ボリバル・フエルテ
ボリバル・フエルテ | |
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bolívar | |
ボリバル・フエルテ紙幣のイメージ | |
ISO 4217 コード | VEF |
中央銀行 | ベネズエラ中央銀行 |
ウェブサイト | www |
使用 国・地域 | ベネズエラ |
インフレ率 | 2,349%(2017年推定) |
補助単位 | |
1/100 | センティモ |
通貨記号 | Bs.、Bs.F. |
硬貨 | 10、50、100ボリバル |
紙幣 | 500、1000、2,000、5,000、10,000、20,000、100,000ボリバル |
このinfoboxは、通貨が変更される直前の値を示している。 |
ボリバル・フエルテ(bolívar fuerte)はかつて流通していたベネズエラの通貨である。2008年1月1日よりそれまでのボリーバルに代わって流通が始まった。しかし、ハイパーインフレーションが起きたため、2018年8月20日に10万ボリバル・フエルテを1ボリバル・ソベラノにするデノミネーションを実施した。
概要
[編集]2007年3月にベネズエラ政府はボリーバルから1000分の1のデノミネーションを行うと発表し、名称をボリバル・フエルテ(強いボリバルの意)とした。当時のボリーバルはウゴ・チャベス大統領が行ったボリバル革命による政情不安から高いインフレーションが続いていた為、このデノミネーションで経済的混乱を抑える狙いがあった。
2008年の流通開始地点の公定レートは1ドル2.15ボリバルであったが、同時期の闇レート[注釈 1]が1ドル=6ボリバル前後と既に乖離が見られた。2010年代に入ると、原油価格の下落や政府の反米政策による諸外国との関係悪化もあり、国内経済が疲弊し闇レートが1ドル=50〜100ボリバルまで下落。2016年になると1ドル=1000ボリバルにまでレートが悪化した。2008年から2016年までのインフレ率は2,000%を越え、ベネズエラでも前例のない急速なインフレーションとなった。だがベネズエラ政府は闇レートの存在を否定し[注釈 2]、公定レートを闇レートから大幅に乖離した1ドル=10ボリバル前後に固定し、外貨建てでの電子決済時に決済額が非常に高額になるケースが発生した。
そんな中2016年12月、ウゴ・チャベスの後任であるニコラス・マドゥロ大統領は、新たに500〜20000ボリバルの高額紙幣を発行することを発表した。ベネズエラ政府はその数日後に「米国と結託した犯罪組織が海外に大量の100ボリバル紙幣を流出させ、ベネズエラ経済を攻撃している[1][注釈 3]」として、72時間後に100ボリバル紙幣が廃止され価値が消滅する事を発表[2]、同時に国境封鎖を行った。
外貨を持っていない国民は専ら100ボリバル紙幣の束を用いて生活をしていた為、この突然の決定に国内で動揺が広がり、国内の銀行や周辺国の両替所で大規模なパニックが発生した。発表から72時間後の交換期限を過ぎても中央銀行には新紙幣はおろか新硬貨も届かず[2]、各地の銀行では集まった人だかりの一部が反政府デモや暴動を起こすなど混乱を極めた。
この政府が行った処置は元より疲弊していたベネズエラの経済全体に更なる混迷をもたらし、財産を失った多くの国民が突如として貧困下に置かれる悲惨な状態となった。新紙幣の流通開始後もインフレーションは悪化の一途を辿り、2018年には8万%のインフレ率を記録し、ハイパーインフレーションとなった。レートも1ドル=100〜500万ボリバルまで悪化し、イラン・リヤルに並ぶ世界で最も価値の低い通貨となった。この頃よりベネズエラ中央銀行はドルとの固定レートを廃止し、元々政府が存在を否定してきた闇レートに準じた99%以上の通貨切り下げを行った。
2018年の通貨切り替え
[編集]2018年8月21日、ニコラス・マドゥロ大統領は、悪化の一歩をたどるハイパーインフレーションに歯止めをかけるため、10万分の1の大規模なデノミネーションを実施し、新通貨であるボリバル・ソベラノの流通を開始した[3]。中央銀行は新通貨の流通開始時に補助通貨として高額面のボリバル・フエルテ紙幣も引き続き使用できるとしたが、最高額紙幣の10万ボリバルでも僅か1~2円程度の価値しかなく、それより額が低い紙幣は価値がほぼ完全に消滅しており、そうした低額面の紙幣は折り紙や芸術作品の材料にされるか[4]ゴミと一緒に捨てられた[5]。2018年末頃には捨てられた大量の紙幣が落ち葉の如く散乱したまま放置される様子が国内のあらゆる場所で見られるなど、この時点でベネズエラ国民のボリバルへの信用は失墜していた[5]。
