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ポポル・ヴフ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
現存する最古のポポル・ヴフの著述。(フランシスコ・ヒメーネス英語版著、 1701年頃)

ポポル・ヴフ』(Popol Vuh)または『ポポル・ウフ』(Popol Wuj)[注釈 1]とは、現在のグアテマラシティ北西にあるグアテマラ高地英語版 に住むキチェ族の人々に伝わる神話および歴史を綴った文書である。

概要

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『ポポル・ヴフ』はグアテマラのスペイン征服以前にキチェ族の人々によって書かれた創作説話である[1]。そこにはマヤの創世神話、英雄の双子フンアフプーとイシュバランケーの偉業[注釈 2]、そしてキチェ族の年代記が含まれている。

ポポル・ヴフという名称は「会議の書」[2]や「共同体の書」「評議会の書」などと訳されるが、より文字通りには「民衆の書(Book of the People)」である[3]。文字に書き留められたのは1550年頃で、それ以前はもともと口頭伝承で受け継がれてきたものである[4][5]。現存するポポル・ヴフは、18世紀ドミニコ会フランシスコ・ヒメーネス英語版が原文をスペイン語で写し取ったものとされている[4][注釈 3]。本来はマヤ文字で記されたと推定されている[6]が、マヤ文字で書かれたものは現存しない。

チラム・バラムの書』や他の類似テキストもそうだが、スペインのコンキスタドール焚書を行ったためにメソアメリカの神話を扱った初期の叙述が希少であるとの観点から、ポポル・ヴフは特に重要である[7]

ポポル・ヴフの歴史

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ヒメーネス神父の写本

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1701年、ヒメーネス神父はサント・トマス・チチカステナンゴに着いた。この町はキチェ族の領地であり、従っておそらく神父ヒメーネスが最初に歴史神話を編集した場所とされている[注釈 4][注釈 5]。ヒメーネスは書写と翻訳を並行して手がけ、キチェ語写本(ラテン文字とParra文字で発音を転写)およびスペイン語訳を残した。1714年頃、ヒメーネスは第2章から第21章のスペイン語訳を自著『Historia de la provincia de San Vicente de Chiapa y Guatemala de la orden de predicadores』[8]1巻に組み入れた。ヒメーネスの写本は没後もドミニコ会の所有で保管されていたが、1829年–1830年にわたりフランシスコ・モラサン将軍がグアテマラから聖職者を追放したことで、ドミニコ会の書物の大部分がサン・カルロス・デ・グアテマラ大学に移管された。

1852年から1855年まで、モーリッツ・ワグナーカール・フォン・シェルツァー英語版医師は中央アメリカを旅行し、1854年5月初旬にグアテマラシティに到着した[9]。シェルツァーはサンカルロス大学図書館でヒメーネスの著作を見つけ、その中の「del mayor interes(最も興味深い)」という特定の項目に着目した。グアテマラの歴史家にしてアーキビストのフアン・ガバレーテ (Juan Gavarrete) の助力を得て、シェルツァーは写本の後半からスペイン語の内容を写し取り(または写本を作成し)、ヨーロッパに戻ると公表した[注釈 6]

1855年にフランスの大修道院長シャルル・エティエンヌ・ブラッスール・ド・ブールブールもまた大学図書館でヒメーネスの著作を見つけた。しかしながら、シェルツァーが写本をコピーしたのに対し、ブラッスールは明白に大学の文献を無断で持ち出し、フランスに持ち帰った[10][注釈 7]。ブラッスールの死後1874年に、ポポル・ヴフを含むメキシコ - グアテマラ地方の蒐集品がアルフォンス・ピナール (en) の手を経てエドワード・E・エア (en) に売却された。エアは1897年に自身の1万7000点の収蔵品をシカゴのニューベリー図書館 (en) に寄贈すると決めたが、この計画実現は1911年まで待つことになる。ヒメーネス神父による『ポポル・ヴフ』の書写翻訳本は、エアからの受贈品に含まれている。

