
- 医心館支部
- アーティスト支部
- 明日葉支部
脚注
[編集]- ^ 「プレカリアートユニオン結成から10年 仲間とともに『層』としてのユニオン運動の道筋へ」『ピープルズ・プラン』第74号。
- ^ 新田龍『ブラックユニオン』青林堂、2019年7月27日、104頁。ISBN 4792606527。
- ^ 週刊新潮『週刊新潮』新潮社、2020年2月6日、49頁。
- ^ 週刊新潮『週刊新潮』新潮社、2020年2月6日、49頁。
- ^ 「各種手当てを時間外賃金とする会社一刀両断!」『労働法律旬報』第1820号。
- ^ 浜矩子; 雨宮処凛; 清水直子『. 縁辺労働に分け入る 深読みNow』株式会社かもがわ出版、2024年4月13日。ISBN 4780313201。
- ^ 『月刊まなぶ』労働大学、2021年2月。
- ^ “2020年9月、10月の解決(OYO Japan合同会社で復職を希望していた複数の一時帰休中の組合員の職場復帰実現、など)”. プレカリアートユニオン (2020年11月2日). 2024年12月22日閲覧。
- ^ “SoftBank-backed Oyo to merge Japan hotel and residential units”. 日本経済新聞 (2020年7月14日). 2024年12月22日閲覧。
- ^ 浜矩子、雨宮処凛、清水直子『. 縁辺労働に分け入る 深読みNow』かもがわ出版、2024年4月13日。ISBN 4780313201。
- ^ 「プレカリアートユニオン結成から10年 仲間とともに『層』としてのユニオン運動の道筋へ」『ピープルズ・プラン』第74号。
- ^ 週刊新潮『週刊新潮』新潮社、2020年2月6日、49頁。
- ^ 週刊新潮『週刊新潮』新潮社、2020年2月6日、49頁。
- ^ 浜矩子、雨宮処凛、清水直子『. 縁辺労働に分け入る 深読みNow』かもがわ出版、2024年4月13日。ISBN 4780313201。
- ^ 新田龍『ブラックユニオン』青林堂、2019年7月27日、78-105頁。ISBN 4792606527。
- ^ “東京都労委平成31年(不)第20号 プレカリアートユニオン不当労働行為審査事件”. 厚生労働省 (2023年11月21日). 2024年12月22日閲覧。
- ^ 判例タイムズ編集部『判例タイムズ1523号 10月号』判例タイムズ社、2024年9月25日、180-187頁。
- ^ 日本経営者団体連盟『労働経済判例速報』日本経営者団体連盟、2024年6月20日、34-42頁。
- ^ “「WEB労政時報」連載「弁護士が精選!重要労働判例」第385回「プレカリアートユニオン(直接無記名投票により選出されていない代議員による総会決議)事件」”. 一般財団法人労務行政研究所 (2024年5月15日). 2024年12月22日閲覧。
- ^ 産労総合研究所『労働判例No.1268』産労総合研究所、2022年9月15日。
- ^ “プレカリアートユニオンと警備会社大手の裁判 双方に賠償命令”. 週刊金曜日編集部・岩本太郎 (2023年5月23日). 2024年12月22日閲覧。