硬貨・紙幣
[編集]2008年から2016年までの通貨
[編集]硬貨
[編集]1・5・10・12½・25・50センティモ・1ボリバルの硬貨が発行されていた。1・5センティモ硬貨は銅メッキ鋼鉄製、10・12½・25・50センティモ硬貨はニッケルメッキ鋼鉄製であり、これらセンティモ硬貨は表面に額面、裏面にはベネズエラの国章が描かれている。1ボリバル硬貨は外周黄銅・内側白銅によるバイメタル貨で、表面にシモン・ボリバルの肖像、裏面に額面とベネズエラの国章が描かれている。
この貨幣体系の内、特に12½センティモ硬貨については、1/8ボリバルに相当するが、この硬貨の存在のために現金の最小単位は½センティモとなっており、また金額を厳密に取り扱おうとする場合、センティモの整数部分が11以下で、かつ½センティモの端数を有する金額を現金で直接表現する方法は存在しなかった。
ハイパーインフレーションの進行によって補助通貨は有名無実化した。
紙幣
[編集]2008年に流通が始まった紙幣は、2・5・10・20・50・100ボリバル。表面にはベネズエラの独立に深く関わった人物、裏面にはベネズエラゆかりの野生動物とベネズエラの国立公園が描かれている。
2010年代に進行したハイパーインフレーションによってボリバル・フエルテの価値は急落し、20ボリバル以下の少額紙幣の流通機会はなくなっていった[6]。 2017年初頭には最高額紙幣である100ボリバルの価値が僅か数円程度にまで下落していた。この頃からベネズエラの人々は価値が下がり続けるボリバルを捨て、コロンビアに行きアメリカ合衆国ドルやコロンビア・ペソ等に両替してボリバルの代わりに使用し始めていた。
紙幣 | 日付 | ||||
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金額 | 色 | 図柄(表) | 図柄(裏) | 印刷開始 | 流通開始 |
2 Bs.F | 水色 | フランシスコ・デ・ミランダ | アマゾンカワイルカとメダノス・デ・コロ国立公園 | 2007年3月20日 | 2008年1月1日 |
5 Bs.F | 橙色 | ペドロ・カメホ | オオアルマジロとリャノ | ||
10 Bs.F | 褐色 | グアイカイプロ | オウギワシとカナイマ国立公園 | ||
20 Bs.F | ピンク色 | ルイサ・カセレス・デ・アリスメンディ | タイマイとペニンスラ・デ・マカナオ | ||
50 Bs.F | 黄緑色 | シモン・ロドリゲス | メガネグマとシエラ・ネバダ国立公園(ベネズエラ) | ||
100 Bs.F | 茶色 | シモン・ボリバル | ショウジョウヒワとアビラ国立公園 |
2016年から2018年までの通貨
[編集]硬貨
[編集]硬貨は10、50、100ボリバルの3種類。表面にはシモン・ボリバルの肖像、裏面には額面とベネズエラの国章が描かれている。3種類とも同じ材質、絵柄であり、大きさのみが異なる。
紙幣
[編集]新たに発行された紙幣は500、1000、2000、5000、10000、20000ボリバルの6種類。コスト上の理由から新紙幣は、既存の紙幣から金額の単位と色味のみを変えたデザインのものとなった[2]。
ハイパーインフレの進行により、2017年には新たに100000ボリバル紙幣を発行した。額面が100(額面の数字が3つ省略されている)のままであり、100ボリバル紙幣に僅かな色味の変更を施しただけのややこしいデザインであった。
高額紙幣への切り替え前まで紙幣の製紙はデ・ラ・ルー社のみに委託していたが、500、1000ボリバル紙幣は米クレーン・カレンシー社、2000ボリバル紙幣は露ゴズナク社が製紙を担当している。
5000〜20000ボリバル紙幣は額面が光学的変化インクで印刷され、デ・ラ・ルー社のKINETIC STARCHROME[7]と呼ばれる最先端の偽造防止技術が組み込まれていたが、ベネズエラの国内経済の疲弊によってデ・ラ・ルー社への支払いが滞るなどしてコストダウンを迫られたのか、2018年4月頃からセキュリティスレッドのホログラムや光学的変化インク、耐久性向上の為のワニス加工が省略された紙幣が混ざって出回った他、100000ボリバル紙幣に至っては3社の用紙に加えボリバル・ソベラノ用に準備されていた用紙が流用された事もあり、セキュリティスレッドの種類や光学的変化インクの有無、透かしの図柄等が異なるものが5種類ほど混ざって流通する事態となった。これらの改刷は中央銀行による国民への周知が徹底されたとは言えず、中央銀行から発行された本物の紙幣であるにもかかわらず偽札と騒がれることもあった[8][9]。