1941年にA・レシーノス英語版がニューベリー図書館で(再)発見するまで、ヒメーネス神父の写本は行方不明とされていた。一般に通説では、ヒメーネス写本を直接、編集したのはシェルツァー以降、発見者のレシーノスが初めてとされてきた。しかしマンロー・S・エドモンソン英語版とカルロス・ロペスは、最初の(再)発見は1928年のウォルター・レーマン (en) と考えている[14][15]。アレン・クリステンソン、ネストー・キロア、ジョン・ウッドラフ、カルロス・ロペスの説では、いずれもニューベリー図書館蔵書をヒメーネス唯一の「オリジナル」と見なしている。

ヒメーネス神父の原資料

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表題ページ
前文
天地創造
ヒメーネス神父の写本。ここに示す冒頭の見開きページのとおり、その大半はキチェ語とスペイン語を併記してある。

ヒメーネスは教区庁から口述筆記の写本を原資料として借りたと一般的には信じられている。しかしネストー・キロアは「そのような写本は全く見つかっておらず、従ってヒメーネスの作品は学術研究にとって唯一の原資料である」と指摘している[16]。この文書は、ペドロ・デ・アルバラードの1524年の征服後まもなく、サンタ・クルス・デル・キチェまたはその周辺で口頭朗読が行われ、それを聞いた文字に起こした(口述筆記)という通説がある。A・レシーノス[17]とデニス・テドロック (en) [18]は、ポポル・ヴフ巻末にある系譜を植民地時代の記録と比較することにより、その時期を1554年から1558年の間だと示唆している[19]

しかし、そのテキストが「書かれた」書物と言う点で「ポポル・ヴフの現存に関する結論を出す際に、最初の1ページ目の文章を評論家たちが額面どおりに受け取りすぎているように思える」

とウッドラフは警告する[20]。仮に征服後の初期の書物があるとすれば、ある学説(最初の提示はルドルフ・スカラー)では口述筆記した書記者を『Título de Totonicapán[21]に署名した人物の1人 Diego Reynoso としている[22][23][注釈 8]。別の著者の可能性として、『Título de Totonicapán』に「Nim Chokoh Cavec(Kaweqの偉大な執事)」として系図が掲載された、Don Cristóbal Velasco もありうるとされる[25][注釈 9]。いずれの場合も、植民地時代の存在はポポル・ヴフの序文に明示されたとおりである[26]

「これを私たちは今、神の律法のもと、そしてキリスト信仰のもとで書くつもりである。私たちがそれを明るみに出す理由は、海の向こう側からの到来や私たちの暗黒時代の叙述がはっきりと見られ、私たちの生活が明確に見て取れた、いわゆるポポル・ヴフが今やもう見られなくなっているためである」

したがって、内容を「保存」する必要性には前提として内容の消滅が差し迫っているとして、エドモンソン英語版は征服前の絵文字的なコデックスを理論化して提示している。ただし、そのようなコデックスの証拠はまだ見つかっていない。しかしながら、少数派はその存在の議論に使われるのと同じ根拠を用いて、ヒメーネス以前のテキストの存在に異議を唱えている。どちらの立場も、根拠はヒメーネスによる2つの声明である。1つ目は『Historia de la provincia[27]で、ヒメーネスはサント・トマス・チチカステナンゴの副牧師在職中に様々なテキストを見つけたと記しており、それは「彼らのほぼ全員がそれを暗記している」にもかかわらず「長老大臣たちの間でもその痕跡さえ明かさなかった」ような秘密で守られていたものだった[注釈 10]

ヒメーネス以前のテキストの存在の論拠に使われた2番目の箇所は、『ポポル・ヴフ』へのヒメーネスの補遺であり、次のように記している。先住民の慣行の多くは「彼らが持っている本、それは[キリスト教以前の]時代に起源する全ての月と各日付に対応した記号を付した予言のようなもの、に見ることができる。そのうちの1つを私は所有している」[注釈 11]シェルツァーは脚注にて、ヒメーネスが言及しているのは「単なる秘密のカレンダー」で、自分自身がワーグナーとの旅行中に「グアテマラ高地の様々な先住民の町でこの粗野なカレンダーを以前見つけた」と説明している[注釈 12]。これだとヒメーネスの所有品は『ポポル・ヴフ』ではなく、慎重に守られてきた品であってヒメーネスには容易に入手できる類のものではなかったという点で矛盾が出てしまう。これとは別に、ウッドラフは「ヒメーネスは自分の情報源を決して開示せず、代わりに彼らが望むものを推察するよう読者を促しているため……先住民の間でそうした文字化された改訂版が無かったとしても妥当である。暗黙の折衷案としては、彼または別の宣教師が口頭朗読から最初の書下ろしテキストを作成したのだろう」と推測している[20]

ポポル・ヴフにおける英雄譚

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トウモロコシの神で斑点がある双子の英雄

双子の英雄フンアフプーとイシュバランケーの伝説はマヤ人達の間で様々なバージョンが語り継がれていたが[要出典]、現存している物語は1700年から1715年の間に文書を翻訳したドミニカ人司祭フランシスコ・ヒメーネスによって保存されたものである[4][31]後古典期のコデックスにおけるマヤの神格は、古典期前期に記された初期のバージョンとは違いがある。マヤ神話では、フンアフプーとイシュバランケーは3組のうちの 2番目の双子で、最初に生まれたのはフン・フンアフプーとその弟ヴクブ・フンアフプー、3番目の双子として生まれたのはフンバッツとフンチョウエンである。ポポル・ヴフでは、最初の双子フン・フンアフプーとヴクブ・フンアフプーがマヤの冥界シバルバーに招待され、シバルバーの王たちと一緒に球技を行った。冥界にてこの双子は策略に満ちた多くの試練に直面、最終的に彼らは失敗して処刑されてしまう。フンアフプーとイシュバランケーの双子英雄はその父親フン・フンアフプーの死後、魔法のように誕生した。やがてふたりは父親と叔父の死を報復するためシバルバーに赴き、冥界の王たちを倒した。

構成

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ポポル・ヴフは創造、祖先、歴史、宇宙論を含むテーマ範囲を網羅している。ニューベリー図書館の肉筆文書は章に分かれていないが、比較研究を容易にするため、1861年の普及版ではシャルル・エティエンヌ・ブラッスール・ド・ブールブールが充てた章構成を採用した[注釈 13]。テドロックとクリステンソンが検討したように幾つかバリエーションもあるが、林屋永吉によって日本語に翻訳されたアドリアン・レシーノス版では次のような形にまとめられている。

神々と半神の系譜。縦線はその子孫、横線は兄弟、2重横線は結婚を表す。

序文

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イシュムカネーとイシュピヤコックの紹介、『ポポル・ヴフ』を書く目的、大地の測定についての導入部[35]

第1部

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創造説話―ツァコルビトル、テペウとグクマッツアロムクァホロムと呼ばれる原初の神によって大地や樹木、動物、そして人間が創造された。最初の人間は土と泥で創られたが、水を含むと溶けてしまった。2番目の人間は木から創られたが、彼らは知恵を持たず、フラカンと呼ばれる天の心のことを思わなかったために、天の心は洪水を起こして彼らを洗い流した[36]シェコトコヴァッチカマロッツコッツバラムトゥクムバラムによって彼らは滅ぼされた。彼らの生き残りは森の中のサルになった。

双子の英雄であるフンアフプーとイシュバランケーが、傲慢なヴクブ・カキシュおよびその息子シパクナーカブラカンを計略を使って殺し、「秩序と均衡を世界に回復する」[36]

第2部

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フンアフプーとイシュバランケーの父と叔父、フン・フンアフプーヴクブ・フンアフプーイシュムカネーとイシュピヤコックの息子)は、シバルバーでの球戯で殺された[36]