紙幣 | 日付 | ||||
---|---|---|---|---|---|
金額 | 色 | 図柄(表) | 図柄(裏) | 印刷開始 | 流通開始 |
500 Bs.F | 灰色 | フランシスコ・デ・ミランダ | アマゾンカワイルカとメダノス・デ・コロ国立公園 | 2016年8月18日 | 2017年1月頃 |
1000 Bs.F | 紫色 | ペドロ・カメホ | オオアルマジロとリャノ | ||
2000 Bs.F | カーキ色 | グアイカイプロ | オウギワシとカナイマ国立公園 | ||
5000 Bs.F | 緑色 | ルイサ・カセレス・デ・アリスメンディ | タイマイとペニンスラ・デ・マカナオ | ||
10000 Bs.F | 水色 | シモン・ロドリゲス | メガネグマとシエラ・ネバダ国立公園(ベネズエラ) | ||
20000 Bs.F | 赤色 | シモン・ボリバル | ショウジョウヒワとアビラ国立公園 | ||
100000 Bs.F | 金色 | シモン・ボリバル | ショウジョウヒワとアビラ国立公園 | 2017年9月7日 | 2017年12月頃 |
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 中央銀行ではなく個人的な両替商が提示するレートのこと。公定レートよりも自国通貨の価値が低く設定されている場合が多く、ベネズエラを始めとした政情不安の著しい国では闇レートでの取引が一般的である。
- ^ ベネズエラでは闇レートでの個人的な両替が違法とされており、厳しい取締りが行われた。中には闇レートで外貨からボリバルに両替した外国人観光客がベネズエラ警察に全財産を没収され帰国させられるなどの刑罰を受けた事例もある。
- ^ 実際、2017年にブラジル等の中南米諸国の国境にて数十トンものボリバル紙幣の密輸が発覚しているが米政府はこれに一切関与しておらず、自らの反米政策を正当化する狙いがあったものと思われる。
出典
[編集]- ^ Toro, Francisco (2021年10月28日). “| Declaring war on common sense, Venezuela bans its own money” (英語). Washington Post. ISSN 0190-8286 2024年7月5日閲覧。
- ^ a b c 紙幣流通停止のベネズエラ、新札届かず混乱広がる 国境封鎖延長 AFP(2016年12月16日)2020年10月2日閲覧
- ^ ベネズエラ、デノミ実施 通貨10万分の1に切り下げ日本経済新聞(2018年8月20日)8月20日閲覧
- ^ Held, Sergio. “Venezuela’s currency: Worth more as craft paper than as money” (英語). Al Jazeera. 2024年7月5日閲覧。
- ^ a b “Venezuela: una lluvia de billetes “inservibles” deja sorprendidos a todos en Maracaibo” (スペイン語) (2019年8月18日). 2024年7月5日閲覧。
- ^ 今年だけでもインフレ率700%のベネズエラ、新札発行も届かず大混乱 HARBOR BUSINESS Online(2016年12月19日)2018年1月1日閲覧
- ^ Plc, De La Rue. “Kinetic StarChrome Thread - Currency - De La Rue” (英語). www.delarue.com. 2024年7月5日閲覧。
- ^ “Nuevos billetes de 20.000 bolívares causa confusión en la gente: “¿Será falso?” - Diario Versión Final” (スペイン語) (2018年5月2日). 2024年7月5日閲覧。
- ^ Hora, Redacción Noticias al Dia y a la (2018年4月4日). “¡Lo que faltaba! Están circulando billetes falsos de 20 mil y 100 mil bolívares (Fotos)” (スペイン語). Noticias al Día y a la Hora | Últimas Noticias del día de hoy. 2024年7月5日閲覧。