ヒョウタンノキ (Crescentia にさらされたフン・フンアフプーの頭がシバルバーの主のひとりであるクチュマキックの娘イシュキックの手に唾を吐きかけると、彼女は子を身ごもった[36]

イシュキックは義理の母イシュムカネーの元に行くため、地下世界を去る[36]。イシュキックはそこでフンアフプーとイシュバランケーを産む。フン・フンアフプーの本来の妻のイシュバキヤロの子であるフンバッツとフンチョウエンはフンアフプーとイシュバランケーを殺そうとするが、逆にサルにされる。

フンアフプーとイシュバランケーはその後、その父と叔父を殺したシバルバー王フン・カメーとヴクブ・カメーに挑み、敵討ちに成功して太陽と月になる[36]

第3部

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ツァコルビトル、テペウとグクマッツアロムクァホロムトウモロコシから人間を創ることに成功する[36]。キチェのリネージの祖先にあたる4人の男(バラム・キツェーバラム・アカブマフクタフイキ・バラム)とその4人の妻も創造される[36]

人間たちは夜明けの来るのを待つ。はじめ東方に住んでいた人々は7つの洞穴(ヴクブ・ペック)とも呼ばれるトゥランへ行き、ここでキチェの祖先たちは主神であるトヒル、アヴィリシュ、ハカヴィツ神を得る。トゥランで人々の言葉は変わってしまい、カクチケルラビナルはキチェの言葉が通じなくなる。

トヒル神に導かれ、キチェの祖先はトゥランを去って今のキチェの山々にやってきて、そこで夜明けを迎える。太陽が登ると地の表面が乾き、トヒル・アヴィリシュ・ハカヴィツ神は石になる。他の人々であるヤキ(トルテカ)はメキシコへ行き、テペウ・オロマン(オルメカ)は東方に残る。

第4部

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各部族はキチェの祖先である4人を殺そうと謀るが、負けてしまう。その後、4人はハカヴィツ山の向こうに消えるが、彼らの子孫が首長として統治する。彼らはいくつかの新しい町に住むが、第5代のときにグマルカアフ(ウタトラン)にやってきて、ここでキチェは強大になり、24の大家に分かれる。キカブ王のときにあらゆる部族を征服した。

抜粋

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ポポル・ヴフの抜粋2か所を視覚的に比較し下に示す。左からキチェ語、文字通りの英語翻訳、アレン・クリステンソンによる現代意訳(の日本語訳)となる[37][38][注釈 14]

序文
キチェ語の原文 英語直訳 現代意訳
ARE' U XE' OJER TZIJ,
Waral K'iche' u b'i'.
WARAL xchiqatz'ib'aj wi,

Xchiqatikib'a' wi ojer tzij,

U tikarib'al,

U xe'nab'al puch,

Ronojel xb'an pa

Tinamit K'iche',
Ramaq' K'iche' winaq.[37][注釈 15]
THIS ITS ROOT ANCIENT WORD,
Here Quiché its name.
HERE we shall write,

We shall plant ancient word,

Its planting,

Its root-beginning as well,

Everything done in

Citadel Quiché,
Its nation Quiché people.[37]
これは古代伝承の序文である
キチェと呼ばれるこの場所についての。
ここに我々は書きとめよう。

我々は古代の物語を語り始めることにする

その始まりから、

それは起源である

なされた事全ての

キチェの拠点にて、
キチェ国家の人々の間で。[注釈 16][38][注釈 17]
「原初の世界」
キチェ語の原文 英語直訳 現代意訳
ARE' U TZIJOXIK
Wa'e.

K'a katz'ininoq,
K'a kachamamoq,

Katz'inonik,
K'a kasilanik,

K'a kalolinik,
Katolona' puch u pa kaj.[37][注釈 15]

THIS ITS ACCOUNT
These things.

Still be it silent,
Still be it placid,

It is silent,
Still it is calm,

Still it is hushed,
Be it empty as well its womb sky.[37]

これは叙述である
時についての

まだ全てが静謐で
平穏なままである。

全てが沈黙し、
静穏である。

静粛なる
空虚が天空の母胎である[39][注釈 17]

現在のポポル・ヴフ

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近現代版

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ブラッスールとシェルツァーの初版以降、『ポポル・ヴフ』はオリジナルのキチェ語以外でも多くの言語に翻訳されている[40]。A・レシーノスによるスペイン語版はデリア・ゴーツによるレシーノス作品の英語翻訳と同じくらい、今でも主要な文献である。他の英訳には、ビクター・モンテージョ[41]、 マンロー・エドモンソン (1985年)、デニス・テドロック (1985年、1996年) の著書[42]などがある。テドロック版は、現代キチェ族のAndrés Xiloj (en) が判読し解説しているので注目に値する。1970年代に Augustin Estrada Monroy がファクシミリ版を出版し[43]、オハイオ州立大学が同デジタル版およびオンライン複写を保有している。キチェ語テキストの現代語訳および書き起こしは、特にサム・コロップ (en) (1999年)とアレン・J・クリステンソン (2004年) の手によって出版された。フンアフプーとイシュバランケーの物語は、パトリシア・アムリンが1時間のアニメ仕立ての映画を制作している[44][45]

現地での文化

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『ポポル・ヴフ』はキチェ族の多くの信仰体系において重要な部分であり続けている[要出典]カトリシズムは一般的に支配的な宗教として見られているが、多くの先住民がキリスト教と土着信仰の共存的混合を実践していると確信する者も一部いる。『ポポル・ヴフ』からの物語のいくつかは、民間伝承として現代マヤ人によって語られ続けた。20世紀に人類学者によって記録された物語のいくつかが、ヒメーネス写本よりも詳細に古代の一部物語を保存している可能性もある[要出典] 。2012年8月22日、『ポポル・ヴフ』はグアテマラ文化省によりグアテマラの「無形文化遺産」に指定された[46]

西洋文化への影響

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19世紀ヨーロッパ人による再発見以降、『ポポル・ヴフ』は多くの作家の注目を惹きつけている。

マヤ図象に見られる例

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現代のマヤ考古学者(第一人者としてマイケル・D・コウ)は、マヤの陶磁器や他の芸術品に『ポポル・ヴフ』の登場人物やエピソードの描写(例えば英雄双子、ホエザルの神、ヴクブ・カキシュの討伐、双子の死んだ父親フン・フンアフプーの似顔として広く信じられている像)[49]を発見した。そのため象形文字的なテキストの付随する箇所は、理論上『ポポル・ヴフ』からの一節に関連する可能性がある。リチャード・D・ハンセン英語版エル・ミラドール遺跡で、漆喰のフリーズに双子の英雄に見える浮遊する人物像2体を発見した[50][51]

英雄双子の物語に続くのは白と黄色のトウモロコシから創られた人類で、マヤ文化における農作物の飛びぬけた重要性が示されている。古典時代のマヤでは、フン・フンアフプーがトウモロコシの神を象徴していた可能性がある。『ポポル・ヴフ』では切り落とされた彼の頭はヒョウタンノキになったと明白に述べられているが、一部の学者はこのヒョウタンノキがカカオの実あるいはトウモロコシの穂と互換関係にあると考えている。この考えにおいて、断頭および生贄はトウモロコシの収穫および植栽や収穫に伴う供物に相当する[52]。月と太陽の周期が農作物の季節を決定するため、植栽や収穫もマヤの天文学やに関連するものである[52]

主な刊行版

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  • Karl von Scherzer, ed (1857). Las historias del origen de los indios de esta provincia de Guatemala. Viena: Carlos Gerold e hijo 
    • ウィーンで出版された、ヒメーネスによるスペイン語訳を含む『インディオの起原の歴史』。最初に出版された『ポポル・ヴフ』。
  • Popol Vuh. Le livre sacré et les mythes de l'antiquité américaine, avec les livres héroïques et historiques des Quichés. Paris: Bertrand. (1861) 
  • Popol Vuh: das heilige Buch der Quiché-Indianer von Guatemala, nach einer wiedergefundenen alten Handschrift neu übers. und erlautert von Leonhard Schultze. Stuttgart: W. Kohlhammer. (1944). OCLC 2549190 (ドイツ語)
  • Adrián Recinos, ed (1947). Popol Vuh: las antiguas historias del Quiché. Mexico: Fondo de Cultura Económica (スペイン語)
  • Recinos, Adrián (1950). Delia Goetz; Sylvanus Griswold Morley. ed. Popol Vuh: The Sacred Book of the Ancient Quiché Maya (1 ed.). Norman: University of Oklahoma Press 
    • レシーノス版を元にした最初の完全な英訳版
  • レシーノス校註 著、林屋永吉 訳『ポポル・ヴフ : マヤ文明の古代文書』中央公論社、1961年。 
    • レシーノス版による日本語訳。改訂版1971年、中公文庫、1977年
  • Munro S. Edmonson, ed (1971). The Book of Counsel: The Popol-Vuh of the Quiche Maya of Guatemala. Publ. no. 35. New Orleans: Middle American Research Institute, Tulane University. OCLC 658606 (英語)
  • Agustín, Estrada Monroy, ed (1973). Popol Vuh: empiezan las historias del origen de los índios de esta provincia de Guatemala (Edición facsimilar ed.). Guatemala City: Editorial "José de Piñeda Ibarra". OCLC 1926769 (スペイン語)
  • Dennis Tedlock, ed (1985). Popol Vuh: the Definitive Edition of the Mayan Book of the Dawn of Life and the Glories of Gods and Kings, with commentary based on the ancient knowledge of the modern Quiché Maya. New York: Simon & Schuster. ISBN 0-671-45241-X. OCLC 11467786 (英語)
  • Luis Enrique Sam Colop, ed (1999). Popol Wuj: versión poética K'iche'. Quetzaltenango; Guatemala City: Proyecto de Educación Maya Bilingüe Intercultural; Editorial Cholsamaj. ISBN 99922-53-00-2. OCLC 43379466  (キチェ語)
  • Popol Vuh: Literal Poetic Version: Translation and Transcription. translated by Allen J. Christenson. Norman: University of Oklahoma Press. (2004). ISBN 978-0-8061-3841-1 
  • Popol Vuh: The Sacred Book of the Maya. translated by Allen S. Christenson. Norman: University of Oklahoma Press. (2007). ISBN 978-0-8061-3839-8 
  • Poopol Wuuj - Das heilige Buch des Rates der K'ichee' — Maya von Guatemala. translated by Jens Rohark. (2007). ISBN 978-3-939665-32-8 

脚注

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注釈

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  1. ^ 現代キチェ語表記では Poopol Wuuj で、読みの発音記号表記は [ˈpʰoːpʰol ˈʋuːχ]
  2. ^ マヤ創世神話に登場する双子の英雄の名前は、現代キチェ語表記でそれぞれJunajpu(フンアフプー)とXb’alanke(イシュバランケー)。
  3. ^ Allen Christenson の説では「mat」はマヤでよく使う隠喩であり (「王座」と同様) 王権ならびに国家統一を指す。
  4. ^ この用語の定義と用法は Tedlock による考察を参照。
  5. ^ ヒメネスのスペイン語転訳の冒頭にcvra doctrinero por el real patronato del pveblo de Sto. Tomas Chvila とあり、「サントトマス教区の教義神父」'doctrinal priest of the district of Santo Tomás Chuilá' ).と自称していたか。
  6. ^ シェルツァーはあわせて大学図書館の蔵書から詳しい目録も作成し1857年刊の著作に掲載するが、これはエア(後出)所蔵品の写本と時期が重なること、巻次は第3章の中途半端な位置から始まることが特徴で、見出しは以下のとおりである。[注記:文字綴りはヒメネスの記したとおり。大文字小文字の区別は本稿の書式に従った。]
    1) Arte de las tres lengvas Kakchiqvel, Qvíche y Zvtvhil,
    2) Tratado segvndo de todo lo qve deve saber vn mínístro para la buena admínístraçíon de estos natvrales,
    3) Empiezan las historias del origen de los indíos de esta provinçia de Gvatemala,
    4) Escolíos a las hístorías de el orígen de los indios
  7. ^ ブラッスールは1857年–1871年にかけて著書3冊でヒメーネスの『ポポル・ヴフ』写本に触れながら、フランス語版(1861年刊)では一切、図書館蔵書が底本であると述べていない。詳細は当該のブラッスール著書Histoire des nations civilisées du Mexique et de l'Amérique-Centrale (1857年)[11]Popol vuh. Le livre sacré (1861年)[12]Bibliothèque Mexico-Guatémalienne (1871年) [13]を参照。帰欧後15年を経て、ブラッシールはようやく底本の存在をほのめかし、入手経路をラビナルのイグナシオ・コロチェ(Ignacio Coloche)だと述べた。これら発言の矛盾を突き、マンロー・S・エドモンソン (1971年) はそもそもグアテマラに複数の底本があったと推量している。
  8. ^ Akkeren (2003年) の著書と テドロック (1996年)[24]も参照。
  9. ^ 征服者一覧に続き、キチェ王統の3人の守り手について "the mothers of the word, and the fathers of the word" という記述がある。この「word」をめぐり、『ポポル・ヴフ』自体を示すという解釈がある。[要出典] 『ポポル・ヴフ』巻末に Kaweq 王統について相当数のページを割いてあることから、著者ないし書記者あるいは口述者自身がこの王統にかかわりがあったこと、実はキチェの王統とは無関係ではないかと推論される。
  10. ^ 原文の転記。前述の本文中に引いた英訳は英語版投稿者による。"y así determiné el trasuntar de verbo ad verbum todas sus historias como las traduje en nuestra lengua castellana de la lengua quiché, en que las hallé escritas desde el tiempo de la conquista, que entonces (como allí dicen), las redujeron de su modo de escribir al nuestro; pero fue con todo sigilo que conservó entre ellos con tanto secreto, que ni memoria se hacía entre los ministros antiguos de tal cosa, e indagando yo aqueste punto, estando en el curato de Santo Tomás Chichicastenango, hallé que era la doctrina que primero mamaban con la leche y que todos ellos casi lo tienen de memoria y descubrí que de aquestos libros tenían muchos entre sí [...]" [28]
  11. ^ 原文の転記。前述の本文中に引いた英訳は英語版投稿者による。"Y esto lo ven en un libro que tienen como pronostico desde el tiempo de su gentilidad, donde tienen todos los meses y signos correspondientes á cada dia, que uno de ellos tengo en mi poder"[29] この一節の出典は Escolios a las historias[30]
  12. ^ 原文の転記。"El libro que el padre Ximenez menciona, no es mas que una formula cabalistica, segun la cual los adivinos engañadores pretendían pronosticar y explicar ciertos eventos. Yo encontré este calendario gentilico ya en diversos pueblos de indios en los altos de Guatemala."
  13. ^ レシーノスによる説明より(部分訳)。「オリジナルの写本は部分や章に分かれていません。テキストは最初から最後まで途切れることなく続きます。今回の翻訳で、私はブラッスール・ド・ブールブールの4部分にそして各部を章に分割する(振り分けに)従うことにしました、なぜならこの振り分けは論理的であり作品の意図や主題と一致しているように思えたからです。」
    "Since the version of the French Abbe is the best known, this will facilitate the work of those readers who may wish to make a comparative study of the various translations of the Popol Vuh" [32][33][34]
  14. ^ クリステンソンの現代意訳は『ポポル・ヴフ』の最新訳と見なされている。
  15. ^ a b 単語の太字および大文字表記は、原典ママ。
  16. ^ 各行対応せずに訳すと「これはキチェと呼ばれるこの場所の古代伝承の序文である。ここに我々は書きとめよう。我々は古代の物語をその始まりから語り始めることにする、それはキチェの拠点にてキチェ国家の人々の間でなされた事全ての起源である。」
  17. ^ a b 文章は原文の詩的構造を反映させるため、論理的に分割した。
  18. ^ 日本では A Wrinkle in Time が『五次元世界のぼうけん』や『惑星カマゾツ(時間と空間の冒険I)』[48]の題名で刊行された。惑星名カマゾツの英名 Camazotz は、コウモリ神の Camazotz(カマソッツ)と同一である。
  19. ^ ポポル「ヴー」の訳語は、OKmusic.jpによるPopol Vuhポポル・ヴーの説明文に基づく。日本の音楽業界では、彼らのバンド名訳語としてポポル・ヴーを採用している。

出典

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  1. ^ Christenson 2007, pp. 26–31.
  2. ^ 青山和夫『マヤ文明を知る事典』東京堂出版、2015年。ISBN 9784490108729 
  3. ^ Christenson 2007, p. 64.
  4. ^ a b c Popol Vuh AHA” (英語). www.historians.org. American Historical Association. 3 November 2017閲覧。
  5. ^ Popol Vuh - The Sacred Book of The Mayas” (英語). www.vopus.org. VOPUS. 3 November 2017閲覧。
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参考文献

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ウェブサイト

関連項目

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関連文献

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  • Brasseur de Bourbourg, Charles-Etienne, Histoire des nations civilisées du Mexique et de l'Amérique-Centrale, durant les siècles antérieurs a Christophe Colomb [Texto impreso] : écrite sur des documents originaux et entièrement enédits, puisés aux anciennes archives des indigènes (1857-1859), Paris : Arthus Bertrand. OCLC 778670081(フランス語)
  • Brasseur de Bourbourg, Charles-Etienne, Popol-Vuh : le livre sacré et les mythes de l'Antiquité américaine avec les livres héroïques et historiques des Quichés... (1861), Paris: A. Bertrand. Series: Collection de documents dans les langues indigènes, pour servir à l'étude de l'histoire et de la philologie de l'Amérique ancienne, vol. 1, OCLC 489983523. (フランス語)
  • Brasseur de Bourbourg, Charles Etienne, Bibliothéque México-Guatemalienne prècédée d'un coup d'ail les ètudes americaines... (1871), Maissonneuve & Cie. Biblioteca Digital AECID. OCLC 1041142085.(フランス語)
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  • 江美利夫「連載/グアテマラ書紀(ポポル・ヴフによる)」『中南米音楽 La Musica iberoamericana』(1971年2月–10月)、第204号–第211号。
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  • 石田英一郎「ポポル・ヴフ」『マヤ文明 : 世界史に残る謎』(1967年)、中央公論社。53–55頁
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  • 三島由紀夫「ポポル・ヴフ」 『朝日ジャーナル』、朝日新聞社、第126号、49頁。
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  • レシーノス (Recinos, Adrián, 校註)『ポポル・ヴフ : マヤ文明の古代文書』(1961年)、林屋永吉 (訳)、中央公論社。全国書誌番号:61006940
  • 杓谷茂樹「太陽と月の神話--古典期マヤの神話理解に向けての予備的考察」『古代アメリカ』(2000年)、[平塚] : 古代アメリカ学会。1–25頁。
  • 下関市立博物館ほか『マヤ古代文明の遺産 : 興亡の謎を探る』(1996年)、 [東京] : ツルモトルーム。別タイトルは「Treasures of the ancient Maya exhibitation」。会期・会場: 1996年1月3日-2月18日 グアテマラ国立考古学民族学博物館コレクション グアテマラ・ポポル・ヴフ博物館コレクション。全国書誌番号:98008188
  • 横山玲子「地位と役割 : 『ポポル・ヴフ』に描かれたキチェー・マヤの社会」『文明 = Civilizations』(2015年)、第20号、平塚 : 東海大学文明研究所。69–79頁。

外部リンク

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